【Fight’N Rage】レビュー ベルトスクロールアクション好きのベルトスクロールアクション好きによるベルトスクロールアクション好きのためのベルトスクロールアクション最新作!!!

2017年にしてベルトスクロールアクションの集大成ともいうべき新作がリリースされました。その名は『Fight’N Rage』。”Rage”といえば「Streets of Rage」、つまり「ベアナックル」を連想してしまいますが、どちらかといえば「ファイナルファイト」や「エイリアンVSプレデター」など、往年のカプコンタイトルを彷彿とさせる内容になっています。それどころか、「ストリートファイターZERO3」や「龍虎の拳」といった格闘ゲームの要素も入り乱れており、むしろ90年代のゲーセンを集約したような印象すらあります。それだけ数多くの要素がブチ込まれているにも関わらず、ベルトスクロールアクションとして真っ当に出来がよい。これはもう奇跡といっていいのでは。

荒廃した砂漠に現れた新たな戦場

そもそもベルトスクロールアクションとはどんなゲームなのか。昨今ではとんと見なくなってしまったジャンルなので、念のため軽く説明しておきましょう。

ベルトスクロールアクションとは、基本的に2Dで作られたフィールドを舞台に多数の敵をなぎ倒しながら進んでいくアクションのことです。2Dでありながら奥行きのあるフィールドを指して”ベルト”と呼ばれていたりします。ちなみにこれは和製英語で、海外では「beat’em up」と呼ばれており、敵を倒すのがメインのゲームとして認識されています。

かつてはアーケードを中心に多くのタイトルが生み出されていきましたが、現在では家庭用を含め、あまり新作がリリースされないジャンルとなってしまいました。(比較的新しいところだと『ドラゴンズクラウン』とかありますが) レトロなジャンルのリバイバルが活発なインディー界隈からもほとんどリリースがなく、21世紀においては供給を絶たれた砂漠の様相を呈しておりました。

Fight'N Rage ベルトスクロールアクションとは

そこへオアシスのごとく颯爽と現れたのが『Fight’N Rage』であります。無数に群がってくる荒くれどもを殴る、蹴る、投げる、の3段活用でなぎ倒していく、ただひたすら暴力のみで突き進む世界。そう、ボクらの待ち望んだベルトスクロールアクションが帰ってきたのです。そう、これだよこれ! ボタンを連打すればボコボコに殴って、近づいて掴んだら腹パンかまして投げて、飛んでキックすれば吹っ飛んでダウン。正面から攻めると返り討ちにあうので軸をずらして近づき、危なくなったらメガクラッシュ一閃。ドラム缶から出た肉で体力を回復したら、拾ったナイフを投げて鉄パイプを振り回す。これ。もうね、最高。

これだけ見ると「ファイナルファイトかな?」と思われるかもしれません。確かに「ファイナルファイト」から影響を受けた部分が多々あることは間違いないのですが、本作はそれだけにとどまっていません。たとえば、「キャプテンコマンドー」のようなダッシュ攻撃もありますし、「天地を食らうⅡ」のように通常技から前後に投げ派生できたりしますし、「エイリアンVSプレデター」のようにコマンド技によるコンボもできます。(コマンド技は上下+ボタンだけなので「キャディラックス」かも)

お前と逢うのは初めてだがお前のことは知っている

往年の名作から数多くのオマージュが見受けられるのはアクションだけではありません。キャラクターやステージ背景にも”どっかで見たことあるやつ”のオンパレード。プレイヤーキャラクターのRicardoがボディブロー2発からハンマーを振り下ろす様はどうみても「ファイナルファイト」のハガー市長だし、F.Norrisが裏拳からのコンボや武神旋風脚を放つ様はガイそのもの。F.Norrisは飛び蹴りやスライディングを見るに、どちらかといえば「ストリートファイター」シリーズの影響が色濃く反映されています。かと思いきや、必殺技に暫烈拳(「龍虎の拳」)が搭載されていたり、とにかくいろんなものが融合しちゃってます。

Fight'N Rage ストリートファイタースタイル

敵キャラクターも見た目こそ獣人ですが、動きは”どっかで見たことあるやつ”だらけ。回転しながら飛んできては起き上がりに電撃でビリビリしてくる猫はブランカっぽいし、ドーベルマンのボクサーが放つストレートはダッドリーだし、ニワトリのアドンみたいなムエタイはライジングジャガーをパナしてきます。(しかもゴッドミドルがマジでゴッド)

Fight'N Rage どうみてもアドン

ステージ1のボスは軍服を着てスライディングをしてくる「ストリートファイター2」のベガのようなやつですが、ステージ3のボスは「サムライスピリッツ」の不知火幻庵のような動きをする猫。格闘ゲームばかりかと思えば、ラスボスはどうみても「ベアナックル」のMr.X。ステージの玉座も完璧に再現されております。ステージといえば、「キャプテンコマンドー」のようなサーフボードに乗って進むステージや、「キャデラックス」の車ステージのようにバイクですべてのブッ飛ばすステージも用意されていたりします。もうなんでもアリ。

Fight'N Rage キャプテンコマンドーのようなサーフボードステージ

愛のためにわがままに君は君だけでゲーム開発

これはもう開発者が自分の好きなものを全部ブチ込んだに違いない。どんな人たちがこのゲームを作ったのだろう?と調べてみるとビックリ。『Fight’N Rage』を作った開発者はたった1人。音楽以外はすべてSebastian Garsia氏の手によるものだったのです。これだけのクオリティとボリュームをもつゲームをたった1人で完成させちゃう時点で驚愕!…なのですが同時に「ああ、だからこういうゲームなのか」という納得感すらあります。自分の好きなモノを全部詰め込んできたなコノヤロウ、と。

氏の開発ブログを読んでいくと、「ファイナルファイト」や「ベアナックル」はもちろん、「キャディラックス」や「戦国伝承2001」から「Gekido Advance」や「Super Vampire Ninja Zero」まで飛び出す始末。いったいどれだけベルトスクロールアクションが好きなのか。他にも「ストリートファイターZERO3」でガイを愛用していたことなども書かれており、もうこれは愛といっていいでしょう。好きなモノを好きなだけ突っ込めるのは個人開発だからこそ、なのでしょう。

Fight'N Rage F.NorrisとかいうGuy

これだけいろいろな要素がテンコ盛りだと、1本のゲームとしてどうなんだ?と思われるかもしれません。が、そこを上手にまとめているのが本作のスゴイところ。ベルトスクロールアクションへの愛ゆえに、完成度を落とすことだけは許されなかったのでしょう。では、『Fight’N Rage』がいかにして単なるオマージュに止まらない完成度に仕上がっているのかを書いていきましょう。

完成度を高めているのは現代風のスパイス

『Fight’N Rage』の操作系は方向キー+3ボタンで、攻撃とジャンプのほかにスペシャルボタンが独立しています。いわゆるメガクラッシュで、ボタンを押すだけで無敵の必殺技が打てるというもの。SPゲージがあればゲージを消費するだけですが、SPゲージがなければライフを消費することになります。これは『ベアナックル3』と同じシステム、…なのですが、なんとこの必殺技、敵から攻撃を食らっている最中にも打てるようになっています。ちょっと反則くさいですが、それでもしのぎ切れない状況になるくらい、敵の攻撃が苛烈であるということでもあります。

Fight'N Rage ベアナックル3のようなメガクラッシュ

スペシャルボタンの使い道は切り返しだけではありません。方向キーとの組み合わせでいろいろな技が出るようになっていて、コンボの火力を高める用途でも使えるようになっています。通常攻撃から繋げてもよし、コマンド技で上空に舞ってから使ってもよし、むしろ必殺技から通常技に繋いでもよし。コンボの自由度はかなりのものです。とはいえ、あまりコンボにSPゲージを割きすぎると、いざというときにライフを削って無敵技を打つことになるので、なかなか判断がムズかしいところ。これは攻略のカギでもあります。

防御に関するシステムも充実しています。まず、吹っ飛ばされたときにジャンプボタンを押すと受け身がとれるようになっています。受け身をとった瞬間は無敵があるし、そのまま攻撃も出せるので即座に反撃できたりします。次に投げ抜け。敵に掴まれたとき、投げられる前にジャンプボタンを押せば振りほどいて自由の身になれます。それからブロッキング。「ストリートファイター3」シリーズにあるような、タイミングよく方向キーを前に入れることで敵の攻撃を受け流すことができるシステムです。さすがに乱戦の最中に狙って決めるのは厳しいですが、攻撃の硬直中にも使えるので、着地の隙を狙われそうなときに意外と使えたりします。

Fight'N Rage ブロッキングまである

他にも攻撃と攻撃がカチあったときに発生する相殺などもあり、とにかく敵も味方も絶え間なく動けるようになっているのが本作の特徴といえるでしょう。90年代風のオマージュだらけであるにもかかわらず、ゲームスピードは間違いなく現代のモノ。とにもかくにもテンポよくゲームが進行するようになっています。なので、ひたすら気持ちいい。

遊べる要素が盛りだくさん

徹底したアーケードスタイルが貫かれているところも『Fight’N Rage』の特徴です。残機制でスコアによるエクステンドあり、残機があるうちはその場で即復活できますが、残機が尽きてコンティニューするとチェックポイントまで戻されるのでゴリ押しはNGです。わざわざ9カウントするコンティニュー画面が用意されているあたり、アーケードスタイルへのこだわりが感じられます。

Fight'N Rage アーケードスタイルのコンティニュー画面

普通に進めば全9ステージ。ですが、ルート分岐があるので、実際にはもっと多くのステージが用意されています。ルートと使用キャラクターによってエンディングも分岐するので、すべての結末をみるのはなかなか大変。とはいえ、繰り返しプレイすることでクレジットを獲得して、数多く用意されたアンロック要素を入手していけるので、あんまり苦ではありません。アンロックできるのはキャラクターのコスチュームや敵キャラクターの使用権、難易度イージーや新たなゲームモードなどさまざま。かなりのボリュームがあるのでやり込み要素としては十二分でしょう。

Fight'N Rage 数多くのやり込み要素

本作は3人での共闘が可能ですが、残念ながらオンラインは未対応。ですが、アンロック要素に「CPUとの共闘」が用意されています。CPUの味方が割といい動きをしてくれるので、1人でもベルトスクロールアクションの共闘における乱闘感を存分に味わえます。味方の浮かせた敵をさらに追撃して一生着地できない、みたいな状況を楽しめるので個人的にオススメのゲームモードです。他にも対戦モードやスコアアタックモードなど、遊べる要素がたくさん。

☛GO!

Fight'N Rage 最高のベルトスクロールアクション

そんなわけで『Fight’N Rage』、ベルトスクロールアクション好きのベルトアクション好きによるベルトスクロールアクション好きのためのゲームとなっております。いや、ベルトスクロールアクションを知らない人でも十分に楽しんでもらえるとは思いますけれども。ゲーセンに通っていたあの頃、地下鉄の樽の上でただ時間が経つのを待っていた人も、赤壁の戦いでエクスカリバーを振り回していた武将も、エイリアンに飛び膝蹴りを食らわせていた戦士も、また存分に暴れられる新たなゲームがやってきたのです。

どこかで見たことのあるような要素の詰め合わせでありながら、単なるパロディで終わらせるのではなく、”良いとこどり”を高い完成度でまとめあげている手腕は見事という他ないでしょう。開発者のベルトスクロールアクションへのリスペクトと深い愛情を感じずにはいられません。どこまでいっても殴って蹴って投げるだけ。ただそれだけのプリミティブなエッセンスの詰まった世界がここにあります。さあ、ドラム缶から肉を食らい、鉄パイプを振り回そうじゃありませんか。