ウィルステロにより崩壊したマンハッタンでエージェントとして戦う世界観、そしてTPSとRPGを見事に融合させたゲームプレイ。『The Division』は逸材なタイトルとして順調な滑り出しを見せていたかに思えたが、ここへきて風向きが変わりつつある。発売から1ヵ月の今、大型パッチでエンドゲームコンテンツを謳う「Incursion」を配信したUBIソフトだったが、その内容、運営方針ともに非常にマズイ状態になっているのだ。
エンドコンテンツがゲームを終わらせる
日本時間の4月12日、無料の大型パッチが配信され、さまざまな変更や改善と共に、新ゲームモードの「Incursion」が追加された。第1弾の「Falcon lost」では、傭兵部隊LMBの持つ装甲車と戦う内容であることが事前にアナウンスされていた。強烈な難易度であることもアナウンスされていたが、選りすぐりの装備で大型のボス敵と戦えるのであれば、きっとエキサイティングな体験になっているに違いない。誰もがそう期待していた。
だが、期待どおりにはならなかった。「Falcon lost」の内容は、荒廃したマンハッタンとは無関係の退屈な地下室という展開のないシチュエーションで、微動だにしない装甲車を前に、ひたすら沸き続ける敵NPCと戦うだけのWave制ディフェンスミッションだった。フェイ・ラウは「あの装甲車を外に出すわけにはいかない!」と語気を荒げていたが、おそらく放っておいても問題ないだろう。あの装甲車は1ミリも動かないのだから。
Wave制ディフェンスであるだけならまだ問題なかった。しかし、その他のゲームデザインもお粗末なものだ。高台からスタートするのでそのまま撃ちたくなるのだが、実は装甲車と敵NPCとが待ち構える場所へ飛び降りなければならなかったり、通常ミッションではスイッチを切れば停止したタレットが、スイッチを切っても数秒で復帰して背中を撃ってきたり、装甲車に設置する爆弾は拾ったプレイヤーしか設置できないのに所持しているかどうかがわかりづらかったり、とにかく説明不足で誘導もうまくいっていない。協力プレイにおいて、攻略を把握していないプレイヤーを排他的に扱う人もいるだろうが、これは概ねゲームデザインの責任だろう。
たとえ「Falcon lost」がつまらなかったとしても、『The Division』にはチャレンジミッションやダークゾーンなど、魅力的で遊べるコンテンツがあるわけだが、何より問題なのは「これがエンドコンテンツである」ということだ。プレイヤーの最終目的地がここだ。この1ミリも動かない装甲車が鎮座する地下室なのだ。マジか。マジで言ってるのかそれ。
だが問題はコンテンツの品質だけに止まらない。発売当初から多くのバグを抱えており、バグを利用した稼ぎ、いわゆるグリッチが多数発覚しているのだが、「Falcon lost」についても例外ではなかった。グリッチがエンドコンテンツを終わらせようとしているのである。
よくわかる「壁抜け」の歴史・前編
「Falcon lost」のグリッチについて話す前に、まず本作に存在したグリッチと修正の歴史を振り返ってみよう。さまざまなグリッチが存在する『The Division』だが、代表的なのは「壁抜け」である。(キングやハッチのマラソンも代表格かもしれないが、あれはグリッチというよりも仕様漏れというべきだろう) 簡単にいうと、壁をすり抜けていろいろショートカットしてしまおう!というグリッチだ。今回はこの「壁抜け」に焦点を絞ってみたい。
壁抜けの中でも有名なものが「モバイルカバー」というスキルを利用したものである。これはカバーシューターの本作において、カバーするために任意に小さな壁を設置できるようになるスキルだ。要は「どこでもカバー」である。この「モバイルカバー」、テストに出る項目なので、ここでぜひ覚えておいていただきたい。これを使って壁をすり抜けるグリッチがこちら。
要するに、モバイルカバーを壁にめり込ませて設置すれば、カバー状態のまま壁をすり抜けられてしまう、というものだ。これとは別に、もっとお手軽な方法もあった。こちらはモバイルカバーすら使わずに済む方法だ。
初見では鼻水を吹きそうになるショッキングな映像だが、要するに、カバー中に方向転換してから前転すると壁をすり抜けてしまう現象である。本当にテストプレイをしているのか疑わしくなってくるが、そもそも普通にプレイしていても、床が抜け落ちて奈落の底に落とされたり、壁にめり込んで動けなくなってしまったりするゲームである。この程度は序の口に過ぎない。
幸い、上記2つのグリッチは今回の「Incursion」パッチで修正されている。モバイルカバーを壁にめり込ませて設置することはできなくなり、カバー中の前転もカメラアングルが調整されたことで壁を抜けられなくなっている。めでたしめでたし。といいたいが、話はここで終わらない。
装甲車がアホみたいになっとるわ 修正パッチ、くれへんか
先に述べたように「Falcon lost」は非常に難易度の高いミッションである。微動だにしない装甲車を破壊するだけなのに、やたらと硬くて痛い敵NPCを倒し、タレットとドローンの攻撃を掻い潜って、サーバーの切断に怯えながら、何十分も戦い続けなければならないからだ。正攻法で攻略するのはなかなか骨が折れる。本作はトレジャーハント要素を含むRPGであるとはいえ、ボスドロップとクリア報酬以外でまともな装備は手に入らないため、途中で全滅してしまえばすべてがパーである。あまりに高いリスクにプレイヤーは足をすくませるしかなかった。
だがそんな折、有効な攻略法が発見される。「装甲車を撃てばわずかながらダメージを与えられるのだから、直接撃ち続ければいいじゃない」 …身もフタもない攻略である。が、普通に攻略するよりも遥かにカンタンかつ確実である。この攻略法が発見されたのはパッチ配信当日のことだった。
同日、UBIソフトは緊急メンテナンスを実施。その内容は「装甲車に射撃でダメージが入らないように修正」である。テストプレイでは誰も装甲車を撃とうとしなかったのだろうか? 本当にテストプレイをしているのか疑わしい修正だが、ともあれ、装甲車を撃つ攻略は封じられてしまった。なんてこった。
余談だが、この緊急メンテナンスにおいてもう1つ修正がされている。それは「チャレンジミッションにおけるネームドNPCがドロップする最上級アイテムを1つにする」という修正である。修正前は4つドロップしていたので大幅な下方修正だ。もともと「Incursion」パッチはレアドロップ率を上げる目的の修正が入っているにも関わらず、配信当日にこれである。ララエ・バレットは「お前たちにとってはただの足し算だ」と言っていたが、4つが1つになるのは誰がどう見ても引き算である。
話を戻そう。装甲車に対して通常の射撃でのダメージは通らなくなってしまった。では、再度サーバーからの切断に怯えながら装甲車の背中に爆薬を仕掛けにいくしかないのだろうか? 否。そうではなかった。この修正で変更されたのは”射撃”によるダメージが通らなくなっただけだ。”爆風”によるダメージは封じられていない。つまり、グレネードや粘着爆弾であれば、ダメージは通るのである。天才か。いや、なんと杜撰なことだろうか。
とはいえ、それだけで装甲車の耐久値を削り切るのは大変だ。何かよい方法はないものだろうか?となった矢先、登場するのが「モバイルカバー」である。そう、「壁抜け」である。
よくわかる「壁抜け」の歴史・後編
先に紹介した壁抜けは修正済みだが、別の方法が発覚してしまった。これもパッチ配信当日の話である。グリッチの方法はまたしても「モバイルカバー」を利用したものだ。
パッチの修正により、壁にめり込ませて設置することはできなくなったが、壁の向こうに設置してしまえるタイミングがあり、壁の向こうのモバイルカバーにカバーしようとすると壁をすり抜けられる、というものだ。正直、よくこんなの見つけるな、と感心してしまう。UBIソフトは彼のようなプレイヤーをテスターとして雇えばよいのではないだろうか。
ともあれ、この「壁抜け」を利用することで、Wave開始前の装甲車のみが鎮座する地下室に侵入し、カンタンに破壊できてしまう方法が発覚してすることになる。まさに「Incursion(侵入)」!。これがパッチ配信の翌日、緊急メンテナンスからは1日も経っていない頃の出来事である。
そしてパッチ配信から4日後、日本時間の4月16日にUBIソフトは新たな修正を適用。修正のメインは、アイテム消失バグの修正後に発生していたキャラクター消失バグの修正だが、「Falcon lost」についても「Wave開始前には装甲車にダメージが通らないように修正」がなされている。つまり、壁を抜けて侵入しても装甲車を破壊することはできなくなったわけだ。今度こそ装甲車は鉄壁になったかに思えた。しかしである。
修正が適用された同日にまた別のグリッチが発覚。といっても、正確にはもともと発覚自体はしていたようで、前述の方法が封じられたために、まだ封じられていなかった方法としてシェアされたようだ。グリッチとしては愉快な映像なので、心してご覧あれ。
壁抜けの原因はまたしても「モバイルカバー」である。彼こそ歴史の覇者であり、もうお前だけでいいんじゃないかな状態だ。このスキルを実戦で活用してる人、見たことないけど。
これが現在(4月16日)に至るまでの「壁抜け」の歴史である。イタチごっこのようにも見えるが、修正があまりにも杜撰と言わざるを得ない。「モバイルカバーを壁際に設置できなくするだけ」とか「装甲車にダメージが通らなくするだけ」とか、とってつけたような修正ばかりであり、根本的な解決に至っていない。小石に躓いたからといって、その小石を脇道に放り投げるだけでは解決にはならないのである。redditで修正内容のスレッドとグリッチ紹介のスレッドが仲良く並んでいる光景は、現在の『The Division』の状態を如実に表しているといえるだろう。
そんなことより聞いてくれよUBI
壁抜けグリッチに焦点を当てて『The Division』の現状を紹介したわけだが、現在ゲーム中に存在するバグは残念ながらプレイヤーの有利になるものばかりではない。たとえば、「Falcon lost」で途中参加した場合、入り口で読み込みが入ってスタート地点に戻されてしまいミッションエリアに入れない、というバグがある。何を言っているのかわからないと思うので、以下の動画をご覧あれ。
要するに、途中参加ができないのだ。途中参加を制限するのならマッチングしないようにすればいいのに、マッチングしてしまうので困りものだ。おかげで、途中で誰かが抜けてしまった場合、戦力を補充することはできない。これまたテストプレイしているのか疑わしいレベルのバグであり、協力プレイ推奨が聞いて呆れる状態である。先に修正すべきは装甲車へのダメージではなく、こっちではないだろうか?
さて、今回はグリッチを取り上げるにあたり、グリッチについて包み隠さず書いた。本来ならばグリッチを広めないために多少ぼかして書くべきかもしれないが、それでは本作を取り巻く現状が理解されないと判断したためだ。良い子のみんなは真似しないように。といっても、最後のヤツ以外は修正済みである。最後のグリッチ(ならびに途中参加不可バグ)も早々に過去のものとして葬り去ってくれることを願いたい。(※2016/4/22追記。晴れて過去のものになりました。下部の追記参照。)
ちなみに、UBIソフトはグリッチを利用した行為について処罰を検討しているとのこと。それはいいが、これほど低品質な状態でリリースしてきた上に、修正対応も杜撰なUBIソフトへの処罰は検討されているのだろうか。シーズンパス特典の武器スキンに「グリッチ」などと名付けている場合ではない。処罰よりも深く反省をしていただきたいところだ。でなければ、マンハッタンに飛んだエージェントたちは、今後も”グリッチを探すゲーム”を続けることになるだろう。
※2016/4/22追記
後日談・グリッチは(大体)滅びた
4月21日、UBIソフトは「Falcon lost」におけるグリッチ対策を適用。モバイルカバーを利用した壁抜けはそのままだが、エリア外に出ると警告が表示されて一定時間後に死亡する、という仕様が追加されたため、安全圏から一方的に装甲車を撃ち続けるグリッチは不可能になった。また、装甲車についてもC4爆弾の設置以外ではダメージが通らないように変更されたため、直接攻撃により破壊する戦術は不可能になった。これでようやくUBIソフトの意図した「Falcon lost」になったと言えよう。それがおもしろいゲームなのかどうかは別として。
しかし、”グリッチを探すゲーム”を続けたエージェントたちは、新たなグリッチにより無限大の攻撃力を手にしていた。これは、武器についている特殊効果を重複させまくることによりケタ違いのダメージを叩き出す、というものだ。やり方は、特殊効果のついた武器を2種類用意して高速で装備変更しまくるだけ。そうすることで攻撃力の数値が微妙にズレていくのだが、単に表示上の話ではなく、本当に反映されてしまっているのだ。もうファミコン時代の裏技レベルだが、現代にも通用するウルテクなのである。おかげで、装備を高速でカチャカチャと付け替える不審なエージェントをそこらじゅうで見かけることになってしまった。
ところがなんと、このグリッチについても4月21日の2回目のメンテナンスで対応がなされている。これまでの経緯を考えると異例のスピード対応だ。というのも、従来のグリッチはより良い装備を手に入れるためにミッションをショートカットしていただけだが、こちらのグリッチはいきなり最強武器を手に入れてしまうようなものだからだろう。対人戦を含むゲームそのものを破壊しかねないグリッチであるため、優先度が段違いだったことは想像に難くない。尚、このグリッチはサーバーに大きな負荷をかけていたため、今回の修正によって接続状態も改善されるだろうとしている。そもそもグリッチが流行る前からサーバーは不安定じゃねーか!というツッコミはこの際やめておこう。
ともあれ、これらの対応が入ったことにより、致命的なグリッチは概ね塞がれたといってよさそうだ。残念ながら(?)今のところ次なるグリッチの報告もない。とはいえ、プレイヤーが安心してプレイできる環境にはまだまだ程遠いだろう。上述のミッションに途中参加できないバグやミッションが開始できないバグなど、プレイに支障をきたす不具合はテンコ盛りだ。グリッチが落ち着きをみせた今、グリッチ対応と下方修正には熱心な開発陣が発売から1ヵ月以上も放置されているバグとどう向き合うのか? 今後の『The Division』の行方を占う上で、彼らの動向に注目していきたい。