実はプレイしたことがなかった『Minecraft』を今さら遊んだ話

実はやっていなかったゲームというものがある。結構ある。中にはものすごく話題になったものや定番として長く遊ばれているものもある。ゲーマーならやってて当然、みたいなゲームもやってなかったりする。どうしてやらなかったのか?と聞かれても答えられない。だって理由は特にないからだ。何かをやるのに理由は必要かもしれないが何かをやらないのに必ずしも理由があるわけじゃない。そうはいってもなんとなく心のどこかで引っかかっているのも事実だ。ごちゃごちゃ考えるよりもまずはやってみよう。思い立ったが吉日。というわけで、今回は『Minecraft』をプレイしてみたのである。

ボクの『Minecraft』についての知識は、ランダム生成のオープンワールドであること、ブロックで家とか作ること、緑のヤツが自爆すること、くらいだっただろうか。そうだ、クリアがないらしいってことも知ってる。外野から見ていると、街ひとつ丸々作り上げたとかサグラダ・ファミリアみたいなのを作ったとか、そういうすごくクリエイティブな側面の印象が強いけど、たぶん自分のプレイには関係ないだろう。普通の人が普通にプレイするだけなのだから。しかしこの”普通のプレイ”というのがわからない。こればっかりはやってみるしかないだろう。

Hello World

ではさっそくゲーム開始。開始とともに生成された世界にポンと放り出され…、え?いきなりゲーム開始? チュートリアル的なものがないまま開始とはちょっと驚き。必要な情報はヘルプから参照できるようだけど、量が多すぎてボクの頭では処理できる気がしない。目の前には見渡す限りブロックで構築された世界。ゴツゴツしているようでも草木の緑が穏やかで心地よい。しかし何の道具も持たず、手ぶらで何しろっていうんだ。とか思っていたら素手で木も土も粉砕できた。すげえな主人公。

ブロックを生み出す方法がわかれば次は家だ。確か、夜になると敵が出てくるらしいので身を守るための家が必要だ。四方を壁で囲んで天井で覆えば家の判定になるはず。どうしてこんなこと知ってるかって? 『ドラゴンクエストビルダーズ』はプレイ済みだからさ。まずはパンチで粉砕した土のブロックを積み上げていく。それからパンチで粉砕した木を使って作業台を作る。これも『ビルダーズ』でやった気がする。作業台でいろいろ作れるはずだがまずはドアだ。それにはもっと木が必要だ。ひたすら木にパンチする。パンチは見た目よりリーチが長いようで遥か上の方まで叩ける。すげえな主人公。もしかして拳から衝撃波とか出せる方だったりします?

どのくらいの時間経過で夜になるのかわからなかったのでとにかく急いだ。急いで土を積み上げてドアを付けた。そんなものを家だと言い張られても困りそうだが、このゲームにおいてはこれが家なのだ。たぶん。なんとか夜になる前に作れたものの、灯りになりそうなものは間に合わなかった。だから部屋の中は真っ暗だ。夜が更けてくるとあたりから怪しいうめき声が聞こえてくる。ドアについた小窓から覗くと何かが蠢いているのがわかる。あれが敵なのだろう。家が間に合って本当によかった。でも真っ暗だ。外にも出られず、家の中にも何もない。うめき声のせいでただただ不安だけが募っていく。なんだろう、この気持ち。一人暮らし初日か?

Let there be light

初めての夜を乗り越え、朝が来た。しかしこんな生活はもうごめんだ。まずは灯りを作ろう。それから夜の間にできることも見つけておきたい。灯りになりそうなものはたき火かたいまつだが、どちらも石炭が必要らしい。石炭といえばやはり掘るしかないか。となると掘るための道具がいるだろうからシャベルを作ってみた。パンチよりもサクサク掘れる!…と思ったのもつかの間、思ったより掘れない。どうやら石の層には歯が立たないようだ。今度はツルハシを作ってみる。うん、これならガンガン掘れそうだ。ほどなくして石炭にありつけたのでさっそくたいまつを作って部屋に置いた。まず光あれ、だ。神様もそう言ってる。

次は夜にやることを考えておこう。外は危ない。作業台で剣も作れるようだけど、夜通し戦い続けるのは無理だろう。ベッドがあれば寝てりゃいいんだろうけど、素材をどこで手に入れたらいいのかわからない。家の中でできることを考えよう。家の中も掘れる。なら掘って地下室を作ろう。いいよね、地下室。秘密基地って感じがする。ドラえもんの地下工事マシンで庭の地下に秘密基地を作るエピソードとか、のび太と竜の騎士で地底の空洞に部屋を作るシーンとか大好きだ。昔から地下に秘密基地が欲しかった。今なら、ここでなら叶うんじゃないか? 幸い、ここにはシャベルもツルハシもある。ドアを閉めておけば敵も襲ってこないだろう。ボクは一路地下へと掘り始めた。

地底の奥底で

床を掘り始めてからどれだけの時間が経っただろう。もう何日も空を見ていない気がする。今が夜なのか昼なのかもわからない。最初は地下に広めの空間を作って部屋にした。そこに作業台やかまどなどを置いてドアもつけた。無駄にいくつか部屋に分けてみたりもした。うん、秘密基地っぽい。ここまではよかったんだけど。さらに資源を求めて掘り進めることにしたのがまずかった。ドアを閉めているから大丈夫だと高をくくっていたのも悪かった。なんか壁の向こうからうめき声が聞こえてるなとは思っていたんだ。悲劇は暗闇からやってきた。ダメージを食らっているような音がした。そんなバカな。ここは”我が家の地下”だぞ? 慌ててたいまつを壁に灯すも敵の姿は確認できず、ボクは死んでしまった。

幸い、このゲームはすぐにリスポンできるようだ。ただし所持品はすべて失うらしい。まさかの全ロスト。世界的な大人気ゲームがこんなにシビアなルールだったとは。しかし慌てていたので手ぶらのまま死亡地点へ走り出してしまった。犯人は犯行現場に戻るものだがどうやら被害者も同じらしい。現場に戻ると所持品だったものが散らばっていた。なんだ、回収できるじゃん。やっぱり世界的大人気ゲームだぜ。所持品を拾って一安心したら現場検証開始だ。くまなく調べてみると、素材目当てに掘り進んだ横穴が外と繋がっていたらしい。今は青空が覗かせているがおそらく掘っていたときは夜だったから見落としていたのだろう。この横穴を塞いでしまえば大丈夫。弓を持ったガイコツがいた気がするけど知ったことではない。今はもう壁の向こう側だ。

旅立ち

あれからいったい何日経ったのだろう。ボクはまだ掘り続けていた。昼も夜もなく、ただ静かで誰もいない場所。壁を掘る音だけが響くこの場所を、ボクは気に入りはじめていた。無心でただひたすら掘る。掘り続ける。そうして何本のツルハシを犠牲にしたかわからなくなった頃、地下室のさらに地下は3Dダンジョンめいた地下道になっていた。あれ? 『Minecraft』ってこういうゲームなのか…? 確かに採掘するゲームなのかもしれないけど、それだけってはずはない。もっと自由なゲームなんじゃないか。いや、ずっと掘り続ける自由も含まれるんだろうけど。いい加減このあたりで掘れるものは掘った気がするし、そろそろ違うことをしてもいい頃合いだ。そう考えるとボクはツルハシを振う手を止め、外に出ることにした。っていうか、なかなか地上に辿り着かないんだが。こんなに堀ったの誰だよ。

太陽が眩しい。この世界の太陽って四角いんだ。それはともかく、外へ出たはいいがどうしたものか。とりあえず、みすぼらしい外観の我が家をもうちょっとどうにかしてみるか。まず壁を白いブロックで覆って小奇麗にする。それから内部を石レンガにして整えてみた。なんだかそれっぽい。あとはそこらへんにいた動物を叩いたら素材がドロップしたので、ついでにベッドも作っておいた。雨風(と敵)を凌げる場所に寝床、もう誰が何と言おうと家である。これでやっとスタートラインに立てた気がする。しかし、このあたりで得られる素材ではここらへんが限界か。次なるステップに進む頃合いということだろう。スタートラインに立ったら次にやることはひとつ、スタートすることだ。

というわけで、まずは自宅の周辺を軽く探索してみることにした。思い返せば、この世界に生まれてから穴を掘ってるだけだったから、自宅の周りに何があるのかもよく知らない。周囲はやや斜面になった森のような場所だから、おそらく山の中腹なのだろう。木々が茂っていて遠くまで見渡せないので、自宅の上にブロックを積み上げて簡単な展望台を作ってみた。見渡すと、南側は断崖絶壁になっていて崖の下には水辺が広がっている。渓谷のようだ。(方角は太陽の沈む方向で把握していた) 水辺は南から西側へ繋がっているから西も水辺なのだろう。東は森と山が連なっていてここと大差ないように見える。目を引いたのは北側で、灰色の地面と黄色い浜辺が見えた。明らかにこのあたりとは違う環境のようだ。決めた、北へ行ってみよう。そう思うとボクはすぐに地下室のチェストへ走り、荷造りを始めた。

砂上のキャンプ

自宅から一路、北へ。木々の間を歩くとすぐに最初の試練が訪れた。谷だ。深い谷が東西に横たわっていたのだ。ジャンプでは超えられそうにない。だが向こう岸はすぐそこに見えている。普通なら迂回できるルートを探すところだが、ここは『Minecraft』だ。ないものは作ればいい。ボクは手近な土を集めて積み上げ、橋にした。この世界では当たり前のことなのかもしれないが、こうして自在に地形を変えられるというのはなんとも面白い。橋といってもたった1マスのブロックの列だが渡れるのなら立派な橋だ。谷底に何があるのかもちょっと気になったが、まずは北だ。目的地を目指そう。

さらに森を歩くと程なくして視界が開けた。木々がなく、一面灰色の大地。自宅から見えた場所だ! 灰色の地面はすべて石だった。石炭や銅が覗かせているところもあるけれど、どれも自宅の地下でも採れたものだ。目新しくはない。さらに歩くと水辺に沿って黄色い浜辺が広がっていた。この黄色いブロックは見たことがない。さっそくシャベルで掘ってみると…、砂だ。確かに新しい素材だが何に使えるっていうんだ? ただの砂だぞ。素材としての価値はともかく、砂のブロックは掘れば掘るほど落ちものパズルみたいに上から降ってくる。掘りにくい。砂ブロックの挙動に悪戦苦闘しながら掘っていると不意に目の前に暗闇があらわれた。何やら洞窟らしき場所に繋がってしまったようだ。なんだか嫌な予感がする。しかし砂のブロックで穴を塞ぐのは難しそうだ。陽も傾いてきたし、砂遊びは終わりにして今晩の寝床を作ろう。

浜辺の砂地から少し離れた場所に石のブロックを積み上げて小屋を建てた。付近に木はなかったから自宅から持ってきたドアを付けた。小屋の中は階段状に掘って地下室を作り、寝床と作業台を配置。もう1枚ドアが余ったから地下室にも付けておいた。こうするだけで秘密基地っぽさが増す。いい感じだ。作っている間に夜も更けてきたのでそのまま寝てもよかったんだけど、例によってさらに地下へと掘り進めてみることにした。せっかくの新天地だ。まだ見ぬ素材が出てくるかもしれない。と意気込んで掘り始めたものの、掘った方向が悪かったのか、上の方が砂地になっていた。これでは掘った先から埋まってしまう。やがて天井に穴が開き、夜空とゾンビが見えたところで慌てて横穴を塞いで地下室に逃げ込んだ。ここは採掘に向いていないのかもしれない。ボクは仕方なくベッドで横になった。

Boom of the Dead

石の大地に居を構えてから数日が経った。周辺を探索してわかったのは、このあたりは石炭が露出していて採掘しやすいこと、砂をかまどに放り込むとガラスになること(そういや『ビルダーズ』でもそうだった!)、そして洞窟が存在していること。この世界では夜になると敵が徘徊するようになるが朝になってもパッと消えるわけではない。だから朝は比較的危険なんだけど、この付近は前よりも敵が多い気がした。なんとなくだが、あの洞窟が原因のような気がする。一度調べてみる必要がありそうだ。ボクは石の剣とたいまつをチェストから持ち出すと洞窟へ向かった。

洞窟の中は真っ暗で何も見えないが方々からうめき声は聞こえる。やっぱり奴らはここから出てきていたんだ。壁にたいまつを挿しながら進んでいくと暗闇の向こうには敵、敵、敵。ああ間違いない、ここが発生源だ。無尽蔵に湧き続けるゾンビたちに向かって石の剣をやみくもに振り回しながら、真っ暗な洞窟を進み続ける。キリがない。これは引き返すべきか? そう思い始めた矢先、やや開けた場所に出た。そこに鎮座していたのは怪しいブロック。これか、元凶は。ボクはブロックに歩み寄ると迷いなく叩き壊した。もううめき声は聞こえない。これで平和が訪れたのだろう。近くにわざとらしいチェストが置かれていて、中にはいろいろと入っていた。ご褒美ということだろう。アイテムの価値はわからないが一件落着。とにかくヨシ! なんだかRPGみたいだ、などと思いつつ、足取りも軽く帰宅したのであった。

悲劇は翌日の朝に起こった。地下室のベッドを出て意気揚々と階段を上がり、玄関から一歩出てドアを閉めようとした瞬間、緑の何かが視界に入った。振り返ると緑のアイツはすでに光りはじめていた。慌てて走り出すものの間に合わず、爆発に巻き込まれてボクは死んだ。幸いリスポン位置はベッドなのですぐに復帰できたが、玄関前は爆発四散してひどい有様だ。主な設備は地下室に置いているので被害は知れているけれども、玄関開けたら秒で自爆とか、どうしろっていうんだ。たぶん、こういうのもお約束なんだろう。だからといってこんな理不尽はゴメンだ。ともあれ、洞窟を1つ攻略した程度で平和が訪れるはずなどなかったのである。

山の向こう、目的の場所

ここに来てからずっと気になっているのが北の方に見えている雪山だ。遥か彼方、ものすごく遠くにそびえたつ山。ここからでも見えるんだからかなり高い山であることはわかる。オープンワールドゲームは遠くからでも視認できる巨大なランドマークが付き物だし、そういう場所には決まって何かがある。あの山へ行けば何かがあるのかもしれない。このゲームに限ってはそんなことはないのかもしれないが、さしあたっての目標としては悪くない。あの雪山を目指してみよう。そうと決まればさっそく準備だ。

今回も陸路を歩いてもいいが、せっかく水辺のすぐそばなんだから海路を使ってみたい。少し戻って材木を集めてくるとボートを作り上げた。試しに乗ってみたらなかなかスピードが出る。これなら思ったより遠くまで行けそうだ。地下室に戻って荷造りを済ませ、玄関を閉めたらいざ出発。今度は緑のあいつはいない。そうそういてたまるか。ドアを閉めると、少し寂しいような気持ちと、まだ見ぬ場所への期待が入り混じった感情がわいてくる。それほど長く住んでいたわけでもないけれど、自分で作った家だ。愛着はある。でもしばしのお別れだ。なんだかキャンプをしながら旅をしているみたいな気分になる。『Minecraft』とは、こういうゲームなのだろうか。

西日のあたる部屋

ボートに乗って海岸沿いに北へ進む。水の上は快適だ。スピードもあるし、遮るものもない。風を感じる気がする。もちろん気がするだけである。とはいえ、あまり遠くへ行きすぎるのも不安なので、手近な場所にボートをつけてキャンプ地としてみる。例によって最小限の壁とドアだけで小屋らしきものを作る。今回も地下室にしようかと思ったけれど、それではあまりに芸がない。というわけで、2階建てにすることにした。1階には作業台やかまどを設置、2階にはベッドを置いて寝室にする。今回はガラスもあるので壁にはめ込んで窓にした。うん、いよいよ家っぽくなってきたじゃないか。窓の外の夕陽を眺めながら満足げにうなずいていたが、これ西日だな…、などと変なところが気になってしまう。

一夜明けてキャンプ地の周辺を探索することにした。今回の家は水辺に面した場所に立てたが付近の地面は石だ。一方、陸地の方は土になっていて森が形成されている。ここから北の山までのルートを開拓しておく必要がある。まずは森の中を北へ向かって歩いてみた。森の中は変わり映えがしない。動物も花も見たことのあるものばかりだった。障害になりそうなものも見当たらなかったので目的の雪山まで問題なくたどり着けるかもしれない。そう思っていた矢先、不意に眼前がひらけた。木々のない空間、平原かと思ったがそうではない。広い空間に穴が開いていたのである。大きくえぐられたような地形の奥に真っ暗の空洞が見える。前に探索した洞窟など比ではない、地面に開いた巨大な穴。まさに大穴だ。足元にどれほどの空間が広がっているのだろう。考えただけでゾクリとした。

探索前夜

キャンプ地に飛んで帰り、荷造りを開始した。あの大穴を探索するために、まず近くにキャンプを作ろう。設備は最小限で構わないが探索のための装備には余裕を持っておきたい。剣とツルハシ、たいまつが多めにあればいいだろうか。そういえば、だんだん荷造りにも慣れてきた。アイテム整理が面倒なゲームではあるけれど、こうして旅をするなら必要なものは自ずと絞られてくる。木と石はどこでも手に入るのでこれらが材料のアイテムは現地調達しやすい。だから現地調達すればいい。逆に現地調達しにくいのがベッドだ。素材のウールは動物由来なので思ったように入手できない。なのでベッドだけは抱えて持っていく。もはやベッドではなく寝袋だ。

荷造りを済ませたら大穴まで戻って新たなキャンプを作り始めた。今回は本当に最小限の設備でいい。なにせ探索用の拠点だ。ここで生活しようというわけでもない。ただしガラスを使って窓だけは作っておく。これはドアを開ける前に敵がいるかどうか確認できる利点があるからだ。玄関開けたら即自爆はもうごめんだ。それから屋根の上にたき火をのせておく。実は最初の家からずっとやっていたんだけど、屋根にたき火を置いておくと立ち上る煙が目印になる。だから遠くからでもある程度は把握できるようになる。このゲームは似たような景色が続くこともあるから意外と方向感覚を失いやすい。たき火があるだけで狼煙になるのだ。生活の知恵というか旅の知恵というか、とにかくこの世界での生活にも慣れてきた気がする。

大地の大穴・前編

さて、キャンプができたら探索に向かおう。大穴を上から見ると、西は滝になっていて水が流れ落ちている。東と南は巨大な空洞になっているようで先が見えない。まずは見えている底まで降りよう。北側からブロックの段差に沿ってちびちび降りる。ちょっと落下ダメージを受けてしまったがこの程度なら問題ない。穴の底に降り立つとさっそく敵が襲ってきた。やはりここにも奴らの発生源があるのか。おそらく巨大な横穴のどこかだろう。と思ったのだが、どこから撃たれているかわからない矢が飛んでくる。痛い。見える限りに敵はいないが…。よく見ると足元に亀裂があって、その下にも空間があるようだった。どうやら敵も下だ。これはちょっとどうにもならない。一旦体制を立て直そうかと振り返ると背後にも敵が押し寄せていた。なすすべもなくボクは死んだ。

すぐそばにキャンプを作っていたので落とした装備の回収は簡単だった。しかしあの数の敵をどうすればいいのか。加えて下方からの闇討ち。今の戦闘能力ではどうしようもないように思える。考えてみれば、武器はあるけど防具はまったく装備していなかった。さすがにこれはまずそうだ。とはいえ防具を作ろうにも材料がない。石や銅では作れないからだ。必要なのは鉄だ。実をいうと鉄はこれまでも少しだけ見つけられてはいた。でも防具を作るには全然足りない。どこで手に入るかはわからないがおそらく地底深くにあるんじゃないか。そんな予想とも願望ともつかない思い付きを胸に、キャンプ地の床を掘り始めたのだった。

大地の大穴・後編

キャンプ地の床から階段状に掘り進んでどれだけ経ったか。またしても広大なダンジョンを作り上げてしまったが、なんとか鉄の採掘に成功した。サラッと書いているけど、ここに1番時間をとられたように思う。でもやっていることはただひたすら掘るだけだったから書くことがないのだ。苦労した割に書くことがなくてもどかしい気もするが、レベル上げみたいなものだから仕方ない。割り切ろう。ともあれ、鉄製の装備を作ることができた。全身鉄製の防具でカッチカチだ。武器ももちろん鉄の剣。これはいける。石器時代を終え、鉄器の時代に入ったのだ。もう何も怖くない。いや、フラグではなく。

鉄の装備は想像以上だった。敵の攻撃がまるで痛くない。そもそも今まで裸だったことがおかしいのかもしれないが急に文明が開化したようなものだ。文字通り世界が違った。これなら本当にいけるかもしれない。そう思って巨大な空洞へ歩みを進めたのだが、空洞自体は予想に反してそれほど広くはなかった。代わりに壁や床のあちこちに亀裂があり、向こう側にまだまだ空間が広がっているようにも見える。だが入っていくにはあまりに狭くて遠い。相変わらず敵はそこらじゅうから湧いてくるし、発生源がどこなのか、おおよその方角さえつかめなかった。この環境でツルハシを持って掘り進めるのか? 実は途方もないことに片足突っ込んでるんじゃないか? 頭の中にさまざまな疑念が浮かぶ。ここでボクは決断を迫られることになった。このまま進むか、それとも退くか。

麓にて

ベッドから出て階段を上る。窓の外には敵もいない。また荷造りをして次のキャンプ地へ出発だ。そう、目の前の大穴は諦めた。この旅の目的は雪山だったはずだからだ。もちろん旅に寄り道は付き物だけれども、この大穴は寄り道の範疇を超えている。鉄製の装備を作るだけでも結構な時間をとられてしまったのに、これ以上ここに留まっているわけにもいかない。先へ進まねば。出発に先立って軽く周辺を探索したところ、北側の森を抜けると目的の雪山の麓に出られるようだった。ただし、麓が断崖絶壁になっていて底を川が流れていた。川の中州が平坦な地形になっていたので、次のキャンプ地はそこにしようと決めた。周囲に木々も石もあったから素材は現地調達できるだろう。今回も持っていくものは最小限でいい。玄関のドアを開け、屋根に置いたたき火の煙を確認すると、大穴のキャンプを後にした。

持ち物は最低限でいいとか言いながら、持ってきていた石レンガやガラスを使って山の麓にキャンプを作った。鉄を採掘できるまでに掘り返した石を気まぐれにかまどに放り込んでいたら、結果として大量のレンガができあがったのだ。せっかくだから使おうというだけで特に理由があるわけではない。ともあれ、ここが雪山に挑むための最後のキャンプ地だ。ここで万全の準備を整えよう。ツルハシとシャベルを余分に作り、肉を焼いて荷物に詰め込んだ。山の麓は垂直の崖になっていたのでブロックを積んで階段を作るよりもハシゴを試してみよう。(これまで1度もハシゴを作ってなかった) よし、準備はカンペキだ。窓の外ではゾンビが川で溺れていたが知ったことではない。明日はいよいよ雪山に臨む。

山頂で待つもの

設置したハシゴを登って崖の上に出ると森が広がっていた。敵の姿もなく、ほぼ平らな地形を進んでいく。これまで何度も目にしてきた普通の光景だが、しばらく進むと一気に様子が変わった。真っ白なブロックが積み上がった景色。雪だ。針葉樹を思わせるの森の下は一面の雪景色。あんなに遠くに見えていた雪山がいま目の前にある。ついに来たのだ! ボクは初めて雪を見た子供のように駆け寄り(いや実際ここでは初めて見たけど)、シャベルで雪を掘り返した。雪はブロックではなく雪玉になって手に入った。雪玉なんだから当然放り投げられる。楽しい! 思わず童心に帰ってしまいそうになったが、ぐっとこらえて雪山を見上げる。ここには雪遊びをしにきたわけじゃない。あそこへ登りにきたんだ。雪を初めて見た人間が雪山に登るなど冗談にしか思えないが、やるのだ。

登頂はあっさりしたものだった。下から見上げると雲にも届きそうな高さに見えたが、ブロックが階段状になっているので、登るのは驚くほど簡単だったのだ。山頂からの眺めはいい。絶景だ。先日挑んだ大穴のあった場所まで見渡せる。さらに北側にも山が見えたがこちらの方が高い。1番高い山に登頂できたのだろう。けれども不思議と感動はない。感動どころか感慨もない。なんだろう、あまりに難なく登れてしまったからだろうか。もっとこう、何かこみあげるものとかあってもいいんじゃないか。そうは思うものの、正直な気持ちは空虚だ。特に噛みしめる感動もないまま、ボクは下山することにした。

The Journey Home

目標は達成した。なんの達成感もないけれど。この不完全燃焼な感じ、どうしてくれよう。麓のキャンプに戻り、ぼんやりと考えていた。次はどうしようか。『Minecraft』の世界は自由だ。自由だからこそ、次にやるべきことを自分で決めなくてはならない。決められなければ何もやることがないのだ。とはいえ、目標を決めて達成したにもかかわらず、得られたものが空虚な気持ちだけなのだから、あまりにやるせない。本当にどうしてくれようか。旅の終わりがこんなことでいいのだろうか。と考えたとき、ふと思った。そうだ、これは旅だったはずだ。旅の終わりってのはこのキャンプ地ではない。家に帰るまでが旅なのだ。旅を終わらせるには家に帰らなければ。

いつものように荷造りを始めたのだが、これはいつもの荷造りじゃない。今まで作ってきたキャンプ地を辿って家に帰るための荷造りなのだ。だからキャンプを作るための道具や材料は必要ない。代わりにキャンプで得たものは持って帰りたい。せっかく旅をしていろいろ拾ってきたのだ。持って帰れるものは持って帰らねば。持ちきれない分はまた取りに戻ってくればいいだけなんだけど、なんとなくもう二度とこのキャンプには戻ってこない気がしていた。だからキャンプを出発するとき、振り返って何度もスクリーンショットを撮った。なんだろう、この気持ち。寂しいような、切ないような。たかが数日でそれほど思い入れができるとも思えないのだが、それでもなんとも言えない感情が胸にこみあげてくる。ボクは後ろ髪を引かれる思いでキャンプに背を向けると一路南へ、これまで進んできた道を歩き始めた。我が家への旅が始まった。

行きはよいよい 帰りははやい

多くの旅行がそうだったように、帰り道は早いものだった。行きと違って道を知っているのだから当然ではあるんだけど。多少方向を間違えていてもキャンプに設置したたき火の煙が目印になる。まず大穴の近くに作ったキャンプまではすぐだった。朝一に出発したが陽はまだ高い。この分ならまだまだ行けそうだ。キャンプに置いていたチェストの中だけ確認したら、すぐさま次のキャンプ地へと出発した。次は水辺に作ったキャンプだ。ここも距離は遠くない。そういえば張り切って2階建てを作ったけど、あまり長居はしなかったな。しばらく歩くと煙が見えてきた。向かいの水辺にボートを浮かべているのでなんだか洒落ているようにも見える。ここでもチェストの中を確認したり記念撮影したり。やっぱり寂しいような気持ちがわいてくる。この気持ちはあれだ、旅行の帰り道に感じるやつだ。たかだ数日だったとはいえ、自分の中では旅行にも等しい経験だったのかもしれない。

ボートに乗ってしばらく進むと浜辺の先にたき火の煙が見えた。キャンプ地だ。あそこでは玄関開けたら即自爆されたこともあったっけ。すぐに直したから傷も残ってはいないが今となっては良い思い出だ。地下室のチェストからは敵の発生源から持ち帰ったアイテムが仕舞ってあった。何に使うのかは未だにわからないが、これは持って帰るべきだろう。ここまで来てもまだ陽は高い。この次はキャンプ地ではなく我が家だ。結構な距離を移動していた気になっていたが、実は1日もかからない距離だったなんて。これを壮大な旅路のように感じていたのだから不思議なものである。最初のキャンプを後にして、ボクはいよいよ家路についた。

Home sweet home

森を抜けると谷が待っていた。ここには確か橋をかけたはずだ。左右を見渡して谷沿いを歩いていく。見えた、橋だ。橋と呼ぶのもおこがましい土ブロックの列だが、当時はこれでも橋のつもりだったのだ。しょぼい橋だがなんだか安心する。まるで地元に帰ってきたかのようだ。橋を渡れば自宅とは目と鼻の先だ。程なくして白い壁に包まれた四角い建物が見えてきた。我が家だ。ドアを開けて中に入り、階段を下りて地下室へ向かう。地下の作業部屋と寝室は出発前のままになっていた。そりゃ当たり前なんだけど、なんだか嬉しい。もうこれ、完全に旅行から帰ってきたときの気持ちだ。まさかこんな気持ちを味わうことになるなんて。なんというか、謎の感動がある。

外に出て、屋根の上に作った展望台へ向かった頃には陽が傾き始めていた。ここからは最初のキャンプ地のある石の大地くらいしか見えない。あの向こうには踏破できなかった大穴や雪に覆われた山がある。そしてその傍にはボクの作ったキャンプがある。そう考えると旅をしてきた実感と達成感がわいてきた。大したことをしたわけでもないのに謎の充実感がある。ボクは満足げに夕陽を眺めると展望台を下りてベッドへと向かった。床に就きながらボクは思う。旅は終わったのだと。そしてこうも思う。次はどこへ向かおうかと。

そして文明へ

ここからは後日談になる。北から帰ってきた次は南へ向かうことにした。自宅の南にある断崖絶壁をハシゴで下り、下を流れる川にボートを浮かべた。この川は左右を山に挟まれた渓谷になっている。山の景色を楽しみながら川沿いをボートで一路南へ。曲がりくねった川を進むと先の方に家のようなものが見えた。…家だって? たまたま家のような形に積み上がったブロックか何かだろう。近づくまではそう思っていたが、岸に着けてボートから降りる頃にはそんな予想はあっさりと崩れ去っていた。完全に家だった。ログハウスのような外観に窓枠までついている。誰がどう見ても家だ。あっけにとられているとガチャリと音がした。反対側についていたドアが開いたのだ。人だ。家から出てきた人影はスタスタと歩き去っていく。初めて見る自分以外の人間に呆然と立ち尽くすしかなかった。自分以外の人が存在していたなんて! まるで宇宙人とのファーストコンタクトみたいな高揚感と同時に不安も襲い掛かってきた。ひょっとしたらボクは『Minecraft』というゲームを壮大に勘違いしていたのかもしれない。

家は1件だけではなかった。知らない人の向かった先には何件もの家が建ち並んでいた。人々は畑を作り、何かを収穫しているようだった。農業だ。ここには農業がある。それどころか牛や豚が柵で囲われ、牧畜も行われているようだった。なんてこった。石器から鉄器に進歩して喜んでいたボクがバカみたいじゃないか。ボクが狩猟採集でその日暮らしをしている一方、ここでは農耕による定住が実現していたのだ。文明のレベルが違う。そういえばヘルプの中に農業の項目があったような気がする。そもそも道具に鍬があるじゃないか。どうして畑を作ろうという発想に至らなかったのか。自分を恥じるしかない。このゲームはボクが思っていた以上にやれることが多いらしい。1つの旅を終えた程度で満足している場合ではないのだ。ボクはそそくさと自宅へ戻るとさっそく家の前を耕し始めた。さぁ新たな時代の幕開けだ。