劇場で観てきました。シャアの子供時代から1年戦争以前の時代を描いた”過去編”をメインにアニメ化されている本作。原作の再現度がめっちゃ高くなっており、安彦良和氏の漫画がそのまま動いているような内容でした。原作が好きなら間違いなく大満足できるでしょう、これ。
※ややネタバレを含みます。といっても漫画版を知っているなら大丈夫かも。
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は「ガンダム」のキャラクターデザインを担当した安彦良和氏による漫画版です。漫画版独自のアレンジを加えつつ、初代「ガンダム」を描いた物語ですが、その途中にオリジナル展開として、いわゆる”過去編”が挟まれています。今回のアニメ化はその”過去編”です。
シャアの成長とともに激動の時代を描く”過去編”
公式サイトにあるスタッフへのインタビューをみると、アニメ版『THE ORIGIN』は全4話構成で漫画版の9巻から12巻までをやっていく予定のようです。つまり、1話で1巻分が進行していくわけで、今回の第1弾はまさしく9巻の最初から最後までになっています。(※といっても、9巻の最初にあるジャブローのシーンはカットされていましたが)
要するに、今回のアニメ版は初代「ガンダム」のリメイク的なものではなく、これまで映像化されていなかった1年戦争以前の物語が中心になるわけです。個人的に、この”過去編”は好きな展開だったので今回の映像化はうれしい限り。
サブタイトルに「蒼い瞳のキャスバル」とついていますが、少年時代のシャアが主役の冒険活劇というわけではありません。ジオンサイドをメインにシャア少年を取り巻く人々と1年戦争直前の時代を描いた前日譚であり、幼いシャア少年は翻弄されつつ生き延びていく感じです。
“過去編”はモビルスーツが開発される前の時代のため、「ガンダム」でありながら人型巨大メカのバトルもありません。今回、冒頭にモビルスーツ実戦投入後はじめての大きな戦いだったルウム戦役が少しだけ挿入されていますが、本当にそれだけ。あの冒頭は、ロボットバトルが一切ないのはマズイよ、ということで挿し込まれているのでしょうね。
ロボットモノでありながらロボットがほとんど出てこない”過去編”の序盤は、たしかに地味な印象をもたれるかもしれません。しかし、「ガンダム」の登場人物たちの若い時代の織りなす人間模様とか、戦時に突入していく不穏な情勢とか、まさに激動の時代って感じで引き込まれる物語になっているのですよね。
漫画のアニメ化とはこういうことだ
イベント上映を展開していくガンダム作品といえば、『ガンダムUC』が記憶に新しいところです。あちらは小説の映像化ということで、全体の構成だけでなくシナリオもかなりの変更があったと聞きます。さすがにすべてを映像化しようとすれば尺が足りないでしょうし。
今回の『THE ORIGIN』は漫画からの映像化です。こちらも構成を変えたり、シナリオを一部カットしたりといった変化があるのだろうと思っていましたし、カットできる部分なんてあるだろうか?という不安さえありました。といっても、別に原作からの変更は許さん、というわけでもなく、どのくらい変わるのかというところも見所の1つだと思っていました。
が、しかし、フタを開けてみればほぼノーカットで漫画版そのまんまの内容になっていました。冒頭のルウム戦役シーンの追加と、ジオン・ダイクンを回想するシーンが時系列順になったくらいの変化で、あとは本当にそのまんま。忠実に原作に沿った映像化でした。
もちろん細かいセリフや演出など、多少の変化はあります。といっても、映像として表現を最適化したようなもので、印象が大きく変わるところってほとんどなかったのですよね。どちらかといえば、漫画版と見比べて間違い探しをしたくなるくらい、漫画版どおりの展開をしてくれます。
そして、その漫画版どおりの展開を漫画版どおりの絵が動くことで表現されているのです。本当に安彦良和氏の絵がそのまま動いているくらいの印象で「あっ、ここ漫画のあのシーンそのまんまだ」っていうことの連続。安彦氏本人が総監督として関わっているのだから、そのままの絵が動いているのは当たり前なのかもしれませんけれども。ともかく、安彦氏の描く多彩で豊かな表情が見事に再現されており、「そうそう、これが観たかった!」ってモノがバッチリ出てきた感じです。
特に印象的だったのはアルテイシアとルシファ。子供っぽくデフォルメされた表情もそのまんま登場するのですよね。黒猫のルシファも漫画っぽくデフォルメされた見た目なのですが、リアルでしなやかな猫の動きが観ていて気持ちよかったです。
反対に、漫画版とは違うところで印象に残ったのはギレンのプライベート描写でしょうか。原作ではキシリアとの会話シーンで庭の手入れをしていたギレンですが、なぜか囲碁を打っていたり、漢字の書かれた羽織を着ていたり、彼のキャラクター付けにアレンジが入っているようでした。考えてみればギレンのプライベートなんてほとんど描写されてないわけですが、たった数秒の描写で一気に印象付けてしまう見事なシーンだったのではないでしょうか。
なんといいますか、こういう”間違い探し”をしたくなるくらい原作再現度の高さなのです。劇場で観終わった後、漫画版を読み返して1番驚いたのは母親との別れのシーン。観た人ならわかると思いますが、びっくりするほどそのまんま。
このページはセリフも少なく、サッと読み流してしまっていたのですが、映像化されると一気に印象が変わりました。映像化されることで演出がややくどくなったような気もしたのですが、あらためて読み返してみると本当にそのまんまだったりするのですよ。漫画版をそのまま動かしたらこうなった、ということを1番強く感じたシーンでした。
原作好きなら間違いなく楽しめる1作
そんなわけで、アニメ版『THE ORIGIN』は原作の漫画版が好きなら間違いなく楽しめると思います。どうせなら読み返してから観に行くと、より楽しめるかもしれません。観た後に間違い探しのように読み返すのも楽しいでしょう。
反対に、原作の”過去編”があまり好きではなかった人はやはり今回のアニメ版も楽しめないかもしれません。何せ、ほとんどそのまんま映像化されているわけですからね。映像化による多少の変化とか、声優さんの迫真の演技などによって印象が変わることがあるかもしれませんが、これだけ原作に忠実だとムズかしいかも。
個人的に気になるのはそのどちらでもない人。つまり、原作を未読の人。少なくとも初代「ガンダム」を知っているならイケそうな気もするのですけど、どうなんでしょう。人型巨大メカがドンパチする話ではないので(冒頭にちょっとだけあるけど)、そういうのを求められると肩透かしになりそうですし。ボクなどは原作が好きで、原作が再現されていることに大喜びしているわけですから、原作を知らないまま観た人の感想が本当に気になるところです。
そういえば最後に次回『THE ORIGIN Ⅱ 哀しみのアルテイシア』の予告が流れました。次回は原作の10巻の内容になりそうですね。個人的に気になるのがキャスバルと”シャア”の声ですね。成長したキャスバルは池田秀一ボイスになり、”シャア”の方は別人が声を当てるんじゃないかと予想しているのですが、両方池田秀一ボイスで1人2役になるならそれはそれでおもしろそうです。
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅰ 青い瞳のキャスバル』はiTuneとかGoogle PlayとかPS storeとかで配信中です。デジタルのレンタル配信で1000円という強気設定なので、どうせなら劇場で観ることをオススメします。イベント上映は全国13館とやや少な目ですが、行ける範囲なら行きましょう。期間は3月13日までです。
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