周りの評判がやけに高いのでボクも観てきました。まるで短編SF小説のようにコンパクトに凝縮され、カッチリと〆てくれる作品であり、ストレートのド直球を力いっぱい投げ込まれたような壮快でスッキリな後味。いやー観に行ってよかったですこれ。
以前、何かで映画館へ足を運んだときに予告編が流れていたのをみた気がする本作。当時は「フル3DCGアニメか~」くらいの気持ちであまり惹かれなかったのですが、いざ公開されてみると周囲の評価が妙に高いじゃないですか。そんなわけでホイホイと劇場へ行ってしまう単純な人間がボクなのです。さっそく楽園から追放されてしまいましょう。
さて、実際に観てみると評判の良さも大納得。90分くらいにカチっと収まったストーリーと自然な3DCGのアニメ映像、そしてバッチリ盛り上げてくれるクライマックスとぐりぐり動くメカバトルに「これこれ、こういうのが観たかった!」と大満足の内容でございました。
『楽園追放』とは
公式サイト:『楽園追放 -Expelled from Paradise-』
『楽園追放 -Expelled from Paradise-』劇場本予告編1 – YouTube
『楽園追放』は、人類の98%が電脳化して仮想空間ディーバで生活しており、一方で地上は荒廃してしまったという世界観で、なんとなく映画「マトリックス」っぽくもあります。また、電脳世界の描写は「攻殻機動隊」を彷彿とさせますね。そのあたりを観ている人ならすんなり入っていけるでしょう。
ストーリーは、フロンティアセッターを名乗る者から仮想世界がハッキングを受けたため、主人公アンジェラ保安官は調査のため地上へ派遣され、現地オブザーバーのディンゴとともにハッカーを追う、という流れ。ずっと仮想世界で暮らしていたアンジェラが肉体を得て慣れない現実世界での生活に苦労しながらも、ディンゴと触れ合いうちに自身やディーバへの考え方が揺らいでいく…といった物語になっています。
登場人物は上記のアンジェラとディンゴ、そしてフロンティアセッターの3者がメインで出突っ張り。もちろん他にも登場人物はいますが、ほぼほぼこの3者の間で物語が進行するといっていいでしょう。登場人物を絞って焦点を絞り込んだ作りですね。この3者に声を当てる釘宮理恵、三木眞一郎、神谷浩史の演技は当然のようにすばらしく、もうなんにもいうことないですね。間違いなくハマり役でしょう。
どっかでみたことあるようなキャスティングだと思ったら監督は「ガンダム00」の水島精二氏。さらに今回は脚本が「まどかマギカ」の虚淵玄というめっちゃ強そうなタッグで制作されているとのこと。ちなみに、最近放映中のアニメ「SHIROBAKO」では水島精二氏をモデルにしたアニメ監督が登場し、「総集編はもう嫌だぁぁ~」と唸っていましたが、現実ではこのように完全新作アニメ映画がバッチリ完成しております。やったぜ。(もっとも、あちらは見た目は”精二”、中身は”努”っぽいですけど。ところで劇場版「ガルパン」は…)
全編3DCGアニメの表現力やいかに
全編3DCGで制作されている本作ですが、その完成度の高さも見所でしょう。3DCGだからといってしょぼく感じてしまうことはなく、むしろ途中で3DCGであることを忘れてしまいそうな場面すらありました。技術の進歩もさることながら、製作者の経験値も相当貯まってきているんだろうなと感じさせてくれます。
「3DCGだからぐるぐる回そうぜ!」みたいな安易なカットが連続するわけではなく、くどい演出もないので本当に地に足がついている感じ。3DCGであることを意識せずに観ていられたのは、絵だけでなくこういった側面もあったんじゃないかなと思う次第。
ディズニー作品のようなCG映画とは違い、日本的なアニメをいかにCGで表現するか、といった方向性なのですよね。特にコミカルタッチな表情のつけ方などはいかにもアニメ的。表情といえば、うどんに七味を入れられて味の変化にときめくアンジェラがマジかわいい。
とはいえ、アンジェラの髪型についてはさすがにCGっぽくなってしまったかなと。CGがCGっぽく見えてしまうことへの挑戦として、おそらくあえてあのデザインで通したのだと思いますけど、ここだけはかなりCGっぽさが残ってしまった印象です。裏を返せば、まだまだ伸びしろがあるということでもあると思うので、今後に期待したいところ。
映像的には最大のウリであろうメカとバトルの描写はさすがのカッコよさ。ぐるんぐるん動くメカバトルは劇場の大スクリーンと大音響もあって最高にカッコよくて気持ちいいですね。変形するメカもぎゅんぎゅん飛ぶミサイルも「そうそうこれが観たかったんだよこれ!」とアツくなれました。あと個人的にコクピット描写がカッコイイロボは大好きです。
全編を通して「CGに見えない」なんてことはなく、やっぱりCGではあるんですが、ちょくちょくCGであることを忘れてしまいそうな、そんなクオリティでした。ゲームでも「ギルティギアXrd」みたいな表現が出てきていますし、今後もアニメとCGの境界線のぶっ壊し方は注目すべきポイントになるでしょうね。
スッキリまとまって後味爽快なストーリー
肝心のストーリーはコンパクトにまとまっていてスッキリ終わるという気持ちよいものでした。構成もキレイで、最初に世界観を説明して、次にメインキャラクターが出会い、いろいろあって心境が徐々に変化していく段階を経て最後にクライマックスで花火をドカン。「ハイ、ここからクライマックス」というわかりやすさもたまりません。おかげで後味も抜群の良さ。評判の良さの理由はここなんじゃないかなと思います。
『楽園追放 -Expelled from Paradise-』予告編 ELISA connct EFP「EONIAN-イオニアン-」バージョン – YouTube
※ここからちょいネタバレ含みます。注意。
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『楽園追放』のテーマとなっているのはおそらく人間性とでもいうべきもの。劇中では”仁義”というキーワードであらわされていますが、要するに、人間の合理的ではない部分にこそ感じる人間らしさ、みたいなものです。合理化を突き詰めたような社会であるディーバと、厳しい環境でも自由である地上の人々とが対比になる構図になのかなと。人間よりも人間らしい人工知能が誕生しているあたりは完全に皮肉でしょうし。
言ってみればこの構図、都会で働くカリカリのエリートビジネスウーマンのアンジェラが田舎でスローライフを満喫中のディンゴのもとへやってくる、みたいな感じですよね。現実と同じく、スローライフは決して楽な暮らしではないのですが、自由主義の競争の中で富を得るために極端な効率化と合理化とに無理矢理走り続けさせられてカリカリしているのとどっちがいいのか、という選択の話でもあるかもしれません。そう考えるととても現代的なテーマ。いや、ボクが現代社会で生きているからこそこう考えてしまうだけかもしれませんけども。
さらに、『楽園追放』の中では第3の選択肢も存在しています。フロンティアセッターとともに旅立つ選択肢ですね。劇中では誰もこの選択肢を選ばなかったわけですが、ディーバの人々は保安局に止められて出られなさそうですし(そもそも外宇宙探査が不必要なものだと認識するようにコントロールされてるでしょうし)、地上の人々も肉体を捨ててまで付いていこうとは思わなかったというだけかもしれません。結局1人寂しく旅立つセッターですが、すべてを投げ出してどこかへ行ってしまいたい人などいなかったと考えれば、人々はまだ現状に絶望しておらず、だからこそ未来への希望もまだある、という結末だったのではないでしょうか。
個人的には、ディーバのような仮想空間でのんびりと暮らせれば最高なのですが、そういう”楽園”はないんですかね。ないですよね、ハイ。
そんなわけで『楽園追放 -Expelled from Paradise-』、とても楽しめました。まだ観ていない人はぜひ劇場へ行きましょう。上映館があまり多くはないようなので、近場でやっていないのならiTuneでのレンタル配信もあるみたいです。でもスクリーンと大音響でメカバトルを観られるのは今だけなので、できることなら映画館で観ましょう。
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