【書籍】中の人などいない@NHK広報のツイートはなぜユルい?

日本でもっとも有名なTwitterアカウントの1つ、NHK_PRの中の人が書いた本。Twitterをはじめてからこれまでの歩みが中の人視点で語られている内容だ。中の人なのいないのだけれど。

中の人 ネット界のトップスター26人の素顔」の中でも登場するNHK_PR1号氏。Twitterアカウントの取得から、現在に至るまで、さまざまなエピソードが彼自身の視点で綴られているのがこの本。内容を簡単に説明すると、「中の人」のインタビューで語っていたことをそのまま引き伸ばしたような感じだった。あのインタビューで応えていた言葉は、こんなエピソードから出てきたのだな、ということがよくわかる。帯では「48万フォロワー」とあるが、この記事を書いている時点で49万9000フォロワーを超えており、50万突破も秒読み段階になっている。

成功の秘訣は会話をして友達になること

NHKのお堅いイメージとは裏腹に?大人気のNHK広報アカウントだが、どうしてこんなにも人気なのか、どうやってこんなにも多くの人々を惹きつけられるようになったのか。最近では企業がTwitterのアカウントを運営することも当たり前になってきたし、ソーシャルマーケティングだなんだとカタカナ語も増えてきたけど、これほどの成功を収めているアカウントは多くない。その成功の根っこにあるのはなんのことはない、ごく普通のことだ。「会話」をして「友達」になればいい。

とはいえ、企業アカウントを運営する上で参考にしたい成功例なのは確かだけど、真似できるのか?と聞かれたら無理じゃないかと思うし、この本を読んで中の人自身の心の太さを知ると、やっぱ無理だわこれ、って思うかもしれない。中の人などいないけど。ただ、Twitter運用において1番重要なのは「友達を作ること」であり、そのためにやることは「会話」である、ってのは理解しなきゃいけないことだ。彼のように、ちょっととぼけた優等生になれるかどうかは別としても、この根本だけは忘れちゃいけないものだろう。Twitterの運用に迷っている人なら、一度原点に立ち返るために、本書に目を通すのもいいかもしれない。企業アカウントを運営している人はもちろん、普段Twitterをやる上で、より楽しみたい人、それからNHK_PR1号氏のファンの方にオススメしたい1冊。

もちろん、この本を読んだからといって、NHK_PR1号氏のように立ち振る舞えるようになるとは思えない。むしろ、真似できないことがよくわかると思う。彼はTwitterを運用するにあたって、アカウントの性格を設定している。この本を読んでいる限りでは、彼自身がこの「役」を演じるのに最適なキャストだったのだろうという気がする。設定したキャラクターとそれを演じる人、そしてそれが需要とかみ合うことで、いまの成功があるのだと思う。ただ、このキャラクター設定の目的は「友達を作るため」なので、その方法は人によっていろいろなのだから、彼の真似をする必要はないだろう。大事なのは、迷ったときに立ち戻れる場所を用意しておくことなのだ。

口語調でノンフィクション?という非常に読みやすく噛み砕かれた語り口になっているので、一気に読むことができた。全体的に物語調なのでとにかく読みやすい。また、本全体を通して「NHK_PRの雰囲気」が満ち溢れている。要するに「ユルい」。

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こんな風にちょくちょく顔文字が挿入され、本においても独特の「ユルさ」を崩していない。

不謹慎ならあやまります。でも不寛容とは戦います

ただし、東日本大震災のエピソードだけはシリアスモード。「不謹慎ならあやまります。でも不寛容とは戦います」の言葉を生み出したエピソードがNHK_PR1号氏の視点で語られている。どんな思いで生まれた発言だったのか、その葛藤は生々しく説得力のあるものだし、正解なんてわかるものではないだろうけど、だからこそ、この発言には彼の魂が込められた、生の言葉に違いないのだと思う。震災から数日という緊迫感溢れる空気の中、その「空気だけは読んじゃいけない」と「ユルい」ツイートを書き、発言ボタンを押せる心の強さは、誰でも真似できるものじゃない。

本書のタイトルにもなっている「中の人などいない」というフレーズ。元ネタは吉田戦車の漫画だけど、NHK_PR1号氏がどうしてこの言葉を使うのか、どういう意味でこの言葉を使っているのか。その答えをもって本書は締めくくられている。ネタバレになるからここでは書かないけれど、あんな心意気になれるのは、誰にでもできるものじゃないよなと思うし、その結果がケタ違いのフォロワー数にもあらわれているのだと思う。

中の人などいない@NHK広報のツイートはなぜユルい?
NHK_PR1号
新潮社
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