アニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』第24話は、島村卯月の物語の後編であり、物語全体としても完結編といっていい内容です。卯月が笑顔を取り戻し、アイドルとして輝きはじめるために必要だったことは、全編を通して描かれてきた「星」の輝きだったのです。
前回の23話では、これまで積み上げてきた布石をすべて爆発させて、卯月の中に溜まった不安の原因を突き止めました。しかし、問題はまだ解決していません。ここから卯月が笑顔をどうやって取り戻すのか。第24話は島村卯月の後編であり、解決編となっています。
前回の考察と感想は以下の記事でどうぞ。
サブタイトルは「Barefoot GIRL.」、意味は「裸足の女の子」で、前回の「Glass Slippers.」(「ガラスの靴」)との対比。誰かの魔法の力ではなく、自分の力で歩みだせるのか、という本作に根差すテーマですね。
24話は卯月の物語の完結編であり、また、『シンデレラガールズ』としても1つのゴールへ到達する話です。物語のはじまる1stシーズンの1話の時点で「アイドルになりたい」という夢を叶えてしまった卯月が、もう1度原点に立ち返り、「アイドルとして輝くためにはどうすればいいのか」を探すことになります。なので、今回は第1話との対比が注目のポイント。
笑顔を求めて卯月は過去へと旅をする
346プロに戻ってきた卯月を待っていたのは美城常務。のっけからポエムバトルを挑んできますが、島村さんにはそういうの、まだちょっと早いかもしれない。とはいえ、常務の「君の輝きはどこにある?」という質問は核心をついています。卯月にとって、まさにこれがいま目の前に立ちはだかっている問題なので。
自分の中のキラキラする何かを探すためには、自分と向き合うしかありません。しかし、向き合った結果、何もなかったらすべてを失なります。仲間と一緒に過ごすことも、アイドルであること自体も。だから、卯月は自分と向き合うことを怖がっているのです。この恐怖に立ち向かうために必要なのは、彼女自身の勇気に他なりませんが、勇気を後押しするのは仲間の存在です。
最初は事務所の入り口前で座っていて、1人では部屋に入れなかった卯月ですが、次のレッスン室の扉は1人で開けられるようになっているのは、凛と未央、それにプロデューサー(以下、P)が待っていてくれたことでほんの少し勇気づけられたから。未央が手を握ってくれるのはラブライカと同じですね。Pがレッスンを促すのは、レッスンそのものではなく、メンバーと会わせるため。前回、凛に養成所の場所を教えたときと同じように、メンバーが卯月を支えてくれると信頼してのことでしょう。それにしても、凛に「すごいね」と言われる未央はパラメータがカンストしてる感あって本当にすごい。
レッスン中の会話から、卯月は過去へと遡っていきます。卯月はもともとアイドルになること自体が夢だったので、なった後のことはあまり考えていませんでした。だから、自身の方向性を問われても答えられず、進んでいく周りの中で足元が揺らいでいました。なので、ここで一旦原点に立ち返って、スタートラインを見つめなおす必要があるのです。それともう1つ、失われた笑顔を取り戻すために、過去の自分がどうやって笑っていたのかを思い出そうともしていたのでしょう。
はじめて346プロに来たとき、「本物のお城みたいだった」と語るみりあは、第2話の卯月と同じ。莉嘉のいう「アイドルになったら、楽しいことばっかりだと思ってた」けど、そうじゃなかったというのも、共感できるところでしょう。前川が周囲をライバルだと思って埋もれないようにがんばったけど空回りしていたというのも、今の卯月と近い境遇です。李衣菜の「ぶつかりながらやってく」も、卯月にとっては昨日、凛とぶつかったばかり。きらりの語るオーディションに合格したときの喜びだって、卯月と大差ないものでしょう。キラキラ輝いてみえた周りのメンバーは、実は自分と変わらなかったのです。
このシーンで挿入される花はプリムラ。プリムラには種類も多くて花言葉もいろいろあるのですが、いろいろあったねと思い出を語るシーンなので、プリムラ・ジュリアンの「青春の喜びと悲しみ」が合いそうです。
過去の話はここまで。かな子の話からは現在の話へ移ります。「ちょっと変われたところと、そのままのところと、どっちも大事にしたいな」は、現状で満足してるけど、周りが変わってしまうから自分も変わらなきゃ、と必死だった卯月にとって刺さりそうな言葉。完全に自分を見失っていますし。すっかり杏離れして小日向美穂とのユニットで代役を務めるほど「変われた」かな子が、第3話で美嘉のバックダンサーのレッスンしていたときと同じお菓子を差し出すのは「そのままのところ」です。
ここから先に進み出した後の話で、卯月にとっては未来の話です。蘭子とアーニャは新しい世界へ冒険する素晴らしさを教えています。その結果、新しい仲間と出会えたことも、唯にもらったであろう飴によって示されています。智絵里の「失敗ばっかりで焦ってたときもあったけど」「やってみてよかった」は、失敗しても大丈夫だという話。杏の「自分のペースが1番だよ」は杏らしい気遣いですが、個性重視で売り出しているのだから、自分らしさを手放してはいけないということでもあります。
そして最後は美波の言葉。「不安は分かち合えるって、一緒に立ち向かえるってわかったから」 不安に立ち向かうためのカギが、仲間の存在だと教えてくれています。卯月は不安のあまり、1人で養成所に籠ってしまいましたが、そこから一歩踏み出すためのカギは仲間です。そしてそのカギは、すでに手にしているのですよね。ちなみに、噴水前で咲いている花はポインセチア。花言葉は、「祝福」「幸運を祈る」「私の心は燃えている」など。曇り空をバックにした構図は、20話でアーニャと星空を見上げたときと同じで、これから冒険に向かう卯月を送り出すシーンになっています。
仲間たちから背中を押された卯月はかつてのプロジェクトルームへ。未央の「何にもなくなっちゃったね」はあっけらかんとしていて、あまり寂しさは感じさせません。常務が来たばかりの頃は、この部屋へ戻るために奮闘していましたが、今ではそれぞれが可能性をみつけて歩み出しており、もう戻ってくるべき場所ではなくなったからです。(とかいってると、最終回で戻ってくるのかもしれませんけども) 全員が巣立っていった後だから何もありません。もちろん、卯月だってその1人。だから、ここでは入り口から眺めるだけです。以前のように過去に戻りたいと願っているのではなく、笑顔を取り戻したいから、笑顔だった過去を思い返そうとしているのでしょう。
自室での卯月も、過去の写真を見たり、オーディションの合格通知証を見たり、自分が笑顔になれていた頃を思い出そうとしています。自信がないから笑顔になれないのですが、笑顔になるためには自信が必要なわけで、非常に厳しいスパイラル。一方、相変わらず常務とポエムバトルとしているPは「光はそこにあります。あなたには見えていないだけで」と言っていますが、実は卯月も同じなんですよね。分厚い曇り空を見上げているものの、星はすでに手にしているはずです。
物語の原点へ
卯月の過去への旅は、最後に第1話冒頭のライブ会場までやってきます。憧れの楓さんたちが立っていたステージですね。ここからは卯月自身が過去から現在、そして未来までを語る展開。ここまでにメンバー全員から話を聞いてきたので、残すはPだけです。
ライブ会場でのシーンは1話とまったく同じアングルで進行しています。比較用に左が今回、右が1話で並べてみました。他にも会場の外や時計台など、キャラクターが映っていないカットもそのままです。全体的にめちゃくちゃ暗くなってますけど。
未央が走っていた道、凛が花を置いていた通路、3人がぶつかった階段の上、すべて同じ。物語のスタート地点まで戻ってきました。ガラスの靴を落とした階段をPと卯月が上るシーンでは、2人とも上りきっていません。悩める卯月はともかく、Pが上りきっていないのは、アイドルたちと一緒に階段を上っていこうとしているからでしょう。
客席からステージの袖まで移動しているので、実際には階段を下りているはずですが、下りているカットはありません。階段を使った演出が多かった本作なので、下りているけど階段は見せない、という巧妙な見せ方にほんの少し不安にさせられます。ここまできて急降下する展開はないとわかっているのですけれども。ここは階段を下りているのではなく、ステージに向かって進んでいるのです。Pに道を示されて。
ステージの袖で卯月が語る不安は前回とほぼ同じ。仲間たちからの信頼を感じながらも、自分の能力に自信が持てず、まだ自分が信じられない状態。だからPは、卯月の実績を教えてあげます。「あなたの笑顔がなければ」「私たちはここまで来られなかったからです」 かつて楓さんたちが歌っていたステージの袖で「ここまで来られた」というのは、卯月が夢見たキラキラしたアイドルまであと一歩のところまで来ている、ということでもあります。
「ここに止まるのか」「可能性を信じて進むのか」 Pの2択に対して、可能性を選んだ卯月を後押ししたのは、仲間の存在でしょう。「私たちが、みんながいます」 ”私たち”なので、P自身も含んでいるのがいいですよね。そして、今まで卯月の笑顔に救われてきたPが、笑顔で卯月を救おうとする構図に。魔法のステッキのようなペンライトが実にステキな演出。
星に願いを
new generationsのクリスマスライブのタイトルは「Wish Upon A Star」、意味は「星に願いを」。未央がアイドルたちに配っていた星が文字通りの意味になりそうです。が、それだけではなさそうです。(※ちなみに、映画『ピノキオ』の同名の主題歌、原題「When You Wish upon a Star」はちょっと違いますが、北欧ではクリスマスソングになっているそうなので、少し引っかけてある?)
前回、美城常務が「アイドルを星にたとえる者がいるが」と語っていたように、本作では何度もアイドルを星にたとえてきました。なので、ここでの星もアイドルを示していると考えられます。星に夢や願い事を書く、ということは、夢や願い事を自分たち自身に願うということ。そして、その願いを叶えるのは、他ならぬアイドルたち自身なのです。実際に書かれていたメッセージには、自分の願いだけでなく、他者への応援もたくさんあったので、アイドル同士の絆も夢を叶えるといっていいでしょう。
自分たちの願いは自分たちで叶える。これは、本作のテーマそのものでもあります。他者の魔法によって都合よく成功する「シンデレラストーリー」ではなく、自分の力で成功を掴みとるのが『シンデレラガールズ』ですからね。願いを集めた星空は『シンデレラガールズ』の象徴といってもいいかもしれません。
※2015/10/5追記
ちなみに、この星空を作っているシーンで事務所に飾られている花は、小さくてわかりづらいですが、おそらく山茶花(サザンカ)。花言葉は「困難に打ち克つ」や「ひたむきさ」なので、状況と合致しそう。また、赤い山茶花は「あなたがもっとも美しい」という花言葉もあります。ステージ以外のところでアイドルたちが支えあっているのは、秋のライブの舞台裏で、今西部長が言っていたとおり、「何かを夢見ている者同士の絆の力が、あの華やかな舞台を支えている」のであり、冒頭の常務の質問に対する答えでもあります。彼女たちの輝きは、ここにあるのです。
~追記ここまで※
卯月が願い事を書けなかったのは、15話の白紙の企画書のように、思いつかなかったわけではないでしょう。アイドルとしてキラキラしたい、みんなと一緒に進みたい、と、願い事はハッキリしています。しかし、その願いを叶えるためには、自分と向き合って可能性を見つけなければなりません。それが怖いから、願い事を書けないままでした。結局、星に書くことはありませんでしたが、願い事はちゃんと自分の口から吐き出しています。
クリスマスライブに駆けつけた卯月が涙ながらに叫ぶシーン。ついに階段を上りきり、弱々しくも確かに一歩を踏み出した卯月の口から出た願い事は「キラキラできるって信じたい」でした。どうしても自分が信じられず、自信が持てなかった卯月が、多くの仲間から背中を押されて、やっと踏み出す決意をしたのです。あんなに怖かったのに、自分自身と向き合おうとついに覚悟を決めたのです。
正面からアップのまま長いセリフが続くシーンとなっていて、表情がめちゃくちゃ動く。涙を必死にこらえようとしているけど、あふれてしまう感情の昂ぶりが、作画と演技をガッチリ合わさって表現されていて本当に凄まじい…。まさか2話連続でこんなすごい泣き顔を見られるとは。あと、涙で前が見えなくなっている卯月の「凛ちゃあん」がとてもかわいい。
何も書けなかった星を凛がポケットに入れてくれるシーンはオープニングの再現。書けていなくても願い事は決まっていますから、あとは「目には見えない小さなShining Star☆」を信じればいいだけ。次回のオープニングからは(といっても次で最終回だけど)、きっと卯月の手には星が握られていることでしょう。
「自分の靴で今進んで行ける勇気」を手に入れた卯月は、普段の制服姿のままステージへ。普通に考えれば、着替える時間をMCで繋いで作ってやれば、と思うところですが、今回は「ガラスの靴」に対する「裸足の女の子」ですから、魔法の衣装ではなく、素の自分で踏み出す必要があるのです。自分と向き合う必要もありますから、魔法は不要なんですよね。ある意味、女子高生の制服の方が魔力高かったりしますけれども。
S(mile)ING!
復帰第一戦をソロでトップバッターだなんて、ずいぶんと荒治療ですが、卯月への信頼がそれだけ厚いということなのかも。開幕はキメ台詞の「島村卯月、がんばります!」 これは前回のウソの「がんばります」ではなく、魂の叫び。歌は持ち歌の『S(mile)ING!』ですが、新録のライブバージョンとなっています。最近『デレステ』で散々やっていたので違いはすぐにわかりました。
最初は控えめなステップからはじまりますが、歌いながら自分と向き合うことで、ステップが大きくなり、だんだんと笑顔が輝いていきます。やや硬い笑顔から、「クヨクヨに今サヨナラ」して、自然な笑顔に変わっていく様は圧巻。無自覚に笑っていた過去とは違い、自分と向き合ったことで手に入れた笑顔なので、新たな階段を上ったといえるでしょう。まさしく、アイドルとして輝きはじめたわけです。
ライブ中に挿入されるテキストは1話冒頭の『お願い!シンデレラ』との対比。1話では「私達は夢をみている」「ガラスの靴をはいて」「お城へ行く」「光の中で踊る時が来る事を」「信じてる!」「夢は夢で終われない」「みつけよう」「私だけの 光」「さがしつづけていきたい」でした。
そして今回、私だけの光を探し続けた結果、「私らしさってなんだろう?」「お姫様にあこがれる」「普通の女の子」「信じよう」「キラキラできるって」「笑っていよう!!」になりました。答えをみつけたのです。お姫様になるために必要な自分だけの光は、キラキラできると信じで笑顔でいること、だったわけです。答えがでたのだから、ある意味、ここが物語の終着点といってもいいでしょう。今回、わざわざ1話冒頭のライブ会場へ足を運んだのもこのためですね。
仲間にもらった勇気で冒険へと踏み出し、自分と向き合って手に入れた笑顔の魔法は卯月だけのものです。だから、12時の制限などありません。針のない時計はオープニングで壊れた時計と同じ。「「おしまい」なんてない」のです。もう無敵ですね。卯月の笑顔がついに常務の心を動かし、凛の反応は1話のクリティカルヒットを超えてメガスマッシュヒットに。Pも思わずガッツポーズです。
ここまでたどり着くのにずいぶん遠回りをしてしまったような気もしますが、実は卯月の辿った道のりは凛に近いものになっています。曇り空を見上げた歩道橋は凛をトライアドプリムスへ押した場所で、学校まで迎えにきたPが守衛に捕まっているのも1話と同じ。公園のベンチの回想では、かつて凛が座っていた側に座り、ライブに駆けつけたシーンで可能性を「確かめたい」と語るのも凛と同じです。「このままは嫌」と言っているのも、前日に凛が「嫌だ!」と言っていたのと重なります。そして、ベンチから凛が見ていた光景には卯月とPしかいませんでしたが、卯月からの光景には全員が揃っています。卯月に惹かれてアイドルの道へ踏み出した凛と、全員に惹かれて再出発する卯月との対比ですね。
アイドルになること自体が夢だったので、最初に夢が叶ってしまってため、ずっとふわふわしていた卯月でしたが、ここでようやく地に足をつけてもう一度スタートを切ることができました。といっても、すでにこれだけの信頼と絆を築き上げているのですから、ゴールは目前。ラストカットの晴れ上がった星空は「星はそこにあった!」ということでしょう。
次回はいよいよ最終回。またしても特番を挟んでの放映となりますが、物語としてはほぼ完結し、舞踏会はエピローグとしてすべての成果が発揮される舞台となることでしょうから、安心して待てそう。ですが、今度は終わってしまう喪失感に耐えられるかどうかが心配…。
ちなみに、公式サイトは「シンデレラの舞踏会」の告知になっています。また、イメージイラストの時計は12時を過ぎて、卯月が笑顔になっていたりします。
http://imas-cinderella.com/
続き、最終回25話の考察と感想は以下からどうぞ。