『新・世界樹の迷宮』は初代「世界樹」のリメイクでありつつも、その名の通り、新しい体験を提供してくれていました。
最初に『新・世界樹の迷宮』がアナウンスされたとき、「なんだリメイクか」と思ったものですが、フタを開けてみれば『新』の名を冠しているように、紛れもない新作でした。とはいえ、プレイしていると「そういやこれリメイクだった」を思い出させてくれるので、新旧入り混じった不思議な気持ちになれました。
『新・世界樹』はリメイクでありつつも、新しい要素を多数盛り込まれているので、今回は新しくなったところを中心にレビューしてみました。
今回のクリア後レビューは、難易度スタンダードでストーリーモードをクリアしたところでのレビューになります。クラシックモードや高難易度のエキスパートにはまだ手をつけていない段階でのレビューです。
リメイクであってリメイクでないようなリメイク
『新・世界樹の迷宮』は「世界樹」シリーズの初代『世界樹の迷宮』をリメイクしたタイトルです。リメイクは最近ではめずらしいものではなく、過去の名作が現行機で登場するケースはあちこちで見かけます。
昨今のリメイクでよくある手法は大きく分けて2つあると思います。1つは、過去作の内容はそのままに、グラフィックや音楽などを現行機向けに美しく仕上げたもの。もう1つは、グラフィックだけでなく、内容にも大きく手を入れて、原作とは違った形で仕上げたもの。
では『新・世界樹』はどちらなのか、といえば、どちらにも属さない、というか、どちらの要素も含んでいるというか、2つの中間にあるような手法でリメイクされているように感じました。
『新・世界樹』は、原典である初代「世界樹の迷宮」から、「世界樹」シリーズそのものからの最大の変更点として、固定キャラクターがあげられます。プレイヤーがキャラクターを自由に作成し、育成していくのが「世界樹」だったわけですが、今回は、最初から用意されている固定のキャラクターで進めることになります。ここはまったく新しい部分ですね。
この新しい固定のキャラクターたちが探索する舞台は、初代「世界樹」とほぼ変わらない迷宮です。こっちは旧作そのままを感じさせてくれる部分です。(もちろん、変わらないといっても、実際のところはかなり細かく手が加えられているでしょうけど、印象としてはほぼ同じ、って感じです。)
つまり、固定キャラクターを操作するのは原作と大きく異なる要素ですが、探索する舞台やストーリーの中核は変わっていないのです。ある意味では、原作とはまったく別物になるリメイク手法ですが、またある意味では、原作を再現したタイプのリメイク手法になっているのです。
「世界樹」シリーズのコアとなる要素の1つだけを刷新することで、リメイクでありながらも新しい体験を提供してくれています。しかし完全な別物になっているわけでもなく、迷宮を探索していると、やっぱりリメイクだこれ、と思い出させてくれもします。なかなか類を見ないタイプのリメイクなんじゃないでしょうか。
固定キャラクターを最大限活かした演出面
『新・世界樹』最大の変更点は固定キャラクターなわけですが、ゲームのコアとなる部分の大幅な方向転換だけあって、かなり力の入ったものになっていると感じられました。
まずボイスの多さ。フルボイスではないのですが、何をするにもよくしゃべります。バトル中はもちろん、探索中やメニューからスキルやステータスを開くときまで、何かしゃべってくれるので、非常ににぎやかな印象でした。
クリア後にはアルバムですべてのボイスが視聴できるのですが、そのバリエーションの数はかなりのもの。にぎやかなのも納得でした。
それから、ストーリーやクエストなどでキャラクター同士の会話シーンが挟まれるようになっている点。特にクエストや探索中の調査ポイントなどで発生する愉快な掛け合いは、ゲームを進める上で常に楽しみな要素となってくれました。
どこのペルソナの主人公かといわんばかりの変な選択肢もお楽しみポイント。
グリモアを使ってもいいし、使わなくてもいい
新システムとなる「グリモア」は、キャラクターにスキルを追加装備できるシステムで、育成の自由度を高めてくれています。
「グリモア」を入手するにはバトル中に確率で発生する「グリモアチャンス」を引き当てる必要があります。また、運よく「グリモア」が手に入ったとしても、自分の望むスキルがセットされているかどうかも確率なので、やや運要素の強いシステムといえます。
グリモアチャンス>グリモア入手>セットされるスキルと、3重に確率が連なるため、狙ったものはそうそう手に入りません。キャラクターを強化するために、狙ったものを入手しようとすれば、それなりの労力がかかりかねません。自由度を高めるシステムですが、自由を手にするには代償が必要なわけです。
とはいえ、ストーリー攻略に強力なグリモアが必須かといえば、そんなことはありません。むしろ、グリモアの存在を忘れていても、クリアするだけなら問題ないくらいといっていいかもしれません。
グリモアは突き詰めていけばかなりキャラクターを強化できそうなシステムなので、やり込み要素としては申し分なさそうな反面、クリア重視の攻略であれば無視しても構わないくらいのポジションにおさまっているわけです。
『新・世界樹』のコアはストーリーモードだと思うのですが、グリモアはストーリーモードのクリアには必須ではないくらいの調整なため、新しい要素がややかみ合っていない印象を受けました。クリア後の第6階層や難易度エキスパートなど、やり込む場合にこそ輝くシステムかと。
グリモアは、「使ってもいいし、使わなくてもいい」と考えれば、実に世界樹的な要素なのかもしれません。
快適さを追求されたゲームスピードの設定
移動速度から戦闘のスピードまで、オプションにより切り替え可能になっています。スピードを上げておいた場合の快適さは本当にすばらしい。
ゲームを作る側の立場で考えれば、自分の作ったものが早送りされてしまうのは悲しいことかもしれませんが、それでもあえて高速化のオプションを用意してくれたのは英断だと思います。プレイヤーの視点で考えれば、快適さは重要ですものね。
他にも、マップをある程度埋めれば階段から階段へワープできるようになるフロアジャンプなど、快適さを追求したシステムが追加されています。そこまでやってもいいのかとも思いましたが、実際使ってみたら快適そのものですから、もう手放せません。
シリーズを重ねるごとに少しずつ洗練されてきている印象ですが、今回は特にプレイヤーの快適さを追求されているように感じられました。
初代「世界樹」では、最初のフロアで毒の蝶に全滅させられ、厳しい迷宮に放り込まれた感がありましたが、今回はチュートリアルで強力なNPCに助けてもらえたりと、シリーズ入門用としてオススメしたいの一品なのですが、一度『新・世界樹』での快適さを経験してしまうと、過去作には戻れそうにないのがなんともジレンマかも。
『新・世界樹』はリメイクでありつつも、まったく新しい体験を提供してくれる新作でもあり、それでいてやっぱり原作の懐かしさも残しているタイトルです。ゲームのコアの一部分だけをガラリと変化させることで、この懐かしくも新しい奇妙な感覚を実現させているのではないかと思います。