『Hollow Knight』は探索型の2Dアクション、いわゆる”メトロイドヴァニア”と呼ばれるゲームです。ジャンプ&アタックをベースとしたスタンダードなアクションで複数のエリアに分かれたマップを探索し、その奥に潜むボスを倒し、ゲットしたアイテムによって増えたアクションを活用して新たなエリアへ進んでいく。実にオーソドックスな作りなのですが、本作をもっとも特徴づけているのは「デモンズソウル」や「ダークソウル」から深く影響を受けたとみられる要素の数々であり、これはもう”メトロイドソウル”と呼ぶのが相応しいのではないかと。
ダークなソウルに満ちた昆虫の世界
“ソウル”な要素としてはまず、ゲーム全般に満ちるダークな雰囲気。昆虫をモチーフとしたかわいらしいキャラクターではありますが、舞台となる古代遺跡はどこも荒廃していて退廃的、死体がゴロゴロしているような場所も珍しくありません。薄暗い中で敵の物音だけが響き渡る様はまるでホラーのようでもあり、それでいてかつての繁栄を思わせる遺跡の数々に物悲しさもあり、しっとりとした気分に浸れます。この抜群の雰囲気は描き込まれた手書き風のグラフィックと悲しげで美しい音楽との調和よるもので、見事という他はありません。
ゲームシステムにも”ソウル”要素があります。わかりやすいのが死んだときのペナルティでしょう。死ぬとその場に所持金をドロップし、再度その場所に戻れば回収できる、というシステムです。本作の場合は死んだ場所で自キャラが亡霊となって待ち構えているため、戦って倒す必要はあるのですが、たいして強くはないので回収そのものは容易。むしろ亡霊としてこちらに向かってきてくれるため、トゲ地帯の上で死んでも回収可能なので有情でしょう。死んでセーブポイントに戻されては死んだ場所まで戻って所持金を回収…、これを繰り返しているうちにマップを把握してどんどん上達していけるのはとても”ソウル”っぽい。
回復手段についても”ソウル”っぽさがあります。体力は「ゼルダ」シリーズにおける”ハートの器”に近いシステムになっていて、回復は序盤に入手できるスキルを使えば体力1個分を回復できます。スキルはMPに該当するソウルを消費しますが、ソウルは敵に攻撃を当てるだけで溜まるのでガンガン使っていけます。が、回復スキルは発動までにやや長めのタメ時間があるため、戦いの最中に使うわけにはいかず、ゴリ押し戦法もできません。(体力の上限を増やしまくればできなくはないですけど) こういった回復スキルへのリスクのつけ方は”ソウル”っぽいかなと。特にボス戦でタイミングを見計らって逃げ回っているときに感じます。
中でももっとも”ソウル”な要素としては、やはり難易度のつけ方でしょう。本作はハッキリ言ってかなり高めの難易度です。といっても、やみくもにムズかしいというわけではなく、節々から開発者の意図が感じられるような調整で、実に攻略のやり甲斐があるというか、攻略することで開発者と対話しているような感覚になれるところなど、まさに”ソウル”な感じ。
たとえば、落とし穴を咄嗟のジャンプで回避して「そんなの引っかからないぜ」とドヤっていたら着地点がさらに落とし穴だったり、ボスの急降下攻撃を避けて「よっしゃ反撃」と思ったところでフェイントからの二の太刀が待っていたりと、プレイヤーの心境を読んで次の手が打たれているなど。コミュニケーションはキャッチボールに例えられることがありますが、ゲームにおいては開発者から投げられたボールをいかに打ち返していくかが攻略となるわけで、それこそが醍醐味でもあります。ボスの攻撃も罠の仕掛け方もかなりのいやらしさがあり、「クソが!」「無理だろ今の!!」と罵声を吐きたくなる場面も多数あるのですが、それを上手く打ち返せたときの達成感たるや、極上のモノであるわけですから、気が付いたらまた死体を回収に向かってしまうことになるのです。
そのボリュームは20時間以上
『Hollow Knight』のもう1つの大きな特徴はボリュームです。個人的に”メトロイドヴァニア”といえばクリアまで大抵は7~8時間くらいという印象だったのですが、本作はクリアするだけで20時間オーバー。真エンドを含めたやり込み要素を考えれば30時間コースになりそうなほどです。もちろん、ただ長いだけではなくキッチリ詰まっています。
このボリュームの要因の1つはマップの広さ。複数のエリアに区切られており、1つ1つのエリアも広い。となると探索におけるマップの重要性も増すのですが、各エリアのマップはそのエリアにどこかにいるNPCから買わなければ表示されないため、彼に出会えるまでは心細い探索をすることになります。マップを買えたとしても、最初からすべてが書かれているわけではなく、ある程度は自分で埋めていく必要があります。しかもリアルタイムでマップに反映されていくわけではなく、セーブポイントであるベンチに帰還したタイミングで更新されるため、やっぱり心細い時間が続きます。ともあれ、心細くなるほどマップが広いということです。
広いマップにはボスも多く配置されています。エリアごとに1体というわけではなく、あちこちに多種多様なボスが待ち構えています。クリアを目指すだけならすべてのボスと戦う必要もないのですが、どのボスも強くて攻略が楽しいのでついつい戦いたくなってしまうというもの。本作における1番の楽しみはボスを撃破したときの達成感ですからね。おかげでプレイ時間がモリモリのびる。
探索していて1つ気になったのがトゲの多さ。本作におけるトゲは即死ではなく、体力1つ分のダメージを受けて落下直前の場所に戻されるだけなのでペナルティは軽め…なのですが、だからといってちょっと多すぎるのではないかと。エリアごとに出現する敵も違えばマップのギミックも異なり、いい感じに味付けがなされているにもかかわらず、どこへ行っても結局トゲトゲ地帯でイライラ棒をするハメになるのはいかがなものか。ゲームは開発者との対話が醍醐味と申し上げましたが、本作においてボクから言い返したいのは「アナタはトゲが大好きな開発者なんだね!」ということです。しばらくトゲは見たくありません…。
“ソウル”の精神、ここに宿る
そんなわけで『Hollow Knight』は”メトロイドヴァニア”というより”メトロイドソウル”と呼ぶに相応しい内容でありました。ビジュアル、音楽、アクション、そのすべてにおいて高いクオリティでありつつボリュームもあるため、これはもう名作といっていいのではないでしょうか。ただ、「デモンズソウル」や「ダークソウル」を彷彿とさせる難易度についてはやや人を選ぶかもしれません。もちろん、それらが大好きな人なら間違いなくイケるはず。
それにしても、「デモンズソウル」や「ダークソウル」が与えた影響って本当にデカイんだなと再認識させられます。本作を始めた当初、そんなにムズかしいゲームだとは予想していなかったので、徐々に”ソウル要素”が見えてくるにしたがって「お前もか、お前もダクソに影響されたクチか!」と愚痴っていたものです。が、何度もボスに負けながらも攻略を組み立ててリベンジを果たすと、その達成感に引っ張られて次なるボスを探し回るようになり、「ああ、これハマってるわ…」としみじみ理解することに。なんだかんだであのシリーズのおもしろさの本質をしっかり2Dアクションへ落とし込めているのではないかと考える次第であります。