【メタルギアソリッド5 ファントムペイン】レビュー プレイヤーに託されたオープンワールドへ自由潜入せよ

オープンワールドになり、広大なフィールドで自由に遊べるようになった「メタルギア」は、プレイヤーに与えられた膨大な選択肢が自由度を跳ね上げたゲームになりました。どんな手段で攻略するかはプレイヤーに委ねられているものの、やはり「メタルギア」といえばステルス潜入。緊張感にあふれたかくれんぼは遊び心満載のオモチャ箱でもあるのです。

『メタルギアソリッド5 ファントムペイン』(以下、『MGS5 TPP』)のメインミッションを終わらせた後も、総合達成率が5割にも満たない膨大なボリュームに圧倒されつつ、そろそろ累計プレイ時間から目を背けたくなってきたところで、区切りの意味も込めてレビューを書きます。ネタバレはしたくないので、ストーリーには触れない方向で。

最初に『MGS5 TPP』がどういうゲームなのかを簡単に説明しておくと、オープンワールドに最適化された「メタルギア」です。過去作とは違い、映画的なゲームの代名詞だった長時間のカットシーンは減らされ、無線での会話はカセットテープの音声アーカイブとして任意のタイミングで聞けるようになり、プレイを阻害する要素をバッサリなくした代わりに、プレイ時間は飛躍的に伸びました。スネークを操作して物語を観るゲームではなく、スネークになりきって世界を体感するゲームへと変化したのです。

『MGS5 TPP』は、一言でいうならば「オープンワールド化したメタルギア」なのですが、既存のオープンワールドゲームとは一線を画す内容になっていました。世界は広大ですが、あくまで「メタルギア」であることを前提とした作りになっている印象です。また、本作は高い自由度を支えるため、非常に多くの要素を含んだゲームシステムになっているのですが、そのすべてを紹介しているとキリがないため、今回は『MGS5 TPP』のコアとなる部分、すなわち、オープンワールドである点、自由度が高い点、ステルスに帰結する点の3つに絞って紹介していきましょう。

http://www.konami.jp/mgs5/tpp/jp/index.php5

戦地が舞台のオープンワールド

前述のとおり、本作は「オープンワールド化したメタルギア」なのですが、よくあるオープンワールドゲームとはプレイ感がかなり異なります。なぜなら、舞台が戦地であるためです。

メタルギアソリッド5 ファントムペイン オープンワールド

フィールドは広大であっても、敵の拠点が点在しているだけで、犬も歩けば棒に当たるようなイベントが用意されているわけではありません。拠点と拠点の間の場所でやることは、草むしりと獣ハンティングくらい。ヘリによるファストトラベルが最初から使えるため、自分の足や自動車で走り回る機会も少なく、世界の広さを体感しづらい印象です。なので、オープンワールドゲームによくある「冒険してる感」はありません。そりゃ、戦地ですからね。

戦地なので、敵の兵士と動物以外はいません。そのため、そこらへんを歩いているだけで発生するイベントもないのですが、裏を返せば、こちらのミッションを邪魔する者もいないということです。避けなければいけない通行人などいませんし、しつこく追いかけてくるパトカーなんて出てきません。余計なモノが排除されたフィールドなので、プレイヤーはのびのびと戦場を楽しめる、というわけです。敵しかいない戦うためのフィールド、という意味では『Shadow of Mordor』が近い印象かも。

本作はミッションを受けて消化していくタイプの進行になっています。メインとサブの2種類のミッションから選んで、現地へ赴いて任務を遂行することで、ストーリーが進んだり、アイテムやお金をゲットしたり、といった流れですね。いかにもオープンワールドゲームっぽい感じですが、おつかい感あふれるミッションはありません。これも既存のオープンワールドゲームと違った印象を生む要因です。

もちろん、「アレとってきて」とか「アイツ倒してきて」とか、指令自体はおつかい的ですが、敵地へ単身で潜入する任務は作業的にこなせるはずもないため、目的地のマーカーを往復するばかりの時間など存在しないのが大きいでしょう。(もちろん、稼ぎのために作業プレイをすることだって許容されてはいますけど)

ミッションが作業的にならないのは、その内容が多岐に渡っていたり、マップが多彩であったりすることもありますが、何よりもプレイヤーに与えられた選択肢の多さ=自由度の高さがあるからです。

目的に対する手段の多彩さが「自由度」を高める

一言で「自由度」といってもいろいろあります。ゲームにおける自由度といえば、武器や装備を細かくカスタマイズしたり、戦う以外にもいろいろできたりすることになりそうですが、『MGS5 TPP』における自由度とは、何でもできる、という意味での自由ではありません。ミッション遂行という目的のために、プレイヤーが選べる手段の数が膨大であることが、本作における自由度なのです。『GTA5』などのいろいろやれる系のオープンワールドゲームとは対照的ですね。

たとえば、1人の捕虜を助けるために、サプレッサー付き麻酔銃を手にステルス潜入してもいいし、相方と一緒に遠距離から狙撃してもいいし、ヘリに火力支援を頼んで高みの見物と洒落込んでもいい。自由とはそういうものです。オープンワールドになったことで、敵拠点に攻め入る場所も選び放題になりました。

公式の動画にもありますが、1つのミッションに対し、答えがいくつも用意されているのです。装備、バディ、乗り物、火力支援と選択肢は膨大で、組み合わせまで含めると可能性は無限大。ゲームのクリアと関係ないところでいろいろできるのではなく、クリアと直結するところでいろいろできるのはいいですね。

しかし、この楽しさは紙一重の部分のあります。「いろいろやろうぜ」で遊べる人はよいのですが、「じゅもんつかうな」になってしまいがちな人にとっては、同じようなことの繰り返しになってしまう懸念も。これは自由度の高いゲームには付きもののジレンマでしょう。

かくいうボクも、当初は「メタルギア」的な単身ステルス潜入ばかりになりがちでした。しかし、慎重なスタイルはあまりにも時間がかかりすぎます。なので、もう面倒になって実弾の引き金を引いてみたところ、なんか新しい世界が見えてきた…!という経験をしました。固定観念は可能性を殺す、と肝に銘じました…。

豊富な選択肢はプレイヤーだけのものではありません。こちらがいろいろやるのであれば、敵の兵士もいろいろ返してくれるのです。ヘッドショットばかりしているとヘルメットを被りだしたり、催涙ガスに頼っているとガスマスクをつけてきたり、最終的には分厚いアーマーを着込んで爆風にまで耐えるようになったり、ヘリに支援を求めたりと、一筋縄ではいかなくなっていきます。

以前にきたことのある拠点に侵攻する場合であっても、敵の配置や巡回ルートは毎回同じではありません。そもそも時間帯や天候の変化もあるため、同じ攻略法は通じません。ゲームの側も多くの選択肢を駆使してプレイヤーに挑戦してくるわけです。プレイヤーにこれだけ多くの選択肢を与えながらもゲームが破綻しないのは、恐るべき作り込み。

もともと「メタルギア」シリーズは、プレイヤーのアクションに対するリアクションが細かく作り込まれているゲームでした。撃てば割れるサーチライトや破裂する消火器など、こちらの期待に応えてくれるギミックは今回も健在。ちゃんと反応が返ってくるので、あれこれ試してみるのが楽しくなるのも毎度おなじみ。さらに今作では、世界そのものがリアクションを返してくれるようになったわけです。ミッションを進めれば進めるほど、敵の装備が増強されていくのは、プレイヤーが世界に干渉できている証左。自由な行動に対してもしっかり世界が応えてくれるからこそ、世界を実感できる手応えが生まれるというもの。

そんな膨大な選択肢の与えられた世界ですが、やっぱりステルスに帰結するのは「メタルギア」らしいところ。ステルスに縛られない攻略方法がいくつも存在しているとはいえ、なんだかんだでステルスが必要になっています。

緊張感を生む2段階制のステルス

どうしてステルスの重要度が高くなっているかというと、本作における育成システムが敵兵士の回収に依存しているからです。敵の兵士を捕まえてマザーベースに回収し、自分の軍隊を組織していくことで、新たな武器を開発したり、戦闘中に敵の情報が得られるようになったりして、どんどん自由度が上がっていきます。そのための経験値となるのが敵兵士のフルトン回収なので、倒すのではなく捕まえる必要があります。半殺しでもいいのですが、確実にいくなら背後からこっそり忍び寄るのが1番。だからステルスの重要度は高いのです。

こっそり隠れているプレイヤーに対する敵の反応はかなり鋭いものですが、本作では発見に至るまで2つの段階を踏むようになっています。1段階目はこちらを怪しむだけで、発見には至りません。その代わり、かなり遠くからでも反応してきます。そして、確認するために捜索に出てくるのですが、ここで見つかるとアウト。最初から派手な行動をすれば1発アウトもありますが、基本はこの2段階制です。

この2段階の反応が緊張感のあるステルスを生んでいます。怪しまれるけどギリギリ見つからないような状況が連続するため、ステルスゲーム本来のドキドキ感が研ぎ澄まされた印象です。うっかり発見されてしまった場合でも、見つかった瞬間に一定時間スローがかかるリフレックスモードがあるため、ギリギリセーフで許されることもあり、綱渡りではあるけれど快適な(?)ステルスライフを満喫できるようになっています。

さらに、怪しまれても匍匐状態なら意外と見つからないことがわかってくると、今度はいたずら心が芽生えてきます。このへんはいかにも「メタルギア」なところ。拠点の電源を落とすと敵兵が復旧にやってくるので、仕掛けておいたデコイの起動で気絶を狙うなど、敵兵をオモチャにできるようになってくると一気に楽しさが倍増してきます。

個人的には、拠点の敵を一掃して制圧してから、堂々と闊歩してアイテムを回収後、フルトンを付けたコンテナに乗って帰還する瞬間が最高に楽しい瞬間となっています。ステルスで敵兵を1人ずつ倒していくと、敵の防衛網に穴が空きはじめるので、そこからさらに倒し続ける。そうすると、どんどん楽になっていくので、結局は全員を回収するまで遊んでしまって、時間がどんどん過ぎていく…。最近では、敵兵の間で兵士をさらってるヤツがいるらしいともっぱらの噂になっていますが、ごめんなさい、それボクです。

自由なスネークになろう

細かいことをいえば、意図せず立ち上がってしまうことがあるとか、小さな段差に引っかかるとか、3人称視点と主観視点で照準がズレてるとか、操作やカメラまわりでいくつか問題もあるのですが、本当に些細なことです。本作のコアである攻略の自由度やステルスの楽しさを損なうものではありません。とあるミッションで指示を聞かない子供たちにはちょっとピキっときましたけれども。

冒頭でも書いたとおり、メインのミッションをすべてクリアした時点では、総合達成率が5割にもなりませんでした。(これを書いている時点では5割とちょっと超えたところ) サブOPSを消化しながらマザーベースの開発もかなりやっていたつもりだったのですが、やればやるほど増えていくサブOPSと装備開発は圧巻のボリューム。他にもクリアランクや動物のコレクション、高難易度ミッションなどもあり、本当に膨大です。装備が増えれば遊び方も増えていくので、『MGS5 TPP』というオモチャ箱は本当に底の見えない沼。すべてを遊び尽すのは至難の業でしょう。

といっても、やり込むのもやり込まないのも自由ですから、好きに遊ぶのが1番。プレイヤーに委ねられた部分が大きいゲームなため、人によって評価はまちまちになるかもしれませんが、どんな遊び方をしても、ちゃんとリアクションを返してくれるほど作り込まれた世界ですから、多くの人が楽しめるはずです。世界の包容力に感嘆すべし。

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