静かな雨に優しいサウンドと夜の街並みが美しい雰囲気重視のゲーム。アクションとパズルはやや薄味かもしれませんが、心地よい雰囲気を味わうための調整と考えるとナイスな調整ではないかと。
誰もいない夜の街で、姿を失った少年が、同じく姿のない少女を追うアクションアドベンチャーゲーム『rain』。この少し不思議な世界は、ヨーロッパ風の街並みと静かな雨の音、そしてドビュッシーの「月の光」をはじめとしたやさしく切ないサウンドが美しい雰囲気を作り出していました。
プレイヤーは透明な少年を操って少女を追いかけます。少女は得体の知れない怪物に追われており、怪物たちに見つからないように進めることがゲームの目的になっています。
怪物に見つかり、追いつかれてしまうと即ゲームオーバー。要するに即死ゲーです。といっても、すぐにリトライ可能なので難易度はそれほど高くありません。迷ったり詰まったりする場面もないので難易度はむしろ低いといっていいでしょう。1回のクリアに必要な時間は2~3時間くらいで、一気に遊んでしまえるボリュームですね。
美しい雰囲気が最大の魅力
本作をパッと見で「あっ、雰囲気ゲーだな」と思った人は大正解。『rain』は抜群に美しい雰囲気をもっており、その雰囲気を最大限に活かしたタイトルです。
舞台となるのは静かな雨の降る夜の街。全体的にやや暗くなりがちですが、やわらかいタッチの照明と色調で温かみが表現されています。
夜の街という舞台設定だと単調になってしまいそうですが、チャプターごとに少しずつ舞台が変わっていくので意外と退屈しなかったようにも思います。作品全体に流れる色合いは統一されているのですが、舞台となる場所を工夫することでうまくメリハリを付けられているからではないでしょうか。
少年と少女に台詞はなく、音声もありません。メッセージはテキストで表示されるのですが、『rain』にはメッセージウィンドウなどはありません。というか、体力とかアイテムとか、その他もろもろのゲームっぽい表示は一切ないのです。
では、メッセージテキストはどうやって表示されるのかというと、こんな感じで背景に馴染ませて表示されます。
こういった手法は映画とか、一部のゲームの導入部などでしばしば見られると思いますが、本作では全編に渡ってこの方法が使われています。ゲーム的な表示を極限まで削っているのも、雰囲気を重視するタイトルならではといえるでしょう。
そして音楽。静かに降り続ける雨の音にドビュッシーの「月の光」のやさしく切ない曲想が重なり、あまりの心地よさに思わずアルファ波が出そうになるくらいの美しさです。他の曲もすばらしく、雨とともにじんわり染み渡るような感覚にとらわれます。
ビジュアルと音楽と演出、すべてが合わさった「雰囲気」はまさに絶品。
ステルスとパズル要素をもつアクションは控えめな存在
プレイヤーの操る主人公はなんの変哲もない普通の少年ですから、特別な能力もなく、極めて非力なキャラクターになっています。派手なアクションもなく、特殊な操作もありません。
ただ1つ、少年が迷い込んだ世界では自分自身の姿が消えてしまっています。透明人間です。姿は見えませんが、雨に打たれて濡れることで自分の姿が見えるようになります。これが『rain』の特徴です。
雨を逃れて姿を消すことにより、街中を徘徊する怪物たちを避けて進むのが主になります。なので、割とステルスゲームっぽい印象かも。基本即死なので隠れているときのドキドキ感もありますし。
やや残念なのは、この姿の消えるギミックがまったく新しい体験をもたらせてくれると期待していたのですが、特にそういうものがなかったこと。可能性を感じる設定だったのですが、意外と普通のかくれんぼというかステルスというか、それ以上のものはなかったのかなと。
時にはその場にあるオブジェクトを活用しなければ進めないところもあり、パズル的な要素も顔を出します。といっても、そんなに難解なものはなく、詰まるようなことはないでしょう。最悪、セレクトボタンを押せばヒントを見ることができます。1度もヒントのお世話になることはありませんでしたが、ようするにそのくらいの難易度だということです。
ゲーム中に露骨なチュートリアルや説明などは一切ありませんが、特に詰まることなく進めるのはゲームが丁寧に構成されているからです。たとえば、最初のシーンで新しいギミックをプレイヤーに見せておき、次のシーンではそのギミックの応用で突破させようとしてくるとか。プレイヤーが意識せずとも自然に覚えていける感じですね。ダラダラと長い説明がなくても理解していけるので、ゲームを快適に進めることができます。
とはいえ、特に迷うことも詰まることもなくクリアできてしまうので、手ごたえがないと感じてしまうかも。パズル要素といっても「ゼルダの伝説」シリーズのように頭に電球が点く感覚が走るようなものではありませんし。
しかし、これが悪いことか?といわれたら、そうでもないと思っています。『rain』は雰囲気を重視した作品であるため、あえて難易度を控えめにしてあるのではないでしょうか。雨の音が聞こえなくなるほど頭を捻らなければならないパズルやアクションでは、雰囲気を味わっているプレイヤーを阻害してしまいかねません。だからこそこの難易度なのではないかと、そんなふうに思うのです。
恐怖はないけどホラーに近い文法かも?
『rain』におけるテーマは「迷子」だそうです。たしかに、誰もいない夜の街を子供1人でうろうろするのはなんだか不安ですし、プレイ中もずっと不安がつきまといます。
雨に濡れている間は自分の姿が見えますが、それでは敵に見つかってしまうため、雨宿りをして姿を消すのですが、自分自身が見えないのはかなり不安です。かといって、雨に濡れて姿を晒すのもやっぱり不安。
いざ敵に見つかってしまうと、こちらは非力な少年ですから逃げるしかありません。追いつかれると即死です。でも子供なので走るのも速くありませんし、時々つまづいたりもします。こんなの不安しかありません。
戦うすべを持たない者を主人公として恐怖を煽る手法は『零』シリーズなんかがそうです。主人公が女性なのは、力ずくでの解決ができないことでより恐怖を演出しているのです。
といっても、こちらはやわらかい雰囲気がありますから、恐怖というほどではありません。たしかに、でかい怪物が追いかけてくるのはちょっと怖いですが、恐怖ではなく不安くらいに中和されているように感じます。
ただ、怪物が何度も何度も立ち上がって追いかけてくるというのは「やっぱホラーじゃね?」とも感じました。死んだと思わせておいて追跡してくるのはなんというか、すごくホラー的。ステルスのドキドキ感、即死の緊張感、そして追いかけられる怖さ。『rain』から刺激される感情は、迷子の心細い不安とはちょっと違うような…。
とはいえ、後半のとあるシーンではすごく迷子っぽい感覚を味わえるので、ゲーム全編迷子という意図ではないのかもしれません。
すべては雰囲気のために
『rain』はゲームとしてみた場合は少々薄味なタイトルかもしれません。難易度や手ごたえ、ボリュームの面からみても、もう一声何かが欲しいような気分にさせられると思います。
しかし、ビジュアルと音楽、演出が織り成す美しい雰囲気こそが本作最大の魅力。すべてはこの雰囲気のために作られたバランスであると考えるならば、やや薄味なアクションにも合点がいくというもの。『rain』は夏の土砂降り豪雨ではなく、しとしとと降り続ける秋雨なのです。
今回のレビューでは、ストーリーについてはあえて触れていません。気になった人はぜひ自分の手で触れてみていただきたいと思います。強烈などんでん返しや予想を裏切る派手な展開などはありませんが、心地よいプレイ後感を味わうことができるでしょう。
秋の夜長に、静かでやさしい雨の音はいかがでしょうか。