劇場版『SHIROBAKO』感想 劇場アニメを作る劇場アニメは劇場で見るべし!

世間はいろいろと大変な状況ですが公開初日に映画館で観てきました。相変わらずの情報量の多さや1秒たりとも退屈させない密度の濃さなど、もう話したいことがいっぱいありすぎて何をどう書いていいやら困っているところなんですが、最初に結論だけ申しますと「映画館で観て!!!!」ってことです。

※ネタバレはできるだけ避けているつもりですが勢いあまってはみ出している可能性があります。ネタバレを踏みたくない人はこんなの読んでないで一刻も早く映画館に向かって、えくそだすっ!

劇場版『SHIROBAKO』

ムサニ史上最大のピンチは容赦がない

アニメを作るアニメ『SHIROBAKO』の劇場版は、劇場アニメを作る劇場アニメになっています。TVシリーズでは落ち目だった武蔵野アニメーション、通称ムサニが紆余曲折しながらもアニメを作り上げて成功を収める物語になっていたわけですから、次は劇場アニメを制作!というのも頷ける話。…と思いきや、実はそんな順風満帆な話ではありません。

劇場版で描かれるのはTVシリーズから4年後。PVやイメージビジュアルからなんとなく想像できた人もいるかもしれませんが、想像以上にヤバいことになっています、ムサニ。どのくらいヤバいかというとTVシリーズの第1話よりも悪いくらいで、ムサニ史上最大のピンチといっても過言ではないでしょう。そりゃ劇場版ですからね。ピンチはヤバくないと。

とはいえ、ピンチに陥っているムサニの描写はものすごく心にキます。あまりにも容赦がない。TVシリーズでも絵麻の部屋とか落ち込むずかちゃんとか容赦がなかったんですが、ある意味それ以上かも。ボクはTVシリーズでは何度も泣かされたので「劇場版でも泣かされちゃうのかなー、泣きながら映画館を出るのはちょっと恥ずかしいかもなー」などと思っていたのですが、まさか序盤で泣きそうになるとは。それも感動の涙ではなく辛くて悲しい涙ですよ。辛い。辛すぎる。あんまりだ。

しかし、このドン底から這いあがるのが本作のストーリーなのであります。 挫折からの再起の物語が劇場版『SHIROBAKO』なのです。

「好きだから」だけじゃダメ

挫折から立ち直る方法は人それぞれ。TVシリーズ同様、いろんな人のいろんな面が群像劇として描かれています。共通するのは「好きだから」ってだけじゃ続けられない、ということでしょうか。「好きだから」というのは何かを始める条件としては十分かもしれませんが、何かを続ける条件としては足りないんですよね。特に、大きな壁にブチ当たったときなどはそう。

今回、挫折した人として特にスポットが当たるのは遠藤さんと木下監督でしょうか。それぞれシリアス担当とコメディ担当って感じでバランスがとれている、ような。特に遠藤さんは生々しくて辛い描写が続くのでこれまた辛い気持ちになれます。にしても彼の嫁さんはなんなの。女神なの。もうお前ら結婚しろよ!ってなりましたね。

こうして挫折した人々が描かれる中、個人的に印象に残ったのが平岡です。そもそも平岡はTVシリーズの段階で挫折から立ち直っているので、すでに挫折を乗り越えた人物として描かれているんですよね。だから失意の底にある宮森の視点からは輝いて見えるんですよ。もう眩しいのなんの。真面目すぎたが故にポッキリ折れてしまった彼ですが、擦れた時期も乗り越えてちょうどいいくらいに収まったのか、いい男になりましたよねぇ。

4年の月日が彼女たちを強くした

他にもTVシリーズで登場した多くのキャラクターたちのその後の姿が見られるのも本作の見所でしょう。特にメインキャラクターである5人の女性はTVシリーズ時点では新人でしたから、成長した姿は感慨深いものがあります。

特に印象深かったのがディーゼルさんこと今井みどりの成長っぷり。師匠である舞茸先生と”キャッチボール”するシーンがあるんですけれども、2人の力関係の変化が表現されていてすごくいいんですよ。強くなったなぁ、というんじゃなく、こいつこれからどこまで強くなるんだ…?みたいな感じで。潜在能力はぶっちぎりなんだろうなぁ。

メイン5人以外にもTVシリーズで登場したキャラクターはちょい役も含めるとほとんど出てきていたんじゃないでしょうか。なので、今一度TVシリーズを見返しておくとより楽しめるのではないかと。ボクは前日までに見返していたので大正解でした。覚えているようで忘れていますからね。「限界集落過疎娘」とか、絶対忘れてたわ。

ちなみに 特典の色紙はこの3人でした。やったぜ。

ムサニはいます!

さて、物語では挫折を乗り越えて劇場アニメを作っていくわけですが、こうして味わった挫折も無駄じゃないとしているのもテーマの1つでしょうか。TVシリーズでもずかちゃんの先生が「失敗も財産」と言っていましたけど、劇場版ではその考え方が色濃く表れているように思えました。劇場アニメの元ネタにしろ、ムサニが転落した原因にしろ、すべては無駄ではなかった、と。

こうしたテーマはムサニの作った劇場アニメに凝縮されています。TVシリーズでもムサニの作ったアニメが何度も挿入されていましたが、今回の劇場アニメは圧巻。だって劇場アニメが劇場で流れるんだぜ? 

もともと『SHIROBAKO』はリアリティのある物語でしたが、今回「空中強襲揚陸艦SIVA」がスクリーンに流れたことで、完全にリアルになったように感じました。『SHIROBAKO』の世界が現実に踏み込んできたというか。だからこそ、本作はぜひとも映画館で観ていただきたい。この感覚は映画館でないと味わえないと思うんですよ。だからぜひ。

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