【世界樹の迷宮5】レビュー 長きシリーズの果てにあるのは比類なき完成度だった

『世界樹の迷宮5 長き神話の果て』をようやくクリアできたのでレビューなど。「世界樹」シリーズといえば、初回版に付属するサントラとその中身のマンガに釣られて即予約購入をしてしまうわけですが、3DダンジョンRPGとしてシリーズを重ねるごとに完成度が高まっているので、すでに安心感さえあります。特に今回『5』では、ある意味で”原点回帰”とも言えるダンジョン探索に絞った作りなので、シリーズでも随一のオススメになっております。

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見た目のかわいらしさとは裏腹に辛口な難易度であることも相変わらず。それでいて、抜群の遊びやすさも変わらず。特に、『新1』から追加されたオートマッピング設定は壁だけでなくダメージ床を塗り替えてくれるほど(これって前からだっけ?)高性能になり、プレイヤーが地図を描くコンセプトと半ばトレードオフの形にははなったものの、この快適さはやはり手放せない。さらに今回『5』では、ダンジョン以外で独自の要素を追加する方向ではなく、むしろダンジョン探索以外の要素は廃止する方向となっている。これぞ正統進化というべきものでしょう。

ダンジョン以外の独自要素がなくなれば退化したのか?といえば、もちろんそんなわけはなく、キャラクターメイキングや育成、バトルといったダンジョン探索と直結する要素、本作のコアとなる部分が軒並み進化しております。

ダンジョンの外ではなく内が重点的に進化

体験版の時点でわかっていたことですが、今回のキャラクターメイキングでは、キャラクターのカラーやボイスが設定できるようになりました。特に大きいのはボイスの設定。あらかじめ用意されたボイスセットを設定する形式で、(『2020』以降の)「セブンスドラゴン」シリーズに近い印象。ボイスを含めたキャラクターメイキングは楽しいですね。

世界樹の迷宮5 キャラクターメイキング

そうやって作ったキャラクターはスキルツリー形式で育成するわけですが、今回は「種族」と「二つ名」の2点が絡んできます。まず種族は4つあり、職業とは別に種族専用スキルツリーが存在しています。種族スキルは採集や伐採など、探索に関わるものと「ユニオンスキル」がメイン。ユニオンスキルとはゲージ消費の強力なスキルで、スキルごとに発動に必要な人数が設定されており、『3』のリミットスキルのような印象ですが、キーアイテムで習得するのではなく、種族固有のスキルツリーとなっています。なので、どの種族を何人編成するのかが重要になっています。

「二つ名」はゲーム中盤で解放される職業ごとのスキルツリーの拡張です。各職業に2つの二つ名が用意されているため、どの職業も大きく分けて2タイプの育成方針が用意されています。解放されるまでどのようなスキルがあるのかわからないのは難点ですが、前半のスキルツリーを眺めていれば大体2タイプの育成方針になることは予想できるので、それほど大きな問題にはならないかと。「世界樹」シリーズ共通の悩みどころとして”中だるみ”があったわけですが、二つ名システムはそれを軽減する役割を果たしているようにも感じました。後半にパワーアップするのはやっぱりテンション上がりますし。

で、習得したスキルを駆使して戦うバトル面での大きな変更は、召喚枠の追加。これまではキャラクター枠で余ったところが召喚枠となっていましたが、今回はキャラクターよりも前の列に3つの召喚専用枠が設けられました。「それってものすごく強いのでは…?」と予想したとおり、やっぱり強いのですが敵も敵で召喚枠を考慮したスキル構成になっているのでバランスは崩壊していません。1層ではバンカーを設置するだけでブイブイいわせてたのに、2層のFOEが颯爽と全体攻撃をぶちかましてくるので「ですよねー」ってなる。なった。もちろん、だからといって召喚枠が使い物にならなくなるわけでもなく、上手に調整されております。見事。

うまく練り込まれている部分がある一方、イマイチ練り込みが足りないと感じる部分もあります。具体的には、鍛冶と食材。どちらも過去作にあった要素をシンプルにしたものですが、結果として存在意義が薄く、毒にも薬にもならないシステムになっている印象です。とはいえ、毒にはなっていないので楽しく快適なプレイを阻害することもありません。むしろ、毎度のFOEとの鬼ごっこパズルの方が阻害要因ですが、ガチガチに歩数を合わせなければならない場面は減ったため(なくなったとは言わない)、過去作に比べて幾分マシになっている印象。

ともあれ、ダンジョン探索RPG以外の要素を加えることで進化を計ったのではなく、あくまでダンジョン探索RPGとしての要素を伸ばすことで完成度を高めてあるのです。真っ向勝負を挑んだうえでストライクをとる。やっぱすげえぜ…「世界樹」!

キャラクターよりプレイヤーが主体のストーリー

今回『5』で特にナイスだと感じたのはストーリー面。パッと見はかなり薄味に感じるストーリーなのですが、それもそのはずで、街の人々や他のギルドなどとのドラマチックな展開は控えめだからです。代わりに、プレイヤーのギルドが冒険を通して世界の謎を解き明かすこと自体にスポットが当てられています。なので、派手なドラマはありませんが、舞台となる世界の設定をほのめかす描写が散りばめられた作りになっており、少しずつ世界の謎へと迫っていく展開となっています。あくまでプレイヤーが主体なので、能動が受動か、プレイヤーに姿勢で楽しさは大きく変わるでしょうけど、個人的に今回の方針はかなり好きです。

「世界樹」シリーズの舞台は、同じ世界の別の地域であることが慣例でした。世界樹と呼ばれる巨木が各地に存在している世界で、それぞれ違った地域での話となっていました。しかし今回『5』では、その部分からして違っています。(”世界”という意味では同じ世界と言えるかもしれませんが…) 割と重大なネタバレをサラッと書いているような気がしないでもないですが、『5』発表時のティザーサイトから”月が2つ”描かれていたわけですから、ね。プレイヤーとしても「薄々わかっているけど、たぶんそうなんだろう」と思いながらの旅路となるのですが、変に裏切ることもなく明らかになっていくので心地よい。やっぱりSFですよね、「世界樹」は。

勝手な憶測ですが、キャラクター同士のドラマを描くなら『新』シリーズがあるため、ナンバリングの本家では探索そのものをストーリーの軸に据える方針となったのかもしれません。だとすれば、よい棲み分けになっているのではないかと。

各要素が研ぎ澄まされた集大成

「世界樹」シリーズは毎回”正統進化”を感じる出来栄えだったのですが、純度の高さは今回がピカイチで、ある意味で”原点回帰”を感じる内容でした。…というとやや語弊があるかも。原点を「地図を書きながら進む高難易度の3DダンジョンRPG」とするならば、オートマッピング設定や難易度選択が存在する現在の形は原点とは言えません。しかし、単に「3DダンジョンRPG」とするならば、ダンジョンRPG以外の部分を充足するわけではなく、ダンジョンRPGの部分を突き詰めてきた『5』の形は回帰と言っても過言ではないかもしれません。

いずれにしても、「世界樹」シリーズでどれか1作をオススメするならどれか?という問いに対する答えは、現時点ではハッキリ『5』と言い切れます。過去作すべての要素が詰まっているわけではないけれども、過去作で積み上げたものがあるからこその完成度は、まさに集大成。迷うくらいなら『5』をやりましょう。どうせ迷うなら迷宮で迷いましょう。キャラクターメイキングやスキル振りやバトルの展開で大いに悩もうじゃありませんか。

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