『とある魔術の電脳戦機(バーチャロン)』感想 その幻想は現実になっていただきたい

『とある魔術の禁書目録』と『電脳戦機バーチャロン』がなぜかコラボレーションして生まれた本作。あまりにワケのわからない取り合わせなので、コラボというか悪魔合体といいますか。とはいえ、『バーチャロン』の大ファンであるボクとしては無視できない存在。さっそく書店に赴いて1冊買ってきました。結論から言うと、予想外に楽しめました。

第1印象は「厚い」。書店で平積みされていた本書を手にとっただけでわかる分厚さ。もともとライトノベルはさっぱり読む機会がないのですが、このページ数は全然ライトじゃないのでは。しかし、ひとたび読み始めてしまえばスラスラと一気に読み進めてしまえるのがライトノベルたる所以なのか。どこかのスナック菓子ではありませんが、止められない止まらないとばかりに一晩で読み終えてしまいました。なるほど、こういうものだったのね。

そもそも『禁書』と『バーチャロン』ってターゲットの重なるところがあるんだろうか?と疑問に思わなくもないのですが、『バーチャロン』シリーズは96年に生まれて今年で20周年(!)で、最後の『MARZ』が2003年。対して『禁書』の第1巻は2004年なので、微妙に年代がズレてる。『禁書』のアニメ第1期が放送されたのは2008年10月から2009年3月で、XBLA版『オラトリオ・タングラム』(以下、オラタン)の配信は2009年4月でニアミス。とはいえ、『禁書』の読者層は20代前半の男性が圧倒的に多いそうなので、彼らが学生自体に『バーチャロン』を嗜んでいればピッタリなのかも。

全然違うようで大体「バーチャロン」

ストーリーは、『禁書』の世界に『バーチャロン』がやってきた、という感じで、上条当麻やインデックス、御坂美琴や一方通行など、お馴染みのキャラクターたちが『バーチャロン』でバトルを繰り広げる内容になっています。といっても、筐体に向かってツインスティックをガコガコするわけではなく、プレイするのは完全新作な『バーチャロン』。羨ましい。

『禁書』世界の『バーチャロン』はアーケードゲームではなく、スマートフォンをさらに進化させたような超便利デバイス用のゲームで、HMDでモニターもできるVRな内容になっています。しかも、バトルを行うフィールドは現実の世界。AR(拡張現実)のようにデバイスを通さないとバーチャロイドが見えない、ということもなく、”現実に”巨大なバーチャロイドを呼び出して戦うというセガ驚異のテクノロジー。さらには、現実世界で巨大ロボバトルを繰り広げても現実のモノや人には一切干渉しないので、カーボン製の戦車で戦うより安全そう。そしてCVゆかな(たぶん)のナビゲーションAIまで付いて基本無料(というか課金要素の描写あったっけ?)という、まさに夢のゲームとなっております。

夢のようといえば、現実世界で巨大なバーチャロイドが動き回っているのだからフェイイェンをローアングルから眺め放題。そこで”冒涜的な気持ち”になれる上条さん、君にはこちら側の才能がある。いらっしゃいませ。数々のラッキースケベを経験してきたラノベ主人公といえど、巨大少女型メカは新境地でありましょう。巨大ロボはいいぞ。

とある魔術の電脳戦機(バーチャロン)より、見上げるフェイイェン

で。そこまでいくともう『バーチャロン』でもなんでもなさそうに聞こえるかもしれませんが、作中ではめちゃくちゃ『バーチャロン』してます。ジャンプしたらロックオンするし、ダッシュ中にターボボタンを押せばキャンセルするし、バーチカルターンするし、3種類の武装はゲージの制限つきだし、どこからどうみても『バーチャロン』。物語の序盤、初心者の上条当麻がインデックスに”初狩り”されまくりながら基本システムを学んでいく場面は、往年の『バーチャロン』プレイヤーにとってはニヤニヤしっぱなしです。表紙絵のテムジンからもわかるように、ゲームシステムは全体的に『オラタン』寄りです。『オラタン』は個人的にも1番遊んだタイトルなので嬉しいかぎり。

ただ、既存の『バーチャロン』と決定的に違うのは、体力ゲージの削り合いではなく、有効打によるポイント制の競技になっていること。『バーチャロン』の基本は「ハイスピード鬼ごっこ」なんですが、『禁書』世界ではそうではなくなっています。ネガティブペナルティも導入されているので、1発当てて逃げ回るプレイスタイルはダメ。なので、かなりの別ゲーになりそうですが、こういった変更はセガ側が用意したルールブックに書かれているのだとか。コラボ企画のためにルールブック作っちゃうなんて、やっぱどうかしてるぜあの会社(絶賛)。

そんな感じでかなり羨ましい『禁書』世界の『バーチャロン』ですが、もちろんただゲームをやっているだけではありません。科学と魔術が交差するときに物語が始まっていましたが、今回やってきた『バーチャロン』は科学でも魔術でもない別次元の扱いで、仮想と現実が交差する物語となっています。そういえばアルファベット表記だと「VIRTUAL-ON」でしたね。上述のゲームシステムだけでなく、電脳虚数空間だのリバースコンバートだのタングラムだの、世界設定も多く盛り込まれています。ヒロインの富良科凛鈴(ふらしな・りりん)なんて、名前だけでもう…。考えてみれば時空因果律制御機構なんて別作品とクロスオーバーするにはもってこいの設定かも。

その”幻想”をブチ殺すのはちょっと待って

ともあれ、物語は『バーチャロン』の設定を取り込んで『禁書』の文法で描かれるロボットモノになっています。御坂ライデンがレールガンを撃っていたり一方通行スペシネフがビームを捻じ曲げていたりと能力バトル全開の中、懐に潜り込んでソードをブン回す上条テムジン。左ターボボムや縦カッターどころか前ダッシュビームすら撃たずに走り込んでくるとか、ある意味恐怖。バスターやサーフィンラムがいつ飛び出すのかとワクワクしながら読んでいたのですが、最後にモノをいうのはやっぱりパンチ。そういやテムジンのターボ近接はパンチだった。

かくして、夢のようなクロスオーバーも最後にはやっぱり”幻想”をブチ殺されて幕引きとなります。今回はVRゲームっぽい『バーチャロン』が描かれていましたが、ひょっとしてDr.ワタリの中でもそれっぽい新作が練られつつあったりするのでしょうか。いやいやまさか…でももしかしたら…。願わくば、この幻想だけはブチ壊されませんように。

鎌池和馬
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス (2016-05-10)
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