【書籍】世界はなぜ「ある」のか? 実存をめぐる科学・哲学的探索

非常に魅惑的な疑問ですが、ネタバレしちゃうとこの本を読んでも別に答えはでません。
大昔から続くこの疑問に立ち向かっている現代の哲学者、物理学者、数学者、神学者などを訪ね、さまざまな解答案から考えていく本になっています。
まだ答えの出ていない疑問だからこそ、考える楽しみが残されているというわけです。

原題は「Why does the world exist? : An existential detective story」

年末年始に読むつもりが、読み終えてみればこんな時期。
普段から本を読むわけではない人間にとっては、お腹に重たいボリュームでございました。

どうしてこんな分厚い本に手を出したかといえば、魅力的なタイトルに惹かれたのもありますが、手に取って本を開いてみたとき、目に入ってきたプロローグがあまりにも素敵だったから。

せっかくだから引用しちゃいましょう。

プロローグ
忙しい生活をする現代人に贈る、何もないのではなく、何かがあるはずであることの手っ取り早い証明

たとえば、何もないとしよう。すると、法律もないことになる。なぜなら、結局のところ法律も何かだからだ。法律がなければ、何もかもが許される。何もかもが許されるならば、禁じられることは何もない、つまり無は禁じられる。つまり、何もないとすると、無は禁じられる。ということは、無は自己を禁じることになる。
したがって、何かがあるはずなのだ。証明終わり。

このたった5行のジョークにつられて、ホイホイとレジに向かってしまったというわけ。

もちろん、この本の中身は大部分こういう冗談ではなく、大真面目な話です。
といっても、冗談みたいな話もでてくるのですけれど。
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本書で追いかける疑問は、タイトルのとおり、世界はなぜ「ある」のか?
つまり、なぜ「何もない」のではなく、「何かがある」のか?という、非常に根本的なもの。
いわゆる、存在の謎というやつです。

なぜこの世界が存在しているのか?といえば、そりゃビッグバンが起こったからなんですけど、じゃあなぜビッグバンが起こったのか?といわれたら、諸説ありますけど決定的な答えはないわけで。神が作ったのだとしてもいいのですが、じゃあ神はどこから出てきたの?となり、子供みたいな「なぜ」の繰り返しになってしまうのですが、神は神だからいいんだ、という大人げない解答しかないのですよね。

著者のジム・ホルトはこの疑問の答えを求めて、さまざまな人々と対話を図っています。
存在の謎は哲学の問いですが、哲学者や神学者だけでなく、物理学者や文学者にまで、実に多くの考えに触れてまわるのです。

具体的には、哲学者のアドルフ・グリュンバウム、ジョン・レスリー、デレク・パーフィット、神学者のリチャード・スウィンバーン、物理学者のデイヴィッド・ドイッチュ、アンドレイ・リンデ、アレックス・ヴィレンキン、スティーヴン・ワインバーグ、ロジャー・ペンローズ、作家のジョン・アップダイク。

最後には、著者自身も1つの解答にたどり着くのですが、その考えが合っているのかどうかは謎のままです。個人的にはなんだかずいぶん無難な着地点に思えてしまったのですが、自分の理解が足りていないだけなのかも。

なぜ「何もない」のではなく、「何かがある」のか?というのは、実に高尚で深遠な問いではありますが、答えがわかったところで、別段何かが起こるわけでもないのかもしれません。

たとえば、実はこの世界が映画「マトリックス」のような仮想世界であったと判明しても、明日の仕事が休みになったりはしないでしょうし。

とはいえ、この疑問を考えることの楽しさ、おもしろさは本物。
そんな思考を刺激するための材料が詰め込まれている1冊なのではないでしょうか。

ジム・ホルト
早川書房
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