アニメ版『アイドルマスター シンデレラガールズ』の1stシーズンを全話視聴しました。童話「シンデレラ」に準えたシンデレラストーリーのようでそうではない本作。まるでパズルのような綿密な演出で語られるストーリーを振り返りながら考察してみましょう。
TVアニメ「アイドルマスターシンデレラガールズ」オフィシャルサイト
ソーシャルゲームを原作としているアニメがいくつも登場している昨今、ソシャゲの存在感を一気に押し上げた「モバマス」がアニメ化されるというのは、ついに大本命がやってきた感じでした。ソシャゲはゲーム業界内でも元気な印象のためか、豪華なスタッフやキャストに「金のかけ方が違う」と言われたりもしますが、『シンデレラガールズ』についてはそれだけではなく、「愛情の注ぎ方が違う」といった印象でしたね。
安直な考え方をするのであれば、「かわいい女の子キャラクターがたくさんいるのだから、彼女たちをかわいく描けばよい」わけですが、そうはしないのが「アイマス」たる所以。困難にぶつかり、努力と団結で乗り越えていく。そんなアイドル候補生たちがアイドルになっていく成長過程が物語として描かれています。
彼女たちが直面する問題は、時としてシビアで容赦がなく、視聴者の心を締めつけるほど。しかしそれ故に、困難を乗り越えた果てにあるステージシーンが輝くのです。このカタルシスこそが「アイマス」なのでしょう。ヌルい困難を乗り越えたって、精一杯輝くことはできないのです。
『シンデレラガールズ』のタイトル通り、「シンデレラ」に準えた物語や演出も見所の1つ。アイドル候補生たちがアイドルとしてデビューしていく様はまさにシンデレラストーリーですが、よくよく観ていくと興味深い内容になっています。誰が魔法使いで誰が王子様なのか。彼女たちを「シンデレラ」する魔法とはいったい何なのか。この構図を考えていくと、『シンデレラガールズ』がとても「アイマス」らしい物語になっていることがみえてくるのです。
『シンデレラガールズ』は「シンデレラストーリー」?
「シンデレラ」は、継母たちにいじめられていたシンデレラが魔法使いの助けで舞踏会へいき、王子様に見初められるが12時の鐘とともに魔法が切れてしまい、ガラスの靴だけを残してお城から去るが、靴をたよりに王子様に迎えられる、という物語。この話から、惨めな境遇から何かのキッカケで成功を掴む、というのがシンデレラストーリーといわれていますよね。
では、この「シンデレラ」に準えた『シンデレラガールズ』はどうなっているのでしょうか。「シンデレラ」に当てはめながら、振り返ってみましょう。
舞踏会に行けないシンデレラは、第1話で養成所でレッスンに励む卯月や空虚な日常を送る凛と重なります。そんな日常から連れ出してくれるプロデューサー(P)は魔法使い。Pは彼女たちを346プロダクションという大きくて美しいお城へ連れて行ってくれました。
お城で待っていたのは王子様。第3話で卯月、凛、未央の3人を自分のステージに誘う城ヶ崎美嘉がその役割といえるでしょう。未央たちはバックダンサーとして美嘉とともにまぶしくて楽しいステージに上り、最高のひと時を味わうことになります。舞踏会でのダンスシーンというわけです。アイドルのタマゴだった彼女たちが突然の大抜擢に応えて大成功。ここまでは典型的なシンデレラストーリーですよね。
しかし、「シンデレラ」にはまだ続きがあります。第6話、美嘉のステージを経験して自信をつけた未央たちですが、続く自分たちのステージとの落差に驚き、失意のドン底に叩き落とされてしまいます。物語の谷となる第7話は、舞踏会から帰ったシンデレラを待っていた現実。現実とのギャップに困惑し、未央と凛はPの元を去ってしまいます。魔法が切れて元の日常へ戻っていったのです。
「シンデレラ」であれば、ここでガラスの靴を携えた王子様がやってくるのですが、『シンデレラガールズ』では、卯月の笑顔に押されたPが、観客の笑顔の写真を携えて未央の元へやってきます。めでたしめでたし。本当の王子様はPだったのかな…? …あれ?
少女たちは自らの足で階段を上った
「シンデレラ」としては7話で終わっちゃった?と思われるかもしれませんが、そうではありません。『シンデレラガールズ』としては、むしろここからがはじまりです。そもそも、彼女たちは、まだシンデレラになっていません。
第7話までのPは、過去の失敗からアイドルたちと向き合うことを避け続けた結果、馬車にすらなれないただの車輪に成り果てており、魔法使いでも王子様でもありません。魔法の使えない魔法使いで、臆病者です。美嘉は王子様だったかもしれませんが、舞踏会の後、現実に戻ったシンデレラたちを探しにいくことができません。ガラスの靴など存在しないからです。
ガラスの靴は魔法の靴。でも、そんな魔法の靴なんてありません。美嘉の煌びやかなステージも美嘉自身の努力により成しえた結果であって、魔法の産物ではありません。美嘉が履いていた練習用シューズの靴裏は剥げあがるほどに使い込まれており、ガラスの靴とは程遠いものです。アイドルたちを成功に導いてくれる都合のいい魔法などは存在しないのです。
思い返してみれば、第3話の美嘉のステージシーンはその後のステージとの対比が埋め込まれています。まず、バックダンサーの未央たちは舞台装置のエレベーターでステージに上がります。まるで突然の大抜擢のように飛び上るのです。しかし、第13話などの自分たちのステージシーンでは、舞台袖の階段を自分の足で駆け上がっています。劇中で何度も印象的に使われる「階段」ですが、美嘉のステージでは階段ではなくエレベーターであることが暗喩になっているのですね。
また、美嘉のステージのみ、ライブ音響っぽいのは臨場感の演出というだけではないと思います。シンデレラプロジェクトのメンバーがまだ歌う立場ではなく、聴く立場であったことを示していたのでしょう。観客席にいたメンバーはもちろん、バックダンサーの3人にとっても、ここはまだ自分たちのステージではなかったのです。ステージの上で最高の気分にさせてくれたのは、盛り上がる観客の声であり、その観客を盛り上げていたのは、美嘉たち先輩アイドルの実力に他なりません。
アイドルは周囲の力で最高の気分にさせてもらえる仕事ではありません。自分の力で周囲を最高に気分にしてあげる仕事なのです。観客の笑顔の写真を見て自らの間違いに気づいた未央たちは、ようやく自分たちの足で第一歩を踏み出します。お城への階段は自分の足で上らなければならないと気づいたのです。
粉々に砕け散ったガラスの靴はもとに戻りません。そんなものは最初からなかったのだから。再起への1段目の階段は、自分たちの靴で上らなければならないのです。夢見ていたアイドルになるためには、夢から覚め、現実の階段を現実で上らなければならないのです。夢の実現のために、現実を自分の足で駆け上がるのです。
臆病者だったPも、ここからアイドルという現実に向き合いはじめます。彼はアイドルに去られた過去をもっているため、距離をおいて逃げ続けていましたが、それではアイドルたちをシンデレラにすることはできないとわかったのです。魔法を使えない魔法使いであるPは、アイドルたちと一緒に階段を上ることを決意します。もう馬車でも車輪でもない、彼女たちを引っ張っていく先導役になったのです。
物語の転機となる第7話は、雰囲気も画面もひたすら暗く、明るく希望に満ちていた第1話との対比が絶妙でした。再起を図るために、一旦すべてが”巻き戻っている”のですよね。Pを置いて階段を駆け下りる未央、35分に戻ってしまった時計、卯月と凛が出会った桜の下と同じ構図の薄暗い事務所、凛の部屋の花はアネモネ(期待、希望)から青のエゾギク(あなたを信じているけど心配)に。そして、凛がベッドの上で握りしめていた手は崩れ落ちてしまう…。
最後に、卯月とPの出会いにまで巻き戻るのですが、卯月の家は他のシーンと比べてとても明るい。嬉しそうに卯月のことを話す母親、親バカっぽく何枚も並んだデビューCD、出会った頃と同じ夢を語る卯月…。期待と希望に満ち溢れているのです。そこでようやく「笑顔」を思い出すわけです。アイドルの仕事は観客を笑顔にすること。Pの仕事はそのアイドルたちを笑顔にすることだと思い出したのです。
劇中でここまでに起こる問題について「Pのコミュニケーションエラーばっかり」というツッコミも見かけましたが、ボクはそこはツッコミどころではないと思っています。なぜなら、「アイドルマスター」は、プレイヤーがPとしてアイドルとコミュニケーションを図り、信頼関係を築き上げていくゲームだからです。問題がPのコミュニケーションエラーに集約されているのは、ゲームの再現であり、実に「アイマス」らしい、と思うのです。
『シンデレラガールズ』はタイトル通り、「シンデレラ」に準えているようにみせかけておいてから、「アイマス」に舵を切ってくるわけです。ある意味、シンデレラストーリーのもつ弱点を「アイマス」で埋めた、といえるのかもしれません。
「夢じゃない!」
第8話以降はPとシンデレラプロジェクトのメンバーが自らの足でお城への階段を駆け上がる話です。魔法が解けた後、王子様を待つのではなく、自分たちの力で舞踏会を目指すのです。ここからはもうシンデレラストーリーではなく、「努力・友情・勝利」の物語に近い構造ですね。さしずめ、「努力・団結・成功」といったところ。これぞ「アイマス」でしょう。
第8話の蘭子のエピソードは、Pがアイドルたちと向き合う姿勢の変化が具体的な成果をあげる話。Pの成長の過程と結果はここでほぼ描かれたことになるので、第9話からはスポットから外れます。第9~11話は各ユニットが焦点となり、メンバー同士の団結が描かれることになり、第12話は最終決戦前の特訓回といった感じで、全メンバーの結束を高める内容でしたね。
そして最終13話。数々の困難を乗り越えてきた彼女たちは、ついに階段を上って舞踏会へたどり着くのです。魔法でも馬車でもなく、自分たちの足で。ここでリーダー・美波が倒れるという試練に見舞われるものの、彼女の考案したスペシャルメニューの甲斐もあって、メンバー全員が一丸となってステージを繋ぎます。Pとかリーダーとか、頼りになる誰かに引っ張ってもらうのではなく、自分たちのできることで繋いでいくのです。ここでリレーのバトンがハイタッチに重なる流れはアツイですよね。後ろを振り返らずにステージへ向かう杏さんのカッコよさがたまらない。
最後に、美波が復帰して全員が揃ったシンデレラプロジェクトのメンバーは最終ステージへ。そこでは、第1話で卯月が語った夢のように、「キレイな衣装を着て、キラキラしたステージに立って、まるでお姫様のよう」になったのです。憧れの先輩アイドル・楓さんと同じ舞台に立てたわけです。ようやく自分たちの思い描いていたアイドルに成れた瞬間が訪れました。
オープニングと同じ衣装に身を包むメンバーをみて、「Star!!」を歌うのかと思いきや、まさかの新曲「GOIN’!!!」だったので度胆を抜かれました。よくよく考えてみれば「Star!!」は、アイドルを目指して一歩を踏み出す歌なので、この場には相応しくないのですよね。「GOIN’!!!」は、観客も一緒にみんなで歌おう!ホップステップジャンプで夢に飛び出そう!という曲なので、まさにこの場に相応しい歌になっています。
ステージを終えて、まだふわふわしていた彼女たちのもとへ届けられたファンレターの山が、彼女たちを現実へと戻します。美嘉のバックダンサーだったときは「なんだか夢みたい」で終わっていましたが、ここではその対比として「夢じゃない!」で〆られているのがいいですよね。ここでようやく、アイドルになった実感を手にしたことで、アイドルを夢見るアイドル候補生たちの物語が幕を閉じます。
ラストシーンで彼女たちが裸足なのは、自分たちの足で階段を上りきったことの証。魔法の力で上ってきたわけではないから、魔法の時間が過ぎてもステージに立っていられるのです。
こう考えてみると、『シンデレラガールズ』は、都合のいいキッカケで成功を掴むシンデレラストーリーと思わせておいて、そんな甘い考えを叩き潰した上で、アイドルたちに自身の力で成功を掴ませる物語であるとわかります。といっても、シンデレラプロジェクトに選ばれている時点で、十分すぎるほど都合のいいキッカケなのかもしれませんけど。でも、その後は魔法のような誰かの力でうまくいく、というわけでもありませんし。
チャンスを目の前にして一歩踏み込むかどうかは本人の意思によるところです。一歩踏み込む勇気、というのは本作のテーマの1つかもしれません。最初にPが凛をスカウトした際、一歩踏み込んでみれば新しい世界が見えるかもしれない、といっていましたが、同じことを第12話で美波も言っていましたよね。途中、Pはアイドルたちに踏み込めずに逃げていたことから大きな損失の危機を招きましたが、一歩踏み込むことで繋ぎとめることができたわけで。「チャンスを掴み取る握力」を持っているからこそ、ただのラッキーになっていないのだと思います。
『シンデレラガールズ』には、成功に導いてくれる都合のいい魔法などありませんでした。しかし、魔法はあったと思うのです。”笑顔”という魔法が。
「笑顔です」
笑顔はシンデレラプロジェクトのメンバーの選考理由でもあり、第7話ではプロジェクト存続の危機を救うキッカケにもなります。キレイな衣装もキラキラしたステージも魔法ではありませんが、彼女たちの笑顔があればこそ輝くのです。
そして、アイドルのお仕事は、みんなを笑顔にすること。他者を笑顔にしたいという想いが、アイドルにとって1番重要なものです。第6話のCDデビューイベントでNew Generationsとラブライカの明暗を分けたのはここでした。観客の笑顔を望んだ美波たちと違って、未央たちは自分たちが笑顔になることしか考えられていなかったのです。(卯月だけはちょっと違うけど)
失意の底にあった未央を救ったのは観客の笑顔でした。観客の少ないステージはアイドルとしての力量不足だと考えていた未央ですが、そうではありません。問題は数ではないのです。彼女は観客を笑顔にできていた、アイドルとしての仕事が立派に果たせていたのです。
第13話、雨後で閑散とした観客席を前にしても、みんなを笑顔にしようと精一杯の笑顔でステージに立つ未央。彼女のステージは観客だけでなく、大雨で不安になっていたアイドルたちも笑顔にしていきます。そしてフェス終了後、未央を待っていたのはファンレターとアンケート。まわりに振りまいた笑顔が自分のもとへ返ってくる、最高の瞬間が待っていたのです。
他者の笑顔を望んでいるのは、アイドルたちだけではありません。Pは常にアイドルたちが笑顔でいてほしいと願っています。選考理由が「笑顔です」なのだから、笑顔になってもらえるように支えるのがPのお仕事です。
「笑顔です」の意味がちょっと特殊なのが凛の場合。第1話でPが凛をスカウトしたとき、笑ったところを見たこともないのに「笑顔です」だったのは、きっと笑顔がステキに違いない、というだけでなく、笑顔になってほしい、というPの願いも込められていたような気がします。無愛想で警官に勘違いされてしまうところなども親近感がありそうですし。内なる情熱を秘めているけど空虚な日常を過ごしていることを見抜けたのは親近感ゆえか、Pの実力なのか。
ともあれ、凛が心からの笑顔をみせるのは第13話のラスト。他のメンバーも笑顔にしてきたPですが、ここでの凛の笑顔は特別なものでしょう。凛だけは他のメンバーと違って自らアイドルに志願したわけではなく、Pが引っ張ってきたわけですからね。そんな凛に新しい世界をみせ、心からの笑顔を引き出すことができたのです。
凛の笑顔は、かつてはアイドルと正面から向き合えず、馬車から車輪にすらなり下がっていたPが、再び誰かを笑顔にすることができた瞬間です。自分にも魔法が使えていたのだとわかった瞬間なのです。このときのPの表情は、凛の笑顔に見とれてしまっただけではないと思うのですよね。未央が観客の笑顔に救われたように、過去の失敗から自信を失っていたPも、この時点で本当に救われたのではないでしょうか。
ラストカットの集合写真は、衣装を着ていることから裸足でファンレターを読むシーンよりも時系列順は前だと思われますが、一緒にPが写っているのが感慨深いですね。第2話では集合写真に参加せず去っていましたから大躍進です。しかも、すごく穏やかな笑顔をしているんですよね。笑顔が禍々しいといわれていたPがここまで変われたのは、シンデレラたちと一緒に階段を駆け上がれたからこそ。
最後に、王子様は誰だったのか、といえば、視聴者を含む観客だったのではないかと思います。王子様はガラスの靴という魔法のアイテムをたよりにシンデレラのもとにたどり着きますが、魔法の笑顔をたよりにステージに駆けつけ、アンケートに想いを綴るファンこそが王子様なのではないでしょうか。というわけで王子様、あちらで千川さんがお金をご所望ですよ。
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