ビデオゲームの対人戦は、実力の拮抗した試合こそが本懐。勝てば官軍とはいえ、あまりにボッコボコな試合ばかりでは楽しめないというものです。そのため、オンラインの対戦ゲームでは、実力の近いプレイヤー同士をマッチングさせるためにさまざまな努力と工夫が積み重ねられています。しかし、なかなかうまくいかない印象が拭えないのは、一体どうしてなのでしょうか。
どうしてこんな話をしているかといえば、この記事を読んだからです。別にツッコミを入れようというわけではなくて、「そうそう、そうなんだよなぁ ムズかしい問題だよなぁ」と思ったのですよね。
スプラトゥーンについて一歩引いて語ってみる #Splatoon #スプラトゥーン – 雨の音が好き
任天堂の完全新規タイトル『スプラトゥーン』の話ですね。世間で話題沸騰中のイカが水鉄砲でインクを塗って戦う対戦型TPSは、他タイトルにはない特色とハイクオリティな作りで好評も納得といったところで、記事の筆者もかなり楽しんでおられる様子が伝わってきます。
楽しめている反面、改善してほしい点の話も。これがプレイヤーのゾーニング、つまり、腕の近いもの同士でマッチングできていないのでは、という話ですね。ファミリー向けのゲームをメインに展開している任天堂製のハードとソフトであり、かわいらしい見た目もあってさまざまなプレイヤーが混在しているため、腕に差がある対戦が発生しやすい状態なのではないかと懸念されています。
もちろん、腕の近いプレイヤー同士をマッチングさせることのムズかしさも認識されている様子。これは『スプラトゥーン』に限らず、さまざまなジャンルの対戦ゲームで発生している問題ですよね。そして、すばらしい解決方法が見つかっていない問題でもあります。
そもそもの問題として、近い腕のプレイヤー同士で対戦したところで、拮抗した試合になるとは限らないのですよね。たとえば、格闘ゲームで全国レベルや世界レベルの猛者同士が対戦するときでさえ、パーフェクトゲームが発生するのは特別に珍しくもありません。だからこそ、大会では1試合ではなく2、3試合する形式がスタンダードになっているのでしょう。そんなハイレベルの話ではなくても、近いレベルの友人と対戦する場合でもそう。接戦もあればワンサイドゲームもあるでしょう。タイマンの格ゲーですらそんな状態ですから、多人数のFPS/TPSではさらにムズかしい話です。
もう1つの大きな問題が、実力の近いプレイヤー同士をマッチングさせる機能があったとしても、個人の主観で実感できるものなのかどうか、という点。拳を合わせるだけで実力が把握できるマンガのような能力をもっていれば別ですが、現実はそうもいきません。実力を計るためには試合数を重ねる必要があるでしょうけど、白熱した接戦とかボッコボコに惨敗した試合の記憶は印象に深く、普通の試合はそれほど印象の残らないので、個人の体感としてはわかりづらいものとなってしまうでしょう。
「そんなこといったらどうしようもねーじゃん!」と思われるかもしれませんが、だからこそ根の深い問題であり、永遠の課題ともいえるテーマだと思っております。ここまでで言いたいことはほぼ書いてしまったのですが、せっかくなので『スプラトゥーン』以外のタイトルではどういった工夫がされてきたのか、みていきましょう。ちなみに、対戦ゲームといいつつ格ゲーとFPS/TPSばかりでMOBA系とか他のジャンルはどうしたと思われるかもしれませが、それはボクがあまりプレイしないからです。ごめんなさい。
オレと同じくらい強いヤツに会いに行く
プレイヤーを実力によって切り分ける試みはいろいろあります。もっともわかりやすいのがプレイヤースキルの数値化ですね。レベルやランク、段位やPSRといった数値を計っていく方法です。
FPS/TPSでは『Call of Duty』シリーズを皮切りに、スコアを経験値としてレベルやランクが上がっていくシステムがよくみられるようになりました。レベルやランクが上がれば武器やPerk(スキルやアビリティみたいなもの)がアンロックされ、カスタマイズに幅が出る、というもの。RPGのように高レベルになれば性能の高い武器やスキルが得られるというわけでもないので、対戦の公平性にはそこまで影響しません。
こういったランク制の問題は、ランクの数値と実力が一致しないことです。試合に負けてもポイントが得られるので、負けてばかりのプレイヤーでも時間さえかければランクが上がってしまうのですよね。プレイ時間の指標にはなりますが、時間と実力は必ずしも比例しません。(…言っててつらくなるのはどうしてだろう) 負けてもポイントが得られるランク制の意図は、実力を計るというよりもリプレイ性を高めることにあるのですが、目に見える数値があると、どうしても実力と結びつけてしまい、勘違いを引き起こしがちな印象です。
そこで、格闘ゲームの段位やPSRなどは負ければ減点される方式が主流になっています。勝てば増加、負ければ減少なので、試合数を重ねれば重ねるほど、実力と数値が一致していくことになります。アークシステムワークス製の格闘ゲーム(『ギルティギア』や『ブレイブルー』シリーズなど)では、入門から初段までは全敗でも自動的に上がっていき、そこから先は増減する方針なので、ランク制のようにプレイ時間の指標も兼ねられていますね。
こういった段位制の問題は、ある程度の試合数をこなさなければ実力と数値が一致しないことです。妥当な数値に落ち着くまでにどうしても時間がかかってしまいます。実力が3段の人も15段の人もゼロからのスタートとなるので、ゲームが発売してすぐの時期にはまったく機能しません。もっともプレイヤーが多そうな稼動当初に機能しないのが非常に痛いところなのですよね。
ランク制や段位制などのプレイヤースキルの数値化には、もう1つ別の問題もあります。どちらもアカウントに紐づけられているため、別のアカウントを使えば数値と実力が一致しなくなってしまいます。実際には10段の実力なのに初段のプレイヤーが誕生してしまう…別アカというヤツですね。これに関してはネット上でよくみかける話ではありますが、実際に確かめようがないですからどのくらい発生しているのかはわかりかねます。個人的には疑心暗鬼になりすぎなんじゃないのかなと思いますし、負けた言い訳を自分以外に転嫁するのにちょうどいい理由になっているような気もしますけど。
ともあれ、プレイヤースキルを数値化して表示することにはメリットもデメリットもあるわけです。そもそも、プレイヤーの実力は可変ですし、FPS/TPSや格闘ゲームという複雑なルールのゲームにおける能力を端的に数値化できるのかどうか、それ自体がムズかしそうです。そこで、総合的な数値ではなく、直近の数値を参考にする方式が出てきました。
直近の試合の結果によって、次の対戦相手やチームメンバーを決めようという方式は、昨今のFPS/TPSでみられるようになってきたと思います。といっても、こういった方式はプレイヤーの目には見えないので、”思います”としかいえないのですけれども。直近の数試合で勝っている人は勝っている人同士、負けている人は負けている同士になったり勝っている人と同じチームになったりする感じですね。直近の結果だから、いま現在のプレイヤーの強さが反映されやすいでしょう。冒頭の『スプラトゥーン』はおそらくこの方式に近いシステムではないかと推測しています。
しかし、この方式であっても実力の近いプレイヤー同士で巡り合えるかどうかはわかりません。たとえば、たまたま初心者とあたって連勝したとき、次に猛者同士の試合で連勝している人とあたってボッコボコにされる…なんてことも起こってしまいます。チーム戦の場合は、強い人ほど弱い人と組まされる確率があがってしまうため、がんばればがんばるほどしんどい目にあわされる負のスパイラルに陥ることも。
勝敗以外にもさまざまなデータを考慮してプレイヤースキルを計る試みもありました。『Titanfall』では、かなり細かくプレイヤーデータを参照していたようですが、結果としてマッチングのやり直しが頻繁に発生し、ゲームがはじまるまでの待ち時間ばかりが増えていってしまいました。対戦ゲームは実力の近い者同士で遊ぶのが1番楽しいのは確かですが、あまり選り好みをしていては本末転倒になるようです。
戦わなければ生き残れない
実力の近いプレイヤーとマッチングしたいのは、実力伯仲のアツイ試合がやりたいからなのですが、最初に書いたとおり、実力が近いからといって必ずしも拮抗した試合になるとは限りません。反対に、拮抗した接戦ができたからといって、次の試合も同じような接戦になるとも限りません。なので、マッチングだけでなく、よい試合を演出するゲームデザインといった方向性も考慮されていくのですが、それはまた別の話。
結局のところ、対戦ゲームは実力が勝敗に反映されるべきもので、昨今のゲームでは勝率と実力の一致はかなり近くなっていると思います。実力が結果に反映されるからこそ、モチベーションの維持にも繋がるでしょう。もちろん、その逆もありえるので、たくましく育ってほしいところです。わんぱくでもいいですからね。
人間は成功体験に引っ張られやすいものなので、10試合やって9試合がひどい結果でも、1試合がすばらしく白熱した試合だったとすれば、そんなアツイ試合を求めて再戦してしまったりするものです。拮抗した試合こそ、対戦ゲームを続けるためのリプレイ性であり、最高の燃料となるわけですから、これからも開発者によるマッチングの試行錯誤は続いていくでしょう。
われわれプレイヤーとしてできることは、どうやったところでワンサイドゲームは発生することを認識すると同時に、誰にも負けない腕を身に着け、折れない心で立ち向かうしかない、ということでしょう。あまり気負っても仕方がないのですけど、負けた相手に勝とうとするところにこそ、ゲームの攻略というものは存在するのですから。