【Mighty No.9】レビュー 加速したロックマンは新たな伝説となるか、ルーザーとなるか

あの「ロックマン」の生みの親の1人が「ロックマン」みたいなゲームを作るということで、Kickstarterに登場したときから大きな話題となった『Mighty No.9』がようやっとリリースされました。多くの資金提供者を集めるとともにストレッチゴールをことごとく達成したため、多機種対応やらオンラインモードやらの実現に向けて延期を重ねていた印象ですが、このたび無事に完成でございます。いやー長かった。ちなみに、ボクもバッカーの1人としてクレジットに名前が刻まれています

ある意味、本作の存在がクラウドファンディングからゲームが生み出されることを広く世に知らしめたといってもいいかもしれません。もちろん『Mighty No.9』以前からクラウドファンドによるゲーム制作は存在していたのですが、ビッグネームが旗を振ることでその認知度は飛躍的に高まったのではないかと。そういう意味でも本作の果たした役割は大きくなっており、だからこそ、その完成度への期待値も跳ね上がっていったのでしょう。

そしてフタを開けてみれば、Steamのレビューに連なるサムズダウンの群れ。賛否両論とはいえ赤い方が目立つ感じ。一体なにがあったというのでしょうか。期待外れの出来だったのか、はたまた期待が大きすぎたが故の反動なのか。結論から言えば、本作の完成度は決して低くはありません。むしろカッチリできているのではないかと。しかし、この評価が理解できないわけでもありません。今回はそのあたりを踏まえてレビューを書いていきたいと思います。

「ロックマン」を踏襲した基本システム

Mighty No.9 だいたいロックマン

『Mighty No.9』はジャンプ&ショットを基本とする2Dアクション、英語的にいえば2Dプラットフォーマーというヤツです。ステージは選択制で好きなステージから遊べて、ボスを倒せばそのボスの武器が手に入り、それぞれの武器が別のボスの弱点となっているところも「ロックマン」から継承されています。ビジュアルはまったくの別物ですが、中身はだいたい「ロックマン」といっていいでしょう。

ステージは全部で12ステージ。そのうち武器を入手できるボスがいるのは8ステージで、あとはチュートリアルを兼ねた最初のステージとすべての武器を入手した後に出現する終盤の3ステージという構成になっています。ボクは難易度Normalクリアまでに5時間ほどかかりましたが、上手な人なら3時間くらいでいけるかも。

Mighty No.9 ステージセレクト

これだけだとガワを変えただけの「ロックマン」のようですが、実際にやってみるとプレイ感は大きく異なります。たった1つのアクションの存在により、『Mighty No.9』は「ロックマン」とは一線を画すゲームになっているのです。それが「アクセラレート」です。

ロックマン+アクセラレート=ベック

本作の主人公・ベックにはジャンプとショット以外にもう1つ「アクセラレート」というアクションが搭載されています。これは1ボタンで繰り出せるアクションで、地上・空中を問わず一定距離を高速で移動することができます。回数に制限などはないため、ビュンビュン飛び回れます。「ロックマン」にも『3』から追加されたスライディングがありますが、「アクセラレート」は空中でも使える分、機動力は段違い。

また、「アクセラレート」は単なる移動手段ではありません。攻撃手段としても使えます。といっても、タックルとして攻撃判定が付いているわけではなく、ショットを当てて弱体化させた敵に対して使うとトドメを刺しつつ能力を吸収してパワーアップできる、というものです。一見すると二度手間のように思うかもしれませんが、ショットだけで倒そうとすると倍くらい撃ち込まなければならないため、タックルした方が手っ取り早い……というか、ショットだけで倒すメリットもないのでタックル一択です。

Mighty No.9 アクセラレートによる攻撃

能力の吸収については、「カービィ」のように多種多様な能力をゲットできるわけではなく、シンプルなパワーアップといった位置づけになっています。「アクセラレート」で敵を倒すと、攻撃力アップ、防御力アップ、スピードアップ、回復アイテムのどれかが発動し、回復以外は一定時間で効果が切れます。どのパワーアップも強烈な効果は実感できないため、それほど意識する必要はありませんが、回復アイテムだけはストック制で任意のタイミングで使えるため、本作の攻略において最重要となっています。あとは各ボスからゲットした武器エネルギーのゲージ回復も兼ねているため、やっぱりタックル一択。

ボス戦においては、ショットを撃ち込んで弱体化させてからの「アクセラレート」でなければダメージが入りません。弱体化させたらさっさとタックルしないとダメージを回復されてしまうため、ショットを撃ち込むタイミングも考えて攻略パターンを作る必要があります。っていうか弱体化された途端ショットが届かないところへ行くのマジやめて。

Mighty No.9 ボスもアクセラレートで倒す

そんなわけで、移動、攻撃、回避のすべてが「アクセラレート」に集約されています。ステージを進むのもザコと戦うのもボスを倒すのも「アクセラレート」で解決。これがベース部分は「ロックマン」でありながら、「ロックマン」とはまったく異なるプレイ感を生み出している要因です。なるほど、新世代の「ロックマン」。一方で、アクションが「アクセラレート」に集約されているからこそ、本作に対する不満点もだいたい「アクセラレート」が原因になっています。

“加速”したロックマンに待ち受ける即死の罠

まず「アクセラレート」を攻撃手段として使う場合、カッコよくヒットストップがかかるもののそれほど気持ちよくもなく、吸収によるパワーアップもあまり強くなってる実感がわかず、スコアは稼げても『ガンヴォルト』でBGMがボーカル曲になるようなご褒美もない。結局、敵を倒す手間が増えているだけでおもしろさは特に増えていない印象です。効果音のせいかエフェクトのせいか、敵を倒す感触が薄味なんですよね。

次に、移動手段としての「アクセラレート」は、要するに制限のない空中ダッシュなので、2Dプラットフォーマーにおいてはハッキリ言って反則の性能です。これさえあれば転落死はまずありません。が、これほど強烈な性能を持っているにも関わらず死にまくります。どうしてかというと、即死トラップがそこらじゅうに配置されているからです。

Mighty No.9 マイティイライラ棒

「アクセラレート」の機動力と道中に落ちている回復アイテムのおかげで強引な突破も可能なわけですが、そうはさせまいと即死トラップのオンパレードが築きあげられているのです。意図はわからなくもないのですが、それにしてもちょっと多すぎやしないでしょうか。ボス戦以外で体力が尽きて死ぬことはほとんどないため、即死の印象が余計に強まっている感もあると思います。

即死が多いのはまだしも、その多くが初見殺しであるところもストレスになっています。これはステージ道中だけでなく、ボスの攻撃などもそう。わかってしまえばなんてことはないものの、知らないとどうにもならない系が多い。裏を返せば、繰り返しプレイしていれば自然とクリアできるので上達を実感しやすい作りではあるのでしょうけど、初見殺しがあまりに初見殺しすぎてイライラが上回ってしまう感は否めません。

Mighty No.9 即死だらけ

そして、初見殺しの即死だらけにも関わらず、残機制であることがストレスに拍車をかけています。昨今の死にまくるゲームでは残機制を廃したり即座に復活できたりと死のペナルティを緩和しているものが多くなっていますが、こちらは残機がなくなれば最初からやり直しのハイリスクな仕様となっています。即死ゾーン以外で死ぬ要素はないのに即死ゾーンで全滅したら最初からやり直し。これはなかなかキます。加えて、即死ゾーンの手前にチェックポイントを設ければいいのにそうはなっていない場所もあり、うんざりさせられることも。

冒頭で述べた不評の原因はおそらくこのあたりではないかと。パッと触っただけだと壮快感が薄く、初見殺しの山に最初からやり直しを迫られれば、一言いってやりたくなる気持ちもわからなくはありません。難易度が高いのは覚悟の上だったけど、その難易度のつけ方はどうなの、と。とはいえ、こうして書いていくとわかるのですが、即死も初見殺しも残機制なのも、不満点の多くは「ロックマン」の要素なんですよね。そのなかでイライラしながらクリアを目指すのも「ロックマン」だったわけですが、ストレスを感じれば親指も下を向くというもの。なかなかムズかしいものです。

「ロックマン」の一歩先ではあるけれど

Mighty No.9 ボス戦

結局のところ、『Mighty No.9』はベース部分を「ロックマン」としながら、「アクセラレート」の追加で新たなステージを目指したわけですが、おもしろさを加速させるにはいま一歩及ばなかった印象です。「ロックマン」っぽさと新しさを同居させるために1つのアクションでプレイ感を大きく変えようというのはナイスなのですが、そのアクションそのものの感触とアクションに対するレベルデザインに問題が発生してしまっては元も子もありません。

とはいえ、2Dプラットフォーマーとして十分に遊べるクオリティであることもまた事実。かくいうボクもイライラしながらも結局最後まで遊びましたし。偉大すぎる先祖をもっているからこそ、むつかしい評価になってしまっている面もあるのでしょう。しかし、先祖が「ロックマン」だからこそできることもあります。本作には多くの「ロックマン」要素が存在しますが、かつて小学生時代にトラウマを残した黄色い悪魔の幻影とまさかの対峙から突破できたあたりはテンション上がりました。人に歴史あり、ゲームにも歴史あり。歴史があるからこそのおもしろさも間違いなく存在するのです。

そんなわけで『Mighty No.9』の評価が分かれてしまうのも理解できるところであります。正直、ボクも諸手を挙げてオススメはしかねます。ただ、「アクセラレート」は可能性を感じるアクションなので、今後の展開に期待したいところでもあります。コールちゃんかわいいし。

Mighty No.9 コールちゃんかわいい