アニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』第18話は、Candy Islandのメンバーをメインに据えて、きらりを交えて描かれるエピソード。かな子と智絵里、杏ときらり、という、ある意味で対照的な2組ですが、どちらのコンビも試練を乗り切るためのカギは「ほんの少しの勇気」でした。
TVアニメ「アイドルマスターシンデレラガールズ」オフィシャルサイト
前回の第17話では、城ヶ崎姉妹とみりあの3人にスポットが当てられ、見事に描き切られていましたが、今回18話はさらに増えて4人。かな子と智絵里、杏ときらりの2組を一気に描くエピソードになっています。1stシーズンのCandy Island回だった第9話と同じく、バラエティー番組への出演となりますが、あのときよりも一歩前進するための話ですね。
前回、17話の考察と感想は以下よりどうぞ。
今回のサブタイトルは「A little bit of courage shows your way.」、直訳すれば「ほんの少しの勇気がアナタの道を示す」でしょうか。ユニットの支柱である杏が不在の仕事を任されたかな子と智絵里はもちろん、杏にとっても「ほんの少しの勇気」がカギになっています。
前回から引き続き、TV番組「とときら学園」の収録シーンからはじまるのですが、この冒頭の短いシーンに、今回の課題と試練が詰まっています。杏のアシストを受けて発言のタイミングを得るかな子と智絵里、そして、小さな身体をネタにされてもサラリとネタで返せる杏と、その杏を抱きかかえる大きなきらり。この様子をなんともいえない表情で見ていたプロデューサー(以下、P)でしたが、彼の頭の中では次の一手が考えられていたようです。
ちなみに、難波ちゃんのツッコミに拍手が入るシーンでは、ちびっこたちが拍手しているのにかな子と智絵里は拍手できていなかったり、杏がかな子たちに話題を振るシーンでは、ちらりとカメラを確認してからしゃべりだしていたり、何気にかなり細かい描写がされています。
前を向く勇気を
アイドルの「個性」がキーワードになっている本作。実際『シンデレラガールズ』は尖ったキャラクターだらけなわけですが、そんな中において、三村かな子と緒方智絵里の2人はいたって普通の女の子です。かな子はちょっとふっくら系のお菓子好き、智絵里はか細くて人見知り、というだけで、天才ニートやウサミン星人に比べれば全然フツーです(ニートじゃないけど)。2人は同じユニットということもあり、公私ともに仲もよさそうですが、今回は彼女たちに試練が与えられます。
かな子と智絵里に試練を与えたのはPでした。これまでの話では、試練を与える役は美城常務でしたが、今回はPが自ら試練を課します。試練の内容は、TV番組での街頭インタビュー。P曰く「今のおふたりに必要な仕事」とのことで、アイドルとして成長するために必要なステップだと考えているようです。そもそも、Cute属性のユニットをバラエティー番組に出演させていることも、彼なりの狙いがあってのことなのでしょうね。
これまでは杏がうまくアシストしてくれていたのですが、杏が不在の街頭インタビューはうまくいきません。ここで2人は次に向けて努力をはじめるのですが、問題の認識を誤ってしまいます。だから、努力の方向も間違ってしまう。会話術の本で勉強しているシーンは、9話でクイズ番組に向けて勉強しているシーンが重ねられていて、あのときからあまり成長できていないことが示唆されています。クイズの勉強が役に立たなかったわけではありませんが(楽屋で暗記していた内容が出題されていた)、大事なのはそこじゃなかったはずなのですよね。
さらに、かな子は「初々しさ」を理由にVTRが採用されたことでホッとしていましたが、こういう「気のゆるみ」が問題だと認識。そこから「身体のたるみ」に向かってダイエットをはじめてしまいます。智絵里は「人見知り」であることが問題だと認識しており、それ自体は間違いではないのですが、対策として相手を見ないようにする「かえるさんのおまじない」をより一層強めてしまいます。ここで両者に共通しているのは、問題の認識も解決法も、自身の内面に向かってしまっていることです。インタビューは相手と向き合う仕事のはずなのですが、彼女たちは自分のことばかりに気が向いていて、周りがみえなくなってしまっているのです。
そして最後にはこの表情。余裕がなさすぎて笑顔どころではありません。そりゃあ幸子にも怒られるというもの。このシーン、よくよく聞いてみると、かな子が「がんばります!」と言っているのに、智絵里は「かえるさん!」なんですよね。余裕がないってレベルじゃない。
周りがみえなくなっていく過程が「お茶」で表現されていたりします。最初はティーセットで卯月たちにお茶を振る舞っているのですが、次はPの差し入れの缶のお茶になり、最後は休憩スペースで自分で入れたはずの紅茶のことを忘れてしまっています。かな子も智絵里も、本来は周りに気遣いのできる子なのですが、プレッシャーから追い込まれてしまい、自分のことすら見失っていることが暗示されていたのではないでしょうか。
周りがみえなくなってしまった描写として、切子職人の店内がわかりやすいですね。気合いを入れて挑んだ最初のシーンでは、「電気つけなよ」と言いたくなるくらい真っ暗。すぐ隣にいるはずの職人さんにまで影が落ちているので、話すべき相手のことすら見えていないのでしょう。来店時は職人さんの「何?」に対して「よろしくお願いします!」だから、もう会話になっていません。後のシーンでは、切子細工がめちゃくちゃキレイに描かれているので、これが見えないほどいっぱいいっぱいだったんですね。
今回のピンチを救ったのは、かつて「マッスルキャッスル」で戦った「野球どすえ」チーム。っていうか、このユニットってあの番組用の編成ではなかったんですね…。ここでの幸子のアドバイスはものすごく的確で「笑顔で前を向け」というもの。かな子たちは「失敗してはいけない」という後ろ向きな気持ちだったこともありますが、前を向くことで相手と向き合わなければいけないのですよね。問題を解決するのに必要だったのは、目の前の相手と向き合うための「ほんの少しの勇気」だったわけです。
それにしても、かつてのライバルが助けてくれる、というバトルモノのような熱い展開でこのカット。もう完全にヒーローじゃないですか。偉くなったな、幸子ォ!
今回の仕事はインタビューでしたが、今後は観客に向き合っていくことになるのですから、Pの狙いはここにあったのでしょう。「笑顔を引き出してほしかった」というとおり、Pの思い描く理想のアイドル像は「笑顔によって観客を笑顔にして、観客の笑顔を受けてさらに輝く」というものですからね。観客と向き合わず、真に輝くことはできないのです。Pはもう少しアドバイスしてあげてもいいように思うかもしれませんが、自らの手で作り上げてこその「個性」なので、自分の力で掴み取るまでは、たとえ効率的でなくともじっと見守っているのでしょう。といっても、かな子の倒れ方は救急車案件では…Candy Islandだから飴玉なのはわかりますけれども。
ちなみに、江戸切子というガラス細工の伝統工芸ですが、これには登場人物とちょっとした繋がりがあります。智絵里を象徴するクローバーは、江戸時代にガラス製品を輸入する際に緩衝材として使われていたのです。だから「白詰草」なんですね。これは第9話のすべり台クイズで智絵里が最後に答えた問題でもありました。
大切な人に想いをぶつける勇気を
かな子たちと対照的に描かれていたのが杏ときらり。気持ちが内側に向かっていたかな子たちとは反対に、自分のことではなくきらりのことで思い悩む杏の姿が描かれています。年齢以外のすべてが対照的な杏ときらりのコンビですが、アニメでは両者ともに、周囲がよくみえていてメンバーを後ろから支えている存在になっていますね。未央たちと加蓮たちのシーンは今後への布石でしょうけど、リーダーとしてメンバーを引っ張るタイプの未央とも対照的です。
杏は今回もかな子たちのインタビューのテーマを提案するなど、見えないところからアシストを出しています。が、直接は手出ししようとしません。仕事が増えて面倒になるので、積極的に絡まないのです。でも、メンバーのことは心配…と、ちょっぴり複雑なマインドを抱えているのですが、要するに素直じゃないんですよね。
そんな杏ですが、今回はTV番組の関係者の発案できらりと組むことになります。しかし、これはPの思うところではなく、杏もよく思っていません。きらりが気にしているであろう身長をネタにされることは、嬉しいことではないからです。杏は自分が小さいことをネタにされても平気なのですが、きらりのこととなると話は別。とはいえ、Pが断れないであろう事情や、舞踏会に向けた大事な時期であることも理解しているので、仕事は仕事としてキッチリこなすのが杏のプロフェッショナルなところ。
一方、きらりは心配する2人をよそに、めちゃくちゃ楽しそうに仕事をこなします。でも、きらりは周囲への気配りのできる子ですから、心配をかけまいと明るく振る舞っているのか、それとも本当に楽しんでいるのか、外面からは判断できないんですよね。メンバーのことがよく見えているはずのPや杏にとっても同じで、きらりの本心はわからないままでした。
心配する2人は、きらりの方から気を使われてしまいます。言葉を選びながら本心を聞き出そうとするPでしたが、心配していることを見透かされているんですよね。逆にきらりに心配をかけてしまっていたことに気づき、ハッとしているわけです。ちなみに、今回の事務所におかれていた花は、おそらく「リンドウ」で、花言葉は「悲しんでいるあなたを愛する」。悲しんでいるかもしれないきらりを想う2人と、心配させてしまっているかもしれない2人を想うきらりの心情が暗示されているのでしょう。
Pときらりの会話を後ろで聞いていた杏ですが、それでもまだ心配は解消されません。結局、杏はきらりに直接問うことにします。素直じゃない杏ですが、素直にならないとつらくなるよ、というきらりのアドバイスにのったわけですね。杏は普段から積極的に周りと絡むことはありませんし、特に今回の件はきらりを傷つけてしまうかもしれないので慎重な態度だったのですが、それでも「ほんの少しの勇気」を出して、ストレートに本心を聞いてみたのです。
このシーン、きらりの言葉だけでは納得した様子をみせず、「きらりん★あたっく」でようやくハッとした表情をみせる杏をみると、きらりがいかに普段から周りを気にかけて振る舞っているのかがうかがえますね。いつもは膝にのる側の杏がきらりに膝枕することで、お互いに支え合う関係であることが描かれていたわけですが、「杏ちゃんといるきらりが大好きだよ」なんて、もう完全に愛の告白です。それに対して「重い」で応える杏。こういうやりとりをみていると、毎度のことながらキャラクターの扱いがうますぎて舌を巻いてしまいます。
進展をみせる美城常務の改革
今回は美城常務が登場しませんでしたが、彼女の改革の進行ぶりがうかがえるシーンがいくつかありました。まず序盤、346プロのエントランスのモニターに「Autum Fes」の告知が流れています。ここで映し出されているのは速水奏。「Next Legend」として紹介されているため、秋のフェスで大きくプッシュされる予定なのでしょうか。「シンデレラの舞踏会」の開催は今期末、つまり春の予定ですから、それよりも先に先制パンチを食らわされるのかもしれません。
アイドル雑誌では、奏といっしょに塩見周子と宮本フレデリカも紹介されています。この3人はユニットなのか、それともそれぞれ別なのか。奏は幻想的で大人びた印象のキャラクターなので、たしかに常務の路線とマッチしそうですね。しかし、その…フレデリカは…常務、本当にいいんですか? かなりハチャメチャ系の人だったように思うのですが路線と合うのかどうか…大丈夫なんでしょうか。
ちなみに、何度も登場していたこのアイドル雑誌、掲載順に現在の状況を垣間見ることができそうです。表紙は765プロが飾っているので、なんだかんだでトップアイドルなのでしょう。裏表紙は前回の美嘉の広告。美嘉は前回、この他にもファッション誌の表紙を飾っていたので、そういう路線なんでしょうね。雑誌の中身は、346プロが新たに推すアイドル、「ブレインズキャッスル」復活、「とときら学園」の順に掲載されており、これがそのまま、現状のパワーバランスをあらわしているのかも。当然かもしれませんが、常務の進めるプロジェクトの方が優先度が上なんですね。
川島さんと十時の会話からは、Pサイドの仕事は「のびのび」で常務サイドの仕事は「窮屈」とも語られていましたね。「個性」を推してやりたいことをやらせるPサイドと、本人のやりたいことよりも「スター」になることを望まれる常務サイドでは、こういう印象になってしまうのもやむなし、といったところでしょうか。
にしても、「マッスルキャッスル」が「ブレインズキャッスル」に戻っていることも注目ですね。以前かな子たちが出演した9話では、頭脳派クイズ番組から運動を取り入れた内容に変更されていたのですが、16話ではアイドルにボルダリングをさせるくらいの脳筋番組に進化していました。常務の改革でバラエティー路線を減らすはずだったのに。番組制作の現場では、キッズアイドルに園児服を着せるような行為が横行しているので、この変遷も実は現場の暴走だったりするのでは…となると、常務の判断ももっともなのではないかと思ってしまう次第。
一方、シンデレラプロジェクトの部屋に貼られたスケジュール表をよくみると、new generationsは学園祭ライブの他に音楽番組のオーディション、LoveLaikaも音楽番組オーディションに店頭ミニライブなど、音楽路線で進めている様子。蘭子は高森藍子のラジオ出演や何かのゲストトークなど、トーク路線の仕事が入っています。”熊本弁”がウケているのでしょうか。Candy Islandと凸レーションは「とときら学園」の他にネットラジオや生放送出演など、バラエティー路線ですね。アスタリスクもバラエティー番組のオーディションを受けているようですが、ドラマのオーディションなんかも入っています。あの2人が…ドラマ…?
さて、次回のサブタイトルは「If you’re lost, let’s sing aloud!」、直訳するなら「迷っているなら、声を出して歌おう!」といった感じでしょうか。ということは、ロックかな?
※2015/8/17追記
ロックでした。
引き続き、第19話の考察と感想はこちらからどうぞ。
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