【The Stanley Parable】レビュー その選択がゲームを破壊する

同僚たちが消えた会社の中を探索するアドベンチャーゲーム、とは表の顔。実際のゲームの内容は…おっと。未プレイの人はこれ以上読まない方がいいですよ? ほんの少しのネタバレでもこのゲームを台無しにしてしまうからです。ゲームをプレイ済みの人だけ、どうぞ。

『The Stanley Parable』は以前から気になっていた1本だったのですが、日本語化されていなかったので手が出せずにいました。しかし、有志による翻訳が進められていたようで、現在は日本語字幕ファイルが公開されています。なので、Steamのサマーセールに乗って買ってみました。

日本語化の導入については以下の記事を参照。
【The Stanley Parable】日本語の字幕を表示する方法

『The Stanley Parable』は一人称視点のアドベンチャーゲーム。指示されたとおりにキーボードを叩くだけの仕事を続けていた主人公スタンリーが、従業員の消えた会社の中を探索していく…というストーリーです。プレイヤーのやれることは移動とクリックで調べることだけのシンプルなものですが、プレイヤーの選択によりストーリーやエンディングが多岐に変化するゲームになっています。

1つのルートは数分から10分程度、すべてのエンディングをみるまで3時間程度なので、それほど大きなボリュームではありません。しかし、類を見ないほど印象深く、忘れられない3時間になるでしょう。

The Stanley Parable

さて、このゲームについては正直これ以上紹介したくありません。なぜなら、ほんの少しでも中身を見せてしまうと、すべてを台無しにするネタバレになってしまうからです。なので、未プレイの人はいますぐブラウザを閉じてください。

あ、いや、閉じる前に以下のリンクからゲームを買ってプレイしてください。デモ版もあるので心配ならまずそっちをプレイするのもいいでしょう。デモ版はゲームの序盤を遊べる、というものではなく、ゲームのノリを体験するために作られたデモ版だけの内容になっているので、ぜひともプレイしておきましょう。ちなみにデモ版の日本語化ファイルはこちらからダウンロードできます。製品版の日本語化ファイルと同じところからダウンロードできます。導入方法は製品版と同じ感じで。

Steam:The Stanley Parable

レビュー本文の前に、いくつかあるトライラーの中で個人的に1番好きなものを貼っておきます。このトレイラーを見てしまってもそこまで大きなネタバレにはならないでしょう。トレイラーを見て本作が気になったのなら、上のリンクから本編を購入するなり、デモ版をダウンロードするなりしましょう。

The Stanley Parable Trailer: A sneak peek – YouTube

この動画を見てちょっと背筋が寒くなった人もいるかもしれませんが、別に怖いゲームではありません。ホラーでもサイコでもありません。どちらかといえば笑えるポイントが多いゲームです。

実は、こうして埋め込みのリンクや動画を貼ったのはスクロール距離を稼ぐためだったりします。この下に書こうとしているレビューは『The Stanley Parable』のおもしろさに致命傷を与えるネタバレになりかねません。未プレイの人の目に入らないように、スクロールしないと目に入らない距離まで遠ざけておきたかったのです。ボクがこれほどまでにネタバレを恐れているのは、本作が本当に素晴らしい内容だからです。だからこそネタバレなく楽しんでほしい、この感動を共有したい、分かち合いたい、そう強く願うからです。

繰り返しになりますが、本作を未プレイの方はこれ以上は読まないでください。どういうゲームか知った上でお金を払いたいのはわかります。でも、『The Stanley Parable』は何も知らずにプレイした方が楽しめます。間違いありません。ボクみたいなどこの馬の骨かわからないおじさんを信用しろというのは無理かもしれません。でもメタスコア88点は信頼に値するでしょう? ”評価を信じろ” 大丈夫、メタスコアだよ?

何もいますぐ買えというわけではありません。このゲームは来月遊んでも半年後に遊んでも3年後に遊んでも楽しめるでしょう。サマーセールで安くなっている今、買っておいて積んでおくのもいいですし、次のセールでもっと安くなるのを待つのもいいでしょう。ですが、これ以上この記事を読み進めるのは待ってください。プレイした後で再び戻ってきてくれたら非常にうれしいのですが、別に忘れてしまってもかまいません。ほんの少しのネタバレはこのゲームの価値を失わせるのです。だから、お願いですから読まないでください。これ以上読むのはやめて、Steamへいって『The Stanley Parable』を買いましょう。もう1度リンクを貼っておきますね。

Steam :The Stanley Parable

では、『The Stanley Parable』の世界へいってらっしゃい!

ここからレビュー ※ネタバレあるので注意!

…どうしてまだ読んでいるのですか。いえ、すでにプレイ済みの方はいいのですけれど、未プレイのあなた。そう、アナタ。ボクってそんなに信用ないでしょうか。それともただの好奇心? 読まないで、といっているのは「押すなよ!絶対押すなよ!」って意味ではないんですよ? あなたには読み進める他に、読むのを止める選択肢もあったはずです。ネタバレがゲームにどれほど大きなダメージを与えるかも説明したと思うのですが、十分ではなかったのでしょうか。…まだ読みます?

と、こんな感じでゲームがプレイヤーに直接語り掛けてくるのが『The Stanley Parable』。スタンリーを動かすプレイヤーと、プレイヤーを導くナレーターのやり取りこそが本作のメインなのです。プレイヤーを導こうとするナレーターはゲームの開発者を表しており、プレイヤーと開発者がゲームを模索していく…そんな内容になっているわけです。

中にはゲームやゲーマーに対する痛烈な皮肉も込められています。特におもしろかったのが実績システムに関するもの。解除条件が「430号室のドアを5回クリックする」というカンタンなものなのですが、実際に挑んでみると予想を遥かに超えた面倒な手順を踏まされます。

右往左往させられて「ボクは一体何やってんだろう」と後悔しはじめ、それでも諦めずにやっと実績を解除できたら、一応賞賛の声をかけてくれるのですが、実際のところは「そんなことして何になるの?」と言わんばかり。過去に実績に囚われていた人にとっても現在進行形で実績厨の人にとっても、苦笑してしまうほどストレートな皮肉ですよね。

そもそも、画面の指示通りにキーボードを叩く仕事、というのはゲームに他なりません。ナレーターの指示通りに動いて自由を掴み取るエンディングも、やっていることに1つの自由もありません。魔王を倒すのもテロリストを撃つのも、一見すると自分の意志で選んでいるようにみえても、実際にはゲームに与えられた選択肢を与えられるまま選んでいるだけだったりするわけです。

でも、与えられたものをそのまま選ぶだけなんて、なんだか気に食わないですよね。自分が指示通りキーボードを叩くだけのスタンリーと同じであるはずがない。だからプレイヤーは指示とは異なる選択をしようとします。しかし、指示とは異なる選択肢もゲームによって用意されているものですから、どちらを選んでもゲームの思惑からは逃れられない。それでも、自分はスタンリーではないと信じて、ゲームの思惑か逃れようとあがくわけです。

実際、ゲームの中でも選択肢は用意されています。しかし、開発者は選択肢を与えたうえでエンディングをみせてあげたい、そう望んでいるわけです。自分の作り上げた素晴らしいストーリーを見せてあげたい、そんな純粋な思いで。

こうして、真に自分の意思で選択したいプレイヤーとただ善意でエンディングに導きたい開発者の間で戦いがはじまります。プレイヤーは開発者の裏を書いてやろうと奔放にふるまうのですが、どんな行動を選んでも何かしらのリアクションが用意されているところがステキですね。まるでプレイヤーの心理を見透かしたかのような台詞にゾッとさせられる場面もありますが、大抵はナレーターの素晴らしい演技に笑わされてしまいます。

ただひたすら天邪鬼になって指示とは逆の行動を続けるプレイヤーを子供だと罵ったり、指示に反するためなら自殺にまで及んでしまうプレイヤーを嘆いたり、そんなに選択肢が欲しいならくれてやるとそもそも別のゲームを用意してきたり。プレイヤーに振り回される開発者の苦悩がうかがい知れるようになっているですが、ナレーターの演技もあってなんだか愉快だったりします。なんだか謝りたくなる場面もありますけども。

ありとあらゆる選択を通じてプレイヤーと開発者がやっていることは、ゲームそのものの破壊です。自分の選択がしたいプレイヤーと自分のストーリーを見せたい開発者、両者のぶつかったとき、ゲームは無残にも壊れていってしまいます。結局のところ、ゲームがゲームである限り、真に自由な選択などは存在しないのです。ゲームがゲームである限り、プレイヤーはスタンリーであり続けるのです。プレイヤーがスタンリーではなくなるとき、ゲームが終わるのです。

『The Stanley Parable』にはこんな実績があります。

Go outside
Don’t play The Stanley Parable for five years.

この実績は、自由な選択を求めるのであればゲームをやめて外へ出よう、という最大限の皮肉になっています。皮肉どころか全否定にみえなくもないのですが「5年経ったらまた戻ってきてね」というメッセージも込められていると受け取っておきましょう。とはいえ、ボクは自分がスタンリーであることを突き付けられてもなお、スタンリーであることをやめられそうにないわけですが、まったく困ったものです。

The Stanley Parable |

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