書籍【この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた】

『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』(原題『The Knowledge How to rebuild our world from scratch』)は、何らかの大破局によって人類が滅亡に瀕した後、現代のような豊かな生活を再建するためのマニュアル本です。荒野をヒャッハーし尽した後、食糧も電気もなくなったところから、文明的な社会を作り上げるにはどうすればいいのか?

人類はいつだって大破局を恐れてきました。それはノストラダムスの大予言然り、『マッドマックス』然り。生活が豊かになればなるほど、豊かさが失われるリスクは増大していくのですから、当然かもしれません。「もし突然の大破局によって今の生活が破壊されてしまったら?」 本書は、そんな世界から新たな文明を再構築するためのヒントがまとめられています。

といっても、大破局後の世界を生き延びるためのサバイバルマニュアルではありません。大破局の直後の話も少しは触れられているものの、大災害や核戦争、ゾンビの大量発生など、滅亡の危機に瀕した際の話ではなく、それよりも後の世代の話。モヒカンのキメ方やタイヤの鎧を作る方法が書かれているのではなく、そんな世紀末的な世界を生き延びた後、そこからどうやって世界を元の状態に戻していくのか? その方法が書かれた再起動マニュアルなのです。

知ってるつもり? 現代の生活を支える科学と技術たち

これま文明再起動のための青写真だ。しかし、これはまた僕ら自身の文明の基礎に関する入門書でもある。

大破局の直後は、非常用の道具や缶詰などを利用して命を繋ぐことができるでしょう。しかし、それもいつかは尽きてしまうはず。では、そこからどうしていけばいいのか。コンビニもなく、自動車も走らず、電気もガスもなければ、ネットにも接続できない。豊かな文化どころか、最低限の衣食住も確保できないところから、どう再建していけばいいのでしょうか。

そんなのTOKIOに頼めばいい、と思うかもしれませんが、畑を耕すためのクワどころか、その材料である鉄から作らなければならない世界の話です。もちろん、その鉄を作る道具も素材から作らなければなりません。イチからではなく、ゼロからなのです。

考えてみれば、ボクたちはブラックボックスに囲まれた生活を送っています。手のひらサイズでネットに繋げるスマートフォンの存在は、その最たるモノ。中身は半導体がギッシリ詰まっているのでしょうけど、その1つ1つの知識は専門家でなければわかりませんし、その素材となる物質の作り方まで考慮すれば、膨大な知識と技術の塊であることは明らかです。

スマホが複雑な機器であることは言うまでもないことですが、いま着ている服の材料である布はどうやって作るのか、食糧を保存してくれる冷蔵庫はどういう仕組みなのか、何気ないところから知らないモノばかりです。そんなことをいちいち知らなくても享受できる豊かさは幸福の証ではありますが、それこそが本書のキモ。

本書では、文明の再構築のヒントを紹介しながら、ボクたちの身の回りにある何気ないモノがどうやって生まれたのかを解説しています。文明を再構築する方法を考えることで、いまある文明のすごさを解説してくれているのです。もちろん、人間が生きていくために最低限必要なモノだけにスポットが当てられているとはいえ、ボクたちの生活が、いかに多くの人々の英知と努力によって成り立っているかが理解できるわけです。文明が崩壊した後にこそ、本領を発揮する内容ではありますが、いま現在、自分の周りを囲むすべてに対して、モノの見方を変えてくれる本であるといえるでしょう。

最大の発明は科学的な手法である

農業から紡績、さまざまな道具の素材を作る化学、医療からエネルギーの作り方、さらには技術を伝える方法に至るまで、多くの発明を紹介し、手広く文明の再起動をマニュアル化した上で、筆者はこう述べています。

科学的手法そのものが、あらゆるもののなかで最大の発明なのである。

科学万能を説いているわけではありません。ボクらに豊かさをもたらしてくれることもあれば、過ちを犯すことだってあるからです。しかし、間違いはあっても、確かな根拠を示したうえで、間違いを認めて改善されていくのが科学です。その積み重ねがボクたちの現在の生活を作り上げているのだから、科学的手法の偉大さは言うまでもありません。

科学と技術は密接に絡むものですが、日本では「科学技術」なんて言葉があるために、サイエンスとテクノロジーをごっちゃにしがちで、3.11以降には科学に対する不信感さえ生み出してしまいました。理屈や仕組みがわからなくても生活に支障はありませんから、無理解を生むのも無理はありません。そもそも、科学的手法、つまり「科学って大体どういうものなのか?」が正しく学べていない現状というものは、ある意味で世界の危機といえるのかもしれません。この先、モヒカンとして荒野を走り回ることになるのかどうかはわかりませんが、ここで今一度、人類の歩みを振り返って「科学」を理解することこそが、大破局を回避する手段となりうるのではないでしょうか。

ルイス ダートネル
河出書房新社
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