『Horizon Zero Dawn』をクリアできたのでレビューなど。プレイ時間がどのくらいになったのかはわかりませんが、サイドクエストを消化しながら進めていたのでかなりの時間になっているはず。オープンワールドのアクションRPGとして、ゲームを形作るそれぞれの要素は決して珍しくはないのですが、ストーリーや世界設定と絶妙にかみ合わさっており、抜群の完成度を誇る1本となっております。
狩猟採集時代の美麗な大自然を激写せよ
『Horizon Zero Dawn』のコンセプトの1つは「狩猟採集」。文明が滅びて1000年後の世界という設定で、人類はケモノの姿をした機械を相手に槍と弓による狩猟採集生活を余儀なくされています。要は石器時代に戻されちゃった世界です。金属は使ってるようですけど。人類史を振り返ると1万年前に農耕がはじまるまでの20数万年は狩猟採集メインの石器時代だったわけで、人類ってばホント狩猟採集好きよね。本作においては古代文明の遺産が残されてはいるものの、それを禁忌とする部族もあれば利用しようとする部族もあり、神や悪魔と崇める宗教があったり共存を望む人がいたりと、独自の世界が描かれています。
そんな世界において主人公・アーロイは中立的なポジションのキャラクターとなっています。”異端者”として人々から隔離されて育ったために宗教観は薄く、幼少時に見つけた「フォーカス」と呼ばれる文明の利器を活用してきたために機械への抵抗もない。フォーカスとは耳元に装備するデバイスであたりをスキャンして分析したりネットワークに繋げて通信できたりする優れモノ。現代のHoloLensやGoogle Glassの超スゴイ版です。おかげで頭脳明晰、且つ部族の戦士となるべく鍛えられてきたためにフィジカルも強い。なんだこの超人。なんにせよ、理解もよくて話も早いし、この世界独自の文化や技術をわかりやすく噛み砕いて説明してくれるので助かります。なんという模範的プレイヤーキャラクターなのでしょう。
アーロイが旅する世界の広さは広すぎず狭すぎずといったところ。無駄にだだっ広いのではなく、密度の濃いフィールドといった印象です。清流の涼し気な高地からうっそうと茂った森、砂嵐が吹き荒れる荒野に極寒の雪山まで、さまざまなシチュエーションの豊かな大自然が拡がっています。『Horizon Zero Dawn』の魅力の1つはこの美しいフィールドで、時刻や天候の変化とともに表情を変える景色はどこへ行っても絵になります。オープンワールドゲームに観光要素は付き物ですが、フィールドのすべてが見所になるほど美しいゲームは類を見ません。
美しいフィールドを歩くとき、嬉しいのが高性能なフォトモードの存在。プレイ中の至るところでポーズをかけて好きな角度から撮影できるようになっています。しかも『Horizon Zero Dawn』のフォトモードは明るさや効果フィルターだけでなく、被写界深度まで弄れてしまう多機能っぷり。さらには時刻まで設定できるので、同じ場所を月明かりで照らしてみたり夕焼けで赤く染めてみたり、本当に好き勝手できます。となると、行く先々で撮影するのが楽しみになっていくので、さっぱりゲームが進まなくなってしまうのも仕方のないというもの。美しいフィールドと高性能なフォトモードの合わせ技って最強なのでは。
平凡と平凡を掛け合わせるとこんなにもアツイ
美しい景色に目を奪われながらもゲームを進めるためにはクエストを消化していかなければなりません。『Horizon Zero Dawn』の進行はオープンワールドRPGとしては至って普通なクエスト方式。メインクエストの他にNPCから受けるサイドクエストやフィールドに点在する特殊クエストなど、バリエーションは豊富となっています。といってもクエストの内容は、どこどこへ行けとか誰々に会えとか敵を全部倒せなど、これまた普通です。普通なのですが、本作のストーリーにはかなり引き込まれました。というのも、ゲームの要素とストーリーとがうまく噛み合っているからです。
『Horizon Zero Dawn』のストーリーは「どうして人類の文明が滅びたのか?」と「アーロイはいったい何者なのか?」という2つの謎が柱となっています。勘のいい方ならおわかりでしょうが、この2つの謎は無関係ではなく、互いに絡み合って結末へと進んでいくことになります。謎を解き明かすためのヒントは音声やテキストのアーカイブとして点在していて、要するに収集要素なのですが、多くはメインクエストの順路に配置されているので必要な情報は自然と得られるようになっています。「謎を追う」ことと「アーカイブを探す」ことがうまく嚙み合っていることがストーリーの魅力を大きく高めています。自分で探求している感覚になれるし、何より滅亡を前にした過去の人々の生の声を聞いていく展開はなかなかくるものがあるのですよね。
また、最終決戦においてかつて旅先で出会った人々が一堂に集うベタな展開も、プレイヤーとして体験してみると存外アツいものに。というのも、サイドクエストであちこち旅してまわった結果だからです。自分の意思で選んだ結果だからこそのアツさ。クエスト方式であることも全員が集合する展開も、どちらも平凡な要素ではあるのですが、掛け合わせることで最大の効果を発揮しているわけです。
クエストといえば1点不満がありまして。特定の武器で目標を達成していくチュートリアルクエストなのですが、進行中クエストとしてセットしておかないとまったく進まない点。他のクエストはセットしなくても進行できるのでゲーム中盤になるまでまったく気づかないままでした。どうしてこんなことに。
機械のケモノ相手に狩猟採集バトル
機械のケモノたちに対して弓と槍で立ち向かうバトルもビジュアルこそ特徴的ですが1つ1つの要素は普通です。弓矢やスリングを使ったTPS要素、槍と前転回避で立ち回るアクション要素、草むらに隠れて好機をうかがうステルス要素。どれも特別な目新しさはありません。しかし、すべてを組み合わせたところに”機械のケモノ”という設定を持ち込むことで、『Horizon Zero Dawn』独自のプレイ感を生み出しているのです。
姿や動きは完全にケモノそのものなのですが、あくまで機械。火を吐いたり弾を撃ってきたり、どったんばったんどころではない大騒ぎです。彼らと渡り合うにはまず身を潜めてフォーカスでスキャンし、武装と弱点を見極めます。ステルス状態からの攻撃1発で倒せるようなザコなら槍でひと突きすればいいだけですが、そうはいかない相手に対しては慎重に戦う必要があります。なにせ攻撃をまともに食らえば1発で体力半分もっていかれることもザラですから慎重にならざるをえません。ケモノに相対する人類のなんと脆弱なことか。
フォーカスで武装と弱点を把握したら、武装を狙ってパーツを剥ぐなり、弱点を狙って一気に攻めるなり、選択肢はいくつもあります。火を吐くタイプなら燃料タンクのような場所を破壊すれば大爆発するし、弾を撃ってくるようなら銃器を破壊すれば撃ってこなくなるため、相手の武器を潰すのも1つの手ですし、とにかく弱点を集中攻撃してさっさと倒すのもアリ。正解は1つではありませんが、不正解も1つではないため、相手によって戦い方を変えることが重要になるのです。ちなみに剥いだパーツは矢弾の素材になるのでまさに狩猟採集。
ちょっとやそっとじゃ倒せそうにない強敵に対しては罠を活用することになります。見つかる前にこっそり罠を仕掛けておいておびき寄せてみたり、罠を仕掛けた先にさらに別の罠を置いて連続で引っかけてみたり。所詮ケモノなので人類の頭脳の見せどころになります。罠はダメージを与えるだけでなく、電撃で動きを止めたりロープで転倒させたりといったこともできます。動きを封じてしまえば槍で強烈な一撃をお見舞いしたり、「オーバーライド」と呼ばれる技術で機械を味方につけてしまうことだってできます。馬型の機械なら乗り物としても使えるし、強力な戦闘タイプを味方につければ手を汚すことなく勝利する、なんてことも。
個人的にお気に入りなのが大型機械とのバトル。特に恐竜型のサンダージョーとの戦いがアツい。どこかのメカ生体のような巨体に生身で挑む感覚がたまりません。ロープキャスターを何本も撃ちこんで動きを封じたら背中のディスクランチャーを撃ち落として奪い取ってガンガン撃ち込む。サンダージョー戦は、機械のケモノ相手に狩猟採集バトルと挑むとこうなる、という本作の特色が凝縮されているような気がします。
ただ、狩猟採集というには採集の要素がイマイチかなという気がしないでもない。矢弾や回復アイテムの素材の入手量が多すぎるのですよね。矢や回復剤が尽きて詰み、って状況にならないように配慮されているのでしょうし、それはそれでありがたいのですが、そうなると弾数制限の意義が薄れてしまう。数が多いだけならまだしも、所持アイテムが煩雑になってしまうのが困りもの。特に素材アイテムはどれが何に必要なのかがパッと見てわかりにくいので整理もままならない。このあたりは改善の余地アリかなと思う次第です。
抜群の完成度を誇るオープンワールド
総合すると『Horizon Zero Dawn』は、狩猟採集を軸として機械のケモノと戦いながら世界の謎を解き明かすために美しい大自然を旅するゲームです。いままでまったく見たことのない斬新な要素はないかもしれませんが、見たことのあるような要素をこんなにも上手に組み合わせることができるのかと舌を巻く内容でありました。これまでのオープンワールドゲームの集大成といいたくなる出来栄えです。細かい部分も含めると不満がないわけではありませんが、美麗なフィールドの中で写真を撮影しているとどうでもよくなってきます。オープンワールドゲームは広大なフィールドをいかに活かすのか、自由に歩き回れる意義をどう作り出すのかがポイントですが、そのすべてを撮影場所とした本作に1つの答えがあるのかもしれません。
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