【Shovel Knight】レビュー 大人たちの童心を掘り返す最強のシャベル

KickStarterで30万ドルを集めたインディーゲーム『Shovel Knight』がついにリリース。グラフィックも音楽もプレイ感も、隅から隅までファミコン風のレトロスタイルアクションに仕上がっています。といっても理不尽はなく精細で丁寧な作りなのですが、童心に返らせてくれる現代のファミコン”風”ゲームになっています。

Shovel Knight | Yacht Club Games

ボクは「昔のゲームはよかった」なんていう懐古が嫌いなんです。ゲームというものは、ゲームとプレイヤーがあってはじめて成立します。なので、ゲームのおもしろさを比較する場合、ゲームとプレイヤーの両方が比較対象であるべきなのです。

昔か今かは好みの問題なのですが、「昔の方がよかった」「昔の方がおもしろかった」というのは、子供時代の豊かな感受性を考慮に入れ忘れているケースが多いように思います。目に映る何もかもが新しく、すべてが輝いてみえた子供時代と、大人になって落ち着いてしまった現在とを同列に語るのは公平ではないですよね。大人になってしまった今、感受性豊かな子供と同じ感動を得ることは難しいのです。悲しいことですが、こればっかりはどうしようもありません。

しかし、童心に返って遊ぶことはできます。『Shovel Knight』はそんな願いを叶えてくれるタイトルなのです。

Shovel Knight Release Trailer! – YouTube

ファミコン風なのは見た目や音楽だけでなく、ゲームの中身もすべてがファミコン風。実のところ現代的な要素も多数取り込まれているし、ファミコンのゲームというのはゴージャスすぎるかもしれません。『Shovel Knight』はファミコンではなくてファミコン”風”、大人たちの美しい思い出に対抗するには、このくらいのウソは必要でしょう。

とはいえ、実際にプレイしていると、そんなウソに騙されていることには気付かないかもしれません。何せプレイ中は誰しもがファミコン少年に戻ってしまうのですから。

抜群の出来の良さを誇るファミコン風アクション

『Shovel Knight』はジャンプ&アタックのオーソドックスな2Dアクション。ステージクリア型ですが「スーパーマリオブラザーズ3」のようなワールドマップを採用しています。各ステージのラストには個性豊かなボスが待ち受けているのですが、ボスはすべて”なんとかナイト”という名前になっています。このあたりはすべて”なんとかマン”の「ロックマン」的ともいえるでしょう。

Shovel Knight ワールドマップ

ボクのクリア時間は6時間弱だったのですが、正直かなり死んだので参考までに。ステージやボスの数など、全体的に長すぎず短すぎず、ちょうどいいボリュームではないでしょうか。ステージごとの隠しルートやサウンドモードに曲が追加されていく隠しアイテム収集、実績などなど、リプレイ性もかなり高め。

グラフィックはファミコン風のドット絵がガシガシ動きます。色数もファミコン風に抑えられていますが、それでもファミコンでは動きそうにないような、でもファミコン風という以外にないような、そんな塩梅。デフォルメされたキャラクターたちはかわいらしくもカッコイイと感じられるのはいいですね。非常にいいです。

音楽はバリバリのチップチューンでどれもめちゃくちゃカッコイイ。どのくらいカッコイイかというと、1面の曲名が「Strike the Earth!」ですよ。最初からクライマックスすぎます。音楽についてはBandcampでサウンドトラックが公開されているのでぜひ聴いてみてほしい、音楽がゲームを買う理由として大きな要因になっている人は特に。

実際には、このグラフィックはファミコンじゃ動かないだろうし、こんなにたくさんの音を鳴らすこともできないのだろうけど、ファミコンらしさはまんべんなく表現されていて、ファミコン風であるということの説得力はすさまじく高いです。このゲームのプレイヤーは子供時代の美しい思い出を求めているわけだから、このくらいの美化は必要なのでしょう。そしてそれは見事に現代のファミコンゲームとして完成されているのです。

主人公は甲冑姿で武器がシャベルという珍妙な出で立ちだけど、プレイしているうちにたまらなく愛おしく、カッコよく見えてくるのだから不思議なもんです。過去の戦争でもっとも人を殺したのはシャベルだったとかいう話も聞いたことあるような、ないような、そんな気もするので、ある意味最初から最強装備ともいえるかもしれない。

このシャベルは敵を叩いて攻撃するだけでなく、ブロックを掘ることもできます。ってかそっちが本来の用途ですよね。ともあれ、”掘れる”ことがこのゲームのアクションに個性を持たせているわけです。ステージ中に設置されているブロックを掘って壊せるようになっており、ちょっとしたパズル要素を産み出しています。

ブロックを掘るのは楽しいけど調子にのって掘りすぎると足場をなくしてしまい、上の方に見えていた宝石がとれなくなってしまう、なんてことも。クリア目的でゲームを進める上では問題ないのだけれど、おいしいルートへ入れなくなってしまう、といった具合。どのステージにもおいしい隠し部屋があり、これを探して繰り返し遊べるようになっているのは「マリオワールド」っぽいかも。隠しアイテムをゲットすることでサウンドモードの曲が解放されていくあたり、非常にうれしいご褒美になっています。

また、シャベルを下に向けてホッピングのように跳ねるアクションもあり、攻略する上で重要になっています。敵やブロックなどの上で大きく跳ねるため、これを利用しないと飛び越えられないシーンが多々あります。また、攻撃手段としても非常に強力なのでボス戦でも大活躍。といっても、これだけで勝てないようにと対策しているボスも登場するあたりがニクイ。

基本となるアクションは掘ることと跳ねることの2つ。他にもゲーム中に入手できるアイテムによって多数のアクションが用意されています。アイテムの使用にポイントを消費するあたりは「悪魔城ドラキュラ」的ですね。アイテムはステージの道中の隠し通路の先で買えるようになっており、ゲームをクリアするだけなら必須ではない、という位置付けになっています。なので、アイテムにより進路を切り開いていく「メトロイド」や「ゼルダ」的なものではないです。

と、ここまでゲームの説明をしてきたわけですが、「マリオ」に「ロックマン」に「ドラキュラ」など数々の名作のタイトルをあげました。いずれもファミコン時代のアクションゲームを代表する名作たちですよね。『Shovel Knight』は、そんな名作たちに対するリスペクトが溢れまくっているのです。まんま「ドラキュラ」っぽいステージもありますし。

本作はいつの時代に遊んでも楽しく遊べるでしょうし、名作足りえる内容に仕上がっているのは間違いありません。しかし、過去の名作たちへのリスペクトはオマージュという態度で表現されているので、時代が時代ならパクリ呼ばわりされて終わってしまったのかもしれません。そう考えると、やはり現代だからこそのゲームであるといえるかもしれません。

いずれにしても、数々の名作たちへのオマージュがあのころの感触や思い出を甦らせてくれる一因になっています。そしてもう1つ、童心に返らせてくれる要素が”難易度”です。

現代的な難易度調整とファミコン的なプレイ感の両立

『Shovel Knight』は見た目だけでなく難易度もファミコン風になっており、なかなかの歯応えになっています。何度も死んでは繰り返し、ムキムキしてコントローラーを投げそうになりながらも、結局手放すことなく続けてしまうような、そんな難易度設定になわけです。クリアできないような難しさではありませんが、楽々クリアできてしまうような難易度でもありません。上手な人ならそれほど苦労しないかもしれませんが、その場合は難易度の上がった2周目も用意されています。

『Shovel Knight』は実は残機制ではありません。何度死んでもチェックポイントに戻されるだけなので、そもそもゲームオーバーというものがありません。(ないよね?) それだけ聞くと「なんだヌルゲーか」と思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。断じて。

チェックポイントの数は多すぎず少なすぎずなので、戻されるときは結構戻されます。体力制ではあるものの、落下やトゲによる即死がかなり多いので、実際かなり死ねます。というか、死因はほとんど即死になるでしょう。狭い足場から落っこちたり、飛んでくる敵にぶつかってトゲに落とされたり、死ぬたびに思わず「あーもう!」って叫びたくなること間違いナシ。

死亡のペナルティはチェックポイントに戻されるだけではありません。死亡した場所に所持金を落としてしまう、というペナルティがあります。お金はアイテムや装備を買うために必要なのですが、どれも結構いいお値段なので、お金を落としてしまうことは結構な痛手。

しかし、死亡した地点までいけば、落としたお金を拾って取り戻すことができるのです。無事にお金を拾えればペナルティゼロ、というわけですが、拾う前に死んでしまうと落としたお金はなくなってしまい、また新たにお金を落としてしまいます。

ここまで読むと気付いている方も多いと思いますが、このデスペナルティは要するに「デモンズソウル」方式なわけです。死亡すればペナルティとして全ソウルを失うけれども、もう一度そこまで戻ってくればすべて取り戻せるため、何度死んでももう1回やろうとさせてくれるあのシステム。すごくファミコン風のゲームなのにここはすごく現代的。といっても『Shovel Knight』では全額失うわけではないので「デモンズソウル」ほどのしんどくはありませんけども。

何度も死ぬゲームにおいて死亡のペナルティをどの程度にするのか、というのはプレイヤーのストレスに大きく影響します。そういう意味では、『Shovel Knight』はちょうどいいくらいの設定なんじゃないでしょうか。ストレスにならないわけではないけど、ゲームを投げ出してしまうほどではない、というくらい。

ファミコン時代はどんなにシビアな難易度であっても、他にやるゲームがなかったからこそ、理不尽な難易度にも立ち向かっていけたわけですから、ファミコン風を再現しようとして理不尽な死にゲーにしてもおもしろくはならなかったでしょう。かといって、なんのペナルティもなかったり、特に死亡することもなく進めるような難易度では、あの頃に感じていたコントローラーを投げたくなる感情も刺激されないでしょう。そこへきてこの『Shovel Knight』の”緩い「デモンズソウル」方式”のデスペナルティは非常にいい塩梅ではないかと。

このデスペナルティは、ぬるま湯に浸かり切った過去のファミコン少年たちにあの頃のムキムキを思い出させつつも、コントローラーもゲームも投げたりしないようにさせる、というすばらしい調整になっているんじゃないでしょうか。「ロックマン」や「悪魔城伝説」でコントローラーを投げていたボクでもクリアできたわけですし。

ゲームもプレイヤーも含めてのレトロスタイル

そんなわけで、『Shovel Knight』は見た目も中身もファミコン風にしつつ、本当にファミコンのゲームを作るのではなく、美化された思い出をカタチにしたようなファミコンライクなゲームになっています。こういったレトロスタイルのゲームは数多く生まれている現状において、抜群に出来のよいタイトルに仕上がっていますね。

大人になってしまった今、感受性の豊かな子供時代と同じ感動を得ることはできません。しかし、童心に返ることはできるのです。童心に返れるのは、子供時代を通り抜けた大人の特権なのです。いや、別に子供でも楽しめると思いますけど。

『Shovel Knight』は、コントローラーを投げたくなるほどムキムキする気持ちを呼び覚ましてくれるでしょう。「そうそう、こんな感じだったよなー」なんてファミコン時代の温かい思い出に浸っているとトゲに刺さって即死して「あーもう!なんでやねん!!」とさらにハートを温めてくれます。そんなところも含めてのレトロスタイルになっているわけです。

ゲームはゲームとプレイヤーがあって成立するものです。だから、プレイヤーもファミコン時代の気分に戻されてしまう『Shovel Knight』は、真にファミコンライクなゲームなのです。

でもこれはあくまで現代の、2014年のゲームなのです。あの頃の気持ちを思い出させてくれるといっても、あの頃のゲームではありません、今現代の最新のゲームなのです。その体験は今の体験なのです。なので、このゲームをやって童心に返ったとしても「あの頃はよかったなぁ」というのは間違いです。正しくは「いまも最高だぜ!」です。さぁ、最高のファミコン風ゲームで、童心に返ろうじゃないですか。

┗|┳|┛<SHOVEL JUSTICE!

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