【The Division】レビュー ダラダラ遊んでしまう…オンラインRPGだもの

パッと見はオープンワールドなTPSですが、中身はオンラインRPGの『The Division』です。敵を倒し、ミッションをクリアして経験値やお金を稼ぎ、ドロップアイテムに一喜一憂しながら武器や装備を整えて強化していく。そのすべてがオンラインになっていて、メインのミッションからフィールド徘徊まで、他のプレイヤーと共に楽しむことができます。オンとオフの世界がシームレスに繋がっていて、マッチングやフレンドとの合流も気軽なプレイ感はMOやMMORPGに近いもので、ついつい長時間プレイしてしまうゲームとなっております。

http://www.ubisoft.co.jp/division/

ボクはクローズドとオープンの2回のβもガッツリ遊んだ上で製品版に望み、すでに何十時間もプレイしてしまっているのですが、『The Division』の何がそこまで惹きつけているのか?といえば、ダラダラ遊べる点にあるでしょう。見方を変えれば「単調である」といえるかもしれませんが、長時間プレイを想定されたオンラインRPGであるからこそ、ダラダラ遊べる単調さはむしろ利点なのではないかと。変に起伏に富んでいたら疲れてしまって長時間プレイできませんし。

そんなわけで、今回は『The Division』のレビューとして、本作がいかにダラダラ遊べるゲームなのか、という点を中心に書いていきます。

ダラダラポイントその1・居心地のよい世界観

『The Division』の舞台は、ウィルステロにより崩壊したニューヨーク。UBIの手掛けたオープンワールドゲームでは、シカゴの街並みを再現した『Watch_Dogs』が記憶に新しいところですが、今回はマンハッタンの街並みを再現するだけでなく、ボロボロに荒れ果てた光景が作り上げられています。ブラックフライデーの賑わいから一転、パンデミックの大混乱から数日を経て不気味な静寂へと変貌した街並みに、子供の頃に台風の到来にワクワクしていたような、不謹慎な高揚感のような気持ちがこみ上げてきます。これがゲームで本当によかった。

the division 逸材な世界観と舞台設定

プレイヤーは「Division」のエージェントとして街に入ります。「Division」とは、普段は一般人として生活しているけれど、非常時には独断で行動できる権限を持つ凄腕のエージェントたちのこと。なんというか、中二病とは言わないまでも、高二病的な設定で、上述の世界観と合わせて「授業中にテロリストが侵攻してきたら…」という妄想のスケールを拡大したような印象で、学生時代を思い出させてくれます。思い出したくないですけど。

そんな凄腕のエージェントたちが共通で装備しているのがオレンジに光るスマートウォッチ。通信機器でもあり、AIによるナビゲートでもあり、現実よりもちょっと進んだテクノロジーを体感できるステキアイテムです。UBIお得意のクールなUIにも説得力があるというもの。なんとこの時計、海外の限定版の特典だったらしく非常に羨ましい。ともかく、このスマートウォッチを含め、『Watch_Dogs』のようなAR(拡張現実)による演出がカッコイイ。

the division 近未来感あふれるスマートウォッチ

プレイヤーはDivisionエージェントの第2波としてマンハッタンに入るため、初期の大混乱は体験できないのですが、フィールドに点在する過去のデータにアクセスすれば、過去にここで何があったのかをうかがい知ることができます。過去のデータとは、市民の通話記録であったり、事件の調査記録であったり、記録データから立体映像で再現したECHOなどさまざま。テロの前、ブラックフライデーに浮かれた幸せな記録からテロ当初の大混乱、そしてテロ後の絶望的な状況と狂気の記録まで、本作の世界観を雄弁に物語る要素となっています。この手のゲームにありがちな収集要素で個人的にも苦手な要素なのですが、中身が凝っているので楽しく集められましたね。訛りを関西弁(というか大阪の特定の地域っぽいやつ)で表現されていることも追い風になっていたり。

the division ECHOのクールな演出

メインのストーリーラインは大きな意外性もなく、突出した魅力もないのですが、世界観を補足する情報は多く、どっぷり世界に入り込むことができます。プレイヤーたちが戦う理由であったり、守るべき対象であったりは、メインのストーリーよりもむしろ収集要素をはじめとする補足の部分でこそ、多く語られているようにも感じます。こうして丁寧に作り込まれた世界観が台風時のワクワク感みちなものを刺激してくれるわけです。そういえば、ゲーム中の学生同士の通話記録で「学校休みになったからネトゲやろうぜ!」みたいなのがありましたは、まさにそんな気分にさせてくれます。

ちなみに、本作のリアリティあふれる題材と世界観ですが、本作にも名前が登場する「ダーク・ウィンター作戦」は、2001年に実際に行われた架空のウィルステロ攻撃を想定した演習です。とはいえ、演習では「トム・クランシーの小説のような作り話ではない」のだそうで、たとえウィルステロが起こったとしても、火炎放射器を抱えて汚物を消毒してまわる連中が登場する心配はなさそうです。

ダラダラポイントその2・雰囲気たっぷりのグラフィック

the division 煙と光の美しいグラフィック

上述の世界観に説得力をもたせているのが、素晴らしいグラフィック。凍てついた道路とマンホールから吹き出す蒸気、という真冬のマンハッタンの風物詩とともに、無造作に放置された自動車やゴミ袋の山、マンションを覆うビニールシートと道端に並ぶ死体袋がウィルステロ後の寒々とした悲壮感を漂わせています。この雰囲気はマジで抜群。ファストトラベルを忘れて歩き出してしまうくらいには抜群です。

さらには、この光景が時間の経過や天候の変化に合わせて豊かに表情を変えるのが素晴らしい。晴れた昼もあれば、吹雪の夜もあり、同じ場所でも訪れたときの状況によってはまったく違った印象になるのです。この手のゲームではそんなの当たり前だと思われるかもしれませんが、本作では特に光源処理が美しいので、ライトに照らされて浮かび上がる雪や、ビルの合間から差し込む朝日などは、まさに息を呑む光景になります。

the division 時には視界ゼロの吹雪も

この美しいグラフィックで作られた街の中を歩き回るのはそれだけで楽しい。惜しいのは、室内レイアウトのパターンが少なく、似た内装が多くなってしまっていることくらいでしょうか。メインミッションで訪れる場所は内装も凝っているのですけれども。ともあれ、外側は現実のマンハッタンを再現しつつ崩壊した世界観が見事に描かれているので、誰もいない冬のマンハッタンを思う存分、観光できるでしょう。

ダラダラポイントその3・適度にぬるい難易度

the division 適度な難易度

ダラダラ遊べてしまう理由でもっとも大きいのはなんといってもこれ。カバーシューターとしては平凡であるため特殊なプレイヤースキルは必要なく、RPGとしてもレベル差が大きくない限りは問題なく勝利できる難易度であり、まったく死なないほどではないけど死んでも失うものなどない(※ダークゾーン除く)ので、気楽に遊べてしまうのです。結果、気がついたら朝だぜ状態。

ある意味で単調を言われても仕方のない難易度ではありますが、ほんの少しプレイに起伏をもたらす工夫も見られます。たとえば、グレネードを投擲しようする敵には専用のアイコンが表示され、投擲モーション中にダメージを与えられればグレネードを足元に落として自爆するとか、遠距離から大ダメージを与えてくるスナイパーは狙撃中にライトが光って視認しやすいとか、危険なヤツほど目立つようにした上で、プレイヤーに倒す順番を選ばせるような作りになっています。他にも、ヘッドショットによるダメージ増加の重要性が高いのですが、背中のガスボンベや爆薬バッグを狙ってダメージを狙う方法などもあり、プレイヤーに対して常に複数の選択肢が与えられており、ほどよいスパイスになっています。

the division ヘッドショット以外にも選択肢あり

あまり気張らずに遊べるものだから、1つミッションを終わらせた後でも、すぐそばにサイドミッションがあれば「ついでにやっていくか」という気分になりますし、そのサイドミッションを終えたらまた近くにあるエンカウントに走っていたりします。そして、気がついたらやっぱり朝だぜ状態、というわけ。

ダラダラポイントその4・強さのインフレが止まらない

the division 強烈な難易度のチャレンジミッション

それほど死なない難易度であると書きましたが、それもLv30までの世界。現段階での上限であるLv30からは、難易度ハードの上位であるチャレンジやダークゾーンの奥地を闊歩するLv32の敵など、強烈な難易度の世界が待ち構えています。簡単にいうと、初期は数百ダメージのやり取りをしていますが、最後には数十万ダメージの死闘になるくらい、強さがインフレしていきます。文字通り、ケタ違いの世界が拡がっているのです。

ダメージが数値で見えるからこそ、強さを実感しやすいのはまさにRPG。そしてその強さがインフレしていくのは楽しいし、やりがいもある。となると、エンドコンテンツの中核を担うトレジャーハントも楽しめるというものです。トレハンといっても、実際にはレアの一発ドロップよりもクレジットを貯めて現物を買ったり設計図を買ってクラフトしたりがメインになりやすいのですけども。時間さえかければ確実に手に入るわけだから、安心してマラソンができるといえるのかも。…ポジティブすぎ?

武器はメインウェポン2つとサイドアーム1つの3種類で、スコープやマガジンなどのMODで拡張できます。装備はボディアーマーからホルスターまで6種類に及び、こちらもスロットに拡張MODを装着できる仕様になっています。つまり、かなり多岐に渡っているといういことです。装備品には攻撃力や体力をアップさせる基本効果に加えて、さまざまなボーナス補正もついているので、果てしない取捨選択が待っている、というわけです。装備品を1つ変えただけで突然、世界が変わることはあまりありませんが、1つ1つをグレードアップしていった先では前述のように、ケタ違いの強さを手に入れることができます。

the division 大人気の黄色ヴェクター

で、手に入れたケタ違いの強さをぶつける相手がいるのが本作のいいところ。チャレンジミッションやダークゾーンの奥地で待っている高レベル敵NPCたちですね。欲していた力を手に入れた暁には「鋼のように硬かった敵NPCがまるで豆腐のようだ」と感動することうけあい。さらに、そいつらを倒せば強力な装備品を得られるチャンスもあるのだから、終わらないマラソンが始まってしまう…というわけで、やっぱり朝だぜ。

ダラダラポイントその5・シームレスなオンライン

the division ミッション開始地点でマッチング可能

ここまでつらつらと書いてきましたが、結局はオンラインゲームなんですよ。知り合いや知らない人と一緒に遊んでいると、止め時を失ってダラダラと遊んでしまう、なんて珍しくもないことでしょう。本作の場合は特に、オンラインとオフラインの境界線が薄くなっており、気軽に他のプレイヤーと合流することができるがゆえにダラダラと遊んでしまいやすいわけです。

では、どんな感じでシームレスなのか。まず、ゲームを起動して開始すると、シングルモードのような状態で始まりますが、マップ上には現在プレイ中のフレンドが表示される仕組みになっていて、フレンドのマーカーを選ぶだけで合流できる、という実にカンタンな方式が採用されています。要するに、1人用に見えても常時オンラインなので非常にシームレス。これ以外でも、通常のメニューから招待も合流もできるので本当にお手軽。野良グループで遊ぼうとする場合は、セーフエリアにある端末か、ミッションの開始地点でマッチングできます。セーフエリアやダークゾーンなど他プレイヤーが見える場所では、目の前のプレイヤーに直接招待を送ることだってできます。グループからの離脱もメニューから一発。インとアウトとの両方が手軽、というのはデカイです。

the division フレンドとの合流がカンタン

メインミッションから街の散歩まで、すべてオンラインで遊べる本作ですが、やはり目玉はダークゾーンでしょう。ダークゾーンとは、PK(プレイヤーキル)可能な隔離エリアです。配置されている敵NPCも強く、そのぶん拾えるアイテムが高品質という場所です。ハイリスクハイリターンなエリアですが、敷居は検問所のドア2枚だけなのでこちらも非常にお手軽。PK可能だから怖いプレイヤーに狙われる可能性もあるとはいえ、現状(1.0.2パッチ直後)ではまだまだ平和なもので、通りすがりの他プレイヤーと無言の連携で敵NPCと戦うのがほとんど。一期一会のドラマが生まれたり生まれなかったりするので、やっぱり気がついたら朝。

the division ダークゾーンのヘリポートは楽しい場所

常時オンラインだけどソロでも十分遊べるし、フレンドと遊ぶのも野良で遊ぶのもお手軽、というオンラインゲームとしては理想的なシステムを作り上げている本作ですが、問題が1点。

レベルの差が悲しみの距離

レベルの差があるプレイヤーと遊ぼうとすると、レベルの高い人に引っ張られて敵NPCのレベルが上昇してしまう仕様があるため、レベルの差が開けば開くほど、一緒に遊びづらくなっています。上述のとおり、強さのインフレが激しいこともあり、多少の差が超えられない壁にもなります。なので、同じ時間に遊んでいてマップ上にも表示されているのに一緒に遊べない、という悲しみを生む結果になっており、一緒に遊べないからぐっすり寝るハメに。

Lv30になってからが本番、という意図は理解できますが、じゃあそれまでがチュートリアルかといえばそうでもないわけで、もう少しどうにかならなかったものなのかと。敵NPCのレベルはグループリーダーにあわせ、レベルの高すぎるプレイヤーには補正をかけるなど、やりようはありそうなものですが…。とはいえ、今からそんな仕様をねじ込もうとしても、実装される頃にはみんなLv30になっていそうなので、発売直後の時期にこそ欲しかったかなと思う次第。

ニューヨークを取り戻せる日はくるのか

the division 荒れ果てたダークゾーン奥地

そんなわけで、南国でバカンスの予定を放棄して『The Division』で終わりのないマラソンに明け暮れています。デイリーミッションだけやるかーと起動したら最後、ミッションで手に入った新しい装備を試してみるかとダークゾーンへ赴いたり、フレンドを見つけて合流してしまった日には夜が明けています。本来なら今頃「やわらかエンジンまじやーらけー」とか言ってるはずだったのに、気づけば武器を組み立てて数値をみては解体する作業を朝まで続けている始末。本作がオンラインRPGである以上、わかっていたことではあるはずなのですが…マズイですよこれは。これがドルインフルの感染力なのか。

ゲームにおける作業感、特に中毒的に続けてしまう作業プレイというものは、否定的に語られることが多いのですが、必ずしも悪しきものでないと考えています。エキサイティングな体験で感情をビシビシ刺激してくれるゲームもよいものですが、疲れた心には激しい起伏よりも平坦な作業こそが心安らぐ時間となりうるからです。育児に疲れた主婦たちが公園のベンチでテトリスの小さいヤツを無心でプレイしていたように、平坦で単調な作業を欲することだってあるのです。…ボクそんなに疲れてましたっけ?

ともあれ、エージェントとしてニューヨークを取り戻すための戦いはまだまだ続きそうです。ダラダラ遊べることが本作の良さなので「心がアホみたいになっとるわ、作業ゲー、くれへんか?」って人にはうってつけの一品となるでしょう。ボクもなんだかんだで楽しめているので、ニューヨークにはもうしばらく崩壊していてもらいましょう。…エージェントの仕事? 武器を組み立てて厳選することですが?

ディビジョン
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