「積みゲー」を科学する なぜゲームを積み上げても買い続けてしまうのか

ゲームは買えどもプレイはせず、でも次なるゲームは買ってしまうループに陥り、未プレイゲームの山を築き上げてしまう人を積みゲーマーと呼びます。なぜそんな無益な行動を繰り返してしまうのか、どうすればそんな状況を抜け出せるのか、科学的に考えてみましょう。

積みゲーを科学する
Photo by Nicholas Wang

積みゲーは罪である。ダジャレだけど笑い事ではありません。いや、そもそもダジャレは笑えないものですけれども。

ゲームを買ったのにプレイはせず、でも新しいゲームを買ってしまう。やりもしないゲームをなぜ買うのか?そこにゲームがあるからさ。人は、こうしてできあがった未プレイゲームの山を「積みゲー」と呼ぶ。明らかに理に適っていない行動ですが、積みゲー状態に陥る人は結構多い印象です。

人はどうしてゲームを積んでしまうのか。「そんなの物欲に負けているだけ」と思われるかもしれない。でも、物欲が原因であるとするならゲームを手にいれた時点で満足できているはず。何本も積み上げるほど買うわけだから、その物欲は満たされてはいないわけです。この終わらない物欲の原因は何なのでしょうか。この原因こそが、積みゲーの原因なのです。

終わらない物欲の正体とは

終わらない欲求に近いのは依存症です。中毒と言い換えてもいいでしょう。タバコやお酒など、身体に悪いとわかっていてもやめられないのと同じように、ゲームをプレイしないならお金の無駄になるとわかっていても、ゲームを買うのをやめられない。まさに中毒。

ゲームではなく、ギャンブルにも依存症があります。後先を省みず、自身を破滅させるほどの大金を突っ込んでもギャンブルを続けてしまうような人のことですね。ギャンブルはゲームと違って、勝てば報酬としてお金が手に入るので、我を忘れるほど熱中してしまうのもわからない話ではありません。でも、敗けを重ねて多大な損失を被りながらもギャンブルをやめず、続けてしまうのはなぜでしょうか。いくら熱中しているとはいえ、破産するほどのお金を注ぎ込むのはちょっと理解できませんよね。

ギャンブルというものは、勝ったときに得られる報酬を目当てに勝った・負けたを楽しむものだと思われるかもしれませんが、実はちょっと違います。ギャンブルにハマる人たちは「勝つこと」を楽しんでいるわけではなく、ギャンブルそのものを楽しんでいます。「勝つこと」を楽しんでいるのなら、負けが続けば止めてしまうはず。負けが続いても止めないのは、「勝てるかもしれない」という期待に突き動かされているからです。「勝てるかもしれない」という期待があれば楽しめるため、いつまでもギャンブルを止められないわけです。

期待に突き動かされて行動を起こすことは何も悪いことではありません。というは、人として普通の行動です。脳には報酬系と呼ばれる仕組みがあり、欲求が満たせたときや、欲求が満たせそうと期待できるときに活性化します。活性化すると快感が得られるようになっているのだけれど、欲求が満たせたときより満たせそうと期待しているときの方が強く活性化するのだそうです。ドーナツを頬張っているときよりも、ドーナツ屋へ向かう途中やカウンターで注文している最中の方が活性化しているのです。どうしてかといえば、現在起きていることよりも未来に目を向けることが生存するためには重要だからです。なので、人間の脳はとにかく未来への関心が高いわけです。

脳の報酬系が活性化されても、欲求を満たすために行動を起こすかどうかはまた別です。TVの旅番組でおいしそうな寿司を見たからといって、その寿司を食べるために新幹線や飛行機に飛び乗るかどうかは別ですよね。宝くじの1等の金額を知っていても、売場へ足を運ぶかどうかも別です。ある期待から行動を起こさせているのは脳内の神経伝達物質のドーパミンだといわれています。ドーパミンは実際に行動を起こすかどうかの調整にも役立っており、人間が生きていくために必要な機能になっています。ドーパミンが分泌されなければ、空腹になったときに冷蔵庫の扉を開けようとすることもないでしょう。ドーパミンはやる気を起こさせる物質をも呼ばれ、気分を高揚させてくれるのです。

ドーパミンには平常時の濃度、基礎濃度があります。基礎濃度が低い人は、少し量が増えるだけでも気分が高揚します。しかし、基礎濃度が高くなってしまった人は、ちょっとやそっとじゃ高揚しなくなるため、より大きな期待を求めるようになります。ギャンブル依存症の人は、期待に胸を躍らせる体験を積み重ねた結果、基礎濃度が上がっているため、高揚感を得るためにはかなりの上昇量が必要になってしまう。なので、賭け金がどんどん高額になっていくのです。

話を積みゲーに戻しましょう。ここまでの話を積みゲーに置き換えてみるとどうなるか。ゲームを買う理由は「おもしろそう!」だからです。実際におもしろいかどうかは問題ではありません。「おもしろそう」という期待に突き動かされてゲームを買うわけです。ここで物欲の原因になっているのは「おもしろそうという期待」です。このゲームならばきっと自分を楽しませてくれるに違いない、とか、これなら友人と一緒に楽しく遊べそうだ、とかいう期待ですね。本来であれば、買った後に本当におもしろいかどうかを確かめるためにゲームをプレイすべきなのですが、積みゲーマーを突き動かしているのは「おもしろそう」という期待そのものですから、遊んで確かめる必要はありません。期待させてくれることを欲しているので、期待通りの結果が得られるかどうかは問題ではないのです。

さらにいえば、ゲームを買う前の期待による高揚感とゲームを遊んでいる最中の高揚感を比べた場合、前者の方が上になっている、ということです。脳の報酬系は欲求が満たされたときよりも欲求が満たされそうだと期待したときの方がより活性化する、ということはすでに述べました。「ゲームは買うまでが1番楽しい」という人もいますが、これもある意味で事実です。こうしてゲームを買うことによる期待を味わい続けた結果、ドーパミンの基礎濃度が上がり、ゲームをプレイすることでの高揚感では物足りなくなってしまうのです。プレイするよりも買うことが楽しくなり、積みゲーマーが誕生してしまうわけです。

欲求を打ち負かすのはさらに強い欲求

では、積みゲーを防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。期待に突き動かされて行動することが生存にとって必要な仕組みであるため、根本的に治すことは不可能です。この仕組みを破壊してしまうと、空腹になってもモノを食べるための行動を起こせなくなってしまいますからね。だからこそ厄介な問題であるといえるでしょう。ギャンブル依存症を治療するための特効薬は存在せず、長期的なプログラムがあるものの、1年以上続けられる人は10%以下だという。つまり、難易度はベリーハード。といっても、積みゲーはギャンブルとは違うので、ここで絶望する必要はなさそうです。

ダイエット中の人を対象にしたある実験があります。彼らにさまざまな食べ物の写真を見せて、1つ1つについて「健康に良いか」「おいしいか」という2つの点で評価を下してもらう。最後に2つのポイントを同じくらいだと評価したものの写真を再び見せ、これを食べたいか、それとも他に見せたものが食べたいかを選んで、実際に食べてもらう、という実験です。実験の結果は、「健康に良い」と評したものと「おいしい」と評したものを選んだ人の割合は半々。自制心のある人と、欲望に負けちゃった人とに分かれた、という風に見えるでしょう。でも、実はちょっと違うのです。

この実験では、被験者の脳の活動に注目しています。「健康に良い」ものと「おいしい」ものを選んだ人は、自制心が働いたか欲望に従ったかで脳内の活動が違っていそうなものです。しかし、どちらも脳の報酬系の中心である腹内側前頭前皮質という部分が活動していたことが判明しました。「おいしい」ものを選んだ人たちだけでなく、「健康に良い」ものを選んだ人たちも何かしらの欲求に従ったことになるのです。何かしらの欲求とは、ダイエットの成功という長期的な欲求です。何か月か先にスマートになった自分への方が期待が大きいため、目の前のチョコレートを打ち負かしてブロッコリーを選んだのです。自制心があるのではなく、より大きな欲求に従っただけなわけです。

要するに、ダイエットを成功させるためには、目の前のおいしそうな食べ物という短期的な期待より、数ヶ月先にスマートになった自分という長期的な期待を強くできるかどうかがポイントだといえます。欲求に打ち勝てるのはより強い欲求なわけです。痩せたら人生変わる!と思い込めれば成功しそうですが、痩せただけでモテモテになるわけないだろいい加減にしろ!なんて思ってしまうと成功は難しそうです。

ではこれを積みゲーに当てはめてみましょう。「おもしろそう」という期待からゲームを買う、という短期的な欲求に打ち勝つための長期的な欲求を考えればいいわけです。長期的な欲求とは、ゲームをプレイしてゲームをやり込みゲームをクリアするという体験です。ゲームを楽しんでいる自分の姿こそが求められれるべきものでしょう。ゲームを買うことの楽しさより、ゲームをやることの楽しさが上回ればいいのです。つまり、積みゲーを防ぐにはゲームをやればいい!…あれ?

ともあれ、なんでこんな話を書いているかというと、現在読み進めている『「期待」の科学』の影響です。第3章「中毒の構造」を読んでいる最中に、ゲームにも当てはまりそうだなーと思ったのがキッカケ。積みゲーという現象について科学的に解説できるんじゃないかと思ったのですが、それで解決に繋がるかどうかは別の話です。あ、この本はいまのところかなりおもしろいのでオススメ。

「期待」の科学 悪い予感はなぜ当たるのか
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ちなみに、ボクはゲームを積んでいません。より強い欲求で打ち勝っているというよりは、ゲームを買う際にそのゲームを遊ぶ時間が確保できるかどうかを考えているからです。買ったら積むな、積んだら買うなの精神で、未プレイのゲームがあるときは買わないようにしていますし。でも、この対策はすでにゲームを積み上げている人には効果がなさそうなのが何とも。買うまでは「やりたい」だけど、買った後は「やらなければ」になるので、期待の強さが一気に下がるのがキツイところ。そうはいっても始めてしまえば楽しいものですから、ゲームを起動してスタートボタンを押しましょう。期待に溺れてドーパミン濃度が上がってしまう前に。

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