アニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』第20話は、物語の大きな転換期となるエピソードでした。美城常務から声をかけられた凛とアーニャの心境を描きつつ、過去のエピソードとの対比をまじえて、プロデューサーの成長にスポットが当てられる話となっています。
毎回のようにアイドルに声をかけてはフラれている美城常務でしたが、いよいよ彼女の魔の手がシンデレラプロジェクトのメンバーにも伸びてきました。前回19話のラストには、奈緒と加蓮に凛を加えたユニットの構想が描写されていたので、今回は凛をメインに据えたエピソードになるのかな?と思っていたら、むしろアーニャとプロデューサー(以下、P)がメインでした。
前回、19話の考察と感想は以下よりどうぞ。
第20話のサブタイトルは「Which way should I go to get to the castle?」、直訳するなら「お城へ行くために、どちらの道を行くべきでしょうか?」といったところ。Pの道か、常務の道か、という展開を予想してしまいそうなタイトルですが、実はちょっと違っていました。ここで示された2つの道とは、「これまでと同じ道か」「これまでと違った新しい道か」という選択肢だったわけです。
ある意味で、これは物語全体の大きな転換期といえます。2ndシーズンに入ってから、常務の登場で大きく揺れ動いたといっても、シンデレラプロジェクトは1stシーズンの延長線上を進み続けていました。しかし今回は、2ndシーズンの折り返し地点として、「これまでと違った新しい道」へ一歩を踏み出すエピソードとなっているのです。
アーニャの挑戦
新しい道へ踏み出すことを決意する最初の1人がアーニャことアナスタシア。ロシアと日本のハーフである彼女は、言葉の問題もあって大きく前に出てくることはなかったのですが、今回は誰よりも大きく前進することになります。むしろ、今まであまり前に出てこなかったのは、今回のための布石だったのかもしれません。
アーニャは常務のプロジェクトに選ばれたメンバーと出会うことになります。そのうちの1人、大槻唯は1stシーズンにも美嘉とギャルつながりでちらっと登場していた子で、今回は常務のプロジェクトを楽しそうにやっている子として登場。アイドルにフラれまくっている常務ですが、楽しくやれている子もいる、ってことですね。組織のトップから直々にお呼ばれしてデカい仕事をもらえる……要するに会社の代表チームに選出されているわけだから、普通は光栄に思うところでしょう。
もう1人は鷺沢文香。本屋の手伝いをしている文学系アイドルです。目元に影が落ちているのは前髪が長いからで、怪しい人物というわけではありません。アイドルの活動を新しいページを開くドキドキ感と語る文香が、アーニャ目線で12話の合宿での美波と重なるのですが、ゲーム版の文香のレアカードの固有名は「新たな一歩」、特技は「小さな目覚め」なので、このキャスティングはナイスと言わざるを得ません。このシーンはノーマルの衣装ですけれども。
さらに寮では、他のアイドルたちも新しい挑戦をしていることに気づかされます。ここで蘭子をもってくる人選もナイス。蘭子はすでに13話のサマーフェスで美波の代役に手を挙げていて、アーニャの間近で挑戦する姿を披露していましたからね。何気に、アーニャに対しては難解な”熊本弁”ではなく、標準語になっているのも見逃せません。8話で難しい言葉はわからないって言われてましたもんね。
結局、アーニャは挑戦することを選びます。常務のプロジェクトに参加するだけでなく、それを自分1人で決断することから挑戦なのだとして、美波には相談しないままでした。これを打ち明けられた美波の複雑な表情がいいですね。いろいろな感情が入り混じってる感じで。でも「急でびっくりしちゃって」だけで返せるのは大人すぎる対応。過去の自分の発言が大きく影響していたとはいえ、一切引き留めようとしないのは大人すぎる。後のシーンの未央が普通の反応ですよね。
印象的だったのはこのカット。美波の手がほんの少しだけ映っているんですよね。これまでは2人が手をつなぐことに大きな意味をもたせてありましたが、ここでは手が届く距離にいながら自分の手を握るアーニャ。これが今回の2人の構図になっているように思えます。
アーニャの趣味は天体観測なので、2人で星を見上げるシーンはぐっとくるものがあります。ここで曇り空なのが憎い演出。普通なら晴れた星空にしてしまいそうなものですが、これから挑戦をはじめるところですから、未来が明るいのかどうかはわからないのです。「ここからじゃあまり見えないね」「ハイ、でも、いま見えないだけ」のやりとりで、「曇り空でも星はきっとそこにあるよね」をやってくれるのですから、たまりません。
プロデューサーの挑戦
今回はPも大きく成長しました。1stシーズンの谷だった7話でもそうでしたが、本作の大きな転換点には彼の成長があります。最初は凛とアーニャをかばう彼でしたが、常務から「アイドルの自主性を尊重する」のがPのやり方だったとチクリ。(自主性のせいでフラれまくってるのに…) 自主性を尊重していたはずなのに、気づけば自分のプロジェクトに固執するあまり、アイドルたちの自主性を放棄していたのではないか?と自問することになります。
今西部長の「彼女たちは、君が見つけたシンデレラたちだ」にハッとした表情をみせます。自分が見つけた可能性だから、自分の手で伸ばしてやりたい。けれども、自分の手でなければならない理由などないのでは? 彼女たちにとって、可能性を伸ばせるのであれば、それが常務の企画であろうと自分の企画であろうと、関係ないのではないか?、と。
悩むPをまず大きく揺れ動かしたのがトライアドプリムスの3人。前回の常務と同じく、3人の歌う姿に新たな可能性をみます。あんなにキラキラしている様子をみせられてしまっては、無下に断ることもできないでしょう。部屋に戻ったPは、サマーフェスの集合写真を前に悩み続けます。本当にこのままでいいのだろうか?と。
決定打になったのはアーニャでした。メンバーの中でもっとも自主性の薄かった彼女から、常務の企画へ挑戦することを相談されるわけですから、大きな衝撃だったに違いありません。合宿中の美波の発言を知り、自分の知らなかったアイドルたちの側面を知った彼は、アイドルたちに冒険させること、挑戦させることが、彼女たちを輝かせるために必要なことだと理解します。そして、決断の時。Pは腹をくくってアーニャの背中を押すことにします。「進みたいかどうかです」は、まさに自主性の尊重。
印象的なのは、Pが手を握り締めて決意を固める直前のカット、集合写真がPの背中越しに映される構図がいいですね。あのときと同じ笑顔を求める道は過去のものとなり、新たな道へ踏み出すことが暗示されているように思えます。ちなみに、今回は凛の花瓶に花が入っていません。凛も常務の企画へ心が傾いているからでしょうね。かくして、「あのときの笑顔のもう一歩先」へと踏み出すことになります。
もう少しメタな視点で考えてみると、アニメ版『アイドルマスター』(以下、アニマス)では、「団結」をテーマとして、あのメンバーでステージに立つことに大きな意味を持たせてありましたが、「個性」をテーマとした『シンデレラガールズ』では、メンバーは違っても輝くことができる、という方向に舵をとるのであれば、なかなかおもしろい対比になっているのかも。12~13話で団結についても描かれていましたから、さらにその先を目指す作品として練られているのかもしれません。
凛の挑戦、未央の挑戦、卯月の試練
アーニャとPが新たな道へ踏み出す一方で、すんなり踏み出せずにいたのが凛です。凛から常務の件を打ち明けられて困惑する未央たち。「これからみんなで力合わせて、立ち向かおうってときじゃん?」の発言から、まだ常務と自分たちとの対立構造で考えています。「この3人だからやってこれた」というのも、現行プロジェクトに固執していたPと近い認識です。未央の反応は美波の大人すぎる対応との対比になっているのですが、どちらかといえばこっちが普通の反応でしょう。
しかし、凛も説明がうまくできていません。アーニャの場合は、挑戦してみたいという意思が明確でしたが、凛の場合は、奈緒と加蓮と歌ったときに感じた「何か」を確かめるためであり、「何か」がなんであるのかがわからない以上、未央たちを納得させることができないのです。「何か」の正体はたぶん、アーニャと同じで「冒険して、ドキドキ、キラキラ」に近いものなのでしょうけど。
というのも、凛が奈緒と加蓮のデビュー曲(になるかもしれない曲)を聞いたとき、1話と同じ表情をしています。1話でこの表情をしたときって、卯月が「私はこれから、きっと夢を叶えられるんだなって」と、未来について語っているシーンでした。あのときに凛が選んだアネモネの花言葉のように、期待と希望を与えてくれるのは、未来への挑戦に他なりません。Pの「踏み込んでみませんか」との誘いにのってアイドルの道を選んだわけですから、新しい道への挑戦は、凛にとって魅力的なモノなのでしょう。ちなみに、凛が胸の前で手を握り締めるしぐさもこれまでに何度も登場しており、「何か」を感じたときのしぐさになっているようです。
このシーン以外にも、今回は過去のシーンとの対比が巧妙に盛り込まれていました。3人の空気が重くなる中、未央が卯月に話を振るのは15話との対比ですね。あのときは卯月の「がんばります!」で和ませていましたが、今回は少し前のシーンで未央が「がんばるしかないよ」と言っていたので、同じ手は使えません。なので、ついに「わかりません…」となってしまいました。もう爆発は秒読み段階に入ったのかも。自主的に挑戦することが輝くために必要であるのなら、「新しいこと考えるの、苦手なのかも」と語る卯月は、致命的に欠けているものがあるわけです。彼女はこの試練を、どう乗り越えるのか。
他にも、1stシーズンの転換点であった6~7話からの対比もみられました。そもそもnew generationsとラブライカのエピソードであること自体もそうですね。困惑した未央が駆け出すシーンは6話のラストと同じ……なのですが、「アイドル辞める!」とPを振り切って階段を駆け下りていたのに対し、今回は階段を駆け上がり、Pに追いかけてもらった上で「ソロ活動はじめます!」になっているので、すべてが真逆。同じ失態は繰り返さない、成長した姿をみられてホクホクです。
エンディングでの3人の自室のカットも7話と同じ構図で描かれています。ひたすら暗かった7話の中でも、卯月の部屋だけは明るかったのですが、今回は1人だけカーテンが完全に閉じられています。新しい道への思考が開けている2人とは違って、いまだに彼女の扉は開かれていないのかもしれません。
時計の指す時刻も違っていて、凛は58分、未央は55分、卯月は50分。もっとも進んでいるのは新たな道へ片足を突っ込んでいる凛で、未央の55分は全体の展開から順調に進んでいる時刻。(17話の時計に作画ミスがあったためにズレてるけれど) しかし、卯月の50分というのは15話のラストから進んでいないことになります。15話は楓さんと一緒に仕事をした回。トップアイドルでも自分たちとやっていることは変わらないのだから、いまの路線を続ければいいんだ、と認識した回ですね。でも、楓さんは常務に「階段を上る気はないのか?」との問いに首を振っていたので、挑戦してないわけではないのでしょう。ファンと一緒でなければダメだというだけで。
どうして未央がソロ活動をはじめようと思い至ったのかは次回以降に語られると思いますが、アーニャの背中を押したPであれば、凛の背中も押すことになるでしょうし、2つのユニットをかけもちでがんばるといっている凛に負けじと、自分も同じくらいやってやろうと決意したのではないかと。「がんばるしかないよ」って自分で言ってましたしね。たまたま居合わせた美嘉がどんなアドバイスをしたのかも気になるところですが、2人に置いていかれそうな卯月はますます心配。オープニングのように、2人が手を差し伸べてくれるのか。そして、自分で走り出すことができるのでしょうか。
次回のサブタイトルは「Crown for each.」、直訳するなら「それぞれのための王冠」ですが、予告動画でちひろさんが言ってくれていますね、「1人1人の王冠」と。常務の企画の「Krone」がドイツ語などでの王冠を意味する言葉なので、常務の企画と秋フェスあたりの話になりそうな感じかなと思っていましたが、凛と卯月のエピソードになりそう? 卯月の笑顔に導かれてアイドルの道へ踏み込んだ凛が、今度は卯月を導くのでしょうか。2人で夜の歩道橋を上るシーンは、なんとなく『アニマス』の春香と千早のシーンを彷彿とさせますね。次回も物語全体の転換点として大きな展開がある予感。
続き、第21話の考察と感想はこちらからどうぞ。
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