【書籍】『進化とは何か ドーキンス博士の特別講義』

本書は『利己的な遺伝子』のリチャード・ドーキンス博士の講義を和訳・編集した本で、編訳者によるインタビューも収録されています。ダーウィンにはじまる進化論をわかりやすく解説した入門書であり、ドーキンス氏のエッセンスが詰め込まれた彼に対する入門書でもあり、非常に読みやすい本でした。

ボクがリチャード・ドーキンス氏の名前を初めてみたのはゲーム『パラサイト・イヴ』の冒頭、「遺伝子は自分の子孫を多く残すことのみを考える」という一文からはじまるオープニングムービーでのことでした。この言葉がどれほどの意味をもっていたのか、この言葉を書いた人がどのくらいスゴイ人なのかを知るのはもっとずっと後になってからのこと。まったくお恥ずかしい話でございます。

彼の名を世に知らしめた書籍『利己的な遺伝子』(原題:The Selfish Gene)は出版から30周年を記念した新装版もリリースされているのですが、分厚い上に図書館でもずっと借りられっぱなしでなかなか読む機会がないままでした。いや買えよ、って話ですけど…ハイ。

そこへきて見つけたのがこの『進化とは何か ドーキンス博士の特別講義』。彼の講義を収めた本です。実は、過去に日本でも同じ講義を実施したそうですが、その際は全5回の日程を3回に圧縮しなくてはならなかったらしいので、日本における完全版は本書が初といっていいかもしれません。

本書は講義の様子を撮った写真と合わせて書かれているのですが、写真中のドーキンス博士はなんだかお若い。どうやらレクチャー自体は1991年に行われたものだそうで、実に20年以上も前の講義なんですね。日進月歩の科学の世界で20年以上前の話はどうよ?と思われるかもしれませんが、いやはや全然そんなことはありませんね。考えてみれば、ダーウィンの進化論から発展していて、それを大きく覆すこともなかったわけですから、そりゃそうかも。

ドーキンス氏のスゴイところは、『利己的な遺伝子』をはじめとした鋭い切り口や視点だけでなく、それらを一般向けにわかりやすく噛み砕いて解説できるスキルの高さにもあるのでしょう。特に、本書の講義は元々が子供向けだったので、そのわかりやすさは抜群。「進化論なんていまさら説明されるまでもなく知ってるよ」と思われるかもしれません。しかし、実のところわかっているようでわかっていないところが多々あることを思い知らされます。

たとえば、永い時間をかけて徐々に進化してきたことは知っているでしょう。でも、この”永い時間”というものがあまりにも永すぎるため、実感がわかず、理解しきれていないのです。こういったところにドーキンス氏は、一歩を1000年として生物の先祖が誕生した時代まで何kmあるのか、といったような上手なたとえを用いてわかりやすく”実感”させてくれるのです。

こういった講義が5回分続いた後、編訳者によるドーキンス氏へのインタビューが収められています。こちらは2009年に実施したものだそうで講義に比べるとかなり最近ですね。『利己的な遺伝子』から『神は妄想である』まで、彼の著作に対する質問を投げかけたり、彼の出生の話を訊いたりする内容となっています。

このインタビューを読んでみると、全5回の講義がいかに彼のエッセンスの詰め込まれたものだったかがわかるような気がします。すべての講義が彼の著作に繋がっているような、そんな印象を受けるのです。彼のことをより深く知りたいと思うのであれば、インタビュー中に登場する本を読んでみるのがよさそうです。

ごちゃごちゃと感想を書いてきましたが、本書がどういう本であるのかは編訳者によるあとがきの一文で完結しています。

本書は、進化の問題を考える上で最も重要な、われわれの認識をゆるがす「永い時間の概念」や「デザインの問題」、「微々たる違いの積み重ねによる力」といった事柄を、実にわかりやすく見事に説明していて、優れた進化論入門書になっているのはもとより、ドーキンスの著作のエッセンスが網羅されているので、彼の世界への入門としても格好の書になっていると思われます。

日本においてはダーウィンの進化論に抵抗を感じる人は少ないかもしれませんが、知っているつもりの進化論を本当に理解するため、一般教養として身に着けておくための最適な1冊ではないでしょうか。

リチャード ドーキンス
早川書房
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