アニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』第21話は、なんと「シンデレラ」ではなく「秘密の花園」にあわせて進行するシナリオ。メアリーがコリンを外の世界へ連れ出したように、未央や美波の行動によってメンバーたちが冒険することの意味を実感するエピソードになっています。
第21話は前回から引き続き、シンデレラプロジェクトが新たな挑戦に向かって一歩を踏み出す話となっています。先頭を切って冒険に挑んだアーニャに続いて、それぞれの想いを胸に進む未央と美波、そして彼女たちをみて冒険の意味を理解するメンバーが描かれています。
前回20話の考察と感想は以下よりどうぞ。
今回のサブタイトルは「Crown for each.」、「1人1人の王冠」という意味です。常務の企画「Krone」はドイツ語などでの王冠を意味する言葉なので、常務側のユニットと絡む話かと思いきや、そうではありませんでした。常務のセンスが爆発しているクローネのPVからはじまりますが、今回はnew generationsがメインのエピソード。考えてみれば、new generationsのロゴって、ゲーム版の3つの属性カラーを重ねて作った王冠になんですよね。なので、今回はタイトルどおり、未央、凛、そして卯月の3人それぞれの”王冠”が描かれているのです。
未央と凛の「秘密の花園」
前回のラストでソロ活動をはじめた未央。最初のお仕事として舞台に出演することに。今回のシナリオは、演目の「秘密の花園」にあわせて進行します。アイドルの境遇と舞台の内容を重ねるのは『アニマス』の春香を彷彿とさせますが、未央の境遇はかなり違ったものです。
「秘密の花園」は、両親を失って伯父に引き取られた孤独な主人公・メアリーが、庭の花園を見つけて出入りするようになってから、徐々に心を開き始め、やがて、同じ屋敷に住んでいた生来病弱な少年・コリンを外の世界へ連れ出そうとする……という物語。メアリーを演じる未央によって、屋敷から外の世界へ出ることと、これまでのユニット活動から新たな一歩を踏み出すことが重ねられているわけです。
冒頭のオーディションのシーンで未央が演じているのは、メアリーが伯父の屋敷にやってきた場面。見知らぬ世界に困惑するメアリーと、外の世界に飛び出したばかりの未央が重ねられています。最初の稽古シーンは、ディコン(メアリーの世話役・マーサの弟)から、外の世界のすばらしさを説かれる場面。メアリーと違ってすでに外の世界へ踏み出している未央ですが、まだ「宝物」が見えていないという意味では同じ。やさしく背中を押してくれる先輩たちがいるのも、ディコンたちに出会ったメアリーと重なります。
ここで前回の終盤からの回想シーンが挟まれます。困惑して駆け出した未央を追いかけたプロデューサー(以下、P)と、その様子を見ていた美嘉のシーン。かつては走り去る未央を追えなかったPと、責任を感じながらも何もできなかった美嘉が、今度は未央を支えることに。ここは一見すると「秘密の花園」とは関係のなさそうですが、外の世界へ出るかどうかを悩むメアリーと未央の境遇は重ねられているのかも。さしずめ、美嘉とPはマーサとコマドリの役といったところでしょうか。コマドリが見つけてくれた花園へのカギは、まだわからない「何か」のために一歩を踏み出す勇気。
星を見上げるシーンは前回20話の美波とアーニャと重なります。空に輝く3つの星にあわせて静かに流れる「ミツボシ☆☆★」。ここから未央は冒険に出るわけですが、その理由は仲間ため。熱い友情を歌い上げた彼女のソロ曲は、この場面にピッタリですね。
続く稽古シーンは、メアリーがはじめて花園に入った場面。外の世界の輝きに気づくメアリーと同じように、未央も冒険することの手応えを掴み、外の世界のすばらしさを少しずつ実感していきます。凛が語っていた「何か」が見えてきたのです。劇中の雨はよくない状況の表現であることが多いのですが、ここでは地固まるための前段階。レイニー&サンシャインですね。
そして最後に、凛と卯月と一緒に練習するシーン。凛を生来病弱なコリン役にして、彼を外の世界へ連れ出そうとする場面からはじまります。卯月は最初マーサ役ですが、途中からディコン役になっていて、未央と凛のサポートする役にまわっています。
メアリーとコリンは、どちらも両親の愛情を受けずに育ち、屋敷から出なくなってしまったことで共通しているのですが、先に花園へ出たメアリーの誘いによって、コリンも外の世界へ出ることになります。先にユニット以外の活動を開始した未央と、別ユニットをやるかどうか迷う凛の境遇は、まさにメアリーとコリン。関係ありませんが、ここでの演技を聞いていると凛役の福原綾香ボイスは少年役もかなりイケそうな印象。
ここで未央がやっているのは、「秘密の花園」に自分たちの境遇を重ねて、外の世界へ出ること、新しい冒険をすることを伝えようとします。伝えるための方法は、すでに冒険に出ている自分の姿を見せること。そして、一緒に稽古することで、冒険のすばらしさを体感させているのです。こんな方法を思いついて実行できるだなんて、本田未央、できるリーダーすぎる。
それにしても、3人の稽古シーンでの満開のコスモスがめちゃくちゃキレイですばらしい。コスモスといえば、秩序を意味する言葉から宇宙や世界のことを含むのですが、3人の眼前に広がる光景は、まさにこれから冒険する新しい世界といえるのかも。
ちなみに、このシーンで流れていた「つぼみ」は、7月下旬にリリースされたばかりのCDに入っている曲の未央バージョンです。スタッフの連携のスピード感すごい。
卯月は笑顔を探す冒険へ?
こうして、凛も無事に冒険に出ることになり、残るは卯月のみ。今回のエピソードはnew generationsがメインですが、実際には未央と凛の話になっていて、卯月は相変わらずちょっと置いていかれています。未央と凛はお互いの悩みについて考えていますが、卯月のことはあまり見ていません。卯月自身も、未央と凛を繋ぐ役割を果たす一方で、自分の悩みは2人に打ち明けられずにいます。
階段ですれ違うシーンでは、凛は「未央のこと、卯月はどう思ってるの」と問い、未央は「しぶりんも、やりたいことやってみれば」と声をかけます。凛と未央はお互いのことを意識しているけど、卯月のことはあまり意識していません。両方を見ているのは卯月だけ。ここで未央がいなくなり、取り残される卯月と凛という構図は7話との対比ですが、7話で去っていった未央とは違い、今回は2人よりも先に進んでいるため、踊り場で立ち止まっている2人を尻目に階段を上りきっています。
卯月が落ち込む凛を励ますシーンも、実は7話との対比。未央については、Pが追いかけられるように成長したため、7話とは違った展開をみせているわけですが、凛についても、卯月も体調不良で倒れていないため、引き留めることができています。卯月はここでも「別々に悩むのはよくない」と言っていて、凛だけでなく未央の心配もしています。また、震える手で「大丈夫です」を2回繰り返すところは、卯月自身に言い聞かせているようでもあります。
3人で「秘密の花園」を演じるシーンでは、卯月はマーサやディコンの役を任されており、ここでもメアリー(未央)とコリン(凛)とを繋ぐ役割になっています。未央のキラキラとした演技に感動しながらも、それに対して何もできない自分の無力感に笑顔を曇らせるシーンが印象的ですが、ここも未央と凛の背後なので、2人は卯月の悩みには気づけないままです。極めつけは、わかりあう2人を眺めているカットで、顔に影を落とすだけでなく、視線の先にスペースを空けることで、2人との距離感が暗示されています。
凛を送り出す直前のシーンでは、信号機が青になりますがもう1つは赤のまま。しかし、未央に続いて階段を上りきる凛を、今度は引き留めません。ここはめちゃくちゃ不安にさせる演出でしたが、この後、Pが卯月に救いの手を差し伸べてくれます。新しいことを考えるのが苦手な卯月に、新ユニットの提案というナイスアシスト。魔法使いの面目躍如でしょう。
Pと卯月の個人面談も7話との対比ですね。7話では、卯月のブレない笑顔によって救われたPでしたが、今度はブレない「笑顔です」で卯月を救おうとするP。立場が逆転しているわけです。卯月が自身の無力を実感しているシーンはこれまでに何度も積み重ねられてきましたが、ここでようやく悩みを打ち明けることに。また、小さくなって質問する卯月とそれを正面から答えるPの構図は1話とまったく同じで、本当にブレていません。(途中でいろいろあったとはいえ)
よーくみると、Pの腕時計が55分から56分に進んでいるので、卯月もやっと前に進めそう? とはいえ、無力感を完全に解決できたわけではありませんから、「本当の笑顔」のために欠けている「ピース」を求める冒険はこれからとなりそうです。小日向美穂による爆弾処理が今、はじまる…!
説明よりも行動で示す人々
それにしても、今回のエピソードはどいつもこいつも説明ナシに突っ走りすぎです。ちゃんと説明してから行動しようよ、と思わなくもないのですが、未央は「勢いばっかり」で、美波は12話の合宿での運動会のように行動で示すタイプ、そしてPは「不器用な男」……この状況は致し方ないのかも。
とはいえ、言葉による説明は蘭子がしています。サマーフェスで誰よりも先に冒険をしていた蘭子は、熊本弁ではなく標準語でそのときの想いを語りますが、言葉だけでは理解はできても納得はされていません。凛の語った「何か」を未央が理解できなかったように、言葉だけでは飲み込めません。それがわかっているから、未央も美波も行動を優先しているのでしょう。にしても、後ろから支えるタイプのきらりや杏がいるとはいえ、前から引っ張るタイプのリーダーが不在ということで、なかなかのピンチな状況。
ここで「失敗したら解散…」と後ろ向きになっているメンバーに対して、前向きな提案をするのが智絵里とかな子のコンビ。わからないなら本人に聞いてみよう、というのはインタビューの仕事を経験したからこその発想ですが、それ以上に「アイドルは前を向いているもの」という幸子の教えが生きていますね。こういう何気ないところで各アイドルの成長した姿をスッと差し込んでくるのは本当にうまい。ここでは空回りに終わっていますが、李衣菜が前川を引っ張ろうとしているのも19話からの反省なのでしょう。
Pが見守る側にまわっているのは、個性を伸ばすための自主性の尊重なのでしょうけど、それだけではなく、今回の件はPにとっても冒険のはずです。「何か」を確かめようと「少し違うところから見てみよう」としているのは他ならぬ彼ですからね。アーニャと凛を送り出すだけでなく、他のユニットを強化したした上で、全体曲を外しています。前回、サマーフェスの集合写真を前に悩む姿が描かれていましたが、彼もサマーフェスから一歩に先へ進もうとしているわけです。
にしても、Pの目の前でメンバーたちが全体曲の練習について話しているのに、止めなかったのはどうしてなんでしょう? アーニャ1人が抜けるだけなら全体曲をやる予定だったのでしょうか。凛のトライアドプリムス入りが決まった時点の出演者を確定させたようだったので、もし凛が残るのであればどうなっていたのやら。何にせよ、夏フェスと同じことをやっていたので、成果発表の場として常務を納得させることはできなさそうですから、これが正解なのでしょうね。
次回はいよいよ秋のLIVEバトルか
かくして、秋の定例ライブがいよいよ開幕しそうなのですが、このライブ、盛り沢山すぎる。アーニャのソロにトライアドプリムス、それ以外にもクローネのメンバーは4人。さらに美波のソロに蘭子と小梅のローゼンベルグアルプトラウム、アスタリスクwithなつななとテンコ盛りです。すべて見せ切るのは厳しそうですが、一体どんな見せ方をしてくれるのか。ちなみに、蘭子と小梅のユニットは突然きたようにみえますが、2人は寮生活を共にしており、ホラー映画に誘ったりハロウィンイベントの仕事をやっていたりと、布石は結構あったりします。
エンディングで流れていたクローネとシンデレラプロジェクトの楽屋の様子は、かなり対照的。メンバー同士が向き合って話しているシンデレラプロジェクトに対して、誰一人向かい合っていないクローネの面々。前回の唯と文香を見ている限り、仲が悪いわけではないのでしょうから、常務の言うとおりに進むクローネと、自主性に任せられているシンデレラとが対比されているのかも。
次回のサブタイトルは「The best place to see the stars.」、直訳するなら「星を見るのに最高の場所」。特等席でステージを見下ろす美城常務のカットと合致しそうなイメージですが、Pの言っていた「少し違うところから見てみよう」が意味する場所なのかもしれません。美波の「ここからじゃよく見えないね」に対する、星の見える場所、なのでしょうか。
※2015/9/7追記
秋の定例ライブは凛のエピソードになりそう? 全員が集合しているシーンは凛だけがいないので、おそらく凛視点ではないかと。にしても、サマーフェスと同じ衣装を着ているので、全体曲もやる模様。だったらジャージの2人も参加でよかったのでは…と思わなくもないのですけど、どういった展開をみせるのか。
続き、22話の考察と感想はこちらからどうぞ。
日本コロムビア (2015-07-29)
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