巷で好評の話ばかりが聞こえてくる『ギルティギア イグザード』(GGXrd)のストーリーモード。「格ゲーのストーリーなんてオマケじゃん?」と思っていたら大間違いでした。いや、間違いではないのですが、ストーリーを見せることを突き詰めて常識を壊せばこうなった、というべきか。
『GGXrd』のストーリーモードを堪能し、「この興奮、誰かに伝えねば」と思ったものの、公式から「ネタバレはマジやめて」とお達しがあるので今回はネタバレ抜きの話をします。物語のおもしろさではなく「格ゲーのストーリーモードの常識を覆した」という部分が焦点です。
格ゲーのストーリーモード、といえば、アドベンチャーゲーム方式でキャラクター同士を絡ませ、バトルが起これば格闘ゲームパートになって進行していく、というのが常識でした。でも『GGXrd』はそうなっていません。格ゲーのストーリーモードにおける”当たり前”を完全にぶっ壊してきました。では、どのようにして常識をぶっ壊しているのか、みていきましょう。
なお、本エントリーに貼ってある画像はストーリーモードのものではありません。公式から「ストーリーのスクリーンショットはやめて」とありますので、すべて普段の格ゲー部分の画像です。それにしても、みなさんご存じとは思いますが、この絵が格ゲーでグリグリ動かせるってやっぱスゴイですよね…。(通常とカットシーンとで同じモデルってわけでもないのですが、それはそれでやっぱりスゴイわけで)
公式サイト:TOP | GUILTY GEAR Xrd -SIGN- CS版公式サイト
格ゲーパートを1度も挟んでこない
本作のストーリーモードは開始時に「全自動で進行するよ」といわれます。ストーリーモードが始まってしまえばプレイヤーのやることは何もありません。ボタンを押してメッセージを流すくらいはできますが、デフォルトでオート状態で、すべてボイス付きで流れていくのでそれすらも必要ないでしょう。コントローラーを置いて画面に向かうだけ。我々はもはやプレイヤーではなく視聴者なのです。
格ゲーのストーリーモードといえば、バトル展開になるたびに格ゲーパートが挟まれるものでしたが『GGXrd』ではそれがありません。格ゲーなのに格ゲーしないんです。そんなのアリか。
アリかナシかでいえば、アリでしょう。そもそも、格ゲーのストーリーは格ゲーを挟まれるたびに話の腰を折られてしまうものでした。物語のテンポが悪くなるだけでなく、格ゲーパートでボコボコにしてパーフェクト勝ちをしても次のシーンでは両者ボロボロになっているとか、ストーリー分岐のためにわざと負けないといけないとか、物語と格闘の内容を一致させるのがムズかしいところでもあったと思います。
しかし『GGXrd』では格ゲーパートが一切ありません。おかげでプレイヤーとしても物語に集中できます。ついでにいえば、いつやってくるかわからない格ゲーパートに備えてアケコンを構えてなくてもいいので楽です。物語をみせることを最優先するなら当然の帰結といえるのかもしれませんが、それでもかなり思い切った割り切り方ですよね、コレ。
キャラクター同士を戦わせるための物語にしていない
従来の格ゲーのストーリーとは、大抵はキャラクター同士を戦わせるための理由づけでした。キャラクター同士がそれぞれの目的でそれぞれに行動しており、出会ってぶつかったら殴り合いをはじめるようなイメージですよね。でも『GGXrd』の物語はそうはなっていません。
物語の内容については触れませんが、『GGXrd』のストーリーはキャラクター同士をぶつけるためのものではなく、キャラクターたちを使った1本の物語になっています。「キャラクター同士を戦わせなければならない」という枷を外し、自由にキャラクターたちを動かして描かれているのです。格ゲーという制約にとらわれず純粋に物語として作られているので、そりゃ品質も上がるってものです。
格ゲーパートを撤廃したからこういう物語を描けたのか、こういう物語だから格ゲーパートの必要がなくなったのか。どちらがタマゴでどちらがニワトリなのかはわかりませんが、結果的に物語がおもしろくなっているのは間違いありません。無理に全キャラクターに見せ場を与えようともしていないこともあり、全体的にメリハリのある物語に仕上がっているようにも感じました。
ちなみに、キャラクター同士を戦わせる理由づけの物語といっても『P4U』のように見事なストーリーを描いてみせた前例もあります。仲間同士に殴り合いをさせるにはどうしたらいいのか、という点をそのままストーリーの核にした上手なシナリオでしたよね。なので、キャラクター同士を戦わせる理由づけがダメというわけではありませんが、そんな枷がない方が自由な発想で物語が作れるというものでしょう。
ストーリーでキャラクター同士の戦う理由が説明されていないなら「格ゲー部分でこいつらはなんで殴り合ってるんだよ」となるかもしれませんが、それは「格ゲーだから」という理由だけで十分なのではないでしょうか。
グラフィックがすごい
グラフィックのすごさは格ゲーの部分で十分すぎるほどわかるのですが、このキャラクターモデルを利用したストーリーでの見せ方もやっぱりすごい。よくあるアドベンチャーゲームっぽくバストアップのキャラクターと画面下部のメッセージウィンドウという基本レイアウトなのですが、キャラクターに動きがあるので退屈しません。
3Dモデルのキャラクターは表情パターンが設定されているというだけではなく、場面に応じてカメラアングルやエフェクトなども合わせてよく動きます。表情も豊かでアニメのように自然に動くため、会話シーンではセリフだけでなく表情や”間”だけでの表現もできるようになっているのです。
表情や”間”による表現ができているため、会話パートでボタンを押してメッセージを飛ばす気にならないのですよね。ポチポチと流してしまうとセリフに合わせて動いている表情が台無しですし、何よりよく動くものだから退屈もしません。全自動で進行する上に格ゲーパートすら挟まず、本当に見てるだけなのですが、それは高い表現力があってこそなわけです。
表情や”間”による表現は他ジャンルでは珍しいことではありません。RPGなどではPS2時代からあるでしょうし、古くはPS1の『ベイグラントストーリー』などもありました。とはいえ、他ジャンルとはストーリーの占めるウェイトが違うので、格ゲーではそこまでの表現力が求められなかったのかもしれません。
とはいえ、『GGXrd』は純粋に物語をみせるためのストーリーモードになっているわけですから、表情や”間”による表現力も必要になったのでしょう。そしてそれは高度な3Dモデルのキャラクターによって他ジャンルの表現力をも上回っているのです。なんだかんだで会話パートは多いですし、数時間のボリュームがあるにも関わらず、退屈させないってかなりスゴイことですよ。
ゲームであることすら捨てる割り切りが常識を覆した
全自動で会話が進んでボタンすら押さず、格ゲーパートもない…あれ?これはゲームなの?と思うかもしれません。たしかに、このストーリーモード自体はゲームでもなんでもないでしょう。いくらクオリティが高いからといって、コントローラーから手を放して見ているだけ、というのではアニメや映画を観ているのと変わりません。
とはいえ、本作のメインは格闘ゲームです。ストーリーは1モードにすぎません。オマケといわれても仕方ないかもしれません。しかし「どうせオマケなら無理に格ゲーと結び付ける必要なくね?」とばかりの割り切りっぷりが、純粋に物語を楽しむために最適化されたコンテンツを生み出せているわけです。これはむしろ歓迎すべきことでしょう。
物語を見せたいがためにゲーム部分を捨てるというのは、例えるなら、食品コーナーにいるために小さなガムをつけていたビッグワンガムがガムを捨てておもちゃ売り場に行くようなものでしょうか。ガム捨ててないですけど。ってか、この例えもなんか違う気がしないでもないですけど。
ともかく『GGXrd』のストーリーモードは、格ゲーのストーリーモードの常識を覆しました。キャラクター同士に殴り合いをさせる理由づけでもなければ、格ゲーパートを挟むこともなく、豊かな表現力で自由に物語を描き出しています。格ゲーにとってストーリーはオマケかもしれませんが、オマケであることを受け入れた上で超豪華に仕上げたらこうなったのでしょう。
今後、こういった手法が主流になるかどうかはわかりませんが、『GGXrd』が一石を投じたのは間違いないでしょう。グラフィックの部分は真似しようとしても厳しいと思いますが、無理に殴り合いをさせなくていい、って部分はシナリオライターに「あっ、それアリなんだ」って思わせたでしょうし。これからの格ゲーのストーリーモードの進化にも期待したいところです。というか、こういうのがもっと見たいです。
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