アニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』第22話は、秋の定例ライブを舞台として、これまでの成果の中間発表をするエピソードです。さまざまな試練を乗り越えたアイドルたちの成長ぶりを描きつつ、たった1人、成長が実感できていない島村卯月がついに振り落とされてしまう話となっています。
今回は、美城常務が言っていたとおり、成果の中間発表の場として、これまでのシンデレラプロジェクトの成長をみせるエピソードになっています。13話のサマーフェスから成長した姿が、新人のクローネと対比することで描き出されています。反面、周りの成長に置いていかれている卯月は、ついに振り落とされてしまうことに。いよいよ2ndシーズンの佳境を迎えたといっていいでしょう。
前回21話の考察と感想はこちらからどうぞ。
今回のサブタイトルは「The best place to see the stars.」、直訳するなら「星を見るのに最高の場所」。この意味については後述しますが、今西部長が露骨な説明をしてくれていました。以前の7話で不器用な男の童話を語るときもそうでしたが、今西部長はとてもわかりやすい説明をしてくれる役ですね。
舞台となる秋の定例ライブのプログラムはクローネにはじまり、他部署を挟んで再びクローネで〆る構成。常務の仕掛ける目玉プロジェクトなのだから当然の順番かと。このライブはクローネに新生シンデレラプロジェクトと、盛り沢山な内容が予想されましたが、過去エピソードとの対比で成長をみせる描写もあって本当に盛り沢山になっていました。
文字どおり成果の中間発表となった秋の定例ライブ
まずクローネのリーダーポジションである速水奏からスタート。「Hotel Moonside」は彼女の持ち歌です。常務の路線にもっともマッチしそうなミステリアスガールの奏は、やはりイチオシなのでしょうか。後々のクローネの面々に比べても、大舞台のトップバッターとして堂々たるパフォーマンスをみせているあたり、大物の風格があります。
続くアーニャのソロ曲「Nebula Sky」は新曲。20話でプロデューサー(以下、P)と話していたとおり、サマーフェスから一歩先へと進むことが、あのときの星空と、舞台から見えるサイリウムとを重ねることで描くなんてステキ。アイドルにとっての星の見える場所は、やはりステージの上なのでしょう。そしてアーニャからバトンを受け取る美波の構図は、ハイタッチこそなかったものの、サマーフェスを彷彿とさせます。
シンデレラプロジェクトの円陣もサマーフェスと同じ。でも、Pの「楽しんでください」はこれまでにはなかったセリフ。自分たちのことでいっぱいいっぱいだったこれまでとは違って、やや余裕が出てきたということでしょうか。また、今回から「楽しむこと」がプッシュされはじめました。楽しめなければ笑顔にはなれない、というわけです。これは次回以降もキーポイントになりそう。前回に引き続きアスタリスクを引っ張ろうとする李衣菜や蘭子に合わせたセリフを言うPなど、各自の成長がうかがえます。
凛の楽屋を訪れる未央のシーンは、前回の清算ですね。まだ秋のライブは終わっていないのに、早くも次のことを考えているのは、今回は出番がないこともあるでしょうけど、大きく前進しているとわかります。ちなみに、凛の衣装はゲーム版のSR+のモノですが、頭につけている花はキキョウでしょうか。であれば、花言葉は「気品」「誠実」「従順」、そして「変わらぬ愛」。このシーンでもnew generationsのことを考えているので、ピッタリなのかも。
シンデレラプロジェクトのトップバッターは蘭子と小梅のユニットで、曲は蘭子の持ち歌「華蕾夢ミル狂詩曲~魂ノ導~」(ツボミユメミルラプソディーア アルマノミチビキ)。続いて美波のソロも持ち歌の「ヴィーナスシンドローム」。これはサマーフェスと同じ順番なのですが、ソロだった蘭子がユニットになり、倒れていた美波が1人でステージに立つ……というリレーは感慨深い流れですね。
そこからは2ndシーズンの各ユニット回で使われていたエンディング曲のラッシュ、そして全体曲「GOIN’!!!」へ。凛とアーニャはともかく、未央と卯月は参加できそうな気もしますが、全体曲だけ参加してnew generationsとしては不参加、ってことになると、ファン視点だと「なんで?」ってなりそうだからマズイのでしょうか。物語的には、ここで卯月に成果をあげさせるわけにはいかないのでしょうけども。
一方、緊張で押し潰されてしまいそうなクローネの面々は、第3話で美嘉のバックダンサーをやるときの未央たちと重なります。周子に弄られている橘はともかく、鷺沢さん死んじゃいそう。文香と橘が手を繋いでいるのはラブライカとの対比ですが、それでも文香が倒れてしまうのは、彼女たちの能力の問題というより、初ステージの舞台が大きすぎたためでしょう。後のシーンで文香が復活したとき、橘が名前で呼ぶことを許して2人の距離が縮まりますが、絆が深まるのは試練を乗り越えてこそ。
文香のダウンで戸惑うクローネと、即座にトラブル対応に走れるシンデレラプロジェクトとの違いは経験の差。サマーフェスで美波がダウンするアクシデントも乗り越えていますし、そうでなくても場数が違いすぎます。即座にPを呼びにいく未央とスタッフに声をかけようとする凛は、各自で動けることの描写ですが、おそらく凛は自分たちが先に出ると提言しようとしたのでしょう。14~15話でPを支えようとするアイドルたちが描かれていましたが、もうお互いを信頼した支え合いになっていますね。
急遽トークで場をつなぐシンデレラプロジェクトの面々は、13話で美嘉が繋いでくれた場面との対比。もともとマイクパフォーマンスに定評のあるアスタリスクだけでなく、今回はバラエティー番組の経験をもつCandy Islandと凸レーションが加わってさらに強化。(Candy Islandのトークは凛たちの裏で流れていたので物語的には目立ってませんが) 彼女たちは週一のTV番組のレギュラーなんだから、そりゃあ強い。バラエティー路線を切った常務のプランでは、こういう対応ができません。といっても、クローネのメンバーを自由にしていいのなら、全然やれそうですけれども。
緊張がピークに達する加蓮と奈緒にアドバイスを送る未央と卯月は、3話の美嘉のステージとの対比。あのとき誰よりも緊張していた未央が、先輩から教わったテクニックを伝授します。少々オーバーアクションなのは演劇の成果ですね。こうして先輩から後輩へ、脈々と伝統が受け継がれていくのでしょう。凛の方はというと、少し前のシーンで卯月に対して「ちょっと顔見ときたかっただけ」なんて言ってたのに、卯月に「がんばって」とエールを送られてかなり嬉しそう。でも、それもそのはず。トライアドプリムス行きを最後に押してくれたのは卯月でしたし、何より凛がアイドルになるキッカケも卯月でしたから、相当うれしいはず。
出番直前、Pの「私は、あなたのプロデューサーですから」は、凛を象徴する1話のキメ台詞「アンタが私のプロデューサー?」に対する返答にもなっているステキなやりとり。そしてステージの後は最高の笑顔。前々回から今回までの凛の物語は、彼女の持ち歌である「Never say never」の「振り返らず前を向くよ だけどいつまでも見守っててね」と重ねられているようにも思えます。
トライアドプリムスのライブシーンの最中には、シンデレラプロジェクトとクローネの親交が進んでいます。これまでの経験を活かして、すっかり先輩として振る舞っているのがなんとも頼もしい。唯にクローバーのおまじないを教える智絵里は18話から、笑顔を教えているアーニャは10話の凸レーション回のラストから。円陣での「ファイト!おー!」もシンデレラプロジェクトと同じなので、おそらくこれも受け継がれたのでしょう。リーダー格の奏が「お互いどう動いているのか、わからなくて」と話しているので、やはりクローネは前回のエンディングでも描写されていたように、親睦は深まっていない様子。個々の能力ではなく、絆を築き上げるだけの経験が足りていないようです。
シンデレラプロジェクトの成長は、美嘉の出る幕がないことが何よりの証。先輩として、やるべきことも言うべきことも、もうないって感じですね。これまで美嘉がやっていたことを、すべてシンデレラプロジェクト自身でやってのけています。
そういえば、クローネの全体曲は流れませんでしたが、これは終盤のお楽しみでしょうか。舞踏会でピンチに陥るシンデレラプロジェクトを、今度はクローネが助ける展開が期待されるところです。
ちゃっかり階段を上っている美城常務
今回、Pと常務の明暗を分けたのも経験の差。現場で舞台裏を経験しているかどうかが違ったのです。しかし、トラブルの発生により、舞台裏に足を運んだ常務は、現場を目の当たりにすることになります。実は、特等席から出ていく際、常務も階段を上っているので、彼女もまた成長しているということなのでしょう。
前半、特等席からステージを眺める常務は、アイドルのことばかり話していました。成果の確認するためですから、当然かもしれませんが、大事なのはファンの反応の方です。舞台裏にやってきた常務は、そこではじめてファンの歓声にハッとしています。会場の最後尾にある特等席とは違って、歓声を正面から受ける舞台裏では、全然違うのでしょうね。今西部長もライブを「感じる」と表現していますし、観賞するのと肌で感じるのは別物。かつてPや未央たちも、客の数ばかりに気を取られて失敗していますが、常務もここで過ちに気づくキッカケが与えれらたことに。
現場の重要性を理解した常務は一歩前へ進むことになります。終盤の卯月たちが写真撮影をしているシーンでは、隣で奏も撮影をしているのですが、ここに常務の姿があるんですよね。以前では考えられないことです。現場に任せていると、大人路線のはずがギャルピースをしていたり、学園モノのはずがスモックを着せられたりしますからね。現場は大事。
今西部長の語るように、「星を見るのに最高の場所」は舞台裏のこと。アイドルたちとは違い、彼らにとっての星はアイドルたちのことであり、星がもっとも輝くのは、彼女たちが絆で支え合っている瞬間に他なりません。一歩引いて考えてみると、そもそも「アイドルマスター」は、アイドルたちの舞台裏を描くことで、感動のステージを生み出す作品なわけですから、視聴者であるボクたちは、ずっと最高の場所から星を見ていることにもなるのでしょう。なんつってもプレイヤーの1人1人がPですしね。
それにしても、今西部長の話をムスっとした表情で聞いていたり、初めての舞台裏に「知らなかったそんなの…」みたいな顔をしていたり、「ライブは成功したけどお前のおかげじゃないからな!」みたいなツンツン発言をしたりと、なんだかもう常務が愛おしくなってきました。だいぶかわいい生き物じゃないですか、この人。とはいえ、Pの掲げる「Power of Smile」を認めないのは仕方ないんですよね。まだ観客の笑顔は見れていませんから。それと何より、常務を笑顔にできなくては、笑顔の力を証明したことになりません。
卯月を連れ戻す「ガラスの靴」とは
華々しく成果を上げる面々の中で、たった1人、成果を上げられていないのが卯月。これまで積もりに積もった爆弾の布石がついに着火します。彼女は、どんどん先に進み続けるメンバーたちから置いていかれている無力感と焦燥感の中で、どうすればいいのかわからなくなってしまいます。今回は気合いを入れて挑んでいるとはいえ裏方は裏方。ライブが盛り上がれば盛り上がるほど、成果のない自分と比較して追い込んでしまうばかり。結局、仕事を楽しめなくなってしまった彼女から、笑顔が失われてしまうことに。
養成所出身なのにダンスは1番下手であったり、大きな成長が描かれていなかったりと、布石は1stシーズンから着々と積まれていました。この流れは2ndシーズンに入ってからも続き、15話の真っ白の企画書、19話の凛と加蓮と奈緒の歌唱力、21話での未央の演技力など、入念に積み上げられてきました。さらには、20話でメンバーたちが次々と新たな挑戦へ向かう中、新しいことを考えるのが苦手なため、1人だけ何もできないままでした。
今回のライブは裏方として参加していて、シンデレラプロジェクトではなく他部署の手伝いがメイン。舞台裏などのステージに近い場所ではなく、控室のようなやや離れた場所にいることが多くなっています。未央と凛が呼びにいったとき、なんともいえない表情をしているので、意識していたのか無意識だったのかはわかりませんが、避けようとしていたのかも。このせいで、未央が凛に「new generationsが大好き」と語る場面に居合わせられなかったのは痛い。この言葉を聞けていれば、後の展開も大きく変わったでしょうに…。
ライブ後、今回の新体制で引き続き活動することを告げられると、1人だけ「えっ」となっている卯月。秋の定例ライブが終われば、また元の状態に戻れると、心のどこかで期待していたのかもしれません。でも、進み始めた時計は元には戻りません。ちなみに、今回の時計の演出は、気づきにくいところで刻々と進んでいます。まず、仕事中の卯月のところへやってきた凛が去っていくシーンの裏で、通路の時計が58分に。そしてライブ後、夜の会場前の時計が59分に。これまでのように誰かが成長を示しているというよりは、まるで卯月爆発のカウントダウンのよう。そしてついに魔法が解ける時刻、12時がやってきます。
魔法の解けてしまった卯月は、お城から階段を下りてしまいます。本作は階段を使った演出が何度も使われてきましたが、下りる場面はかなり少なく、6話の未央など、本当に追い込まれている場面だけになっています。つまり、ここはかなりマズイ場面。Pの「調子がよくないようでしたので…」も、7話で未央のことを「本調子でないようなので」などと話していたことと重ねられていて、事態の悪さが示されていますが、今回はまた状況が違います。小日向美穂の「お仕事、楽しいから」は大きなヒントですが、どうやって楽しめばいいのかはわからないまま。Pの「挽回しましょう」も、すでにずっと挽回するためにがんばっていた卯月にとってはバッドコミュニケーション。凛に至っては会話すらできていません。
このシーンは「アニマス」第24話の春香と律子を彷彿とさせます。美希に「全然楽しそうじゃない」と言われるところも含めて、かなり近い感じ。春香の望みがみんなと一緒にステージに立つことだったことも、卯月が凛と未央と一緒にやりたいのと同じです。違っているのは、シンデレラプロジェクトはバラバラになろうとはしていないこと。卯月が気づけていないだけで、むしろ結束は強まっているはずです。とはいえ、意図的に境遇を被せてありそうなので、ここからどういった対比をみせてくれるのか、楽しみ。
童話「シンデレラ」では、この後ガラスの靴を携えた王子様がやってくるわけですが、『シンデレラガールズ』のガラスの靴は第7話で砕け散ってから1度も登場していません。アイドルたちは、誰かの魔法の力ではなく、自分たちの力で歩み始めたからです。
1stシーズンの考察は以下で。
1stシーズンのOPでは、「誰か魔法で変えてください ガラスの靴に」でしたが、2ndシーズンは「捜していたのは12時過ぎの魔法 それはこの自分の靴で 今進んで行ける勇気でしょう?」で、衣装の靴から裸足になっていることからも、本作でアイドルたちが目指すべき方向性がうかがえます。
つまり、卯月はここから自分の力で立ち直らなければなりません。救われるのを待っているのであれば、第1話の時点から何も成長していないことになってしまいます。とはいえ、それが彼女1人の力である必要はないでしょう。これまでの活動を通して築き上げられた絆の力が、卯月を救うカギとなるのではないかと。
というのも、歌もダンスも平凡で無力感に苛まれている卯月ですが、周りのメンバーから役立たずだと思われているわけではないからです。それどころか、彼女はこれまでに何度もピンチを救っています。どれも無意識にやっているため、本人の自覚はなさそうですが、実績的には大活躍しています。たとえば、7話で弱気になっていたPに笑顔を思い出させてシンデレラプロジェクト解散の危機を救ったり、15話でも白紙宣言に動揺する未央や凛たちをブレない「がんばります」で救っています。特に凛にとっては、アイドルを目指すことになるキッカケであり、トライアドプリムスへ背中を押してくれた存在でもあるため、もう恩人なんですよね。なので、卯月を救うためのキーパーソンは凛になりそうな予感。
次回のサブタイトル「Glass slippers」はそのまんま「ガラスの靴」なのですが、前述のとおり、ガラスの靴は砕け散ったままです。OPに沿うなら、ガラスの靴になるのは勇気であり、そしてその勇気を生み出すのは仲間との絆、といったところになるのでしょうか。ちなみに、今回プロジェクトルームに置いてあった花は藍で、花言葉は「美しい装い」、そして「あなた次第」。
それにしても、真面目な人が細かいダメージを蓄積させて周囲からは見えないところで潰れていく、って、なんというか現代的といいますか、リアリティがありすぎるといいますか、見ていて本当につらいですね……現実だと鬱病で二度と出勤してこないルートだこれ。もちろん、物語だから救われることはわかっているのですけれども。「アニマス」の春香もそうでしたが、追い込み方が巧妙すぎて恐ろしい。とはいえ、卯月が追い込まれること自体は予定どおりですから、ここからがいよいよ佳境ですね。
※2015/9/15追記
落ち込む卯月にPと凛、未央が絡んでくるのは妥当ですが、ちらりと映る常務が気になるところ。時計の針は55分なので、Pが小日向美穂とのユニットを提案する前の状態でしょうか。
続き、23話の考察と感想は以下の記事でどうぞ。