奴はとんでもないものを盗んでいきました。私の時間です。というか、現在進行形で盗まれ続けております。クリアまで86時間もかかったというのにそのまま2周目をはじめてしまったところ、プレイ時間が100時間を突破。Take your timeってレベルじゃない。しかしまだまだ飽きる様子はなく、むしろ3度の飯も忘れてずっとプレイしていたいくらいであります。とはいえ、いい加減どこかで区切りをつけなければ…という断腸の思いでキーボードを叩いている次第。怪盗はいいぞ。
「ペルソナ」シリーズといえば、学生を主人公としたジュヴナイルな物語がティーンのハートにスマッシュヒット!…だったわけですが、そんな「ペルソナ」も20周年。そりゃおっさんになるわけです。ともあれ、『ペルソナ3』で確立されたアドベンチャーとRPGとのハイブリッドなゲームシステムを引き継ぎ、今回も学生としての日常とペルソナ能力者としての非日常の二面を描いた内容となっています。もちろん、すべての面でパワーアップを遂げているのは言うまでもなく。
『P3』では「影時間」の謎を追う特別課外活動部として、『P4』では殺人事件の真相を追う特別捜査隊として活動してきたのですが、今回『P5』では「怪盗」として活動することになります。ただの怪盗ではなく「心の怪盗」なので、文字通り”とんでもないもの”を盗むのが活動内容。怪盗といえば利他主義的な義賊のイメージですが、『P5』の主人公たちもまた、選りすぐりの社会悪をターゲットとして華麗に”オタカラ”を盗み出し悪を討つ、イメージどおりのキャラクターとなっています。
今回『P5』で特筆すべきは「怪盗」というコンセプトがすべてに一貫していること。非日常パートのダンジョン探索やバトルはもちろん、日常パートの学生ライフや細かな演出、UIに至るまで、スタイリッシュで華麗な怪盗を思わせるものになっているのです。…もしかしてルブランの名物がカレーなのって、”華麗”な怪盗だから…いやいやそんなまさか。
馴れ合いではなく取引で下地を固めるのが怪盗
日常パートの学生ライフでは、東京を舞台にしているが故に行動範囲が拡がり、やれることも大幅に増えています。といっても、メインはいつもどおり、人としてのステータスを磨き上げ、コミュニケーションを通じて人々と仲良くなっていく流れです。とはいえ、今回は怪盗として人々と接することになるので、仲良くなるというよりもギブ&テイクの取引を重ねる、といった流れに変わっています。
取引になったことで「コミュ」から「コープ」に改名。今回はランクをMAXまで上げることで強力なペルソナが解放されるだけでなく、ランクごとにさまざまな恩恵が受けられるようになりました。たとえば、主要メンバーならバトル中の支援や援護、サブキャラクターなら日常パートでの行動回数や友好度を増やせる他、バトルや探索におけるアビリティもあり、反則級に便利なモノもちらほら。また、東京の各所へデートに誘うこともできるため、ランクMAXになるまでの過程の楽しみが格段にアップしています。
また、今回はコープを進展させるために、取引相手たちを悩ませる問題を怪盗として解決してあげる展開が挟まれるようになっています。当然、表向きは普通の学生として、裏でコッソリ悪を討ってくるわけです。メインのストーリーでもサブのミッションでも、出てくる悪人は揃いも揃って胸糞悪くなるようなクズばかりなので、コープが絡まなくても滅却してやりたくなるというもの。こういったプレイヤーの感情のコントロールも相変わらず絶妙です。あんまり胸糞悪いものだから全部ブッ飛ばして前人未到の9股を成し遂げてしまうのも仕方ないというもの。ハイそこ、クソすぎんだろ!とか言わない。
日常パートでやれることが増えた分は快適さでカバーされています。エリア選択画面から各ショップや施設にジャンプできるだけでなく、コープが発生している相手の居場所まで表示されるので、歩き回って探す手間はありません。自由行動中はどこでもセーブできたり、どこからでもエリアジャンプができたりと、とにかく快適。といっても、街中で聞ける話は細かく更新されていくので、歩き回る楽しみも損なわれていません。2周目をプレイしていると後々メメントスでターゲットになるヤツらがちゃんと配置されていることに気づけたりもするので、なかなかの時間泥棒に。おかげで止め時を失って気づいたら時間が…、となるわけです。現実には「もう寝ようぜ」と睡眠を強要してくる猫もいませんしね。
怪盗ならスタイリッシュに隠密行動すべし
怪盗パートでのダンジョン探索は、怪盗らしく隠密行動が基本。前作までもシンボルエンカウント方式で敵シンボルの背中から斬りかかれば先制攻撃となっていましたが、今回はゆるめのステルスアクションが追加され、より明確に背後を狙えるようになりました。ボタンを押すだけでカバーやジャンプ、よじ登りなど、スタイリッシュに動くことができます。といってもアクション自体はかなりゆるいので敵の背後を突くのはカンタン。が、失敗して敵に先制された場合のリスクは高いので油断は禁物。おかげで適度な緊張感が保たれています。
今回はダンジョンを進めるための謎解きやステルスを使ったギミックなど、ダンジョンごとに凝った仕掛けが用意されているので道中も退屈することはありません。セーブポイントとなるセーフルームまで辿り着ければ次回以降はそこから再開できるのですが、そのぶん各ダンジョンは長めでボリュームもかなりのもの。
ストーリーの展開にあわせて出現するダンジョンを期限までに攻略しなければならないのは前作までと同じ。なので、「いかに短期間でダンジョンを突破するか」が攻略のカギになるのも変わりません。そういう意味ではボリュームアップしたダンジョンは難敵にみえますが、実際には短期間攻略はやりやすくなっています。というのも、パーティメンバーの入れ替えが容易になったためです。道中のどこでもメンバーの入れ替えができるだけでなく、前述のコープアビリティでバトル中のメンバー交代もあるため、息切れはしづらくなりました。とはいえ、ボリュームはかなりのものですからゲーム中では1日だけどリアルでは数日かかった、なんてことも。
プレイ感は似てるけど大きく変化したバトルシステム
前作までと大きく変わったのがバトルシステム。パッと触った印象ではそれほど変わっていないように感じるかもしれませんが、実際にはけっこう変わっています。プレスターン制の廃止、属性の増加、交渉の復活やメンバー交代など、変更点は多岐にわたり、その結果どうなったかといえば、プレイヤーの選択肢が増えているのです。
まず、もっとも大きな変更点がプレスターン制の廃止。プレスターン制とは『真・女神転生Ⅲ』以降のアトラス製RPGで多く採用されているシステムで、敵・味方に行動回数が割り当てられており、弱点を突いたりクリティカルを出したりすれば行動回数が増え、逆に攻撃を外したり無効化されると減る、というもの。反射や吸収をされようものなら即相手のターンになってしまうこともあるため、非常にハイリスクハイリターンでスリリングなバトルを実現していました。今回『P5』でも弱点やクリティカルで再行動できるシステムは残っていますが、攻撃を外しても即相手のターンというわけではなく、あくまで速いもの順の行動になっているので、ややマイルドに変化。とはいえ、敵の攻撃を反射や吸収でとってもターンが入れ替わらないため、リスクとリターンはそれほど変わっていないかも。結果としてステルスで先制を取る価値が高まっているといえます。
次に、属性の増加。銃撃の追加、核熱や念動が復活で属性が増えました。となると、弱点を探すのが大変になるわけですが、前述のプレスターン制の廃止によって弱点を外した場合のリスクが抑えられているのが効いてきます。そもそも弱点のない敵も多く登場するようになったため、物理スキルや状態異常を絡めて攻める必要にも迫られます。つまり、弱点を突くことが最重要であることには変わりありませんが、ひたすら弱点を突くだけのバトルではなくなった、ということです。シリーズに慣れている人ほど「こいつ弱点ない!どうすんだよ!」ってなりがちですが、弱点を突く以外の行動に目を向ければ、一気にやれることが拡大していくのがわかるはず。
そうはいっても弱点を突くことの重要性は高いわけですが、敵の弱点を探すために当てずっぽうにスキルを撃ちまくる必要もありません。今回は敵の外見が悪魔型に変更され、こちらのペルソナと同等になったため、あらかじめ合体で作っておいたりベルベットルームで合体結果を見ておいたりするだけで弱点を把握できるわけです。要するに、属性が増えたからといって決していたずらに難易度が上がったわけではない、ということですね。
また、敵が悪魔型になったことで交渉が復活。会話によってお金やアイテムをもらったり、自身のペルソナとして頂戴したりできるようになりました。とはいえ、交渉コマンドがあるわけではなく、弱点を突いてすべての敵をダウンさせてから交渉するのが怪盗流。交渉でペルソナを頂戴できれば弱点が把握できるのに、交渉するためには弱点を突かなきゃならない、というジレンマがなきにしもあらずですが、適当にボコボコにしているだけでも命乞いをしてくるので、割となんとかなります。前述のコープアビリティで交渉を助けるものも多数ありますし、交渉自体の難易度はさほど高くないですね。
コープアビリティといえば、バトル中にメンバーの入れ替えを可能とするものもあります。これにより「弱点を突けるメンバーがいねえ!」という状況は減りました。ボス戦などで「このキャラの弱点突かれちゃう!マズイ!」ってケースにその場で対応できるもの大きい。終盤のボス戦は長期戦になることも多いため、息切れしたキャラクターを控えの元気なメンバーと交代、なんてことも。といっても、交代を前提とした調整を感じずにはいられませんけども。ジョーカーの皆さんは早めにダークインフェルノ飛車を習得しておきましょう。
ともあれ、『P5』のバトルは前作からかなり変貌を遂げており、結果的にプレイヤーの選択肢が増えているのです。弱点を突くことに集約されるところは変わりませんが、それだけではなくなって選択肢に幅ができた、と。いろいろ書いてきましたが、細かいシステムよりも怪盗らしく鮮やかな勝利を彩る総攻撃の演出こそがもっとも大きな変化なのかも。あれはめちゃ気持ちいい。
予想させることで予想外を生み出す巧妙なストーリー
最後に『P5』を語る上で避けては通れないストーリー面の話。もちろん、ネタバレをするつもりはありません。
冒頭でも書いたとおり、『P5』のストーリーは主人公たちが怪盗として社会悪に立ち向かうというもの。社会悪を描くためには当然、社会そのものを描く必要があるのですが、これが現代の世相を反映した実にキャッチーなものになっています。たとえば、体罰教師やフィッシング詐欺、ブラック企業等々。どこかで見たことのあるような顔ぶれや光景が登場するのもご愛敬。もちろん、単に社会悪を懲らしめるだけでは終わりません。前作『P4』で殺人事件の犯人を追うだけに止まらず、さらに真相を覆い隠しているものは何か、というテーマに踏み込んでいたように、今回『P5』でも、社会悪を討つだけでなく、社会悪を生み出すものは何か?というところまで踏み込むテーマとなってきます。そうなると、ゲーム内における社会の描き方が重要になってくるわけですが、これが本当にうまい。
RPGといえば街中を歩いてNPCから話を聞いてまわる情報収集が欠かせませんが、『P5』においては電車内や雑踏から聞こえてくる声がそのまま世相を反映しており、自然とプレイヤーの耳に入るような仕組みになっています。他にも、学校の授業で問われる内容やTVから流れてくるニュースなどもストーリーと絡ませてあり、まるでサブリミナルのようにゲーム内の社会情勢が染みつくようになっているのです。2周目をプレイしていると「ああ、この時点からすでにかなり先の展開への伏線があるんだな」と唸らされます。たとえば、序盤からすでに”あの店”の紙袋を持った人が徐々に増えていったり競合企業の”やらかし”がニュースになっていたり。丁寧で周到な伏線が張り巡らされているからこそ先の展開を予想してしまう。それはつまり、プレイヤーがゲームに対して能動的になる、ということですから、先の展開が気になって夜も眠れず、時間を忘れてプレイしてしまうわけです。モルガナ、ボクはまだ寝ないぞ。
こうしてゲーム内の社会を体感させた上でストーリーの中に身を置くと、ズブズブとシナリオライターの術中にハマっていくことに。前作『P4』でも、妹分の菜々子を天使のごとく良い子に描いておいてからピンチに陥る展開でプレイヤーの心理を手玉にとってきましたが、今回『P5』でも同じようにシナリオライターの掌の上であり、その巧妙さには舌を巻くばかり。公式がネタバレ厳禁と触れ回っている理由は終盤の展開を見れば納得できることでしょう。敵を騙すなら味方から、なんて言葉もありますが、まんまとしてやられた感がむしろ心地よいくらいで、まさに心の怪盗。トリックスターとは本作そのものであったといえるでしょう。
そんなわけで『ペルソナ5』はあの前作を上回る出来栄えを誇る希代の名作となっております。個人的には本年のGame of the Yearはもちろん、オールタイムベストな1本にランクイン。ペルソナファンはもちろん、メガテンファンでもアトラスファンでもRPGファンでも、PS4かPS3があるならやっておきましょう。ないなら本体ごと買ってしまいましょう。すべてのゲームファンにプレイして…ほしい!