【書籍】宇宙が始まる前には何があったのか? (原題:A Universe From Nothing)

「なぜ何もないのではなく、何かがあるのか?」
哲学や神学が挑み続けている高尚で深遠なこの問いに、科学が答えを出してくれました。
というか、この問題が問題ではなくなってしまったのです。これってかなりすごいことでは。

この本の著者はローレンス・クラウスというアメリカの宇宙物理学者。

彼は、「何もないところのエネルギーって実はゼロじゃなくね?」という説を提唱した人です。
「そんなバカな」と思われていたけど、後に実証された、という経歴の持ち主だそうで。
これはアレですね、宇宙の膨張速度は減速するどころかむしろ加速している、ってことから、加速するためには何かエネルギーが必要なわけだから、そこには目に見えない何かがあるはずだ、つまり暗黒エネルギーってやつですね。

そんなクラウスさんが、現代の科学による宇宙を書いてくれたのがこの本です。
この宇宙はどうやってはじまり、今現在どのようになっていて、今後どうなって終わるのか。
突拍子のない話や、イメージしづらい話もありますが、そのどれもがただの妄想ではなく、観測された事実にもとづくお話なわけです。科学ですから。

もちろん、ムズかしい話やややこしい話も多々ありますが、読めないほどじゃないです。
一般向けに説くことにも慣れているお人のようで、丁寧に、慎重に説明してくれます。

といっても、そりゃ100%すべて理解できたのか?といわれたら、そんなの無理でしたとしかいえませんが、読んでいて楽しめたのか?といわれたら、笑顔で親指を立てることはできます。荘厳すぎる宇宙の話は現実逃避にももってこいです。

ここから本の内容について触れていきますが、間違った理解があるかもしれないので(というかたぶんあるので)そのつもりで軽く流してください。

自然は常識に従ってくれない

地球が丸いことも宇宙がビッグバンではじまったことも知っているので、今更何か新しい発見なんてあるのか、と思われるかもしれません。しかし、ニュートンからアインシュタインの相対性理論、さらに量子力学から暗黒エネルギーまで、これまでに人類が把握できたことをひっくるめて考えると、そこから見えてくる宇宙の像はかなりイメージとは違います。

この本の原題は「A Universe From Nothing」
つまり、宇宙は無から生じた、ということです。無とはいったい、うごごごご!
※無の定義については本の中で丁寧に説明されています。哲学的な意味ではないです。

何もないところから何かが出てくるなんて、そんなことあるわけないよね。というのが、経験則からくる常識です。しかし、この宇宙は、そんな常識には従ってくれないのです。

そう、何もないところから何かが出てくるってことは、普通にありうるじゃん、ということがわかってしまったのです。さらにいえば、何もないところから空間そのものが出てくることだってありうるじゃん、というわけです。

というかむしろ、何もないという状態は不安定なので、何かが出てくるのは珍しいことではなく、それが普通だというくらいの勢い。何もないところから何かが出てくるなんてありえない、という常識ですら覆してくる自然すごい。

宇宙は1つじゃない

それでは、宇宙の誕生が別段普通のことだったとして、なぜこの宇宙がこれまでにわかっているような物理法則になっているのだろうか? どうしてこの法則になっているのだろうか?という問い。

これについては、たまたまそうなっているだけ、ということみたいです。
何もないところから宇宙が誕生する場合、何も今日我々の住んでいる宇宙と同じような宇宙にならなければいけない理由も必然性もないので、この宇宙ではこうだった、というだけ。

つまり、我々の暮らしている宇宙の他にも、別の物理法則をもった別の宇宙が無数にあってもおかしくない、というわけです。あってもおかしくない、というより、あって然るべき、くらい。

これがマルチバースと呼ばれるものです。
まだハッキリと根拠をつかめていないものの、現在信憑性を増しつつある考え方のようです。
それぞれの宇宙は、長く存続するものもあれば、一瞬で消えてしまうものもあります。

なので、我々の宇宙がどうして存在しているのか?と考えた場合、いまのところは存在しているけど、そのうち消えちゃいます、というのが答えになりそうです。2兆年くらい先ですけど。

深遠な問いが問題ではなくなる日

そんなわけで、「なぜ何もないのではなく、何かがあるのか?」という非常に深遠な問いは、もはや問題ではなくなってしまいそうです。あえて答えを出すのならば「もしも何もなかったなら、そんな領域に我々は存在しなかっただろうから」というだけのこと。

科学の領域ではないのでは?と思われていたこの問題に、科学の方面から答えが出てしまいそうなのです。科学ですから、観測されたデータにもとづく解答です。この問いに答えるために、神様に登場してもらうことは、そろそろ終わるのかもしれません。

本書にあとがきを寄せたリチャード・ドーキンスも、この本は、生物学における「種の起源」に匹敵する宇宙論の革新じゃね?と評するほどなわけです。

自然界のルールを探ろうという物理学において、無数に宇宙が存在していて、それぞれに違ったルールで成り立っているとすれば、現在の物理学は、我々の住むこの宇宙でしか適用できない環境科学になってしまいかねません。クラウスさんは、このことをちょっと嘆きながらも、自然がそうなっているんだから受け入れるしかないよね、という態度をとっていて、これが実に科学者らしくて格好良い。

個人的には、直前までこの問いを扱った哲学の本を読んでいて、頭の中がとっちらかってしまっていたのですが、本書のおかげでずいぶんとスッキリできた気がします。やっぱり科学だわー。

宇宙が始まる前には何があったのか?
ローレンス クラウス
文藝春秋
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