印象的に使われている小道具「ペットボトル」について考察してみました。「本気」がテーマの青春物語における清涼な小道具として使われているだけでなく、とある人物の心理描写にも使われているように思えました。あと、他の飲み物や食べ物についても考察してみるといろいろ見えてきたので、ついでに書いてみました。
総評っぽい記事はすでに書いた後なのですが、他の人の感想や考察を読んでいて気になったので書いてみます。密度の高い作品では、劇中に意味のないモノは登場しませんから、考察するのは楽しいですし、考察すればするほどおもしろくなっていくのですよね。
で、気になったのは以下の部分。
ペットボトルを用いた演出がやたら多かった印象。例えば、あすか先輩が久美子(第10話)や中世古先輩(第11話)と話している時、手にはペットボトルが握られている。夏紀先輩や久美子が個人練習している時もペットボトルが登場する。いずれも重要な場面なので何か演出上の意味がありそうだが、私にはよく分からなかった。誰か分かる人は教えてほしい。
たしかに、ペットボトルは印象に残りますね。スポーツモノでもないのに、水があんなに美味そうに描かれているわけですし。『響け!ユーフォニアム』は春から夏にかけての物語なので、夏の暑さを表現するための小道具なのでしょうけど、もう少し演出の意図が含まれていそうな感じです。
ペットボトルの存在は、主に2つの意図があると思います。1つは、夏の暑さの中で懸命に練習する姿を描くこと。もう1つは、副部長・あすか先輩の心理です。
努力の演出としてのペットボトル
ペットボトルの水が印象的なのは、第9話、オーディションに向けて練習している夏紀先輩。やる気のなかった夏紀先輩が炎天下の中、真剣に練習している姿が久美子の心に刺さるシーンですね。単に水分補給をしているだけでなく、口からこぼれた水を手で拭ってすぐに練習に戻るあたり、なりふり構わず”本気”で挑んでいることがうかがえます。あと、よくよくみると水の中に小さな粒がみえるので、”炭酸水“っぽいですね。
このシーンは、夏紀先輩の本気を演出しているだけでなく、後に久美子が「熱病」で倒れてしまう展開への伏線でもあるのでしょう。久美子が倒れたときは葉月と緑輝だけでしたが、次の場面では「熱病」の原因である麗奈が水を届けてくれます。やっぱり久美子のことを誰よりも気にかけてるんですよね。
暑さの中で喉を潤すだけなら、水でなくてもいい気がしますが、水であることにも意図がありそうです。久美子が帰宅前に川沿いのベンチでカフェラテっぽいヤツを飲んでいる場面が何度かあります。(具体的には1話と8話)
どちらも、第8話のお祭りの夜に麗奈の「本気」に触れる前なんですよね。その後から久美子の心に火がつくわけで、おいしい飲み物ではなく、実用性最優先の水になっていくことでも、彼女の”本気”が演出されているように思います。スポーツドリンクでもよさそうですが、「ユーフォが好き」だから「上手くなりたい」という純粋な気持ちには、やはり水なのでしょう。青春だなぁ。
あすか先輩の心理描写としてのペットボトル
第10話で、オーディションは終わったのにソロパートの練習を続けている香織先輩を久美子とあすか先輩で眺めているシーン。このでのやりとりは、あすか先輩の本音と建前が見え隠れしています。
まず、あすか先輩は冷たいペットボトルで久美子を不意打ちします。これは毎度のいたずらですね。その後、”ペットボトルを抱えたまま“、香織先輩が「自分に納得がいっていない」という客観的な意見は言ってくれるものの、香織先輩と麗奈のどちらがいいのかは「ノーコメント」。あすか自身の「私的な意見」は言ってくれません。
ここで諦めずに食い下がる久美子に対して、”ペットボトルを置いてから“語りはじめます。「正直いって、心の底からどうでもいい」と。結局、ここで久美子は「仮面」の厚さに屈してしまい、視聴者にも、あすかの本心がどこにあるのかは明確に示されません。しかし、このペットボトルという小道具が「仮面」として機能しているのではないでしょうか。
続く11話、香織先輩の練習を聞く場面でも同じ演出が入っています。香織に演奏の是非を聞かれて「いいものはいい、それ以上ない」と答えるあすかの手に、”ペットボトルは握られていません“。なので、この評価は彼女の「私的な意見」なのでしょう。そう考えると「前聞いた時も同じこと言ったよ?」に対して「同じだから同じことを言う」ってのもなかなか残酷ですね。
しかし、”ペットボトルを手にした後“はおどけた態度をみせます。久美子に不意打ちしたときと同じように。そして、「どっちが適任か」を聞かれると、「上手い方がやるべき」「滝先生はそういう基準で決めてる」という客観的な意見になります。それでも食い下がる香織でしたが、あすかの手からペットボトルが離れることはありません。去り際の「我が思考を読む能力者か!?」はあまりにも残酷。でも、後に香織が言っていたように、全部見透かされているんですよね。香織が納得していないことにいち早く気づいていたのもあすかですし。
あと、ここであすかが香織に投げたのが”炭酸水“だったことは、オーディションに落ちた夏紀と重ねられているのかもしれません。香織もこの後の再オーディションでポジションを勝ち取れないわけですし。
言動だけではどこからが本気でどこまでが冗談なのか、よくわからないあすか先輩ですが、ペットボトルという小道具によってほんの少しだけ、「仮面」の奥が暗示されているのではないでしょうか。さて、ペットボトルに関しては以上ですが、他にも劇中に登場する飲み物に注目してくると、いろいろと見えてくることもあります。ついでなので、気づいた範囲で書いていきます。
ポテトと芋とジュースとシェイクと
劇中で何度かファーストフードに足を運ぶ場面があります。毎回、久美子たちはジュースとポテト1つという最小の構成になっているんですよね。高校生の財布事情を考えれば、そんなものかなという気もしますが、これは夏紀先輩が奢ってくれるシーンとの対比になっているのだと思います。
第10話、オーディションに落ちた後で久美子を誘ってファーストフードへやってきた夏紀先輩は、シェイクを奢ってくれます。普段のジュースからワンランクアップ。値段にすると大した差ではないのかもしれませんが、お金がない高校生なりのささやかな気持ちが伝わってきます。夏紀先輩、いいですよね。
また、ジュースとポテトとの対比になっているのが、第7話で部長・晴香のお見舞いにやってきた香織先輩の焼き芋。吹奏楽部のマドンナである香織が焼き芋を食べているのは、なんだか『ドラえもん』のしずちゃんを彷彿とさせますね。同じとき、別の場所では久美子たちもポテトを食べているのですが、芋を食えば元気が出るものなのでしょうか。ともあれ、牛乳で芋を食べたかったという香織から、晴香が牛乳をかすめとっているあたり、彼女たちの距離感がよく表れていますね。
7話の最後に、晴香が葵と会って話すシーンがあります。ここではいつものファーストフードではなく、見慣れないファミレスになっていて、退部してしまった葵が、受験という別の道をすでに歩み始めていることを示しているようにみえます。ここでは、ファーストフードのポテト>自宅の焼き芋>ファミレスでジュースのみ、という3つの段階で、彼女たちと吹奏楽との距離が表現されていたのかもしれません。
そんなわけで、ペットボトルや食べ物についての考察は終わりです。アニメって20分くらいにギュッと凝縮されているから、ほんの一瞬のカットやちいさな小道具にも何かしらの意図が埋め込まれていて、見れば見るほどおもしろいんですよね。いやー楽しい。全編を通しての総評っぽいやつは以下の記事でどうぞ。
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