アニメ【シンデレラガールズ】23話の考察と感想と 島村卯月の「ガラスの靴」

アニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』第23話は、島村卯月への試練を描いた物語の佳境。今までいつも前向きな笑顔で「がんばります!」と言っていた彼女の裏側が描写される、物語のクライマックスとなっています。卯月の本心はどこにあるのか。そして、彼女をお城へ戻すための「ガラスの靴」とは何なのか。

前回22話のラストで、これまで進み続けていた時計の針がついに12時を迎え、卯月がお城から降りてしまうことに。積もりに積もった布石がどう爆発するのか。どう着地するのか。過去の『アニマス』の春香回がそうだったように、今回の卯月のエピソードが物語の佳境であることは間違いないでしょう。

前回22話の考察と感想は以下の記事でどうぞ。

過去のエピソードとの対比をもって描かれることが多かった本作ですが、今回もかなり多くの対比が含まれています。養成所にこもって第1話(もしくはそれ以前)に戻ってしまった卯月を、7話以降、成長を重ねたプロデューサー(以下、P)と凛、未央が救い出す、といった構図です。過去に卯月の笑顔に救われた3人が今度は卯月を救い出す展開、という意味でも、これまではずっと待っている側だった卯月を周りのみんなが待つ展開、という意味でも、これまでとは逆転した構図になっています。

今回のサブタイトルは「Glass Slippers.」で意味は「ガラスの靴」。「シンデレラ」を象徴する重要アイテムですが、本作におけるガラスの靴は、第7話で砕け散って以降、登場していません。『シンデレラガールズ』では、他者からの都合のよい魔法の力ではなく、アイドルたち自身の力で階段を上る物語であるからです。オープニングで「誰か魔法で変えてください ガラスの靴に」から、「捜していたのは12時過ぎの魔法 それはこの自分の靴で 今進んで行ける勇気でしょう?」に変わっているのが何よりの証拠。そんな本作がここにきて謳う「ガラスの靴」とはいったい何なのでしょうか。

まずは今回のメインである卯月の心情からみていきましょう。

逃避の先で待っていたのは自分自身

周りのメンバーたちがどんどん成長していく中、無力感と焦燥感に苛まれていた卯月は、Pの提案してくれた新ユニットで挽回を図りますが、残念ながらうまくいきません。今まで以上に気合いを入れて臨んだはずなのに、Pの目から見ると「調子が悪い」ように見えてしまうほどで、ますます自信を失ってしまいます。これが前回までの話。

ここで卯月のとった行動は、養成所に戻って再び基礎レッスンからやり直すこと。Pが「ご本人の意向を汲むことにしました」と言っているのは、前回の「本調子ではないようなので」と合わせて、7話の未央に対するセリフと同じです。アイドルが部署を離れていくのはあのときの未央と近い状況ですが、卯月の場合、表面上は前向きなのでPは止めません。残念ながら、これはめちゃくちゃ後ろ向きな行動で、ハッキリいって現実逃避になってしまうわけですが。

朝一の入り口で待っているところをみても、前回の秋のライブ中と変わらず、周囲のメンバーを避けている様子。ちなみに、花瓶の花は小さくてわかりづらいですが、おそらく秋明菊。花言葉は「薄れゆく愛」と「忍耐」。今回はみんなで卯月を待つ話なので、「忍耐」が合致しそうです。

アイドルマスターシンデレラガールズ 入り口で待つ卯月

卯月の無力感の原因は周りのメンバーの成長でしたから、周りから距離を置くことで一旦は落ち着きを取り戻します。1話と同じ笑顔で苦手なターンを決める場面も。しかし、無力な自分という現実からは逃れられません。むしろ、1人になることで、自分自身と向き合わねばならなくなったのです。自分と向き合うことでアイドルとして輝き始めるのはゲーム版の「特訓」ですが(同じカードを合成することでパワーアップするシステム)、ここでの卯月は自身と向き合うことができません。

自分自身と向き合うことが、鏡を使って描写されています。自室で養成所に戻ることを決意するシーンから、養成所でのレッスンシーンまで、卯月は自分と向き合い続けているわけです。しかし、向き合えば向き合うほど、無力な自分を痛感してしまい、よりいっそう無力感に苛まれることに。本来ならば休んでリフレッシュすべきところだったのに、持ち前の真面目さでがんばってしまったがために、さらに追い込んでしまうというのは、うつ病のパターンすぎる。

Pは7話の反省から、卯月のもとへ何度も足を運んでいます。最初に持っていった差し入れのプリンは7話のカップに入ったケーキを思わせます。あのとき、笑顔で夢を語る卯月に救われているため、今度はPが救おうとする気持ちが込められているのかも。後のシーンではたい焼きになりますが、これは11話のアスタリスク回からではなく、『アニマス』の23話で春香が手にしたどら焼きと重ねられているのではないかと。一口も食べませんし。

卯月を連れ戻すために、Pはnew generationsのライブを用意しますが、それも断られてしまいます。凛と未央と一緒にステージに立つのは卯月の望みだったはずなのに。これでPのやれることはすべてやったので、バトンは凛に引き継がれます。養成所の場所を教えるPの「あのときとは違います」はストレートに7話との対比。信頼関係が築けている今では、凛に任せることができるわけです。それにしても、年末進行の忙しそうな時期に、イベントまわして、ってお願いしたら即座にクリスマスイブのライブ会場を抑えてくれるなんて、千川さん一体いくら貰ったんですか。

ちなみに、この養成所のシーンでの雑誌の描写が印象的。これも1話との対比なのですが、卯月が最初に見ていたのは、15話で憧れの楓さんと一緒に仕事したときの記事で、過去の出来事を表しています。次に、楓さんと一緒に雑誌の表紙を飾るほどになったアスタリスクと蘭子は、現在の状況です。最後に、雑誌のあった机におかれたクリスマスライブの資料は、明後日という未来。3つのアイテムは過去、現在、未来を示しており、1話と何も変わらず時が止まったような養成所にあっても、周囲はどんどん進み続けていることが表現されているのです。

本心の吐露は感情の爆発とともに

凛と未央がとった行動は、卯月に直接会って話すこと。前回22話のライブシーンからCパートの間に秋から冬に時間が経過していて、その際に凛があまり会えていないことを話している上、今回も電話のみだったので、実際に会うのはかなり久しぶりのはず。卯月は表面上は元気なため、電話ではわかりませんでしたが、実際に会ってみると、変わり果てた姿を目の当たりにすることになります。

凛が声を荒げたのは、卯月が夢を語るシーン。「キラキラした何かになれる」というセリフは、第1話で桜の下のベンチと同じものです。あのとき、同じように夢を語る卯月がキラキラしてみえていた凛だからこそ、目の前の卯月が輝きを失っているのは一目瞭然。このシーンの卯月は、普段よりも目のハイライトが小さめになっていて、まったく輝きがありません。まさに魔法の力を失った状態。

そして公園のベンチの前へ。あのときは、やりたいことが見つけられていなかった凛と、夢を叶えられて期待に胸を膨らませていた卯月でしたが、今では、夢中になれる何かをみつけて走り出した凛と、夢に破れてアイドルから転落してしまいそうな卯月に。この構図の反転は、あまりにも残酷。

卯月の本心を聞き出そうとする凛の「逃げないでよ」は、7話でPにぶつけたセリフと同じ。あのときのPと同じように、卯月のことが信じられなくなっているからです。「アンタ」呼ばわりするほどですから、信頼度はゼロに近いのかも。「アイドルマスター」はPとアイドルがコミュニケーションを通じて信頼関係を築き上げていく物語ですが、アイドル同士もまた、コミュニケーションによって団結を高めていく物語です。なので、この状況は破局寸前の大ピンチ。

凛にとっての卯月は、自分がアイドルになるキッカケであり、未央がソロ活動をはじめたときには支えてくれて、トライアドプリムスへも背中を押してくれた存在です。夢中になれる何かをみつけられたもの、新しい可能性に出会えたのも、すべて卯月がいたからこそ。だからこそ、誰よりも卯月のことを信頼していたし、今だって卯月のことを信じたい。ここでの凛は、現実逃避をする卯月からすべての逃げ道を断ち切って、本心を吐き出させようとしています。

未央に背中を押されてようやく話しはじめる卯月。ここでは横からのアングルになっており、目の前にいる凛に話しているというよりは、自分自身に言い聞かせているような構図になっています。卯月自身、周りにウソをついているつもりはまったくなかったのでしょうけど、あまりのつらさから自分自身にさえウソをつき、本心を覆い隠してしまっていました。しかしここで凛に迫られることで、自分自身に向き合わざるを得なくなりました。自分と向き合うのに必要だったのは鏡ではなく、信頼できる友達だったのです。

そしてここが今回の、いや、おそらく本作最大のクライマックス。号泣とは感情の爆発。魂の込められた作画と迫真の演技があわさり、視聴者の全員をもらい泣きさせてやろうという強い意思を感じるシーンになっていました。こんなの耐えられません…。他者と自分への二重の仮面がついに剥がれ、あふれ出る言葉はもう丁寧語ではありません。それは卯月自身の生の言葉。「怖いよ…」「笑顔なんて、笑うなんて誰だってできるもん」「私にはなんにもない…なんにも」 卯月の心の奥底にあったのは、可能性をみつけられない未来への恐怖と、何も持っていない自分への絶望。1話で凛が選んでくれたアネモネの期待、希望とは正反対。輝いていたまぶしい笑顔と、ぐしゃぐしゃの泣き顔もまた正反対です。

卯月の自己評価の低さは、自身の笑顔の力を理解できていないことが原因です。1話で凛をアイドルの道へ誘ったり、7話でPを救ったり、数々の場面で周囲を救ってきているのですが、彼女には自覚がありません。だから、ここで凛にあのときの笑顔のおかげで今の自分があると告げられたことで、ようやく自分が無力ではないと気づけるキッカケが与えられました。卯月はPの掲げる「Power of Smile」を体現する存在であり、その最初の成果は凛なんですよね。

3人のリーダー・未央は、ここでは後ろから見守るポジションになっています。これまでは前から引っ張るタイプでしたが、背中を支えることもできるようになったということです。涙を流す2人を前に、これまで散々泣いてきた未央は涙を堪えて卯月を抱いて、こう言います。「どんなときも笑って、がんばります、って言ってくれるって。そんなわけないよね」 卯月はこれまで常に前向きで、どんなときも笑顔で「がんばります」と言ってきたので、”ガンバリマスロボ”と揶揄されるほどでした。しかし、ここで初めて弱音をみせたことで、ようやく島村卯月というキャラクターに本当の魂が込められたように思います。

最後に、卯月と別れて帰る2人。未央の「またね」がすごくやさしく響きます。帰っちゃうのかよ、って気がしないでもないですが、ここから卯月が自分の意思で戻ってこなければ意味がないため、物語としては当然の展開。Pが待つ側にまわるのも1話との対比ですね。今まで待つばかりだった卯月が、待っている人たちのために一歩を踏み出すのは、彼女にとっての新たな挑戦です。

戻ってきた卯月の表情は、7話ラストの未央や凛を彷彿とさせます。あのときの卯月は2人と違ってブレない笑顔のままでしたが、大きな試練を乗り越えた今はこの表情というわけです。ここから彼女がステージの上で笑顔を取り戻すために必要なピースは、ファンの笑顔でしょうか。

「ガラスの靴」は魔法の時間を過ぎても残るモノ

今回のサブタイトルは「Glass Slippers.」、つまり「ガラスの靴」。卯月にとって、ガラスの靴とは何だったのでしょうか。童話「シンデレラ」におけるガラスの靴は、12時を過ぎて魔法が解けた後に唯一残った魔法のアイテムで、シンデレラと王子様を結ぶキッカケとなるモノです。では『シンデレラガールズ』において、これに該当するモノは何でしょうか? 卯月の魔法が解け、あの魔法の笑顔から輝きが失われても、残っていたモノとは。

それは卯月たちが築き上げた信頼と絆の力。凛と未央が卯月に会いに行くのも、Pが凛に養成所の場所を教えるのも、Pが卯月を待てるのも、すべては信頼関係があるからこそ。自分には何もないと嘆く卯月ですが、凛を救い、Pを救い、Pを救ったことで未央も救っており、そこで築いた絆は失われてなどいません。これこそが、12時を過ぎても失われなかった、たった1つの魔法でしょう。絆があるからこそ、自分と向き合う勇気が生まれるのです。絆というガラスの靴によって繋ぎ止められた卯月は、王子様の導きではなく、自分自身の意思でお城へと戻ります。「シンデレラ」ではなく、『シンデレラガールズ』ですからね。

次回のサブタイトルは「Barefoot GIRL.」、意味は「裸足の少女」。今回の「ガラスの靴」と対になるタイトルですね。いよいよ自分の足で一歩踏み出した卯月の物語の完結編でしょう。しかし、次回以降は特番を挟んで隔週での放送予定となっています。ここからライブシーンが多くなりそうですから万策尽きたのかどうかはわかりませんが、「晴れない雲はありません。星は今もそこにあります」とPもおっしゃっていることですし、制作陣を信頼して待つこととしましょう。

※2015/9/26追記
予告を見る限り、次回は島村卯月の完結編でしょうか。凛がトライアドプリムスへ旅立ったときと同じ歩道橋が印象的。

続き、24話の考察と感想は以下の記事でどうぞ。

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