【To the Moon】ネタバレありのストーリー考察

記憶を辿り願いをかなえるADV『To the Moon』はストーリーのよくできた作品。ネタバレ全開で考察するので、未プレイの人は見ないほうがいいと思います。

【To the Moon】最期の願いをかなえるために記憶を辿るADV | シバ山ブログ

本作は過去へ過去へと進んでいく流れなので、やや全体像がぼやけてしまっている。なので、ここではまず時系列順に並べ替えてストーリーを追いかけてみたい

そしてもう1つ。残された伏線についても考察してみたい。

時系列順でみる依頼人・ジョンの人生

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■幼少期

星の見える丘でリヴァーと出会う。このとき、リヴァーは名乗っていない。ここで、カモノハシのぬいぐるみとお手玉がプレゼントされる。 そして、2人は月に関する会話を交わす。この会話が「月へ行きたい」願いの原因。後に登場する2色のウサギは、このときジョンが月と星をつなげてつくったイースターバニーである。

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リヴァーのイメージでは、星は灯台の光で、みんな友達になりたがっている。友達を作りたいという願いはおそらくリヴァーの願いでもあるのだろう。もしかしたら、同世代で普通に接してくれたのは、ジョンがはじめてだったのかもしれない。来年も同じ場所で会う約束をしているものの、おそらく約束は果たされていないのだろう。

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双子の兄・ジョーイの死も幼少期の出来事。母が車で轢いてしまうというショッキングな事故で兄は死去している。事故のショックから記憶を途切れさせている原因になっている。

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母はショックのあまり、弟・ジョンをジョーイと呼ぶことがある。オリーブが好きだったのはジョンではなくジョーイの方。 アニモーフが好きだったのもジョーイ。おそらく、呼び名だけでなくジョーイとして扱われることもあったのだろう。食べ物や趣味など好みの変化は、ジョンが母を気遣ってのものなのかもしれない。結婚記念にアニモーフをプレゼントしているあたり、すこし精神を病んでいたのかも。

■高校時代

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リヴァーと再会を果たすものの、ジョンは幼少期の約束を覚えていない。そのためか、リヴァーは告白シーンで不機嫌そうな態度を見せる。

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トラウマや記憶障害がなかったとしても、幼少時代の一夜限りの出来事を覚えているのは難易度が高い。しかし、リヴァーには常軌を逸した記憶能力が備わっている。しかし、その代償なのか、コミュニケーション能力は著しく低いようだ。後に広汎性発達障害と診断されることになる。

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ジョンがリヴァーに迫ったのは、彼女が「変わっていた」ことが理由。普通の人で終わりたくなかったジョンが変わり者のリヴァーを手に入れたかった、というものだった。彼女に対するこの意識が後々まで負い目として残っていく。

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このころのジョンは絵画が苦手だったようだが、後々まで絵を描き続けることになる。自室に飾られている絵や地下室の画材などから絵を続けていたことが伺える。使用人のリリーはジョンが職人だったと証言しているけど、画家だったのかも?

■青年時代

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リヴァーが広汎性発達障害であると診断される。ジョンが医者に薦められた本を読まなかったのはなぜか?薦められた乗馬療法は実践しているため、治療を嫌がっていたわけではなさそうだが…。乗馬の風景を見ている限りでは、このころの2人は障害をかかえつつも幸せそうな印象がもてる。

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そして結婚。結婚式を控え、「変わった」というジョンと「変わらない」というリヴァーは実に対照的。大人になってしまったジョンと、子供のころの延長線上を歩み続けるリヴァーがみてとれる。幸せの絶頂であると同時に、ここから2人の距離は遠ざかっていく

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式場前の道路で轢かれていたウサギ、これはミスリード用のトラップ。結婚から2人の関係が歪になっていくことを考えると、不吉の前兆としての意味もあるかもしれない。

■壮年期

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本屋で「裸の王様」を選ぶリヴァーとは対照的にアニモーフの内容を忘れているジョン。2人の関係がうまくいっていないことがみてとれる。

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友人・ニコラスの妻・イザベルもリヴァーと同じ障害をもっていたが克服している模様。リヴァーの障害はもう治らないことがほのめかされている。リヴァーは社会性を身につけることができなかったのか、身につけようとしなかったのかは不明。

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高校時代に告白した理由を正直に伝える。ここで、リヴァーはジョンが幼少時の約束を忘れていることに気付く。はじめての友達であったと思っていたジョンが、出会ったときのことを忘れていて、しかも、友人としてではなく、彼自身の理想のために近づいてきたのだと知ったわけだ。ここからリヴァーはかなり不機嫌な態度を見せるようになる。

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約束を思い出させるため、折り紙でウサギを作り始めたり、お手玉を投げさせてみたり。コミュニケーションの不得手な彼女なりに精一杯の手段なのだろうが、ジョンには届かない

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それでも彼女が何かを伝えようとしていることは理解しているようで、思い出せない自分に苦悩するジョン。リヴァーを喜ばせようと灯台の近くに家を建てようと計画する。

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しかし、リヴァーが病に倒れてしまう。幼少期の「月の上で会える」という言葉について、月や星を灯台の光にたとえるリヴァーにとって、灯台の見える家での暮らしは大きな意味を持つのだろう。しかし、そんな彼女の気持ちよりも「1人になりたくない」という自分の気持ちを優先させ、リヴァーの延命治療に資金を投入しようとする。

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リヴァーを思って曲を作ったジョンだったが、ピアノを運び込む際に友人のニコラスに愛想をつかされてしまう。1人になりたくないという気持ちとは裏腹に孤独になっていく

■老年期

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リヴァーが死去後、家が完成する。資金を建築費と治療費のどちらに投入したのかは不明だが、リヴァーの願いどおり、建築費にまわしたと考えたほうが妥当だろうか。「月へ行きたい」という願いを思い出したのは彼女の死が原因?

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使用人としてリリーを雇い入れる。家が完成したのに一緒に住む人がいない状態になってしまったのだから、リリーのいうとおり、家族を求めていたのだろう。

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死を目前に、シグムンドエージェンシーと契約しエヴァとニールがやってくる。本作はここからスタートする

ジョンは「幸せな人生だった」と語るものの、ニールのいうとおり、あまり幸せだったようには見えない。つらい記憶や悲しい場面ばかりを辿るからそう見えるだけなのかもしれないが、そもそも本当に幸せだったのなら、シグムンドと契約する必要はなかっただろう。

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そしてエヴァとニールは見事に契約を果たし、ジョンは幸せの中で最期を迎える。彼のみた光景は彼の記憶の中で構成された疑似体験でしかない。すでに死んでしまったリヴァーに気持ちを伝えることも不可能だ。それでも、ずっとわからなかったリヴァーの伝えたかったことに気付くことができたのだから、ささやかな幸せを手にすることができたのだと思う。

と、これまでが本作の大まかな流れだ。時系列順に追いかけていくと、よりハッキリと全体像をつかめるのではないだろうか。

残された伏線

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最期に「EPSODE 1」なんて出てくるのだから、シグムンドエージェンシーの活躍は別の作品へ繋がるのかもしれない。次回作を考える上で、本作に残された未消化の伏線を考えていきたい。

依頼人であるジョンの物語は完結している。しかし、それとは別にいくつかの消化されていない伏線が残っている。その中心になるのは「ニール」だ。

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まず、ニールが痛み止めを服用している点。エヴァから相当強い薬であることを指摘されている。そんな薬が必要なほど病に蝕まれていることをあらわしている。相棒であるエヴァもこのときまで知らなかったので、おそらく誰にも話していないのだろう。

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左下、なぜかニールの体力が減っていることに注目。この場面はジョークの演出だが、彼の体調が万全でないことはこんなところでも示されていたのだ。

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ラストシーンで次の仕事へ向かう2人だが、薬を服用している場面が描かれている。死期の近いジョンと同じ、心拍音と赤いフラッシュの演出から、彼の命も長くはないのかもしれない。あるいは、もう「事切れる寸前」なのかもしれない。

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ロケット発射台を眺めるシーンで、最前列に立つニールの後ろに、もう1人のニールが登場する。ジョンの記憶をみている2人、という記憶をみているニール、という図式なのだろうか? となると、このシーンは一体誰の記憶なのか。この場面でも、赤いフラッシュとともにドクンと脈打つ演出が入る。このフラッシュは果たしてジョンのものなのか、それとも…。

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そして、過去に失敗しているケースがあることがほのめかされている。「いつでも大成功」と強がる彼だが、実際はそうでもないようだ。

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だがニールは極めて真面目だ。高校はサボらず皆勤、軽口は叩いても仕事にたいしても真剣な態度で挑んでいる。エヴァも不思議がるほどに。そんな彼にとって、過去の失敗は「心残り」になっているのではないだろうか。

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今後、いくつのエピソードをもって描かれることになるのかはわからないが、どこかでニールが中心になることは間違いないだろう。それとも、すでに彼が中心の話を見ているのかもしれない

名作 RPGツクール アドベンチャー 日本語版 | To the Moon