ケモノ同士の戦争を描いたリアルタイムストラテジー(RTS)『Tooth and Tail』をレビューします。こんなタイトルをしていますが歯や尻尾で殴り合うような戦いではなく、銃弾と砲撃の雨あられ、果ては火炎放射から毒ガスまであるので、ドッタンバッタンどころの大騒ぎではありません。えらいこっちゃ…戦争や…。
ちなみに、素晴らしいドット絵ビジュアルに一目惚れして買ったのですが、ボク自身RTSに関してはド素人の初心者。なので今回は初心者視点でのレビューとなることをご了承ください。
指揮官を操作して旗を振るのがケモノ流
ゲームの流れは、まず資金を稼ぎ、稼いだ資金で兵隊を作り、作った兵隊で敵を叩く、というもの。敵の拠点をすべて破壊できれば勝利となります。これはRTSとしては何の変哲もないところでしょう。
本作で特徴的なのは、これらの操作を”神の視点”で行うのではなく、プレイヤーの分身となる指揮官キャラクターを操作して行うところにあります。たとえば、何らかの施設を建てるなら建てたい場所まで走ることになり、敵陣に攻め込みたければ自ら先陣を切ってユニットを誘導してやることになります。要するに指揮官が”カーソル役”になっているわけです。目に見える形で操作キャラクターがいるというだけで、かなりとっつきやすくなっていると感じますね。
軍資金はブタの畑におまかせ
ゲームがはじまると、まずは拠点となる風車の周囲に畑を作って食糧(資金)を稼ぎます。畑を作っておけば、あとはブタが勝手に食料を作り続けてくれるので、時間が経てば勝手に資金が貯まっていきます。ただし、畑は風車の周囲にしか作れないため、稼げる金額は限られています。また、収穫を終えた畑は痩せた土地になってしまい、それ以上は稼げなくなってしまうので、そうなる前に別の風車を占拠して新たな耕地を確保する必要もあります。一箇所をガッチリ固めて待っているだけではダメということですね。稼いだお金を未来に向けて投資することで経済を回すのであります。
ケモノなら足を使って索敵したまえ
資金が貯まるまでの間、ぼんやり待っていればいいかといえば、そんなわけありません。索敵に奔走することになります。旗振り役に休みなどありません。
索敵といってもやることは単純で、足を使ってひたすらマップを走り回るだけです。そうすればミニマップがクリアになり、戦況が把握しやすくなります。また、本作のマップは一戦ごとにランダム生成なので、地形を把握するためにも走り回る必要があります。ざっと1周走っている間に資金も貯まっているのでちょうどよい運動になるでしょう。帰りは穴を掘れば拠点までワープできます。戦況は刻一刻と変化しているのだから、ちんたら走って帰る余裕などありません。外回りを終えたらさっさと帰りましょう。
食糧あるかぎり兵は尽きず
資金が貯まれば、次は兵隊となるユニットを作ります。ユニットは直接作るわけではなく、生産施設を建てることになります。生産施設はは自動的に資金を消費してユニットを召喚し続けてくれます。前線でユニットが死んでも自動的に補充してくれるので楽ですね。ただし、1つの施設から召喚できる数は決まっているので、必要に応じて施設はどんどん増やすことになります。というか、やっぱり戦争は数なので増やしていく必要がありますよ兄貴。
もちろん高コストユニット量産の暁には…と思わなくもないのですが、そこは収入と相談です。施設を建てるための料金と召喚するための料金は別なので、コスト管理を怠るとあっという間に一文無し。10年どころか10分と戦えません。収入と生産のバランス感覚こそが指揮官に求められる能力だといえましょう。
全軍突撃!敵のブタどもを薙ぎ払え!
兵隊ができればいよいよ敵陣へ攻め込みます。ユニットへの指示は、全軍か各ユニットの種別ごとかの2択しかないので、あまり細かいことはできません。なので、基本は全軍をぶつけ合う形になります。イエス!小学生サッカー!!
ここが本作でもっともシンプルさを感じるところです。押すか退くかのタイミングが勝負の決め手になりやすく、駆け引きもわかりやすい。おかげでパッドでの操作がしっくりきます。もちろんキーボード&マウスでのオーソドックスなスタイルも可。
いくらシンプルとはいえ、さすがにただひたすら全軍突撃するようなゲームではありません。自軍の拠点では回復ができるため、退くべき時はキッチリ退くのが賢明ですし、状況によっては特定のユニットだけを先行させることだってあります。カンタンな操作と戦術だけでも十分に対戦が成立する一方、攻略を掘り下げられそうな部分も失われてはいない印象です。
ともあれ、そうして敵兵を倒し、畑のブタどもを薙ぎ払って風車を叩き潰せば勝利となります。動物諸君、乙であります。
ケモノの戦は短期決戦
一戦にかかる時間はだいたい5~10分くらい。なので、気軽に対戦できるのがいいところですね。どうしてそんなに短時間なのかというと、マップが狭いことやゲームスピードの速さもありますが、何より逆転要素に乏しいことが理由です。
攻め込まれて守り切れなければ畑を焼かれて詰み、攻め込んで守り切られたら相手の反撃にユニットの補充が間に合わず詰み。大抵は最初にぶつかったところで勝敗が決まってしまう感じです。なのでサクッと終わる。部隊を分けて回り込むとか、見えないところでコッソリ拠点を作るとか、そういうことがあまりできないので当然と言えば当然かも。
その選択が命運を分かつ
となると、勝負の駆け引きのポイントとなるのはユニット選択。対戦の開始時に全20種類のユニットから6つを選んでデッキを組むことになります。ユニットは低、中、高コストにそれぞれ5種類ずつ、それと罠や設置兵器が5種類の計20種類です。指揮官キャラクターにも4つの陣営がありますが見た目以外の差はないため、ユニット選択がすべて。ある意味とってもフェアです。
ドット絵で描かれた動物たちも本作のウリの1つ。迫撃砲を背負ったフェレットや毒ガスをまき散らすスカンク、自爆するカエルにステルスなカメレオン、果てはゾンビリス空挺部隊を降らせる空中要塞フクロウまで、実にバラエティーに富んだ面子となっています。
当然、ユニット間に相性が存在します。たとえば、ステルスのカメレオンは硬くて強くて頼りになるナイスガイですが、棍棒で殴るだけなので空から機銃を撃ってくる鳥には手も足もでません。じゃあ鳥が強いのかといえば、コストの割には火力も耐久も控えめなので、低コストのリス数体にやられることも珍しくありません。こういった相性が勝敗を分ける重要な要因となっているため、戦う前から戦いが始まっているというわけです。というか、ここが1番重要な気がします。ユニット同士のシナジーをあれこれ考えながらデッキを組み上げていくのはとっても楽しい。本作の醍醐味はここでしょう。
ケモノの戦争はネットワークを通じて世界へ
対戦はオンラインに対応しており、ランクマッチとアンランクマッチの2種類が用意されています。1on1だけでなく、2on2や4つ巴の戦いも可能。オフラインでも画面分割に対応しており、対戦も協力も思いのままです。1人でCPUを相手にして練習することだってできます。
リプレイ機能も充実しているので、敗因を調べたりユニットの運用法を学んだりと、ステップアップに活用できそう。対戦ツールとして必要な機能はひととおり揃っている感じですね。
ストーリーで語られるケモノたちの革命戦記
本作は対戦だけでなく、1人でガッツリ遊べるストーリーモードも用意されています。ストーリーモードにおけるミッションは通常の対戦とは異なり、限定的な状況下での戦いが主になっています。
たとえば、指定時間まで守り切れ!とか、配置されたユニットを勧誘して戦え!とか。中には畑を作ることさえできないミッションもあり、対戦とはまったく違ったゲームになっていることも多々あります。使えるユニットを自由に選べないため、ある意味では各ユニットの運用法を学ばせるためのチュートリアルと言えるかもしれません。とはいえ、このチュートリアル、かなりのスパルタです。少なくともRTS初心者のボクにとっては激ムズでした。これが獣の道なのか。
後半は特に厳しかったのですが、気になったのがマップです。ストーリーモードでもマップはランダム生成のため、難易度にムラを生んでいます。このムラがなかなか激しい。たとえば、防衛をするミッションで苦労させられたのですが、マップの引きがよければ楽々クリアできてしまったり。4つ巴になるミッションでも3方向から攻められて頭を抱えていたところ、運よく守りやすいマップになったらカンタンにクリアできたり等。
ボクの腕が足りないだけなのかもしれませんが、理不尽に感じてしまうところも多々あったので、もう少しマイルドにならないものかなと思わなくもない。何より、マップの引きのおかげで勝ててしまうと腕の上達を実感できないのがつらい。…なんだかネガティブな話になってしまいましたが、最終ミッションの演出はとてもよかったので、挑む方はぜひ最後まで見届けていただきたいところ。
シンプルでカジュアルだが手強さはケモノ級
そんなわけで『Tooth and Tail』、パッド操作で一戦10分と、気軽に遊べるカジュアルな作りであり、一見するとRTS入門によさそうと思える一方、シングル向けのストーリーモードが突き放すほどムズかしいとなると、手放しでオススメするのはちょっと厳しいでしょうか。
RTS熟練者だとシンプルであるが故にすぐ飽きてしまうのか。それともシンプルであるが故の奥深さにハマるのか。RTS初心者のボクには何とも申し上げられないのですが、いずれにしても、気軽に遊べる対戦ツールとしてはかなりよいんじゃないかと。
初心者の方々におかれましてはそれなりの洗礼が待ち受けていることを覚悟の上で戦地へ赴くように。ケモノはいてもフレンズはいません。とはいえ、戦場の押し退きや資金運用、戦前のデッキ構築など、おもしろい部分がわかってくればずぶずぶハマれるはずなので、覚悟が決まったらWelcome to ブタ畑。