タイトルに「哲学」と「科学」という2つのキーワードが入っているけど、本書のメインは「哲学」。哲学から科学、科学哲学ときて最後に再び哲学へ繋ぐ、見事なコンボになっていました。
この本は著者のブログが元になったもの。ほぼ同じ内容がWebで読むこともできるのだけれど、やっぱり本の方が読みやすく感じられるし、何より「所有感」がある。 実をいうと、本書を読む前は著者のWebサイトについては知らず、本屋でなんとなく手に取ったのだけど。
難解なテーマをわかりやすく面白く
著者としては「まず哲学を面白いと感じてもらう」ということを最優先事項として考え、とにかく「わかりやすく」さらに「みんなが興味を持てるような面白いテーマ」を選んで書き進めた。哲学の面白さを知るきっかけになれば幸いである。
この導入が、本書の内容を物語ってくれている。読めば読むほど、著者の哲学に対する愛情が伝わってくる内容でした。 哲学の面白さをわかっている人が面白くしようとして書いているわけですから、当然面白いんです。
「わかりやすさ」についても、量子力学とか科学哲学のような難解な分野を、これ以上なくかみくだいて説明してくれているので、本当にわかりやすい。
ストーリー仕立てっぽく「流れ」を作り出すことで、読みやすさも溢れています。
科学だけでは世界のことはわからない
本書の中で出てくる題材は「不完全性定理」「相対性理論」「カオス理論」「エントロピー増大の法則」「散逸構造論」「 不確定性原理」などなど… 他にもたくさんあるのだけど、並べただけでも頭が痛くなりそうな単語ばかり。
でも、こんな難しそうな言葉の意味を、ものすごーくわかりやすく話してくれるのがこの本の力。 しかも、この1つ1つがバラバラに解説されているのではなく、うまく繋げてくれているので、とにかく読みやすい。
そういえば2012年のノーベル賞、日本じゃ日本人受賞者が脚光を浴びているけど、他の受賞者もすごかったんです。
たとえば、物理学賞。
量子を観測したり操作したりする技術の開発だったわけですが、これだけでは何のことやらさっぱりです。 量子についての説明としては、二重スリット実験とか、有名なシュレディンガーの猫なんかがありますよね。 この本では、二重スリット実験について、これまたすごーくわかりやすく説明してくれています。 もちろん、シュレディンガーの猫についても。
で、哲学の本なのになんで科学?というと、科学の限界を突きつけるため。 量子についてはいろんな「解釈」があったけど、結局、観測しようがないんだったら、そこが限界なのではないかと。
科学は、世界について、ホントウのことを知ることはできない。
量子の観測については、今回のノーベル賞受賞者の功績で変わってくるかもしれないけれど。
参考:【2012年ノーベル物理学賞】量子光学から量子コンピューターまで « misatopology
境界線を引くのは人の決断
科学哲学史についても触れている。 科学哲学とは、要するに「科学ってなんだろう?」ってことを考える哲学。 どこまでが科学で、どこまでが科学じゃないのか、というのは現代においても難しい問題だ。
つまり、科学理論とは、
「うるせぇんだよ! とにかくこれは絶対に正しいんだよ!」という人間の<決断>によって成り立っており、そのような思い込みによってしか成り立たないのだ。
ちょっと暴力的ではあるけれど、ミもフタもない表現をすると、そういうことなのかもしれない。いや、そうなのかな…?
ココロってなんだろう
科学と科学哲学の流れをみせたところで、いよいよ「哲学」が登場する。 人間の「ココロ」とはなんだろう、という大きなテーマに、さまざまな思考実験を通して読者へ問いかけてきます。 南斗聖拳の使い手に真っ二つにされたり、どこでもドアに入ってみたり…
どこでもドアを使った思考実験では、非常にショッキングでブラックなドラえもんが描写されている。 まさに閲覧注意な内容。そこまでする必要あったのかな?とも思ったけど、これはおそらく、「ココロってなんだろう」と読者自身に考えてみてほしかったんじゃないかな、と思う。 これだけ衝撃的な内容なら、ココロに深く刻み込めるんじゃないか、という狙いがあったのかな、と。
といっても、著者は最後に、哲学はおもしろいけど、何の役にも立たないよ!って締めっているのだけれどね。考え出せばキリがないけど、一度気になったら考えずにはいられない… そんな哲学の面白さを紹介するには最適な一冊なんじゃないかな、と思いました。