【ウマ娘】マンハッタンカフェの育成シナリオが良すぎたので感想を書く

ウマ娘のマンハッタンカフェの育成シナリオがめちゃくちゃよかったんですよ。正直に言っておくと個人的にマンハッタンカフェというキャラクターに思い入れがあったわけではないんです。いや運よく完凸できたSRサポートカードにはお世話になってますけど、ともかく今回ガチャに入ったときも「ほーん長距離向けかー、ライブラ杯あるし見た目も嫌いじゃないし、いっちょ引いときますか」くらいのテンションだったんですよ。で、これまた運よく引けちゃったものだから「とりあえずやってみますかー」って感じで育成シナリオをやったんです。そしたらこれがめちゃくちゃ良くて。今は「なんでこれがガチャで引けた人しか見られないの!? 全員に配りなさいよ!!」と思ってます。ともあれ、今ではマンハッタンカフェはボクのフェイバリットです。

これから話す内容は重大なネタバレが含まれます。なので、今後マンハッタンカフェをお迎えする予定の人、それからお迎え済みだけど育成シナリオをやっていない人は読んではいけません。これらの条件に該当する人で特にアグネスタキオンのトレーナーの方は猶更です。クソッ、もどかしいぜ…!

もっとも絡むのはやっぱりこのウマ娘

マンハッタンカフェのシナリオにもっとも絡むのがアグネスタキオンです。元ネタからして同世代ですし勝負服も白と黒で対になるようなデザインだし、タキオン側のシナリオでも絡んでいたのでなんとなく予想がつくところかもしれませんが、タキオン側での絡み方とは比べ物にならないくらい絡みます。なので、アグネスタキオンのトレーナーの方々にはぜひともマンハッタンカフェのシナリオを体験していただきたいところ。タキオン編の”別ルート”ともいえるシナリオになっています。

マンハッタンカフェの話に入る前に、まずアグネスタキオンの育成シナリオについて軽く振り返っておきましょう。タキオンはウマ娘の可能性を追い求めるマッドサイエンティスト。スピードのその先を見てみたい、けれども自身の脚は脆くて耐えられそうにない…。だから脚を補強して自分で走る”プランA”と他者に目標を達成させる”プランB”を用意押してトゥウィンクルシリーズに臨みます。そして自身の限界を悟り、プランBへ移行しようとするのですが、トレーナーからの”期待”に押されてプランAに踏みとどまり、最後まで走り切る…、というのがタキオンの育成シナリオでした。

一方、マンハッタンカフェのシナリオにおけるタキオンは皐月賞の後、早々にレースから身を引く判断をします。タキオン編ではトレーナー(=プレイヤー)がいたから走ることを辞めない判断ができたのですが、カフェ編ではトレーナーはカフェについていますからね。カフェ編のタキオンはトレーナーと出会わなかった場合のタキオンであり、プランBを選択した場合のタキオンであるわけです。とはいえ、これは史実どおりとも言えます。皐月賞の後も走り続ける方が”if展開”ですからね。

で、早々に離脱したタキオンが何をするかといえば…、なんとカフェのアドバイザーに就任します。もともとタキオン編でもプランBになった場合の対象としてカフェにも目を付けている描写はあったんですよね。だからここでカフェのアドバイザーになるのは自然な流れといいますか、伏線の回収といえるかもしれません。だからこそタキオンのトレーナーには見ておいて欲しいんですよね。さらにいうと、タキオン編ではトレーナーの存在がif展開への鍵となっていたわけですが、カフェ編ではトレーナーではなく、タキオンがif展開への鍵となっています。これがまたいいんですよ…!

ちなみに、カフェとタキオンは寮では同室ではありませんが、学園内では同じ部屋をあてがわれている描写があります。旧理科準備室を半分ずつ、片やカフェのスピリチュアルなゾーン、片やタキオンの実験室となっているようで、背景画もしっかり用意されています。タキオン編では出てこなかったと思うのでおそらく新規作画のはず。霊感系少女とマッドサイエンティスト、一見すると正反対のようでどちらも”はみ出し者”の2人が同じ部屋を二分して暮らしているという設定、いいですよね…。

だいたい『お友だち』のせい

マンハッタンカフェのシナリオの話に戻しましょう。カフェの目標は彼女にしか見えない『お友だち』に追いつくこと。タキオンが科学でウマ娘の可能性を追求していたのとは対照的ですね。『お友だち』が見えているのはカフェだけですが、その影響は周囲にも及ぶため、怪談のような描写も多くなっています。これは本シナリオの特色といえるでしょう。そして、カフェの前を走り続ける『お友だち』とはいったい何者なのか? そもそも何が目的なのか? 本当に信じていいのか?という疑念が常につきまとうように仕向けられています。『お友だち』の存在が物語を牽引する強烈なフックになっているわけですね。だからとにかく先が気になるし、先が気になるってことはおもしろいんです。もちろん、先にあるオチがしょぼいとダメなんですけども、今回はそこもよかったですからね。

何度も挿入される怪談のような描写ですが、ちょくちょくガチめの描写も混ざってるんですよね。個人的には好きです。前々から思っていたのですが、たぶん『ウマ娘』のシナリオライター陣に怪談好きがいますよね? アニメ版「うまよん」の肝試し回とか絵柄はかわいいけどプロットはガチ怪談でしたし、イベント配布のダイワスカーレットのエピソードに出てくるマーベラスサンデーも普通に怖いですし。短い描写でありながらもツボを押さえているのでゾワリとさせてくるんですよね。おそらく隙あらば怪談を仕込もうとするライターがおられるのでしょう。もしかして、その人も『お友だち』に突き動かされている…?

ともあれ、霊感系のキャラクターであるカフェの周りには不可思議な現象がつきまといます。そしてそれが”霊障”として彼女の身体を蝕んでもいる設定になっています。爪が割れたり体重がありえないほど増減したり…。でもこれ、史実らしいんですよね。もちろん霊障の方ではなく身体の方。そのせいでクラシックの春は休養していたそうで、ゲームでも秋から始動するスケジュールになっています。とはいえ、ゲームでは出走しようと思えばできるし、なんなら勝てる。でも出走しない方が自然な流れになっています。特に日本ダービー前の描写が印象深いんですよ。

一生に一度の日本ダービーですから、カフェは無理をしてても出ようとするわけです。トレーナーとしてもウマ娘の夢を止めるわけにはいかない。そこでカフェを止めるのがタキオンなんですよね。無理なトレーニングを止めようとするタキオンに向かってカフェは「アナタに……何が……。」と反論を試みるのですが「……わかるとも」と返すタキオン。カフェ側のシナリオではカフェもトレーナーもタキオンがレースから離れた理由は知らないのですけれども、タキオンのシナリオを見てきたプレイヤーからすればその理由を知っていますからね。彼女の言葉の重さが変わり、深みも増します。育成シナリオ的には日本ダービーはファン数を稼げるポイントだし、ぜひとも出ておきたいレースではあります。でも、ボクにはカフェを 日本ダービー に出走させることはできませんでした。…2回目以降は出すと思いますけど。

史実から”if展開”への鍵は

ともあれ、秋から本格始動したカフェは菊花賞、有馬記念、そして翌年春の天皇賞を勝っていきます。これは史実に沿った展開ですね。そしてここからがカフェ編の山場、”if展開”への分岐点です。カフェ本人の希望でフランスへ遠征しようとするのです。史実どおり、凱旋門賞へ挑もうとするわけですね。史実では、凱旋門賞に出走するも13着に終わり、レース後に屈腱炎が発症したために引退しています。しかしゲームではそうなりません。ギリギリのタイミングで海外遠征を中止するからです。ここで中止の判断をするのはトレーナーなのですが、その判断を促すのはタキオンなんですよ。だから”タキオンがif展開への鍵”なんです。

このシーンのタキオンがいいんですよ。仮に海外遠征が失敗しても実験の1つだからどうということはない、とかなんとか言いながら、えらく悲しげな表情を浮かべていて明らかにカフェのことを心配しているんですよね。アグネスデジタルが見ていたら鼻血出してブッ倒れているところです。しかも、単に中止しろと言ってくるわけでもないんですよ。このままだと競争生活が終わってしまうかもしれないが夢に殉じてもいいのか? 優先すべきは何か? 君は何を望むのか? と問うてくるわけです。トレーナーの脳裏に次々に浮かび上がるカフェとの思い出、そして本当にこのまま突き進んでいいのかという迷い。再び「”最優先事項”──はなんだ?」と突きつけるタキオン。そこで画面に表示される一択の選択肢。

こんなの力いっぱい押すしかないじゃん! ゲームにおける一択の選択肢の超絶有効な使い方を見た気がします。ボタンを押す手に感情がのる描写は良い描写です。にしても、ここはトレーナーからこの言葉を引き出すためにあれやこれや言ってくるタキオンですが、たぶん彼女自身も同じ気持ちだったんだろうなと思うんですよね。単に実験対象の1人だというならどうなろうと知ったこっちゃないわけですし、止める理由もないんですよ。でもタキオンは止めようとした。それは彼女にとってもカフェが”最優先事項”だったから。もうね、アグネスデジタルだったら3回は死んでますよ、このシーン。

最後に競うのもやっぱりこのウマ娘

さあここからif展開。再び国内のレースに挑んでいくのですが、いよいよ目標だった『お友だち』に手が届きそうになります。ウマ娘の可能性、限界のその先へ到達できそうになった彼女を見て喜んでいたタキオンですが、突如豹変。ああ、やっぱりタキオンが最後の相手として立ちはだかるのか、という予想できた展開ではあるものの、この有馬記念でのやりとりがめっちゃいいんですよ。

思えば、タキオン編でも最後に競うことになるのはカフェでした。タキオンはウマ娘の可能性の扉を開く最後のピースはライバルの存在だと気付いたので、カフェのことを「ライバル」と呼んでいました。そして今回カフェ編では、カフェがタキオンのことをライバルと呼びます。でもタキオンはこれを否定するんですよね。単に競い合うだけの関係じゃないし、自分のことを導いてくれもした。だからこれはライバルではない。『お友だち』なのだと。…なんですかこのやり取り。痺れるんですけど。 最終決戦においてお互いがお互いの目標になるという構図、あまりにも美しすぎる。アグネスデジタルじゃなくても死にそうです。

着地もウルトラC

エピローグもめっちゃいいんですよ。周囲から気味悪がられて距離をおかれていたカフェの元に後輩たちが集まってくるようになってるんですよね。そこでダートの走り方とか逃げのコツとか専門外のことを聞かれながらもコーヒーを振る舞いながらやさしく教えていくんです。おそらく史実で種牡馬として多様な活躍を見せる馬を排出したことを示しているのでしょうけれど、見えない『お友だち』を追いかけてきたカフェが今度はみんなの『お友だち』になっているって感じ、すごくいいですよね。

そして最後に仄めかされる『お友だち』の正体。ヒントとなる描写は、トレーナーが聞いたかもしれないウマ娘の『種』の声、マンハッタンカフェとよく似ていて究極の速さを誇るウマ娘の寓話、そしてエピローグのサブタイトルが「静かなる継承者」。となるともう、アイツのことじゃん!ってなりますよね。カフェだけでなくタキオンを含む多くの馬の父である彼。もちろん『ウマ娘』では父ではないのでしょうけれども。ともかく、”彼”であるならカフェの育成シナリオ(というか設定)って『ウマ娘』全体にとってもめっちゃ重要なのでは?という気もしてきます。このウマ娘の寓話、どこかで開示される機会はあるのでしょうか。

※2021/10/22追記 そういえば、カフェの走るレースで『お友だち』が導いたライバルたちもヒントの1つでしたね。スペシャルウィーク、サイレンススズカ、ゼンノロブロイ、そしてアグネスタキオン。途中の有馬記念で競うことになるテイエムオペラオーとメイショウドトウの2人には反応しないこともそういうことなのでしょう。

そんなわけでマンハッタンカフェの育成シナリオ、めちゃくちゃよかったです。アグネスタキオンのシナリオと合わせておもしろさ100倍です。霊感系スピリチュアルウマ娘とマッドサイエンティストウマ娘という尖った設定のキャラクターで史実を絡ませつつ、そしてお互いのシナリオも関連させながらこれほど見事な着地を見せるとか、どんなウルトラCでしょうか。しかしこんな素晴らしいシナリオがガチャで引き当てられた人しか見られないとは、やっぱりガチャは悪い文明では?と思ってやみません。もうこれ映画化しません? ダメ?