アニメ版『艦隊これくしょん - 艦これ-』を最終話まで全部観ました。ゲームを原作とするアニメでキャラクターへの愛情をテーマに据える、王道な構図だったといえますが、肝心のキャラ愛描写がややハズレ気味だったところも多く、そこが非難の的になっているのかなーと思う次第であります。
一世を風靡中のブラウザゲーム『艦隊これくしょん』のアニメ化ということで、ボクも最初から最後までリアルタイムで観てきました。実はゲームの方はやっていないので、戯言になってしまうかもしれません。やってないとはいえ、方々からキャラクターに関する二次創作ネタは大量に流れてくるので、見た目の名前くらいは把握してる程度です。
アニメ版『艦これ』の感想なのですが、若干ネガティブな話になるかもしれません。なので、最初にお断りさせていただきます。「嫌なら見るな」というアナタに2つ言わせてください。「嫌なものかどうかは見てみないとわからない」ということ。そして「アナタにとって嫌なモノであるボクの意見をアナタはなぜ見てるんですか」ということ。「嫌なら見るな」は矛盾を含む思考停止ワードですので、用法用量を守って正しくお使いください。
では、前置きはこの辺にして、感想を書いていきましょう。まずはアニメ版『艦これ』の物語を紐解くところから。
運命に抗う艦娘たちを救うのは提督の愛情だった
アニメ版『艦これ』の物語は、主人公・吹雪の成長物語を軸として進みました。まともに水上を走れないところからはじまり、数々の訓練と実戦を経て、憧れの先輩・赤城に認められる艦娘へと成長していく物語です。そして、吹雪の成長を支え、その原動力となったのが提督の存在です。
本作において、提督は一切登場していません。セリフもなく、姿もシルエットのみ。なぜかといえば、彼(または彼女)は画面の向こう側にいるプレイヤーだからです。提督の見た夢で現代の東京らしき光景が描写されていることで、提督は現代の現実世界にいることが推測できます。この提督は吹雪がお気に入りで愛情を注ぎ、吹雪の方もその愛情に応えて成長してくれたわけですね。
物語の後半で、提督が行方不明になる展開がやってきます。艦娘たちはそれでも提督の残した作戦を元に行動を起こすわけですが、彼女たちだけでは運命(=史実)に抗うことができません。赤城の悪夢や長門の悪い予感というのは、彼女たちの脳裏に焼き付いた史実というだけでなく、プレイヤー不在のゲーム内では敗戦する定めにあることの描写でもあるのかも。運命に抗うためには外部からの力、つまりプレイヤーである提督の力が必要なのです。
不死身のラスボス相手にピンチに陥る艦娘たちを救ったのは吹雪でした。劇中で長門が「なぜ吹雪がこれほど重用されるのか?」と悩むシーンがありましたが、答えはカンタン「提督が吹雪のことを好きだから」です。提督の愛情が吹雪を成長させ、史実という運命にすら打ち勝つほどの力をもたらしたのです。愛は勝つ。めでたしめでたしっぽい!
問題なのは、ゲームの中での話であることがわかりづらい点でしょうか。提督の夢だけでなく、艦娘以外は一切登場しない世界(足柄が合コンに行ってたような気もするけど)や「艦娘とは一体何なのか」と悩む長門など、間接的な描写はいくつもあるとはいえ、ゲームでは起こりえないこと(一発轟沈とか)があったことで、ゲームであると判断しにくくなっているのではないかと。そもそも、決定的だった提督の夢の描写もかなり後半になってからでしたしね。
最終決戦における攻略法、つまり、敵の本体ではなく空母を叩き続けろ、という作戦がゲームと同じだったりすればよかったのですけども別にそうでもなさそうですし。なぜ提督が空母を叩けば勝てると知っていたのか?という疑問は残るのですが、誰かご存知の方はいらっしゃいますでしょうか…。ボクの読解力では紐解けませんでした。
キャラ愛の物語なのにキャラの描写に難アリでは
お気に入りのキャラクターに愛情を注ぎ込んでゲームに勝利!という構図は、ゲーム原作のアニメとしてはなかなかに王道ではないでしょうか。キャラ愛でゲームを攻略するプレイスタイル、というのは共感できる人が多そうですし。しかし、キャラ愛をテーマに据えている割にはキャラクターへの愛情がイマイチ感じられないのですよね。いや、愛情は注がれているとしても、それが伝わる描写ができていないのではないかと。
決定的だったのは霧島がメガネをはずすシーン。メガネをはずして敵を一掃するほどのパワーアップをするのですが、何の脈略もありません。メガネ娘が好きな人はメガネをかけているからこそ、そのキャラクターが好きなのであってメガネをはずすことなど望んでいません。心境の変化や精神的な成長などの描写としてメガネをはずす、といった意味や理由があるならよいのですが、今回のケースはそういうわけでもありません。せめて、被弾してメガネが割れたけど即座に新しいメガネをかけなおして不敵に反撃、くらいにならなかったのでしょうか。
といっても、制作陣に霧島への愛が一切なかったとは思えません。第6話のカレー回において、マイクを握る霧島の描写は実に見事でした。一見冷静なようでテンションが上がってしまっている描写は、うまく彼女のキャラクターを表現していたと思います。おバカな金剛4姉妹の”自称”頭脳派、というポジションの彼女なら、いかにもありそうな行動でしょう。そこからメガネをはずしてパワーアップに繋がる描写は一切ありません。本当に脈略がないのです。だから非難の的になるのです。
また、二次創作ネタをふんだんに盛り込むキャラ付けですが、これは公式がファンに歩み寄ろうとした姿勢の表れかもしれないと思っています。公式の手を離れて動き出してしまったキャラクターたちを無理に改変するのではなく、そのまま使おうというのは、それほど間違いであるとは思いません。ファンの愛情が形作ったものでもありますし、一度できあがってしまったイメージを変えることはムズかしいでしょうし。
問題なのは、その描写の仕方です。物語に関連して挿し込まれるならいいのですが、物語の流れをブッタ切って挿入されるのだから、視聴者としては首を傾げてしまうわけです。毎回のように挿し込まれる大井のレズ描写、本当に必要ですか? 足柄の男日照り描写はカレー大会のラスボスの伏線だったからまだしも(ファンにとってはよくないかもしれませんが)、物語と関係のない二次創作ネタが挿入されるのは正直キツイ。
『艦これ』はキャラクターモノのゲーム原作であるため、キャラクターの描写はもっとも力を入れるべき場所でしょう。実際、注力されていたと思います。しかし、作り手の狙いが狙い通りにハマるとは限りません。個人的には、ターゲットがややブレてしまったのではないかと思えてなりません。作り手の好みで描くのか、ファンにあわせるのか、二次創作ネタにあわせるのか、新たな視点を生み出すのか。キャラによってバラバラだったのがマズかったのではないかと思う次第。
とはいえ、放映前の「弓道警察」みたいな少数のデカい声が悪い影響をもたらせた一因ではないかとも思うので、このあたりはやや同情するところでもあります。アニメに限ったことではありませんが、お客さんの声はただ取り入れればいいというわけではなく、数ある声を見極めて選択することが重要なのです。
バトルの描写について
アニメ版『艦これ』の最初のPVをみたとき、水上をスケートするように走る艦娘の絵面を「シュールだなぁ」と感じましたが、他に何かやりようがあるのかといえばないわけで、素直な映像化だったと思います。おそらく動かすことを前提としてデザインされたわけではないキャラクターを動かそうというわけですから、バトルシーンの描写は難易度が高そうです。
海上でのバトルを派手にカッコよく魅せるのも苦労したのではないかと思います。大砲による射撃はまだしも、必殺武器である魚雷はシュポポポポンと撃ちだしてポチャポチャポチャと水に沈んでサーッと海中を進む、なんとも地味な描写になってしまいそうですし。これについては、撃ちだすまでのモーションを派手にすることで解決していましたね。
カッコいいモーションから決めポーズをとって射撃、という手法はいいのですが、そのせいで味方のシーンと敵のシーンが切り離されていた印象があるのですよね。艦娘が攻撃するシーンの次に敵が被弾するシーン、そして敵が攻撃するシーンの次が艦娘が回避するシーン。艦娘と敵の両者が同じ画面内にいることがほとんどなく、結果としてやや単調な流れになりがちだったように思います。
最終話では、ドロップキックから敵を投げ飛ばす大井や、パンチとキックで敵をなぎ倒す長門など、格闘戦が解禁されたことで、かなり印象が変わっていました。それがアリなら、もう少し早い段階からやっておけば、もう少しバトル描写に幅が効いたのではないでしょうか。主人公の吹雪などは気合いたっぷりの叫び声なのに手に持った小さな砲台で撃つだけでしたから、パンチができるならもうちょいやりようがあったのではないかと。
あと残念だったのはカッコイイ出撃の描写が最初だけだったこと。せっかくカッコイイ描写なのに、1話以降はさっぱり描かれていないのがもったいない。といっても、後半の大和の出撃シーンではスポットライトが当たるだけで切られてしまっていたので、作る体力が残っていなかったのかなとも思えるのですが、観ていてテンションの上がるシーンなので、続編ではぜひ力を入れていただきたいところ。
続編だそうですよ
言いたいことはまだまだあるような気がしますが、ここまでにしておきたいと思います。如月の轟沈は「まどかマギカ」のマミさん死亡シーンのようなショッキングな描写を狙ったんだけど段取りが足りずに外してるなぁとか、「○○はオレの嫁!」みたいなネタを提督の夢という形で具体的に描写されてもその…困るとか、まだまだあるんですよ。でももういいです。続編がありますから。
PS Vita版やアーケード版とゲームの展開も順調な『艦これ』、アニメ版も約束された勝利の続編といえるでしょう。今回のアニメで映像化すると大体どんな感じかは視聴者側も把握できたでしょうから、ハードルの高さも変わったと思います。いろいろと期待や要望はありますが、今は静かに見守りたいと思います。
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