人々が忽然と姿を消した街を舞台にたった1人で怪異と戦い続ける…、誰しも1度は妄想したシチュエーションが実現しました。えっ? そんな妄想したことない? いやいやご冗談を。
『Ghostwire: Tokyo』ではめちゃくちゃ作り込まれた現代日本の街をオープンワールド的に走り回りながら、日本における怪談から伝奇、果ては都市伝説の類まで、あらゆる怪異や超常現象を体験できるゲームとなっております。海外スタジオの作った”なんちゃってジャパン”ではなく、日本のスタジオが作った”本物の日本”が堪能できます。ゲームとしては、良くいえばソツなく遊びやすい作り、悪くいえば普通。なので、この舞台と設定にノれるかどうかで評価が大きく分かれそうな印象です。ボクは最高に楽しめました。最高だぜ。
Ghostwire: Tokyo | Official Website | Bethesda.net
※2022/05/19追記 紹介動画を作りました。
ホラーじゃないですよ?
まず最初に言っておきたいのは『Ghostwire: Tokyo』はホラーゲームではありません。怪談や都市伝説を題材にした設定やストーリーにはなっているものの、あんまりプレイヤーを怖がらせにはきません。「ホラー好きのいう”怖くない”はアテにならない!」と思われるかもしれませんが、そういうことではなく。
なんというか、文脈がホラーじゃないんですよ。たとえば、おどろおどろしい雰囲気で緊迫感を出してからワーッ!と驚かすとか、重たい空気が延々と続いて逃げ出したくなるとか、そういうんじゃないです。むしろずっといたくなるくらい居心地はいいです。ちょっとゾクリとするような瞬間がある程度です。
そもそも根本的に怖くない理由は明確です。まず、人々が忽然と消えてしまった超常現象が人為的なものであること。そしてその犯人が最初からわかっていることです。人智を超えた謎の現象ではないんですよね。なので、わからないからこそ感じる怖さはありません。また、1stトレイラーだと何の前触れもなく突如として人が消えていく様子が描かれていましたが、ゲーム中では「霧」に飲まれることで消えるように変更されています。「霧」という目に見える現象になってしまったことも怖さダウンのポイントです。加えていうなら、人が消える前の日常が描かれないまま誰もいない状態でスタートするので、非日常感も際立ちません。1stトレイラーを見たときのゾクゾクが失われているのはちょっと残念。
とはいえ、最初に渋谷のスクランブル交差点から始まるので、現実の渋谷に馴染みのある人なら非日常感をバリバリ味わえるのかもしれません。あの渋谷が無人なわけですからね。また、「霧」についてはオープンワールドにおける進入禁止エリアの役割を担っています。つまり、”見えない壁”を”見える現象”にしているのだろうと理解できます。これはゲームとしての機能だけでなく、ビジュアルも良くなっているので上手い作りだと思います。街が霧に沈んでいるとか遠くの路地が霧で見えないとか霧の中から現れる怪異とか、めちゃ良いです。
渋谷だけじゃありませんよ?
もう1つ言っておきたいのは『Ghostwire: Tokyo』の舞台は渋谷だけではありません。渋谷の街はキービジュアルとして何度も使われていたり、タイトルに「Tokyo」なんて入ってるから、てっきり渋谷を舞台にしたゲームなのだと思い込んでいたのですが、中心街から少し離れるとどこにでもありそうな普通の住宅地が広がっていたりします。渋谷に馴染みのないボクは「へぇ~、渋谷といってもちょっと外に出るとうちの近所を変わらんな」などと思ってしまったのですが、ストリートビューで確認すると全然違いました。おのれ恥をかかせおって! ともあれ、本作の舞台は渋谷を中心としているだけで、多くの部分は日本人なら誰でも見たことのあるような光景、すなわち住宅地や団地、商店街やアーケードで構成された日本そのものとなっています。
本作のすごさは現代日本の街並みの作り込みにあります。どっちを向いても完全に日本です。交差点のビルの1階に入ったコンビニとか裏路地にある個人経営っぽい居酒屋とか、アーケードのパチンコ屋とか住宅地の隙間にある小さな公園とか。もうね、うちの近所か?みたいな光景がひたすら続いてるんですよ。日本人が見ても違和感なく「日本だ!」と思えるくらい、マジで日本です。そう思わせてくれる理由はやはり作り込みの凄まじさ。海外スタジオが作った場合の日本は看板に書いてある文字がおかしかったりフォントがゴシックばっかりだったりで違和感バリバリになりがちですが、こちらは日本スタジオの作った日本なので看板のそれっぽさが段違い。そもそも海外か日本かという以前に作り込みが段違い。電柱に張ってある病院の広告なんてもう完璧に日本です。この日本を主観視点で走り回れるのだから堪りません。えっ? それなら近所で散歩でもしてろ? 違うんですって! その見慣れた光景に誰もいないから最高なんですってば!
誰もいない…怪異をやるなら今のうち
冒頭でも書いたとおり、 『Ghostwire: Tokyo』の街には人がいません。いるのは犬と猫、それと幽霊と怪異くらいです。誰もいないわりに意外と賑やかですが、それでもやっぱり誰もいないわけです。誰もいない夜の街、雨が降ったり止んだりする中を歩くというのがもう最高。びっくりするほどユートピアです。
先ほど日常を経ずに非日常になっちゃってる話はしましたけど、見慣れた光景で人っ子ひとり見当たらないのはやっぱり非日常感あります。そこでたった1人、怪異と戦い続ける…、このシチュエーションは最高と言わざるを得ません。誰もいないといっても衣服だけはそのままその場に残されているので、『The Division』のような荒廃した感じではなく、ついさっきまで誰かがそこにいた残り香が感じられるようになっています。『裏世界ピクニック』における現実と裏世界の中間領域のような、『真・女神転生 デビルサマナー』における日常のすぐ隣にある異界のような、そんな雰囲気の世界です。このへんが好きな人にはブッ刺さると思います。ブッ刺さりました。
“あの怪談”を体験できる!
『裏世界ピクニック』や『真・女神転生 デビルサマナー』が好きな人向けにもう1つお伝えしておくと、本作はサイドミッションが最高です。なぜなら怪談や都市伝説をアレンジした話が多いからです。そのへんの知識があれば「これってアレじゃん!」となれます。『裏世界ピクニック』では主人公の空魚が「ある種の聖地巡礼みたいな感覚」に感動する描写がありましたが、まさにアレです。どこかで聞いたことのあるような展開が主観視点で起こっていくのだからテンション爆上がりになります。いや怖がれよ、と思われるかもしれませんが仕方ないじゃん! ”名もなき駅”に向かう行き先表示が狂った電車とか、建物の階数よりボタンが多いエレベーターとか、そんなんテンション上がるに決まってんじゃん! 怖がってる場合じゃないって!マジで!
オープンワールド的アクションシューター
そういえば肝心のゲームについて話をしていませんでした。『Ghostwire: Tokyo』はオープンワールド的なアクションシューターです。オープンワールド的、といっても最初から自由にどこへでも行けるわけではなく、行ける範囲が徐々に広がっていく感じです。なので、基本はストーリーに沿って進むリニアな作りになっています。ストーリーを進めれば能力が増えていき、探索をすればするほど各能力が強化されていきます。このあたりの作りはオープンワールドタイプのゲームではよくある作りで、この手のゲームをやったことのある人ならすんなり馴染めるでしょう。
バトルは手から発射されるエーテル弾で戦うシューターになっています。風、水、火の3種類の弾を切り替えながらの戦いなっており、まるで陰陽師か退魔師かと言わんばかりの手の動きは惚れぼれします。加えて、敵の動きを止めたり視界を遮ったりできるお札とか、遠距離から狙い撃てる弓矢などのアイテムもあります。いろいろできるようになっているのですが、結局のところ下がりながら撃ってればだいたいOKって感じなので、総じて難易度は低めです。弾を撃って露出させたコアを引っこ抜いてパリーン!と倒すのは気持ちいいのですけど、フィールドのボリュームに対して敵のバリエーションが少な目なこともあって、だんだん単調に感じてくるかも。
探索については地面を走り回るだけでなく、グラップリングを駆使してビルの屋上から屋上へと飛び回ることもできます。主人公のパルクール能力も高いので塀の上だろうが屋根の上だろうが飛び乗れますし、数秒の滑空もできるのでビルからビルへ飛んでいけます。なんなら高層ビルの屋上から落ちてもノーダメージです。グラップリングするにはビルの上を飛んでいる天狗が必要なのですが、スキルを強化することでどこでも天狗を呼び出せるようにもなるので、そうなれば本当に好き勝手飛び回れます。おかげで探索のストレスはまったくないですね。なので、作り込まれた街並みを思う存分堪能することができます。最高。
日本の怪談や都市伝説がお好きならぜひ
そんなわけで『Ghostwire: Tokyo』、オープンワールド的なアクションシューターとしては、良くいえばソツなくまとまった作り、悪くいえば平凡な印象かもしれません。しかし、現代日本という舞台の作り込みと怪談や都市伝説といった設定が素晴らしく、唯一無二の体験を生み出しています。最初にも書きましたが、この舞台と設定にノれるかどうかで評価が大きく変わると思います。街の作り込みはとにかくすごいので、スクリーンショットを撮りまくりながら走り回っているだけでも元は取れますし、怪談や都市伝説を知らなかった人もこれを機に調べてみるのも面白いんじゃないでしょうか。あ、そっちは普通に怖い話も多いと思うので、調べる場合はお気をつけて。