先日Steamに颯爽と登場したケモ耳娘なギャルゲー『Sakura Spirit』はなんと海外製のインディータイトル。リリース直後には売り上げ上位に食い込むなど、一部で話題になっています。日本人から「ここまで来たのか」と言わしめるクオリティですが、これなら日本産のギャルゲーも海外展開できるのでは?と思い、その可能性について探ってみました。
Steamで配信されているギャルゲーといえば以前にも『Go! Go! Nippon!』など、いくつか存在していますが、露骨にちょっぴりえっちな方向で登場したのは『Sakura Spirit』が初なんじゃないでしょうか。欲望に忠実なSteamerたちが次々に飛び込み、サムズアップでレビューが埋まる状況になっております。素直な人ってステキ。
こういったギャルゲー自体は珍しいものではありませんが、今回『Sakura Spirit』が驚かせたのは、これが日本製ではなく海外製である、ということ。「えっ、これ日本人が描いたんじゃないの?」「海外のギャルゲーもここまでやるようになったのか」など、たくさんの日本人を驚かせているわけです。
確かに、海外で作られたことは驚くべきことですが、日本製のギャルゲーに比べればまだまだ発展途上にあるようにも見えます。これでいけるんだったら、日本製のギャルゲーを持ち込めばもっといけるんじゃないの?と思うのですよね。あれですよアレ、クールジャパンとかいうヤツ。
そんなわけで、ちょっとギャルゲーの海外展開について考えていきましょう。
今日までの海外ギャルゲー事情
そもそも、海外におけるギャルゲーはどうなっているのでしょうか。というと、ジャンルそのものが存在しないくらいの状態だったようです。恋愛を題材にしたゲームは「Romance games」というみたいですが、wikipediaにあるのはほとんどが日本産タイトル。海の向こうではあまり制作されることがありませんでした。
以下は2010年の記事。アメリカではギャルゲーはさっぱり手のついていないジャンルだったことがわかります。
『ときめきメモリアル』や『ラブプラス』といった「ロマンスゲーム」は、日本で長い歴史を持ち成功しているが米国では避けられてきたジャンルである、と定義。
海外でギャルゲーデザインコンテスト-「ロマンスゲームは避けられてきたジャンル」 | インサイド
記事中に登場する『Brooktown High: Senior Year』は2007年にPSPで発売された『ときめきメモリアル』を参考にしたという海外製の恋愛ゲームです。男女どちらでもプレイできるようになっていて、ギャルゲーというより「シムシリーズ」のような印象とのこと。グラフィックについては当時散々ネタにされていたので、見覚えのある人もいるんじゃないでしょうか。なんにしても、2010年の記事でも、アメリカでは長きにわたって「石のような沈黙」の状態であったことがわかります。
以下は『Brooktown High』のキャラクターを日本人が修正したコラ画像。アメリカ人の好みはわからん、と言いたくなるかもしれませんが、別に向こうでも受けたわけではないのでなんとも。
日本におけるギャルゲーの歴史は掘り下げるとキリがなさそうなのですが、やはり1995年のPS版『ときめきメモリアル』が一大ブームになったことで確立されたように思います。ジャンルが確立されたことでさまざまな進化を遂げ、『サクラ大戦』や『アイドルマスター』、『アマガミ』に『ラブプラス』などなど、数々の名作が生み出されていったわけです。
日本と海外の差は火を見るよりも明らかなのですが、これら日本製のギャルゲーが海外に輸出されていくことはほとんどありませんでした。海外の熱烈なファンから海外版の発売を望む声もあったようですが、海外で発売された例はあまりありません。もちろんゼロではありません。たとえば『サクラ大戦5』は『Sakura Wars: So Long My Love』として英語版が発売されています。ただし、日本版から5年ほどの差がありました。ともあれ、どうしてほとんど海外展開されていないかというと、いろいろな壁が存在していることがあげられます。
Sakura Wars: So Long, My Love Trailer – YouTube
まず、表現の規制のお話。性的な表現について日本の規制がゆるいことは知られていますが、それ以外にも文化的な差からくる印象の違いも壁になっているようです。以下の記事は『アイドルマスター』が海外展開しない理由についての記事。
参考:アイマスが世界で発売されない本当の理由について – Xbox 360 THE IDOLM@STER コミュ動画集
参考:でかだんびより : Dekadenbiyori アイマスって海外だと児童労働扱いされちゃうの?
表現の規制については、日本では審査団体コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)があるように、アメリカではエンターテインメントソフトウェアレイティング委員会(ESRB)という組織があります。ESRBのロゴは海外製のゲームのパッケージに貼ってありますよね。審査の基準は暴力やギャンブル、性的な表現などなど、日本のCEROと似ています。というか、CEROがESRBを参考にしているので当然ですけども。とはいえ、判定については日米でちょっと差があります。
特に、よくみかけるESRB:M(Mature)とCERO:DやCERO:Zあたりのイメージについては日米のギャップが強くなっているようです。
レーティング「M」は“Mature”(意味としては「円熟した」「分別のある」)を指し、17歳以上を対象とした作品向けに与えられる。海外では未成年者が購入するには保護者の同意が求められ流通に制限がかかって来るため避けられる傾向にあったため、『Munhunt』『Grand Theft Auto』『Mortal Kombat』など日本でもその名を知られる物々しいタイトルが揃っているとっても怪しいオーラを放っているのがレーティングがこの「M」判定。日本的に言えば「CERO D」あるいは「CERO Z」に相当するのだが、大人の娯楽として定着している海外ではむしろ最近は増加傾向にあったりする。日本のソフトでは『鬼武者』『零』『真・女神転生』など、国内で「CERO B~C」程度のシリーズが宗教の問題やセクシャルな表現から表現毎作このレーティングを頂戴しており、海外とのギャップを最も強く感じさせるゾーンにもなっている。
参考:アドベンチャーゲームにおける海外と日本のレーティング差|アドベンチャーゲーム研究処
ESRB:M(Mature)より上のAO(Adults Only)はCERO:Zよりもキツイ感じで、成人指定で18歳以下の購入が禁止されているというだけでなく、ゲームハードメーカーが原則として販売を認めていない上に、大手ショップの流通にも乗らないため、開発側が販売するために修正することがほとんど。
ちなみに、海外版が発売された国産のタイトルで性的表現が審査に大きな影響を与えそうなものだと、『閃乱カグラ Burst -紅蓮の少女達-』(Senran Kagura BURST)はESRBでT(Teen)、『Dead or Alive 5 Ultimate』はM(Mature)となっています。
Senran Kagura Burst – Can I Have A Copy? – YouTube
あれ?じゃあ今回話題になった『Sakura Spirit』はどうなの?と思うかもしれませんが、あくまで自主規制なのでSteamで配信されるインディーゲームは審査を受けていなかったりするのです。
尚、あくまでも業界内の自主規制であるため、Steamなどのデジタル配信(特に独立系開発会社によるもの)や、スマートフォン向けの販売網などではレーティング自体が要項でない場合も多く、これらの流通においては未審査の作品も多い。
参考:エンターテインメントソフトウェアレイティング委員会 – Wikipedia
ただし、こういった表現の話はあくまでも建前であり、利益が見込めないから、というのが本音なんじゃないか、という見解のようです。翻訳をしなきゃならないだけでなく、『ラブプラス』における膨大な音声や『アイドルマスター』における歌はどうするんだ、とか、それ以外にも審査を通過するための修正や海外におけるマーケティングなど、コストに見合った利益があるかどうかが1番の問題というわけですね。特にノベル系やアドベンチャーといったジャンルはテキスト量も多く、翻訳のコストも大きくなりそうです。
そんなわけで、日本のギャルゲーは海外へはほとんど展開されず、海外でもこのジャンルが成長することもないまま今日に至っているようです。といっても、海外にもノベル系のゲームを作っている人たちもいますし、ノベルゲーム作成用のエンジンなどもあります。熱心なファンが日本のゲームを勝手に翻訳していたりもするようですが、これはもちろんイケナイことです。熱心なファンがいるなら需要があるようにも思えてしまいますが、これは少数の大きな声であって、日本のメーカーが利益を得られるほどではない、ということなのでしょう。
日本製のギャルゲーが海外に進出するには
身もフタもない話ですが、利益が見込めなければ海外展開する意味もありません。商売ですから当然です。しかし、日本人から見ればまだまだ発展途上な『Sakura Spirit』がSteamの売り上げ上位に食い込んでいる状況を見ていると、彼らに本物のギャルゲーってやつを見せてやりたくなります。…なりません?
ともあれ、諦めるにはまだ早いのではないかと。利益の見込める筋道もあるんじゃないかと思うわけです。利益が出せるなら売り手はハッピー、買い手もハッピー、みんなハッピーのWinWinです。
まず、規制と審査の問題ですが、『Sakura Spirit』はSteamで販売するためにそもそもESRBからの審査を受けていません。審査を受けないのだから審査に合わせた修正も必要ないでしょうし、そのためのコストもかからないでしょう。といっても、大手メーカーが審査機構を通さずにゲームを販売するというのはいろいろ厳しそうではあります。
しかし、海外メーカーが得意とするジャンル、FPSとかクライムアクションとかは日本の規制に合わせて修正された上で輸入されてきます。押し寄せる黒船というヤツです。海外からは規制の壁を越えてきているのに、日本が得意とするジャンルではこの壁を越えられずにいるわけです。そりゃギャルゲーとFPSじゃ市場規模が違うかもしれないですけども。
そもそも海外におけるギャルゲーの市場規模が見えないという問題もあります。前例がほとんどないのでどの程度いけるのかがわかりません。前例がないと企画を通すのもムズかしそうですし。海外にも日本のアニメ好きがいることは4chanなどのコミュニティがあることからもわかるのですが、その数や程度が問題で、実際にゲームを販売したときにどれだけ売れるのかは売ってみなければわかりません。
やってみなければわからない、というリスキーな勝負を大手メーカーが仕掛けるのは厳しいでしょうから、ここはインディーや同人ゲーム開発者の出番なのではないでしょうか。本場日本のギャルゲーだよ!とGreenlightに乗り込めば一気に注目を集められる、かもしれません。
ただ、インディーや同人ゲームだと、今度は翻訳が問題になるでしょう。音声については吹き替えよりも字幕の方がいい、という意見を多数見かけるので日本語音声のままでもいいかもしれませんが、テキストベースのゲームだと翻訳の量がすさまじいことになるので厳しいはず。言語の壁は本当に高い…。今回『Sakura Spirit』のパブリッシャーであるSekai Projectはロサンゼルスのスタートアップ企業で、日本の同人作品を世界に展開することを目的に翻訳や支援活動をやっているようです。こういう会社があることを知られていけば、少し状況も変わってくるかも。
個人的な妄想をいえば、過去の名作ギャルゲーを手掛けたクリエイターが独立してKickStarterとかでプロジェクトを開始し、Greenlightを経由してSteamでリリース、なんて流れになったりしないかなーと。稲船氏の『Mighty No.9』のギャルゲー版みたいな感じで。そんな感じで切り込む人が出てくれば、後に連なっていろんなゲームが進出していけるきっかけにもなるんじゃないかなと妄想しています。
海外に渡ったギャルゲーの例がなくはないとはいえ、まだまだ未踏の地であるように見えます。なので、まずは先陣を切る人が現れ、その結果次第で状況は大きく変わるのではないかと思います。今回の『Sakura Spirit』がそのキッカケにつながるかどうかはわかりませんが、世界のOtakuたちが真っ当に本場日本のギャルゲーを嗜めるようになる可能性は、あると思うのですよね。