『Limbo』を手掛けたPlaydeadの新作『INSIDE』をクリアしたのでレビュー、もちろんネタバレは避ける方向で。カラーなのにモノクロのようなビジュアルと陰鬱とした雰囲気で、セリフもテキストもなく表現された世界観はまさにディストピア。パズル要素の強い2Dアクションな”雰囲気ゲー”といえばインディーゲームにありがちなコンセプトですが、そんな中でも『INSIDE』は群を抜いたクオリティに仕上がっています。
パズルアクションとしての完成度は抜群
本作のビジュアルは3Dで作られているのもの、ゲームは2Dでひたすら右方向へ向かって進んでいくプラットフォーマーとなっています。といっても、主人公は非力な少年であるため、飛んだり跳ねたりして敵と戦うのではなく、パズルによる謎解きがメイン。体力も残機もなく、敵に捕まれば即死ですが、大抵すぐそばのチェックポイントから再開なのでペナルティはほぼありません。死んでしまうのはパズルの解き方が間違っている証拠なので、”死に覚えゲー”というわけでもないです。あくまでパズルがメインなのです。
パズルの難易度はちょうどいい塩梅。どれもちょっと頭を捻る必要はあるけれど、ドン詰まりするようなことはありませんでした。むしろ小気味よく解けていくので、「これか!」「そういうことか!」と頭の上に電球が点く気持ちよさがあります。というのも、主人公のアクションが少ないため、画面内の情報から解き方を絞りやすいのが理由でしょう。方向キー以外はジャンプと掴むアクションの2ボタンだけ、というシンプルな操作系から複雑な解法も出てくるはずもなく、非常に考えやすい。
操作感も良好。この手のゲームにありがちな、雰囲気を重視するあまり動きが重かったり反応が鈍かったりすることもなく、ごく自然なアクションとして動かすことができます。気になったのは下りのハシゴを自動で掴まずに落下してしまうことくらい。パズルがメインなので精密な操作はあまり求められないとはいえ、操作によるストレスがないのは重要です。おかげで世界にどっぷり浸る気分を一切阻害されずに済むのですから。
気持ちのいい操作感で気持ちよく解けるパズルとは裏腹に、『INSIDE』を包み込む世界観はひたすらに重苦しく、暗いものになっています。しかし、この雰囲気こそが本作最大のウリといっていいでしょう。もしくは、この雰囲気から描き出される物語といった方が適切かも。
想像力のトリガーを敷き詰めたディストピアの物語
カラーなのにモノクロのように感じる暗いビジュアルが印象的な本作、世界観もやっぱり暗いです。森も農場も建物もすべて暗い。暗いけれども、暗いからこそ、光と影のコントラストが生み出すビジュアルは本当に美しく感じられます。何度も登場する水中の描写なども仄暗く、その妖しい美しさには息を呑むほど。
本作の世界観を一言でいってしまえば「ディストピア」。人の気配のない廃墟、列をなす生気のない大人たち、生活感の感じられない実験施設、非人道的な実験を思わせる残骸……、どこをどう切り取ってもビックリするほどディストピア。夢なら早く醒めてほしいと願いたくなるほど。この世界観とモノトーンなビジュアルとの噛み合い方が素晴らしく、世界に引き込まれることでしょう。
そして何より素晴らしいのが、セリフもテキストもないけれど、確実に存在しているストーリーとその見せ方です。ワケもわからず追われているうちに、タイトルどおり”中核”へと踏み込んでいくストーリーとなっているわけですが、その描き方が非常に巧妙。言葉による説明がないため、プレイヤーの想像力に委ねる部分が大きいとはいえ、想像力を掻き立てるトリガーとなる細かな演出の積み重ねが実に巧みです。
たとえば、序盤のワンシーン。以下の動画をご覧いただきましょう。
夜の森から始まり、雨の降るなか無人の農場を抜けてシャッターを開けると、雨上がりの朝日が差し込む。ようやく一段落かと思わせたところで、眼前に広がるのは朝日を阻む巨大な壁。続いて現れる生気を失った大人たちの列に目をとられていると、足元の水たまりに足をとられてしまい、先行きの不安を煽る……このように、否応なしに想像力が掻き立てられてしまうのです。
3時間で終わってしまう悪夢を体験すべし
この物語が向かう先、少年はどうなるのか、世界はどうなってしまうのか。想像以上に深い闇の中核へと進んでいく物語の吸引力は強く、気づけば一気に結末を迎えていました。ネタバレは避けたいので詳しくは書きませんが、終盤に待ち受ける衝撃の展開はぜひとも自身の手でたどり着いていただきたい。まさに悪夢の終わりを感じさせる結末も含めて、強烈な余韻を残してくれるはずです。
『INSIDE』の物語はプレイヤーが主人公の少年を操作しているからこそ、ゲームだからこその体験となっているだけに、ネタバレを目にしてしまう前にプレイしてしまうべし。クリアまで3~4時間程度ですから、お早めに。