アニメ【シンデレラガールズ】19話の考察と感想と だりーとなつきちの「私たちがロックだ!」

アニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』第19話は、多田李衣菜をメインとしたエピソードで、ゲストキャラクターはロック繋がりの木村夏樹。ロックとお仕事の間で揺れ動く2人の想いを繋げたのは、やはりロックでした。

TVアニメ「アイドルマスターシンデレラガールズ」オフィシャルサイト

前回、18話の考察と感想は以下よりどうぞ。

今回は、アスタリスクの2人に夏樹というゲストを迎えた話、というよりは、李衣菜をメインに据えたエピソードとなっており、夏樹と前川の間で揺れ動く”ロック”な気持ちが描かれています。すでに前川は16話でウサミンと絡んでいるので、今度は李衣菜の番、というわけでしょうか。

ウサミンは前川にとっての目標となるアイドルとして登場しましたが、李衣菜にとっては夏紀がそのポジションとなっています。常務の改革によって、自分のやりたいことができなくなりそうになるところで、後輩からの後押しで吹っ切れる、という展開も、ウサミン回と重ねられていますね。

サブタイトルは「If you’re lost, let’s sing aloud!」、直訳するなら「迷っているなら、声を出して歌おう!」でしょうか。迷うことになるのは李衣菜だけではありません。夏樹も迷うことになるのです。

迷えるホンモノのロッカー・夏樹

“にわか”のロック好きである李衣菜とは違って、夏樹は本物のロッカーです。ギターも弾けるしバンドもやってる、ロックなアイドルなのです。常務がみていたプロフィールには、ロックに関連した音楽雑誌やTV番組の仕事が書かれており、ホンモノっぷりがうかがえます。あと、趣味のツーリングが高じたのか、バイク関係のお仕事も入ってるようです。よーくみると、WEBで「初心者のためのROCKなギター講座」なんて仕事もやってるので、李衣菜は即座にチェックすべき。

アイドルマスター シンデレラガールズ 夏樹のプロフィール

夏樹が迷うことになるのは、常務の誘いが発端です。松永涼と星輝子とアイドルロックバンドを組むことになったのはよかったのですが、自分のやりたい音楽はできなくなってしまう…という展開。これは「キャラ付け」を否定されたウサミンと似たような境遇ですね。

そんな境遇の夏樹に、ロック好きの友人である李衣菜はこんな言葉を投げかけます。「こないだのライブみたいな、ギンギンのカッコイイステージを、いつか私もやるんだ!」と。 これ、要するに「アナタは私の目標です」ってことなんですよね。前川がウサミンに言ったことと同じです。でも、今後は李衣菜に望まれるステージをやれるかどうかわからないので、寂しげな表情になってしまう…

この展開までに2人が仲良くなっていく過程がいいですね。もともと14話で出会っていた2人ですが、今回は偶然みかけた李衣菜が声をかけるところからはじまります。そこからロック好きを通じて仲良くなっていき、夏樹が「気晴らし」に誘うシーンでは、夏樹の方が出待ちしてるんですよね。海辺のシーンでは冗談っぽく李衣菜をバンドメンバーに誘っていましたが、後の展開を考えると、あながち冗談というわけでもないですし、本当に李衣菜のことを気に入っているんだな、と。

悩める”にわか”のロック好き・李衣菜

李衣菜はロック好きだけどロックのことはよくわかっていない”にわか”なのですが、にわかっぷりが発揮されまくる夏樹との会話シーンが最高でした。思いつく限りの単語だけでなんとか乗り切ろうと、しどろもどろになる李衣菜の表情に、もうニヤニヤしっぱなし。個人的には「これがみたかった!」ってシーンですね。かわいい…けど、ときどき「ウッ、頭が…」ってなりそうな塩梅。たまりません。

夏樹のCDをキッカケに本当のロックの世界にハマる李衣菜。ここからロックとアスタリスクの間で揺れ動く彼女の心境が描かれているのですが、李衣菜の自室での描写が実に巧妙なんですよね。最初のシーンでは、CDプレイヤーに夏樹のCD1枚のみ。けれども、部屋中に貼られたロックなステッカーに囲まれ、新しく触れるロックの世界に心身ともにワクワク。夏樹のCDをキッカケに、どんどんロックにハマり込んでいきます。

次のシーンでは、CDや音楽雑誌が増えているものの、壁にはロックなステッカーとあわせてアスタリスクのポスターを映すアングルに。ロックとアスタリスクの間で揺れ動いている心境になっているんですよね。ここでは、「何やってんだろう、私」とロックの記号であるヘッドフォンを外しているところまで描かれています。

さらに次のシーンでは、シンデレラプロジェクトのポスターが端に映るアングルに。プロジェクト全体にとっても、いまが大事な時期であることは、頭の隅で理解しているのでしょう。ここで重要なのが、音楽を聞いているけどCDプレイヤーでもヘッドフォンでもないこと。携帯プレイヤーからイヤホンで聞いているので、ロックから離れてアスタリスクへ気持ちを戻そうとしているのでしょうね。

李衣菜の心境は、あまり彼女自身の口から語られることはないのですが、こうした小道具を使って巧妙に描かれているんですよね。実に見事。

私が!私たちが!ロックだ!!

そんな悩める李衣菜を誰よりも心配していたのが、パートナーの前川みく。11話から引き続き、今回も最初はケンカ友達として描かれていますが、悩みを明かしてくれない李衣菜を気にかけるうち、ぎこちない関係になったり、1人で背負い込んでしまったり。夏樹の登場によって、親しい友人が新しい友人のもとへ行ってしまうような空気もありますが、ここで1人気張るのがいかにも真面目で真剣な前川っぽくていいですね。

前川が李衣菜のことをメンバーに聞いてまわるシーンで、事務所に置いてある花はおそらく「百日草」。花瓶が映るのはこのカットだけで、ピントが合わされていないためハッキリしませんが、「百日草」であれば、花言葉は「不在の友を思う」や「友への思い」なので、状況にピッタリではないかと。

注目したいのが、ライブシーンでのダンス。ちぐはぐな2人の想いがダンスによって見事に表現されています。李衣菜のダンスはテンポが遅れているし、動きも悪くて気の入っていない感じは明白。対して、前川のダンスは、一見するとキレのある動きにもみえるのですが、気張りすぎててパートナーと合っていないんですよね。転ぶのはゲームの『アイマス』ネタでしょうけど、実はこのライブの最中、ぶつかって転倒するまで前川は李衣菜のことを1度も見ていません。

『シンデレラガールズ』のダンスシーンは、動きのタイミングを完璧にあわさないことで、機械的にならず、魂のこもったダンスにしているのだと思いますが(OPとかも)、ここはそうではなく、ちぐはぐな2人の関係を描くための演出なのでしょう。

また、今回のエピソードは、表情をあえて描かないカットが印象的でした。これまでは、表情だけで描くこともやってのけていた本作ですが(13話で倒れた美波が言葉を飲み込む表情とか)、今回はその逆。悩みをごまかす李衣菜やぎこちない会話をする2人など、相手のことは見ているけれども、実際には向きあえてはいない状況では、顔がカットされて表情が見えなくなっていました。

この演出が、ライブ失敗後の楽屋のシーンできいてきます。ヘッドフォンもネコ耳も外して、素の自分の想いを正面からぶつけ合うシーンでは、顔を真正面からアップで映してのキメ台詞。「アスタリスクが私にとってのロックなの!」なんて、もう愛の告白です。この後めちゃくちゃ泣いた、って感じでしたが、こんなの誰だってオチますよね。前川だってオチる。それにしても、「自分がロックだと思ったら、それがロック」なんてギャグみたいなモットーをこれほどアツく昇華してくるなんてすばらしすぎる。

最高にロックな「にわかロック」

ギャグみたいだった李衣菜のモットーは、夏樹にも感銘を与えていました。悩みから吹っ切れた夏樹は、李衣菜たちをライブハウスに招待して「解散ライブ」をやることに。李衣菜と前川の友情の証ともいえる「解散ネタ」ですが、だりーとなつきちで昇華してくるとは…なんと驚愕のシナリオなのか。

今回は3つもライブシーンがある豪華な内容なのですが、最後のライブが大本命。たった3人のステージでギター1本のみ、観客はシンデレラプロジェクトのメンバーだけ、という小さな小さなライブなのに、躍動感のあふれる最高のステージが描かれています。

このステージは、夏樹が李衣菜といっしょにバンドをやりたいという想いと、李衣菜が夏樹のようなステージに立ちたいという願いが叶っています。李衣菜が前川をステージに誘ったのは、彼女にとってのロックがアスタリスクだから。両手に花、ならぬ両手にロックな李衣菜にとって、これ以上ないステージとなっているわけです。

このステージシーンでいいなーと思ったのが、李衣菜と2人の距離感。手前にギターで奥に2人、というカットに続いて、背中越しに横目で2人の様子をみる夏樹の構図。手を繋ぎ、目を合わせて歌うシーンは、直前のライブシーンとの対比でもありますが、3人の関係と距離感を表しているのだと思います。

夏樹としては、このライブを最後に346プロから切られる覚悟だったのでしょうけど、プロデューサー(以下、P)に誘われてウサミンと組むことに。アスタリスク回として16話と繋げるのなら自然な流れだとは思うのですが、真っ先に16話の放映後に見かけた4コマ漫画のことを思い出してしまって…かつてこれほどパーフェクトな予言があったでしょうか。

想いは現実になる…のか?

常務の問題は「アイドルマスター」の理解不足?

またしても企画に誘ったアイドルにフラれてしまった美城常務。もう未央に「また何かはじめたのかな」なんていわれてしまうくらい、威厳も何もあったもんじゃない。仕事としては問題なさそうなんだけど、何が問題なんだろうか?と考えたとき、おそらく常務の問題は、彼女のコミュニケーションが原因ではないかと。

今回はアイドルロックバンドの企画を立ち上げるというもので、「楽曲も衣装もすべてこちらで用意する」「音楽、ビジュアル面を含め、一流スタッフを揃える」など、真っ当にプロデュース業をしています。何も問題ないですよね。むしろ、音楽の方向性を自分たちで決めようとしている3人の方が、「えっ? 君たちアイドルじゃないの?」って感じです。美城常務も「だったらアイドル部門じゃなくて音楽部門に行けや!」って思っていたかもしれません。もともとの個性を伸ばす社風が影響しているのでしょうけど。

夏樹たちに説明するシーンでも、15話で楓さんと話すシーンでもそうでしたが、常務はどうも言葉の選び方がうまくないようです。夏樹も最初、「話はよくわかんなかったけど」と言っているので、説明にも難アリなのかも。あと、一方的なんですよね。コミュニケーションとは本来、双方向のものですが、彼女の場合は一方通行になりがちで、自分のやらせたいことを言うばかりになっています。…自分で書いててなんだか耳が痛くなってきますけど。

『アイドルマスター』は、アイドルとのコミュニケーションによって信頼を築いていく物語ですから、コミュニケーションに難のある常務には成功が掴めないわけです。1stシーズンでシンデレラプロジェクトが大ピンチに陥ったのも、Pのバッドコミュニケーションが原因でしたしね。常務の仕事から、出来の良し悪しを考察するのは非常に楽しいのですが、結局のところ、これが『アイドルマスター』である、という大前提こそが、もっとも重要なところなのかもしれません。

とはいえ、常務の仕事はアイドルロックバンドだけではありません。前回から引き続き、速水奏や宮本フレデリカをプッシュしているようです。秋の定例ライブで数ユニットのデビューが予定されているとも言っていましたから、彼女の企画も着々と進行しているようですね。前回モニターに映し出されていた奏にも「Autum Fes」と書かれていたので、やはりここで常務が勝負をしかけてきそう。

トライアドプリムス実現なるか

一方で、PはTV番組の仕事をしていました。「とときら学園」に続き、またしてもバラエティー番組っぽいですね。ジャージ姿だからリハーサル中のようにもみえますが、このジャージ、属性ごとに色が違うだけでなく、ユニットごとのロゴが入っているので、衣装なのかも。前川がネコ耳をつけていないので何とも言えませんけど。ここでnew generationsが出演しているのが何気にポイント。卯月は7話で「TVにも出てみたい」と話していたので、望みが叶ったことになります。CDを出してステージにも立って、ラジオにもTVにも出た卯月。次に向かう先はどこになるのか。

卯月といえば、今回は久々に布石が追加されましたね。奈緒と加蓮の歌のうまさに素直に喜べない卯月が感じていたのは、焦燥感か、無力感か、それとも嫉妬なのか。このシーンで美嘉が凛を指名するのは、3話で凛の歌唱力を評価していたからでしょうね。奈緒と加蓮についても、14話で「いいモノもってる」と話しているので、常務がピクリとなるもの頷けます。現状路線の維持を考えていた凛にとって、2人の歌声は新しいステージへ踏み込むキッカケとなるのか。ともあれ、トライアドプリムスが結成されそうな流れがやってきましたが、果たして。

次回のサブタイトルは「Which way should I go to get to the castle?」、直訳するなら「お城へ行くために、どちらの道を行くべきでしょうか?」といったところ。奈緒と加蓮とのユニットに誘われ、常務とPの間で揺れ動く凛の心境に重なる感じでしょうか。といっても、常務はPの企画に干渉しない立場をとっているのですが、今回の夏樹の件はPの方から干渉してきたと捉えられても無理はないですから、どうなることやら。

※2015/8/24追記
予告動画が公開されました。予想どおり、凛がメインっぽくもありますが、アーニャが絡むのでしょうか…?

続き、第20話の考察と感想は以下よりどうぞ。

*(Asterisk) [前川みく×多田李衣菜]
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